第6章 交通安全と警察活動

1 道路交通の概況

(1) 国民生活と自動車交通
 国民所得の向上とともに、自動車交通は、今や、国民の日常生活から切り離すことのできないものとなっている。
 昭和47年末の自動車保有台数は、2,337万2,382台(沖縄を除く。)で、国民4.6人に1台の割合、運転免許所持者数は、2,947万4,643人で、16歳以上の運転免許適齢者2.7人に1人の割合となっている。また、昭和47年3月末(沖縄は5月15日、高速自動車国道は12月末)の道路実延長は、103万7,763キロメートルであり、その21.7%が舗装されている。
 自動車保有台数、自動車燃料消費量、運転免許所持者数、道路舗装率と国民所得について、昭和38年からの推移をみると、図6-1のとおりであり、いずれも上昇傾向にある。
 一方、後述するように、交通事故、交通渋滞、交通公害の状況は、自動車保有台数などの増加に伴って悪化の一途をたどってきたが、交通事故については、昭和46年以降2年連続して発生件数、死者数、負傷者数ともに減少するという画期的な推移を示している。
(注) 本章において使用する統計上の数字は、特に明示のない限り、昭和47年1月1日以降の沖縄の数字を含む。
ア 自動車保有台数は、5年ごとに倍増
 図6-1のとおり、自動車保有台数は、5年ごとに約2倍増加している。
 これを車種別にみると、表6-1のとおりであり、乗用自動車の増加が著しく、昭和38年には、全車種の21.6%であったが、昭和47年には、53.6%を占めるに至っている。
 自家用乗用車の普及状況の推移は、表6-2のとおりであり、昭和47年には、100世帯当たり34.6台と、昭和38年の約9.4倍になっている。

図6-1 自動車保有台数、自動車燃料消費量、運転免許所持者数、道路舗装率と国民所得の推移(昭和38~47年)

イ 男性は61%、女性は14%がドライバー
 図6-1のとおり、運転免許所持者数も逐年増加しているが、これには、マイカー運転者の増加が大きく影響している。
 また、最近は、女性の増加率が男性のそれを上回っており、そのため、運転免許所持者中に占める女性の割合は、逐年増加している。最近3年間の男女別の運転免許所持者数の推移は、表6-3のとおりである。

表6-1 自動車保有台数の推移(昭和38年~47年)

表6-2 自家用乗用車の普及状況の推移(昭和38~47年)

表6-3 男女別運転免許所持者数の推移(昭和45~47年)

 昭和47年末現在の男女別の運転免許所持者数と、年齢層別所持率は、図6-2のとおりであり、16歳以上の運転免許適齢人口中、男性は61.4%、女性は14.1%が運転免許を受けている。運転免許所持率では、男女とも25歳から29歳までの年齢層の者が最も高く、男性では83.2%、女性では27.1%となっている。

図6-2 男女別運転免許所持者数と年齢層別所持率(昭和47年)

ウ 進みつつある道路舗装
 図6-1のとおり、道路舗装率は、著しい上昇を示しているが、これを道路種別ごとにみると、表6-4のとおりである。
 なお、昭和47年3月末の高速自動車国道を除く道路実延長は、一般国道3万2,818キロメートル、都道府県道(主要市道を含む。)12万4,852キロメートル、市町村道87万9,225キロメートルで、合計は、103万6,895キロメートルである。
 諸外国の自動車保有台数、自動車1台当たりの人口と道路舗装率を日本のそれと比較すると、表6-5のとおりである。

表6-4 道路舗装率の推移(昭和38~47年)

表6-5 諸外国における自動車保有台数、自動車1台当たりの人口及び道路舗装率

(2) 2年連続して減少した交通事故
ア 交通事故の推移
 昭和38年以降の交通事故の推移は、図6-3のとおりであり、昭和46年以降2年連続して発生件数、死者数、負傷者数ともに減少した。人口10万人当たりの死者数でも同様である。
 この減少要因としては、交通安全施設の整備充実、交通指導取締りの強化、運転者管理体制の整備、国民各層の交通安全に対する理解と努力などがあげられる。

図6-3 交通事故の推移(昭和38~47年)

 なお、諸外国における交通事故による死者の推移は、表6-6のとおりである。人口10万人当たりの死者数では、オーストラリア、ベルギー、カナダ、西ドイツ、アメリカなどで高い数値を示している。

表6-6 諸外国における交通事故死者数の推移(1966~70年)

イ 交通事故の概況~33分ごとに1人の死者~
 昭和47年中の人身交通事故の発生状況は、表6-7のとおりである。年間に1万5,918人が交通事故により死亡しており、このことは、33分ごとに1人が交通事故により死亡していることになる。
 昭和47年中の交通事故発生状況を、前年と比較すると、件数は4万1,007件、死者数は360人、負傷者数は6万491人減少した。(ただし、昭和47年には、沖縄分(件数2,838件、死者数105人、負傷者数3,647人)を含む。)

表6-7 交通事故発生状況(昭和47年)

(3) 交通事故の特徴
ア 死者の3分の1は歩行者
 状態別の死亡事故の推移は、表6-8のとおりである。例年、全死者数の約36%を歩行者が、11%前後を自転車乗車中の者が占めており、これらの死者数は、全体の47%ないし48%となっている。
 諸外国の交通事故による歩行者の死者数とそれらの全死者に占める割合は、表6-9のとおりであり、歩行者の死者数の割合は、イギリスが39.0%と最も高く、次いで、日本、ノルウェーの順になっており、アメリカは17.9%と低い。
 昭和47年中の交通事故による歩行者の年齢層別死者率は、子供と老人の割合が高い。(第2章「国民生活と日常の警察活動」3(1)参照)
 歩行者の死者数5,689人の年齢層別構成は、図6-4のとおりであり、この6割以上を、子供と老人で占めている。

表6-8 状態別死亡事故の推移(昭和43~47年)

表6-9 諸外国における歩行者の死者

図6-4 歩行者の死者の年齢層別構成(昭和47年)

 自転車乗車中の死者数1,756人の年齢層別構成は、図6-5のとおりであり、この6割近くを、子供と老人で占めている。

図6-5 自転車乗車中の死者の年齢層別構成(昭和47年)

イ 老人の死者は減少、幼児の死者は増加
 交通事故による死者数の推移を、子供と老人を中心とした年齢層別にみると、表6-10のとおりであり、昭和47年を前年と比較すると、老人の死者数は132人減少したが、幼児の死者数は82人増加した。(ただし、昭和47年には、沖縄分(老人22人、幼児10人)を含む。)
ウ オートバイ乗車中の死者は大幅に減少
 表6-8のとおり、昭和47年中の交通事故による二輪車乗車中の死者数は2,586人で、前年より347人減少し、過去5年間の最低数であった。全体の死者数の減少が360人であるので、この減少が目立った。

表6-10 年齢層別死者数の推移(昭和43~47年)

 二輪車乗車中の死者が大幅に減少したのは、ヘルメットの使用が運転者に徹底しはじめたこと、昭和47年4月から二輪免許の試験車種の合理化と試験課題の強化を図ったこと(注)、昭和47年1月から、二輪車安全運転推進委員会が発足し、二輪車運転者に対する安全教育が推進されたこと(本章8(3)イ参照)などによるものと考えられる。
(注) 従来、総排気量100cc以上125cc以下の自動二輪車を試験車として用いていたが、125ccをこえる自動二輪車を運転することができる二輪免許の試験には、300cc以上400cc以下の自動二輪車を試験車として用いて行なうこととし、バランスのとりかた、制動のしかたなどについて、内容の高度化を図った。
エ スピード違反と酒酔い運転による死亡事故の増加
 原因別の死亡事故発生の推移は、表6-11のとおりであり、最高速度違反による死亡事故は、前年に引き続き増加し、昭和46年に減少した酒酔い運転によるものは、再び増加している。
オ 23都道県では減少
 都道府県別に、昭和47年の死者数を前年と比較すると、図6-6のとおりであり、23都道県では減少したが、24府県で増加した。特に、7都府県(東京、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡)全体では、401人(8.9%)と大幅に減少した。
 昭和47年中の都道府県別人口10万人当たりの死者数は、図6-7のとおりであり、栃木、茨城、滋賀などで多く、東京、大阪、長崎などで少ない。
 昭和47年中の都道府県別自動車1万台当たりの死者数は、図6-8のとおりであり、茨城、栃木、滋賀などで多く、東京、愛知、大阪などで少ない。
 昭和47年4月から9月までの間に発生した交通事故について、都道府県単位で事故発生地と運転者の住所地との関係をみると、図6-9のとおりであり、事故発生地に住所地をもつ運転者の割合が高いのは、沖縄、北海道、富山などであり、その割合が低いのは、滋賀、埼玉、千葉などである。

