第9章 警察管理

1 組織

(1) 組織の概要
 戦後の我が国における警察は、昭和23年の警察制度の改革により、国家地方警察と市町村自治体警察の二本立てとなったが、昭和29年に警察法が全面的に改正され、現行の都道府県警察に一元化した。
 国の警察機関として、図9-1に示すように、内閣総理大臣の所轄の下に国家公安委員会(委員長は国務大臣。委員は5名)が置かれ、国家公安委員会の管理の下に警察庁(長は警察庁長官)が設けられている。警察庁には、その附属機関として皇宮警察本部、警察大学校、科学警察研究所があるほか、地方機関として7つの管区警察局が置かれている。

図9-1 国の警察組織

 都道府県の警察機関としては、図9-2に示すように、都道府県知事の所轄の下に都道府県公安委員会(委員は3名又は5名)が置かれ、都道府県警察(長は警視総監又は警察本部長)を管理している。都道府県警察には、警

図9-2 都道府県の警察組織

 視庁及び道府県警察本部のほか、その下部機関としての警察署(下部機構として派出所、駐在所)が置かれている。
(2) 定員
 昭和47年度に4,000人の増員と沖縄復帰に伴う2,000人の沖縄警察官を加えて、都道府県警察に勤務する警察官の数は18万1,768人となった。
 警察官1人当たりの負担人口は、全国平均で588人である。この負担人口を諸外国と比較してみると、表9-1のとおりであり、我が国警察官の負担人口が多い。

表9-1 各国別警察官1人当たりの負担人口

 昭和47年の都道府県別警察官定員は、表9-2のとおりであり、それぞれ条例で定められている。

表9-2 都道府県別警察官定員(昭和47年)

(3) 年齢構成
 都道府県警察に勤務する警察官の年齢構成は、図9-3のとおりであり、国民の年齢構成と比較してみると、35歳から40歳までのものは少ないが、30歳以下のものは多いという特徴がある。

図9-3 警察官年齢別構成(昭和47年)

(4) 婦人警察官、婦人交通巡視員、婦人補導員
 警察には、婦人警察官、婦人交通巡視員、婦人補導員がおり、女性の特性を生かして交通整理、少年補導などに従事している。婦人の意識の変化、婦人の職域の拡大の傾向からみて、今後、警察においても婦人の進出は増加す

表9-3 婦人警察官等の数(昭和47年度末現在)

るものと思われる。
 全国都道府県警察に勤務する婦人警察官、婦人交通巡視員、婦人補導員の数は表9-3のとおりである。

2 教養

(1) 学校教養
 警察官は、広く国民の日常生活に接し、強い職務権限が付与されているので、警察では、従来から警察官の教養を重視し、警察庁及び各都道府県警察本部には、そのための事務を所掌する教養課がある。
 警察の教養のうち、これまで最も重視してきたものは、各都道府県警察学校、各管区警察学校、警察大学校等の各級警察学校における新任及び現任の警察官に対する教育訓練である。その体系は、図9-4のとおりであるが、いずれも全寮制のもとに、学校内の全生活を通じて警察官として必要な資質の向上と職務に必要な知識、技能の養成を図っている。
 学校教養のうちで最も基本的なものは、各都道府県警察学校の初任教養であるが、このほかに各級幹部昇任候補者に対する幹部教養や捜査、交通、防犯、警備、通信等に関する専門教養をそれぞれ各級警察学校で行なっており、昭和47年度は、約9,000人に対して初任教養、約1万人に対して幹部教養、約4万人に対して専門教養を実施した。
 なお、警察庁では、社会情勢の著しい変化に伴って警察の教養の在り方にも刷新改善を要する面が多いと考えられるので、昭和47年9月、部外の有識者の参加を得て「警察教養研究会」を設置し、学校教養を中心に警察の教養全般にわたる研究、検討を進めている。
(2) 一般教養
 警察では、学校教養のほかに、民間企業における職場内教育に相当するものを「一般教養」として行なっているが、これは幹部が職務を通じて行なうほか、講習、研究会等を開催して行なっている。近年、民間企業ではOJTと自己啓発が職場内教育の手法として重視されているが、警察でも、これら

