第2章 国民生活と日常の警察活動

1 防犯活動

(1) パトロール
 住民の間には、警察に対して、自分たちが住んでいる地域を常に見回ってほしいという強い要望がある。警察は、この要望にこたえ、犯罪の防止や住民に対する保護活動を行なうために、パトカーや派出所、駐在所の警察官によって、常に受持区域内をパトロールしている。
 また、盛り場、海水浴場等、人出が多く、犯罪の多発が予想される場所については、派出所、駐在所の警察官ばかりでなく、機動隊や他の係の警察官も出て、集団的な特別パトロールを実施している。
 そのほか、最近では、団地や住宅密集地域に対して移動交番車を用い、これを拠点としてパトロールを行なう方法もとっている。
 警察官がパトロールをすることは、犯罪の検挙のためでもあるが、その主要な目的は、犯罪を予防し、住民に対する保護、奉仕の活動をするためである。例えば、迷子の発見、地理案内、交通整理などのほか、夜間に不安な気

持で通行している人に対して安心感を与えるという目に見えない効果も大きいと考えられる。
 従来、警察官はただ黙々とパトロールするといった傾向が強かったが、最近は、夜間、暗い道路を通行している人に一声かけることを励行しているほか、戸締りの不完全な家にはパトロール・カードを配布して注意をうながす方法も各都道府県の警察において行なわれている。
 パトロールがどれぐらい行なわれているかをみると、派出所や駐在所の勤務日にあたっている警察官は、1人1日に平均(昼夜を含めて)5時間から8時間ぐらい、また、パトカーは1日1台当たり、全国平均では約7時間30分、東京、大阪、名古屋などの大都市では約10時間パトロールに従事している。
 最近では、これらのパトロールを更に強化するため、派出所、駐在所、パトカーの勤務員の勤務方法の改善を図って、できるだけパトロールの時間を長くする方法を検討し、地域住民の期待にこたられるように努力を続けている。

図2-1 全刑法犯中に占める窃盜の割合(昭和47年)

図2-2 侵入盜の被害にあった建物の施錠状況(昭和47年)

(2) 防犯診断
ア 防犯診断のカルテ~半数は戸締りなし~
 昭和47年中に発生した刑法犯(交通事故関係の業務上(重)過失致死傷罪を除く。)は、図2-1のとおり、122万3,546件に達し、このうち、侵入盜は35万9,023件(29.4%)で、過去数年間ほぼ横ばい傾向を続けている。(本章において使用する統計上の数字は、特に明示のない限り、昭和47年5月15日以降の沖縄の数を含んでいる。)
 侵入盗の被害にあった家屋について、被害発生当時の戸締り状況をみると、図2-2のとおり、「錠なし」や「施錠忘れ」のいわば「無防備家屋」が50%近くを占めている。
 このような状況から、警察では、一般住宅、アパートなど侵入盗の対象となりやすい建物の戸締り設備等について、従来から防犯診断を行なってきているが、昭和47年秋に行なった全国一斉防犯診断のカルテをみると、表2-1のとおりである。
 一般住宅、アパート各室では、性能の良いドア用シリンダー箱錠や引戸用鎌錠の使用は28%ぐらいしかなく、その他は、本来の使用目的が間仕切用で、

表2-1 防犯診断結果(昭和47年10月)




表2-2 金融機関防犯診断結果(昭和47年10月)

そのうえドライバーなどで簡単にこじあけられやすい円筒錠、南京錠、ねじ込み錠などが使われている。
 また、一般住宅、アパートとも、円筒錠、南京錠、ねじ込み錠等の主錠に加えて補助錠を使用していたところは23%しかなく、更に戸締用防犯ベルや非常用通報ベルは3ないし5%ぐらいしか使用されていない。
 なお、多額の現金を保管している金融機関の防犯体制の診断結果は、表2-2のとおりであり、農協、漁協などでは通報装置、警報装置の設置が不十分である。
 また、最近の業務の合理化・省力化傾向に伴い、各金融機関とも従業員による宿直体制は年々減少し、一部ではガードマンによる警備がこれに代わっている。
 このようなガードマンを使う警備業は、昭和37年ごろから警備を専門に請け負う企業として登場したが、その数は昭和47年末現在1,921社(支社、営業所を含む。)で、そこで雇用されているガードマンは4万3,480人である。
 なお、警備業については、昭和47年11月、警備業法の施行によって、都道府県公安委員会への届出が義務づけられるとともに、所要の規制措置が講じられた。
イ 防備のすすめ
 侵入盜の被害を防止するためには、その多発する地域に対して、警察は密度の高いパトロールを行なっているが、これとともに各家庭等においても戸締りを完全にすることが重要である。
 また、警察においては、防犯診断活動を通じて、「かんぬきが長くて丈夫なシリンダー箱錠」や「かんぬきがかま型になっている鎌錠」の使用を勧め、円筒錠の使用家庭等には、こじあけ