表6-11 原因別死亡事故発生の推移(昭和45~47年)

図6-6 都道府県別死者数の対前年比較(昭和47年)

図6-7 都道府県別人口10万人当たり死者数(昭和47年)

図6-8 都道府県別自動車1万台当たり死者数(昭和47年)

図6-9 交通事故発生地と運転者の住所地との関係(都道府県単位)(昭和47年4~9月)

(4) 激化しつつある交通渋滞
ア 交通渋滞発生の推移
 過去10年間の東京における交通渋滞発生の推移は、図6-10のとおりであり、昭和38年から昭和40年までの間は、昭和39年の東京オリンピックを契機とする道路の整備が行なわれたため、減少傾向を示している。昭和41年以降逐年悪化の一途をたどり、昭和47年中の1日平均渋滞時間は、783時間で、最も渋滞の少なかった昭和40年の3倍をこえている。

図6-10 東京における交通渋滞発生の推移(昭和38~47年)

 また、大阪における交通渋滞発生の推移は、図6-11のとおりであり、昭和45年の万国博覧会を契機として道路の整備が行なわれ、また、同年御堂筋などの大通りを一方通行にするなどの大規模な交通規制をしたため、一時好転したが、その後は再び悪化の一途をたどり、昭和47年中の1日平均渋滞時間は、76時間で、最も渋滞の少なかった昭和38年の5倍をこえている。
 東京と大阪における交通渋滞発生の推移は、以上のとおりであるが、その他の道府県における交通渋滞も、都市を中心に激化しつつある。

図6-11 大阪における交通渋滞発生の推移(昭和38~47年)

イ 交通渋滞の状況
(ア) 年末などに多発
 昭和47年中の東京、京都、兵庫における月別の交通渋滞の発生状況は、図6-12のとおりであり、経済活動の活発な12月が東京では最高、京都と兵庫でも高い数値を示している。また、東京では8月に最低を示し、京都では7月、10月、11月、兵庫では7月に高い数値を示していることは、レジャーの影響と考えられる。
(イ) 「5(ご)・10(と)日」に多発
 日別の交通渋滞の発生状況をみると、商慣習上、納品、集金などの取引の決済日になっているいわゆる「5(ご)・10(と)日」(毎月の5、10、15、20、25日と月末)には、業務交通の増大に伴って他の日に比べて交通渋滞が多発する傾向があり、特に経済活動の活発な東京、大阪などでは、この傾向が著しい。
(ウ) 車のラッシュ・アワー
 昭和47年中の神奈川、愛知、福岡における時間別の交通渋滞の発生状況

図6-12 月別交通渋滞発生状況(昭和47年)

は、図6-13のとおりであり、3県ともおおむね同様の傾向を示しているが、交通渋滞は、朝、夕の通勤時間帯である午前8時前後と午後5時前後に多発し、正午前後に比較的減少している。
(エ) 車両の自然集中が原因の第一
 昭和47年中の東京、大阪、兵庫における交通渋滞の発生状況を原因別にみると、表6-12のとおりであり、交通渋滞の原因として最も多いのは、車両の自然集中で、東京と兵庫では、これが90%以上を占めている。大阪では、主要交差点の立体化工事などの大規模工事が都心部において行なわれたことにより、道路工事に起因する交通渋滞が全体の26.1%を占め、その比率が東京や兵庫よりも大幅に上回っていることが注目される。

図6-13 時間別交通渋滞発生状況(昭和47年)

表6-12 原因別交通渋滞発生状況(昭和47年)

(5) 深刻になってきた交通公害
ア 騒音や振動
 最近、都市や幹線道路の沿道において、自動車の通行に伴って発生する騒音や振動によって生活環境が侵害される事案が増えつつある。過去3年間に警察が受理した交通公害関係の苦情の件数は、表6-13のとおりであるが、 このうち、騒音や振動に関する苦情は、最近の自動車交通量の増大や自動車の大型化に伴い、その内容の深刻なものが多くなりつつある。

表6-13 交通公害関係苦情受理件数(昭和45~47年)

イ COなど
 自動車の排出ガスに含まれる大気汚染物質は、CO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、NOx(窒素酸化物)、鉛化合物などである。大気中に含まれるこれらの物質のうち、COについてはその大部分が、HCについてはその約6割が、NOxについてはその約4割が、自動車から発生しているといわれている。
 これらの物質による大気汚染の状況は、数年前において、既に、東京都内の主要交差点などでCOが環境基準(注)に適合しない状態が現出しており(国立衛生試験所と当時の厚生省環境衛生局公害部の調べによる。)、その後も、全国的なモータリゼーションの進展に伴い、都市内の交通量の多い交差点などにおいて、COやNOxなどの増加が問題となっている。
(注) COの環境基準は、年間を通じて常に次の条件が維持されるものとされている。
(1) 連続する8時間における1時間値の平均は、20ppm以下であること。
(2) 連続する24時間における1時間値の平均は、10ppm以下であること。
(「一酸化炭素に係る環境基凖について」昭和45年2月20日閣議決定)
ウ 光化学スモッグ
 光化学スモッグ(光化学反応による大気汚染)については、昭和45年7月東京都杉並区の東京立正高校において発生したいわゆる光化学スモッグ事件以来ひとつの社会問題となっているが、特に昭和47年5月から6月にかけて連続的に発生した東京都練馬区石神井南中学校の事件を契機として、更に社会的な関心が高まってきた。
 昭和45年から昭和47年までの3年間のオキシダントにかかる注意報等の発令と被害届出の状況は、表6-14のとおりであり、この表からも光化学スモッグが、最近では東京以外の府県においても頻発していることがうかがわれる。
 光化学スモッグ発生の原因や被害の因果関係については、現段階ではまだ科学的に十分解明されているとはいえないが、基本的な光化学スモッグ対策を実施するためには、その早急な解明が望まれる。

表6-14 オキシダントにかかる注意報等の発令と被害届出の状況(昭和45~47年)

2 交通規制

(1) 推移と現状
 現行の道路交通法が施行されるまで、交通規制は、車両通行止めや速度制限など、もっぱら交通の安全を図るために行なわれてきたが、昭和35年12月からは、同法により単に交通の安全だけでなく、積極的に交通の円滑を図るためにも交通規制を行なうことができることとなり、更に、昭和46年6月からは、道路の交通に起因して生ずる騒音、振動や大気の汚染など交通公害による被害を防止するためにも交通規制を行なうことができることとなった。
 交通規制の種別ごとの推移は、表6-15のとおりであり、駐車禁止(区域)、駐停車禁止、車両横断禁止は、昭和43年3月末に比べ昭和47年3月末では、それぞれ8.7倍、4.6倍、4.1倍となっており、また、中央線変移は、昭和44年3月末に比べ昭和47年3月末では、4.4倍になっていることが目立っている。

表6-15 交通規制の推移(昭和43~47年)