図9-4 学校教養の体系

の二つを基本的な手法とする一般教養を組織的、計画的に進めている。
(3) 術科教養
 警察官は、犯人の逮捕、人命の救助その他の職務の特性から、つねに充実した体力、気力を保持するとともに、職務執行に必要な術技を錬磨しておかねばならないので、警察では、これまでも柔道、剣道、逮捕術、けん銃操法、自動車運転技能、各種体育等の術科の訓練を行なっている。
 このうち、柔道、剣道については有段者が多く、その状況は表9-4のとおりとなっている。

表9-4 警察官の柔道、剣道の有段者数(昭和47年4月1日現在)

 また、各種体育も盛んで、警視庁、大阪府警察、福岡県警察等では、機動隊が中心となってラグビー、サッカー、ボート、相撲等のチームを編成し、対外試合にも積極的に参加している。
 警察庁では、術科の訓練の推進を図るため、柔道、剣道、けん銃の3種目について、毎年、全都道府県警察参加のもとに全国大会を開催している。

表9-5 主要な競技大会における警察参加選手の入賞者(昭和47年)

 また、国内及び国外で開催される各種大会へも、警察から多数の選手が参加しており、昭和47年は、表9-5のとおり入賞者を出している。
(4) 海外との交流
 経済の発展と交通機関の発達に伴い、近年、各方面で国際交流が活発化しているが、警察の教養についても、海外との交流が盛んになっている。
 昭和47年度は、警視庁、神奈川県警察、愛知県警察、大阪府警察等が青年警察官を選抜してロンドン警視庁、パリ警視庁、サンフランシスコ市警察等に9人を派遣し、3箇月ないし6箇月の実務研修を行なわせている。このほか、北海道警察、警視庁、大阪府警察、福岡県警察等が交通の指導取締りに従事する警察官6人をロンドン警視庁へンドン警察運転学校に派遣し、1箇月余りの白バイ等の運転操法の訓練を受けさせている。
 また、韓国、タイ国等の外国の警察官15人が警察大学校等で我が国の警察官と起居をともにしながら、勉学に励んでいる。
 我が国の警察の術科、とりわけ柔道、逮捕術については、外国の警察官でその指導を受けるために来日する者(4人)もあり、また、我が国の警察官で外国に派遣され、その指導に従事している者の状況は表9-6のとおりとなっている。

表9-6 外国において柔道等の指導に従事している警察職員数(昭和45~47年度)

3 給与と福利厚生

(1) 給与
 警察官の給与については、その職務の特殊性から、一般行政職の職員の俸給表とは異なる公安職俸給表が適用されている。諸手当に関しても、特殊勤務手当、宿日直手当等において特別の措置がとられている。
 なお、警察庁では、学識経験者等によって構成されている「警察官給与制度研究会」において警察官の給与制度の在り方について研究審議し、その報告に基づき、関係機関に要望を行なって給与改善を進めている。
(2) 公務災害補償その他
ア 発生状況及び補償等の措置
 昭和47年度における都道府県警察官の公務災害発生件数は、死亡44人、傷病1万240人、計1万284人である。これら公務災害被災警察官に対しては、他の職員と同様法定の補償が行なわれている。また、警察官等が生命、身体に対する高度の危険が予測される状況の下において犯罪の捜査、被疑者の逮捕等の職務に従事し、そのために受けた公務災害にかかる遺族補償と障害補償とについては、昭和47年1月1日以後に発生した事案から、通常の公務災害の場合における補償額に50%以内で加算が行なわれることとなった。
 なお、東京都国分寺市の東京警察病院多摩分院には、60床を有する警察リハビリテーションセンターがあり、公務災害により負傷した警察職員の機能回復訓練を行なっている。
イ 協力援助者災害給付
 昭和47年度において警察官の職務に協力援助して災害を受けた者の数は、死亡22人、負傷64人であるが、これらの人々に対しては、警察官の職務に協力援助した者の災害給付に関する法律に基づき、公務災害補償の場合とほぼ同様の給付が行なわれている。
(3) 勤務制度と福利厚生
 都道府県警察職員の勤務形態は、通常の日勤制のほか、派出所勤務の外勤 警察官、パトカー乗務員、交通機動隊員、機動捜査隊員、看守勤務者等についての交替制勤務がある。
 このような交替制勤務からくる生活の不規則性、あるいは屋外勤務が多いこと、職務自体に危険が伴うこと等警察官の勤務条件は厳しいので、警察庁及び各都道府県警察では、その健康管理に配意するとともに、職務上待機が必要な警察官のための待機宿舎及びその他の職員住宅の建設、生活相談、レクリエーションの推進等の各種の施策を講じ、職員福祉の増進に努めている。