防止のためにガードプレートの取り付け方を勧めている。
 このほか、家屋を新改築する場合には、建築業者等を通じてシリンダー箱錠などの性能の良い錠の使用や防犯ベルの設置を指導している。
(3) 市民の協力と防犯
 犯罪防止の徹底をはかるためには、国民が自分自身の安全や財産の保全に意を用いるほか、地域や職域ごとに防犯活動が活発に進められることがより効果的である。
 現在、全国各地においては、防犯協会を中心として、地域住民や職場の人たちが相たずさえて犯罪をなくすための防犯活動を行なっており、警察はこれらの活動に対して必要な協力や助言を積極的に行なっている。
 このような民間の防犯活動の例として、東京、神奈川、岡山、高知などの都県では、「防犯の日」を設定して、この日には市民と警察が一体となり、防犯意識を盛り上げるため、広報車などで戸締りを呼びかけたり、夜警パトロールを行なうなどにより、犯罪ゼロを目指した防犯運動を行なっている。
 更に、街頭での暴行、恐喝、ひったくり等の事犯の多発している盛り場などでは「防犯モデル地区」を設定して、防犯テレビや防犯灯などの防犯施設の拡充に努めるなど、犯罪のない町づくりのために、市民ぐるみの防犯運動を推進している。
 また、「一声運動」なども、有効な民間防犯運動の一つである。例えば、幼児の誘かい事犯を未然に防止するために、一人遊びしている幼児や不審な状態にある子供などを見かけた時には、「一声かける運動」を地域ぐるみで展開している。
 このような、地域における防犯運動の推進の中心となっている防犯協会は、全国的に組織されており、その末端組織である防犯連絡所は全国で約52万箇所(59世帯に1箇所の割合)に及んでいる。
 防犯連絡所は、近隣で見聞した事件や事故を警察に通報したり、地域の住民のために防犯上の広報活動を行なうなど、地域住民と警察とのパイプ役を果たすとともに、地域防犯活動の拠点になっている。
 例えば、昭和47年中に防犯連絡所から警察に寄せられた通報や連絡は16万2,430件に及んでおり、その内容は、

事件、事故の情報 54,933件 (34%)
押売りその他不審者について 9,796件 (6%)
家出少年など保護を要する者について 8,008件 (4%)
防犯施策に関する意見や要望について 33,422件 (21%)
苦情、参考情報等 56,271件 (35%)

となっている。これらの通報や連絡は、犯罪の予防や事件の解決に少なからず寄与している。
 また、職域における防犯活動としては、表2-3のとおり、都道府県単位で244、市町村単位で1万725の職域防犯団体が組織されている。これらの職域防犯団体においては、事業所における防犯体制の確立並びに防犯施設や器具の整備活用などについて研究を行なうとともに、同業者間で電話によるリレー方式で異常の有無を確認しあう「ダイヤル・パトロール制」を採用するなど、犯罪予防のための活動を行なっている。

表2-3 職域防犯組織数(昭和47年9月現在)

2 110番

(1) 50人に1人の割合で利用
 昭和23年10月に開設された110番(注)は、今では国民の中に「110番、即警察」のイメージとして定着している。
(注) 我が国の110番にあたる警察通報用電話番号は、各国とも覚えやすい番号が割り当てられており、その若干の例は次のとおりである。

ニューヨーク 911
ロンドン 999
ジュネーブ 17
ロ-マ 17
パリ 44444

図2-3 110番利用件数と電話加入数の推移(昭和38~47年)

 過去10年間における110番の利用件数と電話加入数の推移をみると、図2-3のとおりで、110番利用の伸びは、昭和44年までは、電話のそれにほぼ比例していたが、昭和45年以降はその伸びがにぶっている。
 昭和47年中における110番の利用件数は全国では208万4,153件で、前年と比較すると約5%の増加となっている。これは、1日平均5,700件、15秒ごとに1件、また、国民50人に1人の割合で110番により警察へ事件事故等が通報されたことになる。
 次に、同年中における110番の内容別利用状況をみると、図2-4のとおりで、「交通事故・違反の通報」が第1位を占め、そのほか「被害の届け出」、「でい酔者の通報」、「照会・連絡」などが多い。

図2-4 内容別110番利用件数(昭和47年)