 特に、駐車禁止規制は、「道路は、歩行又は走行空間であり、駐車空間ではない」ということから、都市における交通混雑を緩和し、あるいは交通公害を防止するための恒常的な間接規制として、今後ますます強化される傾向にある。時間帯による中央線変移の規制も、道路の有効利用という観点から、ある一定の時間帯における上下線の交通量が著しく異なる道路の区間について、今後も推進される規制の一つである。
 また、昭和47年から実施され始めた歩行者用道路の設定、路側帯の設置などは、歩行者の通行の安全を確保するための規制であり、路線バス等の優先又は専用通行帯の設定などは、都市交通対策を推進するための規制であって、これらは、いずれも、昭和46年12月の法改正により、新たに行なうことができることとなったものである。
(2) 歩行者、自転車の保護のために
ア 子供の安全のためのスクール・ゾーン
 昭和47年の春と秋の全国交通安全運動を契機として、全国的にスクール・ゾーンの設定が推進された。
 スクール・ゾーンとは、保育所、幼稚園、小学校などの周辺における幼児や児童の安全を図るため、これらの施設を中心とする半径おおむね500メートル以内の地域を、交通安全施設の整備、交通規制、交通指導取締り、安全広報などのあらゆる交通安全施策を総合的、集中的に実施すべき地域として指定するもので、交通規制の面でも、スクール・ゾーン内では、歩行者用道路の設定、路側帯の設置などのほか、速度制限、駐車禁止、一方通行、一時

表6-16 スクール・ゾーン内にある施設数(昭和47年秋の全国交通安全運動時)

停止などを組み合わせた面的な交通規制を大幅に実施するものである。
 昭和47年中は、全国において、表6-16のとおり保育所、幼稚園、小学校などの約半数についてスクール・ゾーンを設定し、重点的な交通安全施策を実施した結果、これらの地域における交通事故は、大幅に減少し、相当な効果をあげることができた。(本章8(2)参照)
イ 定着しつつある生活道路対策
 昭和47年中は、スクール・ゾーン内の道路をはじめ、通過交通を排除して地域住民の生活を守るべき通学通園道路、買物道路、遊戯道路などのいわゆる生活道路や市街地の幅員おおむね3.5メートル未満の住宅街道路において、歩行者や自転車の安全を確保するため、歩行者用道路の設定、路側帯の設置などの新たな交通規制を中心に、歩行者、自転車保護対策を推進してきた。日曜日や休日に都市内の繁華街で自動車の通行を禁止して行なう「歩行者天国」も、これら一連の歩行者、自転車保護対策の一環として行なったものである。
 また、自転車の安全な通行を確保するための「自転車の歩道通行可」などの規制も、全国において積極的に推進してきた。
 昭和47年12月末現在における全国の歩行者用道路の設定状況は、表6-17のとおりであり、総延長4,473キロメートルと、同年3月末に比べ、約1.7倍となっている。

表6-17 歩行者用道路の設定状況(昭和47年末現在)

 また、昭和47年12月末現在における自転車保護のための交通規制の実施状況は、表6-18のとおりである。

表6-18 自転車保護のための交通規制の実施状況(昭和47年末現在)

(3) 都市交通の効率化のために
 最近の都市における著しい自動車交通量の増加による交通事情の悪化に対処し、交通の安全と円滑を図り、都市機能を維持するとともに、騒音や大気汚染などによる交通公害を防止するためには、基本的には都市の再開発や大量交通機関の整備などが必要であるが、当面の対策としては、交通規制により通過車両や不要不急車両の都市内の通行を抑制し、都市における日常の自動車交通量の削減を図ることが必要である。
 このため、昭和47年中は、大都市を中心として、駐車禁止や路線バス等の優先又は専用通行帯の設定などの交通規制を強化してきた。
ア 駐車禁止規制の強化
 昭和47年中は、都市交通対策の一環として、全国的に都市における駐車禁止規制を強化するとともに、東京、大阪などの大都市においては、あわせてパーキング・メーターを設置して行なう駐車時間の制限規制を推進した。
 なお、世界の主要都市におけるパーキング・メーターの設置状況は、表6-19のとおりである。
イ バスの優先通行の確保
 路線バス等の優先又は専用通行帯の設定は、バスなどの大量公共輸送機関の円滑な運行を確保し、著しい交通混雑の原因となっているマイカーなどを抑制することにより、全体の交通の効率化を図ろうとするものである。
 昭和47年12月末現在の全国の路線バス等の優先又は専用通行帯の設定状

表6-19 世界の主要都市におけるパーキング・メーターの設置状況(1972年)

況は、優先通行帯が93路線(123区間)で約232キロメートル、専用通行帯が32路線(41区間)で約56キロメートルである。
 なお、世界の主要都市におけるバスレーンの設定状況は、表6-20のとおりである。

表6-20 世界の主要都市におけるバスレーンの設定状況(1972年)

ウ 道路交通情報の提供
 車両の運転者が自発的に混雑道路を避けるようにするため、ラジオなどを通じ、あるいは電話による照会に応じて道路交通に関する情報を提供したり、表示板を用いて直接必要な情報を提供したりしている。
 なお、都道府県警察の委託を受けて財団法人日本道路交通情報センターが行なった情報提供の状況は、ラジオによるものが1週間に約900回(昭和47年3月末の1週間)、電話によるものが1年間に約85万件(昭和46年4月~昭和47年3月)である。
(4) 交通公害の防止のために
ア 騒音・振動防止のための規制
 自動車の通行に伴って発生する騒音や振動による生活環境の破壊を防止するため、速度規制、大型自動車の通行禁止などの交通規制を実施してきた。
〔事例1〕 昭和47年2月、埼玉において、公団団地を縦貫する4車線の県道1,100メートルの区間について騒音を防止するため、40ないし50キロメートル毎時の速度規制を行なった。
〔事例2〕 昭和47年7月、東京において、清瀬療養所周辺を「安眠ゾーン」として、夜間の自動車の通行禁止を行なった。
イ 大気汚染防止のための規制
 自動車の排出ガスに起因するCOや光化学スモッグなどの大気汚染による交通公害の防止を図るためには、自動車交通量を削減することが必要であり、このため、東京、大阪などの大都市を中心として、前記の都市交通の効率化のための駐車禁止、路線バス等の優先又は専用通行帯の設定などの交通規制を積極的に推進してきた。
 また、個別の交差点においてCOによる交通公害を防止するために交通規制を推進した。
〔事例1〕 昭和47年1月、京都市内河原町通り四条交差点におけるCOの濃度を減少させるため、運転者にう回を呼びかける措置を講ずるほか、信号機の現示時間の変更、横断歩道の拡幅などの措置をとった。この結果、それまで月間平均値が10ppmをこえていた同交差点のCOの濃度は、7ないし8ppm前後に減少した。
〔事例2〕 昭和47年12月、長野市内新田交差点におけるCOの濃度を減少させるため、大型貨物自動車の通行禁止、自動車の右左折の禁止、同交差点付近の駐停車禁止などの交通規制を実施した。この結果、昭和47年4月には3日間の1時間値の平均が17.3ppmであった同交差点のCOの濃度は、8.9ppmに減少した。