4 予算

 警察予算は、警察法の規定によって、国が支弁するものと、都道府県が支弁するものとに大別される。
 昭和47年度においては、国と都道府県をあわせた警察全体の当初予算額は、総額で5,415億5,700万円(注1)であって、昭和46年度当初予算額4,573億5,700万円(注2)に比較して842億円の増であり、伸び率は18.4%であった。
 警察予算について国と都道府県の占める割合は、国の予算10%、都道府県の予算90%となっている。
 昭和47年度予算は、「70年代に対応する警察体制の確立」を柱とし、地方警察官4,000人の増員、交通安全施設等の整備を主体とした交通総合対策の推進、勤務環境の改善と住民サービスの向上をはかるための警察施設の改善など諸施策が盛り込まれているほか、沖縄県警察の発足に伴う経費も計上されている。
(注1) 国の予算には、都道府県予算に対する補助金171億5,300万円を含んでいるので、重複をさけるため、これを控除した。
(注2) 国の予算には、都道府県予算に対する補助金136億4,600万円を含んでいるので、重複をさけるため、これを控除した。
 国の予算である警察庁予算は、昭和46年度500億500万円に比べ、13.7%増の568億3,600万円となっていて、その内容は図9-5のとおりである。

図9-5 警察庁の予算(昭和47年度)

図9一6 都道府県警察の予算(昭和47年度)

 都道府県予算は、昭和46年度4,209億9,800万円に比べ、19.2%増の5,018億7,400万円となっていて、その内容は図9-6のとおりである。
 次に、昭和48年度予算についてみると、警察全体の当初予算額は、総額で6,502億600万円(注)であって、昭和47年度当初予算額5,415億5,700万円に比較して、1,086億4,900万円の大幅増であり、伸び率は20.1%である。
 警察予算について国と都道府県の占める割合は、国の予算10%、都道府県の予算90%であり、昭和47年度と同率になっている。
 また、昭和48年度予算は、昭和47年度と同じく「70年代に対応する警察体制の確立」を柱として、地方警察官4,500人の増員をはじめ、前年度に引き続き第一線警察からの指名手配の照会を直ちに回答できる全国情報処理システムの整備などの施策を盛り込んでいる。
(注) 国の予算には、都道府県予算に対する補助金210億9,100万円を含んでいるので、重複をさけるため、これを控除した。
 警察庁予算は、昭和47年度568億3,600万円に比べ17.8%増の669億3,900万円となっていて、その内容は図9-7のとおりである。
 都道府県予算は、昭和47年度5,018億7,400万円に比べ、20.4%増の 6,043億5,800万円となっており、その内容は図9-8のとおりである。

図9-7 警察庁の予算(昭和48年度)

図9-8 都道府県警察の予算(昭和48年度)

5 装備

 警察では、警察活動を効率的に推進するため、車両、舟艇、航空機その他の装備を保有している。
 これらの警察装備については、その時々の治安情勢の推移に即応しつつ、逐次、計画的な整備をはかってきており、昭和47年においても、近代的装備の充実と老朽装備の解消の基本方針のもとに、各種装備の整備拡充に努めているところである。
(1) 車両
 警察用車両は、警察機動力の主軸として、くるま社会における警察事象のスピード化、広域化、複雑化等に的確に対応していくための不可欠の装備である。このため、その整備充実には、従来から特段の努力を重ね、数次にわたる計画整備の結果、昭和47年度末現在、全国で1万7,365台の車両を保有するところとなっている。
 車両の車種別構成は、図9-9のとおりであり、主要車種は、捜査用車、パトカー、白バイ、交通パトカー、輸送車などであるが、捜査本部用車、緊 急配備検問車、移動交番車、公害特科車、交通事故処理車、移動検問車、投光車、放水車等の特殊用途車両も保有している。
 警察用車両は、警察事象の実態に即して各都道府県警察に配備され、刑事、保安、交通、警備の各部門での組織的有機的な運用によって警察活動の迅速化、能率化に寄与している。
 しかしながら、第一線の多様化する需要にこたえていくには、必ずしも十分ではないので、主要車両の継続的増強、特殊用途車両の開発整備など、その量と質との両面における拡充整備を強力に推進する必要がある。

図9-9 警察用車両の車種別構成(昭和47年度)

(2) 舟艇
 警察用舟艇は、港湾、河川、湖沼などにおける水上警察活動の機動力をなしている。昭和47年度末現在、全国で178隻を保有し、そのうち約半数を、東京、横浜、名古屋、大阪、神戸、下関、門司、若松、博多の各主要港を管轄する9つの水上警察署に重点的に配備している。
 警察用舟艇には、5トン級の小型艇から 50トン級のものに至るまでの各

種があり、それぞれ、その特性を生かして、水上パトロール、密貿易や麻薬犯罪の取締り、水難者の捜索や救助など水上警察活動において効率的に活用されている。
 しかし、港湾の新設や規模の拡大に伴う警察事象の増加に対処し、あるいは、モーターボート等の普及に対応した水上安全対策を推進していくため、警察用舟艇の計画的更新等を進め、その質的及び量的向上をはかる必要がある。
(3) 航空機
 警察用航空機としては、昭和47年末現在で、ヘリコプター12機があり、警視庁、大阪、愛知、福岡、北海道、広島、宮城などの主要都道府県に順次配備して、おおむね管区警察局単位での広域運用をはかっている。

 ヘリコプターは、視界が広く、しかも機動性に富むなど車両や舟艇にはないすぐれた特殊性能を保有しており、警察活動の効率化に大きな貢献をしている。その用途は、災害発生時の状況は握と救援救助、山岳遭難者等の捜索救助、交通管制、高速道路網の監視、逃走犯人の捜索追跡、大規模警備事案の状況は握、公害取締りなど広範囲に及んでいる。
 警察用ヘリコプターについては、近代的装備の一つとして、ますます需要 が高まってきており、これにこたえるため、昭和46年度から従来の機種より高性能のものを採用するなど計画的に拡充整備に努めている。
(4) その他の装備
 その他の装備には、救援救助活動用の装備、犯罪の制止や捜査に用いる装備、交通の指導取締りに用いる装備などバラエティに富んだ各種の装備があり、警察活動の各部門で広く活用されている。
 主なものを例示すると、救命ボート、船外機、救命浮環、投光器、拡声機、エンジンカッター、レスキューキットなどをはじめ、けん銃、鉄帽、防弾チョッキ、防護衣などから、各種カメラ、録音機、凶器発見器、レーダースピードメーター等に及んでいる。
 これらの装備は、警察活動の効率化に資することはもちろん、その近代化、科学化に大きな役割を果たしており、その整備強化には力を入れてきているが、特に、最近においては、技術革新の時代に遅れをとることなく、警察事象の多様化、複雑化に対応しうる新しい装備を研究開発し、整備していくことが重要な課題となっている。
(5) 服制
 警察官の個人用装備品の基本的なものとして、制服、階級章、けん銃、警棒などがある。これらの装備品の制式や着用等については、警察制度の変革や時代の流れを反映して、数次にわたる改正を加え、今日に及んでいる。なかでも、大幅な改正は、昭和21年、昭和31年、昭和43年とおおむね10年の周期で実施されてきている。
 昭和47年には、警察官の服制の一環として、儀式等に出席する際に着用する礼装が新たに定められた。