3 交通安全施設の整備

(1) 整備計画の推移と五箇年計画
 戦後我が国の交通事故が激増してきた大きな原因のひとつとして、歩道、自転車道の整備や信号機、道路標識、道路標示などの交通安全施設の整備が著しく立ち遅れていたことがあげられる。
 このため、都道府県公安委員会と道路管理者とが共同して、交通安全施設等整備事業に関する緊急措置法に基づき、第1次(昭和41~43年)、第2次(昭和44~46年)の交通安全施設等整備事業三箇年計画を作成した。
 更に、交通安全対策基本法に基づく交通安全基本計画が作成されたこととも関連して、昭和46年4月、第2次三箇年計画を中途改訂し、新たに昭和46年度を初年度とする五箇年計画を作成し、事業規模を大幅に拡大して、交通安全施設の整備を更に推進することとした。
 この五箇年計画の事業内容と事業費は、表6-21のとおりである。都道府県公安委員会分では、新たに交通管制センターを28都市に新設することとしたほか、信号機の新設、高度化を最重点におき、第2次三箇年計画と比較して、事業費で単年度当たり約3.7倍に増額した。
 計画の第2年度にあたる昭和47年度における交通管制センター、信号機など国が補助する事業の実施計画は、表6-22のとおりである。
 なお、このほか、地方財政計画上予定された道路標識や道路標示の事業費は、157億円である。
(2) 信号機
ア 信号機の果たす役割
 昭和46年3月末から昭和47年3月末までの全国(沖縄を除く。)の信号機の整備状況は、表6-23のとおりである。
 信号機は、自動車や歩行者の交通量、交通事故の発生状況などに応じて設置するが、昭和45年中に信号機を設置又は改良した場所について、その前後の交通事故発生状況を比較した結果は、表6-24のとおりである。
 この表によれば、歩行者事故、車両事故とも、信号機の設置又は改良の前後を比べると、設置又は改良の後では、その前に比較して、死者について約30%から80%減少している。
イ 効果をあげる信号機の高度化
 定周期式信号機を感応化したり、信号機を系統化したりするなど信号機を

表6-21 交通安全施設等整備事業五箇年計画(昭和46~50年度)

表6-22 交通安全施設等整備事業実施計画(都道府県公安委員会分)(昭和47年度)

表6-23 信号機整備状況(昭和45~47年)

表6-24 交通安全施設の効果

高度化すると、それ以前に比べて車の流れがスムーズとなり、走行時間が短縮したり、車の停止回数が減少するなどの効果が生ずる。
 昭和47年までに自動感応系統化した区間について、走行時間の短縮効果を調査した結果は、表6-25のとおりである。
 昭和47年3月末現在設置されている信号機のうち、高度化されている信号機の数とその割合は、表6-26のとおりである。

表6-25 自動感応系統化による走行時間短縮効果

表6-26 信号機の高度化の状況(昭和47年3月末現在)

(3) 道路標識と道路標示
 全国の道路標識と道路標示の設置状況は、表6-27のとおりである。
 道路標識は、運転者などから見やすいように、原則としてすべて全面反射式のものを設置することにしているが、交通量の多い市街地の幹線道路などでは、燈火式、大型(燈火)路上式、可変式のものを積極的に整備するようにしている。
 また、道路標示は、車両が安全に通行することができるようにマーキングを徹底して行ない、常に鮮明さを保持するよう塗りかえるようにしている。

表6-27 道路標識・道路標示整備状況(昭和45~47年)

(4) 交通管制センター
ア 機能
 今日のような交通状況のもとにおいては、信号機の地域制御、交通情報の提供、交通の規制に関する指令などを一体的かつ有機的に行なう必要があるが、このための中枢的機能を果たす施設が交通管制センターである。
 交通管制センターの主な機能は、次のとおりである。
○ 車両感知器、有・無線電話、テレビカメラなどを用いて交通情報を収集し、分析すること。
○ 交通の状況に応じて信号機などを広域的に制御すること。
○ 運転者に対してラジオ、可変標識などにより交通情報を提供すること。
○ 警察官、パトカー、白バイなどに対して交通規制、交通整理などに関する指令を行なうこと。
イ 設置は、13都市へ
 交通管制センターは、五箇年計画では、全国で28都市に設置されることになっているが、既に昭和46年度中に、札幌、宇都宮、千葉、神戸、北九州の5都市に、昭和47年度中には仙台、横浜、金沢、京都、大阪、岡山、広島、福岡の8都市に設置された。

ウ 効果
 交通管制センターを設置した都市においては、走行時間の短縮、交通事故の減少などの効果をあげているが、昭和47年3月に運用を開始した北九州市の交通管制センターに例をとって、その効果を示せば、次のとおりである。
(ア) 走行時間の短縮
 走行時間については、表6-28のとおり、各幹線とも10ないし20%短縮されている。
(イ) 交通事故の減少
 管制区域内については、表6-29のとおり、交通事故は、著しい減少を示し、発生件数では35%、死者数では80%、負傷者数では27%の減少となっている。

表6-28 交通管制センターの運用による走行時間短縮効果

表6-29 交通管制センターの運用による交通事故減少効果

4 交通指導取締り

(1) 推移と概況
 交通指導取締活動は、交通違反の検挙(告知)活動ばかりでなく、交通状況の監視活動、軽微な違反者に対する警告指導活動、子供や老人などに対する保護誘導活動などを含んだものであって、現に、検挙(告知)件数の数倍にのぼる警告指導などを行なっている。
 過去10年間の交通違反の取締状況は、表6-30のとおりであり、検挙(告知)件数は、昭和43、44年にやや減少したが、昭和45年以降著しく増

表6-30 交通違反取締りの推移(昭和38~47年)

加した。
 昭和47年中における罪種別の交通違反取締状況は、表6-31のとおりであり、検挙(告知)件数は、724万1,613件で、前年に比較して6.5%増加し、警察で検挙(告知)した全特別法犯の98.8%を占めるに至っている(沖縄を除く。)。
 運転者の違反について、違反種別をみると、最高速度違反が35.7%と最も多く、次いで駐停車違反が25.4%を占め、この二つの違反で全体の61.1%に達している。
 なお、世界の主要都市における交通違反の取締状況は、表6-32のとおりである。

表6-31 罪種別交通違反取締状況(昭和47年)

表6-32 世界の主要都市における交通違反取締状況(1971年)

(2) 主要違反の取締り
ア スピード違反
 最高速度違反の取締件数は、表6-33のとおりである。前述したように、最高速度違反による死亡事故が増加しているので、レーダースピードメータ

表6-33 最高速度違反の取締件数(昭和45~47年)

ーなどの新しい器材を活用して、この取締りの強化を図っている。
イ 駐車違反
 既に述べたとおり、都市交通の効率化などのために、駐停車規制が強化されているが、これを担保する取締りも、表6-34のとおり飛躍的に強化されており、大都市では既に交通違反取締りの半数を占めるに至っている。

表6-34 駐停車違反の取締件数(昭和43~47年)

 また、違法駐車車両のうち、妨害性の高いものについては、レッカー車により、道路上から排除するように努めているが、昭和47年中には、その台数は、22万台にのぼっている。
 しかし、表6-32に示したとおり、我が国の駐車違反の取締件数は、諸外国の主要都市に比べると、著しく少なくなっている。
ウ 悪質ダンプカー
 ダンプカーによる交通事故は、表6-35のとおり減少傾向にあるが、昭和47年中のダンプカー1万台当たりの事故率は386件で、全車種の事故率の186件に比べて2倍以上の高い数値を示している。

表6-35 ダンプカーによる交通事故発生状況(昭和45~47年)

 ダンプカーは、積載重量、積載物の落下、振動などにより、市民生活に大きな迷惑と脅威を与える場合が多いので、表6-36のとおり、過積載、速度違反など無謀運転を中心に強力な取締りを実施しており、検挙件数でみると、ダンプカー4台に3台を検挙(告知)していることになる。また、無謀運転をさせている雇用者、安全運転管理者などに対しても、その責任を追及している。
エ 交通公害
 いわゆる交通公害のうち、COと排気騒音の取締状況は、表6-37のとおりであり、COの排出基準に違反する車両台数の割合は減少しつつある。
(3) 定着してきた交通反則通告制度
 交通反則通告制度は、大量の交通違反を、簡易、迅速に処理するため、昭和43年7月から実施したものである。
 これは、道路交通法違反のうち、無免許運転、酒酔い運転、25キロメートル毎時以上の最高速度違反などを除く比較的軽微なものを「反則行為」としてとらえ、この反則行為を犯した一定の「反則者」に対し、認知警察官(交通巡視員)が告知をし、認知警察官の報告に基づいて警察本部長が法定の

表6-36 ダンプカーの取締状況(昭和47年)

表6-37 CO、排気騒音の取締状況(昭和45~47年)

「反則金」の納付を通告し、その通告を受けた者が、これを日本銀行又は郵便局に納付したときは、その反則行為の事件について公訴が提起されなくなり(少年については、家庭裁判所の審判に付されなくなり)、納付しないときは、通常の刑事手続が進行するものである。
 反則金は、国の歳入となるが、国は、交通安全対策の一環として、その全額を、道路標識・標示、ガードレール、横断歩道橋や救急自動車など道路交通安全施設の設置に要する費用にあてさせるため、「交通安全対策特別交付金」として、地方公共団体に交付している。
 昭和43年以降の告知件数、通告件数の推移は、表6-38のとおりであり、車両等の交通違反取締件数の増加に伴って、告知件数、通告件数も増加している。また、取締件数に占める告知件数の割合も年々高くなり、昭和47年には、約80%を占めるに至っている。
 一方、告知件数に対する納付件数の割合は、毎年95%を前後しており、この制度が、一般に定着してきていることを物語っている。
 反則金の収納額の推移は、表6-39のとおりである。

表6-38 告知件数、通告件数の推移(昭和43~47年)

表6-39 交通反則金収納額の推移(昭和43~47年度)

図6-14 警ら密度と事故率の関係

(4) 交通指導取締りの事故抑止効果
 交通指導取締りのもつ事故抑止効果のうち、白バイ、パトカーなどの機動警ら活動の事故抑止効果については、図6-14のとおりの実証データが出ている。これによると、機動警ら密度を8から16へと2倍に高めると、事故率は、300から200へと約30%減となっている。
 また、検挙(告知)件数と交通事故発生状況とを対比すると、図6-15のようになり、マクロ的には、検挙(告知)件数が多いときは交通事故が少ないという関係を読みとることができる。

図6-15 交通取締りと交通事故発生(死傷者数)との関係(昭和38~47年)

(5) 地方都市に多発した暴走族騒ぎ
 昭和47年4月末、富山市中心街に端を発した暴走族騒ぎは、6月から9月にかけて、高岡、小松、金沢、岡山、福山、高知、今治、高松など北陸、中国、四国の地方都市に波及した。
 スピードとスリルを求めてオートバイを乗りまわす若者の集団は、昭和38年ごろから見られ、「カミナリ族」と呼ばれた。最近は、オートバイだけでなく、四輪車も使用するようになり、見物の群衆と結びついて、深夜にわたり異様な興奮状態を巻き起こし、付近の住民に多大の迷惑をかけたのみでなく、投石、放火などの不法事案、取締りの警察官に対する傷害事案なども起こし、「暴走族」とか「狂走族」とも呼ばれるようになってきた。
 このような暴走族騒ぎに対して、警察としては、交通部門のみならず、全警察の総合力を発揮した体制により、不法事案の検挙、暴走族騒ぎの予防鎮圧を図った。
 暴走族騒ぎの取締状況は、表6-40のとおりであり、検挙者は、2,597人にのぼっている。この結果、9月末には、いずれの都市でも騒ぎは静まり、暴走族は見られなくなった。
 富山市内における暴走族のうち、検挙したもの958人の実態は、表6-41

表6-40 暴走族騒ぎの府県別取締状況(昭和47年)

のとおりである。地域的にはかなり広範な地域から集合しており、年齢的には20歳前後の有職の青少年が中心で、車両はスポーツタイプの四輪車が圧倒的に多い。

表6-41 富山市内における暴走族の実態

5 交通事故の捜査

(1) 大量に発生する交通事故
 交通事故(過失)事件の送致件数・送致人員は、表6-42のとおりであり、昭和47年の送致人員は、昭和43年の1.2倍に達し、全刑法犯送致人員の64.3%を占めるに至っている。
 また、昭和47年の交通事故事件の送致状況は、表6-43のとおりであり、送致件数は59万4,672件、送致人員は62万8,054人となっている。
 罪種別では、業務上過失致死傷罪が圧倒的に多いが、交通事故を故意に起こしたもの、衝突後のひきずり行為に未必の故意が認められたものなど殺人

表6-42 交通事故(過失)事件の送致件数・人員(昭和43~47年)

表6-43 交通事故事件の罪種別送致件数(昭和47年)

罪、傷害罪で送致したものが130件もあることは注目に値する。このような刑事責任の追及のほか、交通事故事件の捜査処理は、事故原因を明らかにして、事故防止対策に活用したり、当事者間の民事解決に寄与したりする面も大きい。また、被害者の救護や現場交通の早期回復も重要な任務となっている。
 交通事故の業務上過失致死傷事件の裁判(第一審)の結果、昭和46年中には、1万4,021人が懲役又は禁錮刑(うち実刑4,844人)に処せられている。
 このように大量に発生する交通事故事件を、適正、かつ、効率的に捜査処理するため、ステレオカメラの導入を図っている。これは、地上測量の原理を応用して、交通事故現場を2眼の特殊カメラで撮影し、その乾板から作図することにより、関係距離などを計測するものである。これを用いることにより、現場での巻尺などによる実測が不要となり、現場の捜査処理時間が短縮されるとともに、現場状況などが正確に、いつでも再現できることとなる。
 昭和42年埼玉県警察が導入したのをはじめとし、昭和47年末には、ステレオカメラ車256台を全国の警察本部や主要警察署に配置して運用しており、この方式により年間約11万件の事故事件を捜査処理している。

(2) ひき逃げ事件
 ひき逃げ事件の発生と検挙状況は、表6-44のとおりであり、発生件数は、交通事故全体の発生件数の減少にもかかわらず、年々増加しており、昭和47年中には、総発生件数2万8,693件、死亡ひき逃げ件数667件に達している。また、その内容も悪質化しており、昭和47年中に検挙した死亡ひき逃げ事件552件のうち、飲酒運転や無免許運転中のものは78件、死体遺

表6-44 ひき逃げ事件の発生と検挙状況(昭和43~47年)

棄行為を伴ったものは13件もあった。
 ひき逃げ事件の検挙率は、おおむね横ばいの状況にあり、昭和47年には、ひき逃げ事件の総発生件数に対する検挙率は90.4%、死亡ひき逃げ事件に限ると82.8%となっている。
(3) あたり屋事件など
 いわゆるあたり屋事件は、「くるま社会」の新しい犯罪である。この種事件のはしりは、昭和41年秋高知県警察が検挙した、10歳の我が子を被害者として仕立て、通行車両の前に飛び出させて衝突させた事案(37道府県で犯行件数102件、被害金額360万円)であるが、昭和47年には、31グループ被疑者数120人、犯行件数553件、被害金額4,300万円のあたり屋事件を検挙しており、特に三重県警察が検挙した事案は16都府県、被疑者数8人、犯行件数224件、被害金額717万円の大がかりなものであった。
 このほか、昭和47年中には、交通事故に関連した保険金詐欺(横領)事件で56人(184件、被害金額6,500万円)、運転免許証の偽変造事件で693人を検挙している。
(4) 被害者救済への寄与
ア 被害者の救護
 交通事故の捜査処理に当たっては、人命尊重の見地から負傷者の救護を最優先させている。
 警察の救護活動の実施状況は、救急体制の整備状況などにより異なるが、大阪に例をとると、表6-45のとおりかなりの割合を占めている。

表6-45 大阪における交通事故被害者の救護活動状況(昭和47年)

 また、一般の救護活動協力者に対する報償金制度を、全国24道府県において実施している(昭和47年末現在)。
イ 交通事故相談
 被害者救済の見地から、昭和42年以来、警察本部、各警察署に交通相談所を設け、交通事故相談活動を行なっているが、昭和47年中の取扱件数は、23万9,852件に達している。
 このほか、地方公共団体、交通安全協会などが実施している交通事故相談業務に関して、資料の提供その他の協力をしている。
ウ 交通事故証明
 交通事故にかかる各種保険などの請求に必要な、警察署長の交通事故証明書の発行件数は、昭和47年中に、人身事故に関するもの100万1,850件、物損事故に関するもの8万712件、合計108万2,562件に及んでいる。