6 通信

 警察通信は、警察における指揮、命令、報告などの情報を伝達するための重要な手段であり、いわば、警察運営における神経系統の役割を果たすものである。
 したがって、それは、警察活動のあらゆる態様に即応し得るものであることが必要であり、このため、警察では、全国の警察機関相互間を結んで構成している警察電話網をはじめ、文書や写真等の送受信を行なう模写電送、犯罪手口などのデータを送受するデータ通信、パトカーや徒歩警察官の活動を効率的に行なうための移動無線通信などの多種多様の通信手段を保有し、これらを総合的に活用している。
 社会情勢の変化とこれに伴う警察活動の複雑、多様化によって、通信にもさまざまの量的、質的な変化が生じているが、警察通信は、その果たす役割上、これらの変化に適切に対応していくことが必要とされるのである。
(1) 情報量の増大への対応
 警察活動の複雑、困難化とともに、警察における情報量は年々増加の一途をたどっている。
 全国の警察相互間に取り交わされた模写及び写真電報枚数の推移は、図9-10のとおりであり、過去10年間の年平均増加率は27%、特に最近5年間の平均増加率は48%もの高率であって、毎年約80万枚にのぼる増加を示している。このような増加傾向は、電話や各種の無線機器を使用しての通信においても同様である。
 警察では、このような大量にのぼる情報の円滑な疎通を確保するため、各種の通信施設、機器の整備を行なってきた。その一例を示すと、パトカーなどの警察用車両(白バイを含む。)にとう載する車載用無線機は、昭和47年度末で、6,417台を保有しており、これを全国の警察用車両1万7,365台に対する割合でみると、37%にあたる。また、徒歩警察官用の携帯無線機は、1万2,697台であり、都道府県警察官(18万1,350人)の14.2人に1台の割合になる。
 このほかに、通信施設、機器の性能を改善することによって、情報疎通の円滑を図ることも有効な方法の一つであり、したがって、電話交換機の自動化や、従来の機種に比べ、約4倍の高速性能を持つ高速度模写電送装置の整備などを進めている。

図9-10 全国警察間電報取扱枚数の推移(昭和38~47年)

 しかし、情報量の増大傾向からみて、通信施設、機器の現状は決して十分とはいえず、今後とも、これらの整備充実と質的改善を強力に進めていかなければならない。
(2) 通信の機能低下への対応
 都市化やモータリゼーションの進展などによる社会構造の変化は、通信の機能の面にもさまざまの影響を与えている。
 我が国は、もともと、その地勢上、移動無線通信に使用している電波の届きにくい、いわゆる超短波不感地帯が多いのであるが、例えば、道路網の整備や郊外団地の増加などに伴い、警察活動地域が拡大してくるにしたがって、通話ができない地点の割合も増加してきており、また、高層建築物に電波がさえぎられたり、自動車から発する電気的な雑音などに妨害されて、通話が困難になるといった現象も起きており、警察活動上の大きな障害になっている。
 警察では、このような通信の機能低下に対し、超短波中継所を増設して通話可能区域を拡大したり、電波の周波数帯を従来の30メガヘルツ帯から雑音に強い150メガヘルツ帯に移行させるなどの改善措置を進めている。昭和47年度においても、超短波中継所8箇所を新設し、また静岡など4県において150メガヘルツ帯への移行措置を実施した。
 しかし、超短波不感地帯の改善率は、警察活動上、通話の確保が最も必要な全国の国道及び主要府県道での通話可能地点の割合だけをとってみても、道路延長約20万2,000キロメートルの約71%という現状であり、150メガヘルツ帯への移行を完了した府県も、まだ13都府県に過ぎないところから、今後とも、これらの措置を継続実施していくことが必要である。
(3) 新しい情勢への対応
 犯罪の広域化、スピード化に伴い、初動警察活動の強化や広域的な警察活動の必要性が増大してくるにつれ、通信の面においても、このような情勢への適切な対応を行なっていくことが必要になる。
 例えば、高速道路網の整備とともに、高速道路上における警察活動の必要性が生じてくれば、新たにそのための通信系を設定するなどの措置を講じていくことが必要になるとともに、緊急配備などの初動警察活動の強化のためには、通信指令室における通信機能強化措置なども講じなければならない。
 昭和47年においても、前年の名神高速道路通信系の整備に引き続いて、東名高速道路に対する通信系の設定を行ない、また、各府県の通信指令室等に110番受付台や派出所に対して同時一斉の指令を行なう装置など一連の指 令通信設備の整備を実施してきた。
 また、組織的、総合的な警察力の発揮を図るため、110番受付台に入った通報を指令台でも同時に聴取できるようにし、あるいは指令台にボタン操作一つで必要な緊急配備パターンを選択して指令できる機能を付与し、通報の受理に始まる一連の指令通信活動が、円滑かつ一体的に行なえるようにするなど、各種の通信機能強化措置を講じているところである。