6 ハイウェイ・パトロール

(1) ハイウェイ時代の到来
ア 高速道路の建設状況
 昭和38年名神高速道路の一部が開通して以来、高速自動車国道の建設は、着々と進み、昭和47年末では、表6-46のとおり供用延長は867.9キロメートル、年間交通量は1億7,000万台に達し、本格的なハイウェイ時代を迎えつつある。

表6-46 高速自動車国道の現況(昭和47年)

イ 事故率は低い高速道路
 高速道路における交通事故の推移は、表6-47のとおりである。供用延長が増すにつれて交通事故件数も増加し、昭和47年には人身事故2,319件、物損事故6,537件、合計8,856件の事故が発生している。
 高速道路と一般道路との事故率を比較すると、表6-48のとおりである。高速道路の場合、立体交差であること、自動車専用であることなどのため、1億台キロ当たりの人身事故率は、一般道路の8分の1となっているが、高

表6-47 高速道路における交通事故発生状況(昭和43~47年)

表6-48 高速道路における事故率(昭和47年)

速走行のため、事故が発生すれば大事故となること、続発事故の危険があることなど一般道路より危険な面もある。
 高速道路における交通事故を類型別にみると、図6-16のとおりであり、車両相互52.3%、車両単独46.3%、その他1.4%の割合で、一般道路に比べ、車両単独事故の割合が著しく高い(一般道路での車両単独事故の割合は、歩行者事故、踏切事故を除いても9.4%である。)。

図6-16 高速道路交通事故の類型別状況(昭和47年)

 また、原因別にみると、図6-17のとおりであり、ハンドル操作不適当が29.4%、わき見運転が22.9%と、この二つの原因で半数を占めている。
 高速道路においては、故障車両の存在が事故につながる場合がある。昭和47年中の故障車両の発生状況は、表6-49のとおりであり、年間13万件、1日平均360件の故障車両が発生している。
(2) 整備されつつある警察体制
 高速道路は、その道路構造と交通の特殊性から、警察署を単位とする警察

図6-17 高速道路交通事故の原因

表6-49 原因別故障車両発生状況(昭和47年)

体制ではカバーできないので、高速道路を管轄する都道府県警察には、高速道路交通警察隊、同分駐隊(おおむね50キロメールごと)を設けるとともに、管区警察局に高速道路管理室を設けて、関係都府県警察の高速道路交通警察隊に対する連絡・調整・指示に当たっている。
 昭和47年末の各都道府県警察の高速道路交通警察体制は、17都道府県、17警察隊であり、管理室としては東名(川崎)、名神(一宮・吹田)、中央(八王子)、東北(岩槻)に5管理室が設けられている。
(3) ハイウェイ・パトロールの活動
 高速道路における交通違反の取締状況は、表6-50のとおりであり、供用延長の増加、警察体制の整備につれて逐年増加している。

表6-50 高速道路の交通違反取締りの推移(昭和43~47年)

表6-51 高速道路における罪種別交通取締件数(昭和47年)

 昭和47年中における交通違反の取締状況は、表6-51のとおりであり、違反種別では、最高速度違反が49.3%と約半数を占めている。
 高速道路における交通規制は、速度規制などの恒常的な規制のほか、交通事故、異常気象時の臨時的な交通規制についても、広域的、一体的な運用が

表6-52 インターチェンジ閉鎖の状況(昭和47年)

必要であるので、高速道路管理室において調整し、迅速、的確な交通規制の実施に努めている。
 昭和47年中の臨時的交通規制のうち、インターチェンジの閉鎖(通行止めと強制流出)をした状況は、表6-52のとおりである。
 高速道路の交通事故は、多重衝突事故につながる危険性を有しているので、誘導標識車などを用いて、事故現場から数百メートルないし数キロメートル手前から所要の規制措置を講じ、ときにはインターチェンジの閉鎖を行なうとともに、交通事故の処理をできるだけ迅速にするようにしている。
 なお、高速道路上では、衝突車両からの負傷者の搬出が困難なことがあるので、大型カッター、消火器などの資材を高速道路交通警察隊に配備し、負傷者の迅速な搬出に配意している。

7 運転者の資質向上のために

(1) 初心運転者
ア 路上試験
 初心運転者の資質を向上させるため、普通免許の技能試験については、昭和47年、路上試験制度を導入し、昭和48年4月から実施することとした。
 これは、運転者が実際の交通の場において、そのときの交通の状況に応じた安全運転をする能力を有するかどうか適正に判定しようとするものである。
 路上試験制度の採用により、普通免許の申請から取得までの流れは、図6-18のとおりとなる。
イ 初心者マーク
 運転免許取得後の年数別に交通事故を起こす割合をみると図6-19のとおりであり、運転免許を取得して1年未満の初心運転者が交通事故を起こす割合は、1万人当たり28人と最も高くなっている。
 これらの初心運転者による交通事故の防止対策の一つとして、昭和47年10月から、普通免許取得後1年未満の運転者が普通自動車を運転するとき

図6-18 普通免許の申請から取得までの流れ

図6-19 運転免許取得後の年数別事故率(1万人当たり)

は、自動車の前面と後面に図6-20のような初心者マークを見やすいようにつけることを義務づけた。

図6-20 初心者マーク

 この制度は、初心者マークを表示させることにより、初心運転者に正しく謙虚な運転を習慣づけるとともに、これを見た他の運転者がその自動車に幅寄せをしたり、割込みをしたりすることを禁止するものである。
ウ 運転免許試験
 運転免許試験の受験者と合格者の推移は、図6-21のとおりであり、ここ数年は、年間受験者約800万人、合格者約330万人となっている。
 昭和47年中における運転免許種別ごとの受験者と合格者は、表6-53のとおりであり、受験者については、普通免許が最も多く、二輪免許がこれに次いでいる。
 全体の合格率は、37.4%であるが、前述したように試験課題を強化した

図6-21 運転免許試験の受験者と合格者の推移(昭和38~47年)

二輪免許の合格率は、26.6%と低くなっており、また、高度な運転能力が要求される第二種免許の合格率も、16.4%と低率である。
エ 指定自動車教習所
 運転者の養成を目的とする現行の指定自動車教習所制度は、昭和35年に創設された。
 指定自動車教習所は、昭和35年には全国で125箇所であったが、その後逐年増加を続け、昭和47年末には1,289箇所に達している。
 指定自動車教習所の卒業者は、卒業の際の技能検定を受けた日から1年間は、運転免許試験のうち技能試験が免除される。

表6-53 運転免許種別ごとの受験者数と合格者数(昭和47年)

表6-54 指定自動車教習所の指定、解除などの状況(昭和38~47年)

 都道府県公安委員会は、指定自動車教習所の業務の公共性が強いことから、厳しい指導、監督をし、指定の基準に違反したり、適合しなくなったときは、指定の解除、卒業証明書の発行禁止などの行政処分をしているが、その状況は、表6-54のとおりである。
 指定自動車教習所の卒業者は、過去10年間に約1,800万人にのぼっており、運転免許所持者数の半数以上を占めている。なかでも、普通免許についてみると、図6-22のとおり、免許所持者の約80%が、指定自動車教習所の卒業者であり、指定自動車教習所が、運転者入門教育の中核となっていることを示している。

図6-22 運転免許取得者数と指定自動車教習所卒業者数(昭和38~47年)

 また、指定自動車教習所の卒業者とその他の者に分けて、それぞれ普通免許取得後1年間に交通事故を起こした者の比率をみると、前者の3.2%に対し、後者は3.7%である。
 指定自動車教習所の教習水準を高めるため、昭和47年4月から指定自動車教習所の職員に対する講習の制度化、指導員に対する公安委員会の審査の斉一化、指導員の資格要件の強化を図ったほか、各種視聴覚教材の備付け、性格的運転適性検査の実施などを指導している。
(2) 一般運転者
ア 735万人が受講した更新時講習
 3年ごとの運転免許証の更新の際に行なう更新時講習が全国的に行なわれるようになったのは、昭和42年11月からであるが、昭和47年4月から、すべての運転者に受講を義務づけるとともに、講習体制を整備した。
 講習は、交通事故の実態、交通法令の改正点などについて、視聴覚教材を活用しながら2時間程度行なうもので、昭和47年中には、表6-55のとおり、更新者の93.9%に当たる735万人が受講している。

表6-55 更新時講習の受講者(昭和45~47年)

イ 112万人が受講した処分者講習
 交通事故などにより運転免許の停止処分を受けた者に対する処分者講習は、昭和22年に初めて法制化されたが、昭和47年4月からは、模擬運転装置、反応分析装置その他の科学的教育機械を大幅に増強し、技能実習など実践的な講習科目の充実を図っている。
 この処分者講習のために、「安全運転学校」を各都道府県警察に設置している。
 講習は、受講者の処分の日数によって、短期講習(処分日数40日未満の者)、中期講習(同40日以上90日未満の者)、長期講習(同90日以上の者)に分け、交通事故の実態、安全運転に関する知識などについて、6時間ないし12時間行なうが、危険度が高い再犯者が多く含まれている中期講習と長期講習では、このほか個別に知覚判断力検査や技能の実地指導を行なっている。処分者講習の実施状況は、表6-56のとおりである。
 なお、講習修了者は、テスト成績により処分期間の一部が短縮される。

表6-56 処分者講習の受講者(昭和45~47年)

ウ 安全運転管理者に対する講習
 安全運転管理者は、5台以上の自家用自動車の使用の本拠ごとに、自動車の使用者が一定の資格を有する者のうちから選任しなければならないものであるが、昭和47年3月末日現在、12万5,473の事業所などで12万5,740人が選任され、182万3,619人の運転者について、過労防止に留意した運行計画の作成など安全運転の管理に当たっている。
 都道府県公安委員会は、安全運転管理者の資質の向上を図るため、安全運転管理者に対し、道路交通に関する法令の知識、自動車の安全な運転に必要な知識、安全運転管理に必要な知識、技能などについて、4時間ないし10時間の講習を行なっている。
 昭和47年度中には、11万4,091人の安全運転管理者に対して、講習を行なった。
エ 運転適性相談
 各都道府県の安全運転学校などには、運転適性検査所が設置されている。同所では、運転者や安全運転管理者などの申出により、処置判断検査器、重複作業反応検査器、模擬運転装置などの機器による適性検査や、科学警察研究所で開発したテストペーパーによる性格的適性検査を行ない、運転者の欠点や適性を指摘し、その特性に応じた運転を指導している。昭和47年中には、約8万3,000人の相談を受けた。
(3) 危険運転者の排除
 警察庁にある運転者管理センターでは、全国の運転者の運転免許や交通違反・交通事故の経歴などに関するデータをファイルしている。
 交通違反や交通事故には、その内容に応じて一定の点数を定めており、運転者が交通違反をしたり、交通事故を起こしたりした場合は、関係都道府県警察からデータの送信を受けて、運転者管理センターでその運転者の点数を

計算し、処分の基準点数に達すると、その運転者の住所地を管轄する都道府県警察に通報する。これに基づいて、公安委員会は、その合計点数や過去の処分回数などに応じて運転免許の取消しや、6箇月をこえない範囲内での効力の停止の行政処分を行なっている。
 行政処分の実施状況は、表6-57のとおりであり、昭和46年から処分基準を改正した保留を除き、逐年処分件数が増加している。

表6-57 行政処分の実施状況(昭和45~47年)

8 交通安全思想の普及

(1) 教則の作成
 昭和47年2月、国家公安委員会は、「交通の方法に関する教則」を公表した。これは、正しい交通のしかたが歩行者や運転者ひとりひとりにわかりやすく理解されるように作成したもので、その内容は、道路交通法などの法令できめられた交通の方法や安全のために守るべきこと、運転に必要な自動車の構造についての知識などとなっている。
 なお、運転免許の学科試験は、この教則の内容の範囲内で行なっている。
(2) 全国交通安全運動~スクール・ゾーンの設定など~
 昭和47年の全国交通安全運動は、春・秋の二期行なわれ、運動の重点としては、スクール・ゾーンの設定とその定着化、交通安全指導の強化がとりあげられた。
 スクール・ゾーンは、春の交通安全運動時に1万1,238箇所設定したが(期間後も継続するものは、6,967箇所)、秋の交通安全運動時には新設、再設を含め1万5,654箇所を設定した(期間後も継続するものは、1万3,983箇所)。(本章2(2)参照)
 スクール・ゾーンにおいては、交通事故は大幅に減少したが、その状況は、表6-58のとおりである。

表6-58 スクール・ゾーン内での交通事故(昭和47年)

 交通安全指導は、講習会、座談会、交通教室などにより、春の交通安全運動では約607万人に、秋の交通安全運動では約861万人に対して行なった。その実施状況は、表6-59のとおりである。
(3) 民間の交通安全活動
ア 交通安全協会
 財団法人全日本交通安全協会は、民間における交通安全活動の中核とし

表6-59 交通安全指導の実施状況(全国交通安全連動期間中)(昭和47年)

て、「交通安全国民総ぐるみ運動中央大会」の開催、交通安全思想の普及のための広報資料の刊行、自転車や二輪車の正しい乗り方の指導、講習会の開催などの活動を行なっている。
 都道府県では、各都道府県交通安全協会がその地域の中核として、また、地区(支部)交通安全協会が警察署単位に、交通安全活動を行なっている。
イ 二輪車安全運転推進委員会
 自動二輪車や原動機付自転車の運転者に対する安全運転教育を全国的に統一的、組織的に行なうため、昭和47年1月13日全日本交通安全協会の下部機構として、二輪車安全運転推進委員会が組織された。これは、社団法人日本自動車工業会などの二輪車関係団体、全国都道府県教育委員会連合会や全国高等学校長協会の代表者、学識経験者などで構成されている。また、都道府県では、これに準じた各都道府県二輪車安全運転推進委員会が組織された。
 具体的な活動としては、二輪車の安全教育用教材を作成するとともに、安全教育に当たる指導員の審査をして、指導員としての認定をした(昭和47年中に、特別指導員377人、指導員1,446人)ほか、二輪車の運転免許を受けている者や運転免許を受けようとする者に対して実技指導を含む安全教育を実施した。特に、高校生に対しては、重点的に実施した。
ウ 母と子の交通安全クラブ
 子供を交通事故から守るため、地域や幼稚園、保育所を単位とした「母と子の交通安全クラブ」が結成され、交通安全のための活動をしている。例えば、山形県では、「カモシカクラブ」が、昭和46年7月に結成されたが、昭和47年末現在、214クラブになり、幼児8,817人、母親8,441人、合計1万7,258人がクラブ員となって、交通安全に努力している。