7 情報管理

(1) 警察とコンピューター
 警察活動の多くは、情報に依存するところが大きいが、社会の情報化が進むにつれて、警察活動に必要な情報の量も、年々増大の一途にある。
 このため、警察活動の効率化のためには、これら大量の情報を正確かつ迅速に収集するとともに総合的に処理することが不可欠となり、その手段としてコンピューターの果たす役割が急激に増大してきた。
 これまで、警察が保有している情報の処理は、ぞう品照会などに見られるように、都道府県警察単位に、主として手作業によって行なわれてきたのであるが、情報の量の増加と情報の流れの広域化、スピード化に伴って、処理規模も数府県単位又は全国単位で要求されるケースが急増するとともに、処理速度も迅速性を一層要求されるようになってきたので、必然的に高性能の機械処理が検討され、コンピューターの採用となったのである。
(2) 現行の業務
 昭和39年、警察庁に最初のコンピューターを導入して以来、各種の統計業務から順次業務を拡大してきたのであるが、現在実施している業務の概要は表9-7のとおりである。
 これらコンピューターによる業務のための取扱データ量は、昭和47年中は約4,780万件で、1日平均約1.7万件に及び、その大半は、運転者管理センター業務に関するものとなっている。
 なお、昭和39年以来現在までのデータ取扱量の推移は、図9-11のとお

表9-7 コンピューター業務の整備状況

りである。
 このほか、都道府県単位のコンピューターによる情報処理は、警視庁、神奈川、埼玉、千葉、愛知、大阪の6都府県警察本部において警察独自に行なっているほか、道府県庁のコンピューターを共同利用する等の方法で行なわれている。
 昭和47年度には、引き続き、運転者管理センター業務、犯罪手口照会業務等の実施とともに、昭和46年度に策定された全国情報管理システム創設・整備計画に基づき、これを推進するため、情報管理センターの建設、リアル

図9-11 データ取扱量の推移(昭和39~47年)

タイム処理業務のシステム設計、一指指紋照会業務のプログラム開発、リアルタイム用照会端末装置の設計等を実施した。
(3) 今後の計画
ア オンライン・リアルタイムによる指名手配照会業務の実施
 前記の計画にしたがって、当面、オンライン・リアルタイムシステムを中心とするシステムの開発を進めているが、とりあえず、新設された情報管理センターに超大型コンピューター2台を導入し、これを使用して指名手配のオンライン・リアルタイムによる照会業務を、警視庁、大阪、静岡の3都府県警察については昭和49年1月から、その他の全国各道府県警察については同年10月から、一斉に開始することになっている。
 これは、指名手配された被疑者の本籍、氏名、生年月日、手配理由等をコンピューターに記録し、警察署、派出所、駐在所、パトカー等からの氏名、生年月日による照会に対し、即時に指名手配の有無を照合して回答しようとするものである。
イ その他
 将来は、暴力団員、家出人、犯罪前歴者、自動車等についての照会業務も オンライン・リアルタイム化する等、警察におけるコンピューター利用を更に推進する方向で検討中である。
(4) 警察におけるコンピューターの利用の特殊性
 他の官公庁や民間におけるコンピューター利用状況と比べて、警察の利用方法には、次のような特殊性があげられる。
ア 検索照合のためのシステムが中心
 警察におけるコンピューターシステムは、指名手配、ぞう品、犯罪手口等の照会に応じて検索、照合、回答を行なうことを中心としており、外国の警察(例えばアメリカのNCIC(注1)、イギリスで開発中のPNCU(注2)、ICPOで検討中のFIR(注3)等)でもほぼ同様である。
(注1) NCIC…National Crime Information Centerの略。FBIの全米犯罪情報センターで、全米及びカナダの司法警察機関からの照会にリアルタイムで応答する。
(注2) PNCU…Police National Computer Unitの略。英国内務省と警視庁の合同組織であり、NCICと同様の警察情報システムを開発中である。
(注3) FIR…Fichier Informatise des Recherchesの略。国際的な犯罪手配者、手配車両等を登録した電算化ファイルによる照会システムで、ICPOが検討中のものである。
イ 管理対象情報が極めて大量
 運転者管理センター業務、銃砲登録照会業務等がこの部類に属するが、運転者管理センター業務では、免許記録ファイル、違反記録ファイルあわせて約6,000万件にのぼるぼう大な情報をディリィに処理している。これほどのものは外国警察にも例がなく、世界から注目されているシステムである。
ウ 24時間運用のシステム
 昭和40年に全国的データ通信網を完成し、都道府県警察本部との間にデータ伝送を行なっているが、オンライン・リアルタイムの導入にあたっては、第一線警察活動を効果的かつ迅速に支援するため、24時間照会に応じるシステムとする計画である。