9 交通事故の分析

 交通事故を防止するためには、交通事故の原因を究明し、その原因の除去を図ることが肝要である。
 警察は、交通事故事件の捜査処理と並行して、交通事故の原因を正確につかむため、歩行者や運転者の行為、身体の状況、心理的状況、車の構造や整備状況、道路の構造、交通環境などについて多角的に調査・分析し、その結果を当面の交通規制や交通指導取締りなどの交通警察活動や長期的な交通安全対策などに役立てているだけでなく、関係行政機関に資料として提供し、道路構造の改良を要望するなどして、交通事故の防止のために活用している。
 警察庁においては、昭和41年以来全国統一の「交通事故統計原票」を定め、交通事故の処理にあたった警察官が記載したものを、コンピューターによって集計し、分析している。
 都道府県警察本部においては、事故分析業務を担当する事故分析官をおき、統計的分析のほか、死亡事故や多数の負傷者をだした交通事故などについての事例的分析や交通事故の多発する地点や区間についての分析などを行なっている。また、一部の都道府県警察においては、関係行政機関の係員を含めたプロジェクトチームを編成して、現地診断などの調査・分析を行なっている。
 図6-23は、交通事故状況図の一例である。これは、昭和47年6月に、東京都大田区沢田交差点において行なった交通安全対策(交差点流入部の手前約30メートルの間をすべり止め舗装し、また、「歩行者横断禁止」と「自転車歩道通行可」の交通規制を行なった。)の前後6箇月間に発生した交通事故を調査し、状況図としたものである。

10 展望と課題

(1) 道路交通情勢
 我が国のモータリゼーションは、過去と比べて、その度合いはやや鈍化するとはいえ、依然として、急激な伸展が続くと予測されている。今後5箇年間の政府の施策の基本を示す経済社会基本計画(昭和48~52年度)では、昭和52年度の自動車の輸送需要は、昭和46年度と比べて、旅客1.6倍、貨

図6-23 東京都大田区沢田交差点における交通事故状況図

物1.8倍に増加し、また、自動車保有台数も同じく1.5倍になると推定されている。一方、道路の整備については、昭和48年度を初年度とする第7次道路整備五箇年計画(総投資額19兆5,000億円)に基づき、昭和52年度には、高速自動車国道の供用延長は、870キロメートルから3,100キロメートルになるほか、主要な幹線道路の改良も大幅に進められる予定であり、自動車交通の場は更に拡大されることになる。しかし、自動車の輸送需要の増加率は、道路の整備をはるかに上回る状況であり、需給の不均衡は更に大きくなると予測されている。特に、交通混雑あるいは交通公害が問題となっている大都市やその周辺部においては、新たな道路の建設は、極めて困難であり、道路の整備による交通容量の増大に多くを期待することはできない状況である。
 また、自動車交通に対する国民意識も変化しており、自動車交通の有用性は認めながらも、道路の利用については、通学、通勤、買物などの日常の社会生活の場としての機能を優先させ、安全で健康な生活環境の確保を図るべきであるとの要請が高まりつつある。
 このように、自動車交通の過密化が更に進行するなかで、交通事故、交通公害などの自動車交通のもたらす弊害を除去し、従来の水準以上の道路交通の安全性、無害性を確保していくためには、関係機関の施策を総合した対策が推進されなければならないことはいうまでもない。
(2) 交通警察の基本目標とその施策の方向
 このような道路交通情勢に対処するため、交通警察活動は、次の点を基本目標に推進することとしている。
ア 交通安全のための各種施策を総合的に展開し、自動車交通量の増勢下においても交通事故による死傷者を減少させる。特に、道路交通上の弱者である歩行者と自転車利用者の保護を最重点とし、その死亡事故の半減に努める。
イ 都市を中心に、道路網全体のなかでそれぞれの道路が果たすべき社会的機能に対応した交通規制の基本計画を策定し、自動車交通による生活環境の侵害を防止するとともに、交通管理の科学技術を駆使して道路の効率的利用を図ることにより交通混雑の緩和に努める。
 この基本目標を達成するためには、今後の課題として、次の点について、対策を講ずる必要がある。
 まず、交通事故の減少対策については、従来、交通事故はモータリゼーションの伸展とともに増加していたので、そのままの状況で推移すれば、昭和50年には交通事故による死者数は約2万人、負傷者数は約170万人(昭和46年総理府調査)に達すると推定されていたが、昭和46年以降、関係機関をあげての総合的交通安全対策の一環として、警察の分野においても、信号機などの交通安全施設の整備と街頭監視活動の強化を二本の柱とし、その他交通安全のための各種施策の推進に警察力を結集して努力した結果、昭和46年、昭和47年と2年連続して事故発生件数、死者数、負傷者数ともに戦後はじめて対前年比で減少させることに成功した。
 しかし、交通事故は、全体としては減少傾向にあるとはいえ、その内容を分析すると問題が残されている。すなわち、交通事故が減少している都道県の数と増加している府県の数が相半ばしており、それを全般的にみると、交通事故が減少している地域は、地域住民の交通安全意識が高く、歩道、信号機などの交通安全施設が整備され、かつ、交通秩序を確保するための警察官などの街頭監視力が高い大都県であり、他方、交通事故が増加している地域は、モータリゼーションが急速に進展しているのに対し、これらの交通安全対策の基盤がいまだ十分に整備されていない地方の県である。このことからも、これら交通事故が増加している地方の県の交通警察活動の基盤を大都県なみの水準に引き上げることが緊要な課題となっている。
 特に、交通事故による死者数のほぼ半数を占めている歩行者、自転車利用者の安全を図るため、スクール・ゾーン内の道路をはじめ、いわゆる生活道路や住宅街道路について、歩行者用道路の設定、路側帯の設置、自転車道の設置、「自転車の歩道通行可」の交通規制などにより、人と車の交通の分離を図ることを基本方針とした施策を、今後とも一層推進する必要がある。
 次に、交通公害の防止対策及び交通混雑の緩和対策については、いずれも、自動車交通の過密化現象から生じているものであり、その自動車の過密化現象は、無秩序に巨大化する都市から生ずる人と貨物の輸送需要がもたらすものであることから、抜本的に解決していくためには、根源にさかのぼった対策が講ぜられなければならない。
 交通公害のうち、大気汚染の防止については、単に自動車を規制する施策のみで解決するものではなく、大気汚染のメカニズムを科学的に究明し、それと因果関係のある工場排煙からビルの冷暖房による排出ガス、ゴミの焼却に至るまですべての汚染源に対する規制を並行的に行なうことが必要であり、また、騒音、振動の防止についても、車両構造装置、道路環境の改善があわせて行なわれなければならない。
 交通混雑の緩和対策についても、貨物の端末の集配輸送、短距離の面的輸送などの業務交通は、自動車に依存せざるを得ず、その需要の増大は今後更に道路の混雑に拍車をかけることになり、交通の円滑化のための交通規制の実施とあわせて、物的流通機構の改善、地下鉄、バス等の大量公共輸送機関の整備、更には、鉄道、海運などの他の輸送機関との間の最適な分担関係を確立することなど総合的な交通対策が講ぜられなければならない。
 しかし、これらの抜本的な対策を早急に実現することは困難であることから、事態の悪化を防止するための当面の措置として、各種の交通規制の果たす役割が増大してきているといえよう。すなわち、道路交通に起因する弊害を除去しつつ、現実の交通需要を満たしていくためには、既存の道路を効率的に利用し、交通容量と輸送量の実質的な増大を図るとともに、社会的緊急度・必要度の低い自動車交通を抑制することが必要である。交通容量の増大については、「道路は歩行又は走行空間」という考え方にたって、駐車規制の強化、保管場所の確保の徹底、道路の不正使用の排除などはもとより、一方通行、中央線変移などの規制を大幅に実施するとともに、信号機などを自動制御する広域的な交通管制システムを整備することが効果的であり、今後とも一層推進する必要がある。また、輸送量の増大については、輸送効率の高いバス等の大量公共輸送機関の円滑な通行を確保するため、路線バス等の優先又は専用通行帯を更に増設し、自家用乗用車からバスへの輸送手段の転換を図る必要がある。
 しかしながら、これら交通規制による効果もおのずから限界があり、今後、交通公害あるいは交通混雑が更に深刻化し、住民の健康、都市の機能保持の見地から放置できない事態になることも予想され、その事態に備えて、緊急度・必要度の低い自動車の通行を禁止する直接的方式あるいは賦課金などの特別な経済的負担を課して交通量を間接的に抑制する方法など、自動車の総交通量を削減することも検討されなければならない。


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