8 研究体制

 警察が科学的、合理的な犯罪捜査活動や能率的な警察諸活動を行なっていくために必要な科学技術は、部外の研究に期待できないものが多く、これらについては、警察自らが研究開発に努めることが必要である。
 警察では、戦後いち早く、警察庁の研究機関として、科学捜査研究所(現在の科学警察研究所の前身)を設置し、また、警察大学校附属警察通信学校に研究部を設けて、捜査の科学化、警察通信の近代化のための研究開発に努めてきた。
 しかし、警察が効率的な任務の遂行を図るためには、情報管理技術をはじめ、警察装備等の各種機材に関する研究開発はもちろん、行政管理技術その他の社会科学を含む総合的な研究開発体制の整備を図ることが必要となっている。
(1) 科学警察研究所
 科学警察研究所では、科学捜査、非行少年、防犯、交通安全などに関する研究・実験及びその研究を応用した鑑定・検査を行なっており、その組織機

図9-12 科学警察研究所の組織機構(昭和47年末現在)

構は、図9-12のとおりである。
 ここでの研究は、広範多岐な学問分野にまたがっており、博士号を所持する研究官13人の学位内訳も医学6、歯学1、薬学2、農学1、理学1、工学1、文学1とバラエティーに富んでいる。研究件数についてみると、過去5年間の平均は85件、昭和47年は92件(うち新規は29件、残り63件は前年度からの継続研究)であった。昭和47年中の研究のうち、主なものは表9-8のとおりである。

表9-8 科学警察研究所の主要研究例(昭和47年)

 研究の成果は、毛髪による個人識別、復顔法、声紋による鑑識、ポリグラフ、微量物質の非破壊検査法などの鑑識技術として生かされているほか、「男子初犯少年再犯危険性判定法」、「運転者適性検査法」、「信号機の地域制御方式」などとなって現われている。
 次に、鑑定・検査についてみると、科学警察研究所では、都道府県警察で行なえない高度の技術を要する鑑定・検査を行なっており、その状況は図9-13のとおりである。

図9-13 科学警察研究所の鑑定・検査件数(昭和38~47年)

 また、以上に述べたほか科学警察研究所では、都道府県警察の鑑識技術向上を目的とする各種講習会の開催や、都道府県警察及び外国政府職員に対する研修も行なっている。
(2) 警察通信学校
 警察通信学校が研究部を設置して警察通信に関する研究活動を開始して以 来、今日までに行なってきた研究の成果は、模写電送自動中継装置の実用化、犯罪被疑者の人相、指紋や犯罪現場の写真などを送受信できる写真電送装置の実用化、各種移動無線機器の実用化など数多くにのぼっており、実用新案や特許などの取得件数も31件に及んでいる。
 最近では、研究活動内容も、例えば、電話帯域を使用してのテレビ伝送装置に関する研究や電子走査式携帯用写真電送装置に関する研究等、技術的により一層の高度化が要求されており、また、情報化時代に対応して、例えば、警察情報即時処理用各種端末装置に関する研究調査をはじめ、データ通信システムに関する研究のように、研究の幅も一段と多様化しつつあるところから、今後、研究体制の強化を図っていくことが必要である。


目次