図2-5 時間別110番利用件数(昭和47年)

 110番の時間別利用状況は図2-5のとおりで、ピークは午後6時から午前0時までで、全体の35.2%にあたる。
(2) 110番を受けてから
 全国の警察本部に設置されている通信指令室は、110番を集中して受理するとともに、事件・事故の発生を認知した場合は、警察署やパトカーに対して一元的に指令を行なうところである。
 110番急訴のうち、殺人、強盗、誘かい、ひき逃げなどの重要犯罪の場合は、通信指令室が中心となって、直ちにパトカー、警察署、派出所、駐在所及び携帯受令機を装備したパトロール中の警察官に緊急配備を発令するほか、必要によっては隣接する県の警察本部にも通報し、警察力を緊急かつ組織的に動員して、犯人検挙に努めている。
 昭和47年中、通信指令室を通じて実施した緊急配備は7,983件で、緊急配備実施中に犯人を検挙(解決)したものは3,049件(38.2%)にのぼって

おり、110番が迅速な初動捜査活動に極めて重要な役割を果たしていることがうかがえる。交通事故、でい酔者、けんかなどの110番の場合は、現場近くのパトカーに指令するほか、警察署の専務警察官及び派出所、駐在所の警察官を派遣して事案処理にあたっている。
(3) リスポンス・タイム(パトカーの現場到着所要時間)~早い通報が検挙につながる~
 パトカーが110番指令を受けてから、現場に到着するまでの所要時間、いわゆるリスポンス・タイムは、各都道府県ごとに差がみられるが、昭和47年中の110番集中地域(注)におけるリスポンス・タイムの平均は6分26秒である。
(注) 「110番集中地域」とは、110番回線が警察本部の通信指令室に結ばれている地域のことで、この地域内ではどこからでも110番すると自動的に警察本部の通信指令室につながるようになっており、全国警察署1,210の約50%にあたる608警察署管内の110番回線が通信指令室に集中設置されている。集中地域内の電話加入者数は、電話加入者全体の79.2%にあたる。110番集中地域以外では、110番は管内の警察署の交換台につながることになっている。
 主要都市における昭和43年以降の各年別のリスポンス・タイムをみると表2-4のとおりである。

表2-4 主要都市におけるパトカーのリスポンス・タイム(昭和43~47年)

表2-5 リスポンス・タイムと検挙(昭和47年)

 次に、昭和47年中の110番集中地域におけるパトカーのリスポンス・タイムと犯罪の検挙状況は表2-5のとおりで、リスポンス・タイムが短いほど検挙率が高いことを示しており、早い110番と警察官の早い現場到着が犯人検挙に大きく影響することを示している。
 なお、ニューヨーク市警察やシカゴ市警察では、パトカーのリスポンス・タイムはほとんど問題にされていない。その理由は、パトカーが網の目のように配置されており(パトカー1台当たりの警ら密度は、警視庁~4.7km2、ニューヨーク市警~0.16km2、シカゴ市警~1.04km2である。)、指令を受けたパトカーは、直ちに現場到着できる体制にあるからである。しかし、アメリカには、我が国の派出所・駐在所制度はみられず、パトカーのみによって要出動事案のすべてを処理している制度上の相異がある。我が国では、パトカーのほか、派出所・駐在所勤務員が現場におもむいている場合も多いので、パトカーのリスポンス・タイムのみの比較だけでは初動措置の優劣は論じられない。
 また、アメリカでは、警察通報用電話の入電時からパトカーに対する指令までに要する時間をいかに短縮するかに努力がむけられ、パトカーが、いま、どこで、どんな任務についているかがコンピューターによって一目でわかるカーロケーター・システムを導入して迅速な指令がなされている。
 我が国でも、昭和46年6月からカーロケーター・システムの運用を開始し、現在、警視庁管内の新宿、中野、杉並区内の9警察署管内のパトカー(73台)に適用して効果をあげている。

3 保護活動

(1) 子供と老人
 子供と老人は、ともに弱い立場にあり、社会構造の複雑化、家族構成の変化等から一層そのハンディキャップが大きくなる傾向がみられる。
 ちなみに、昭和47年中の交通事故による歩行者の年齢層別死者率は、図2-6のとおりで、幼児及び老人の死者率は他の年齢層のそれに比較して著しく高い。
 また、警察において迷子として保護された数は、表2-6のとおりで、年々増加している。
 昭和47年中に保護された6万6,264人の迷子のほとんどは短時間のうちに保護者等に引き取られているが、一時的にせよ1,278人(2%)が身元がわからず児童相談所等の施設に収容されている。
 このほか、子供の屋外での遊びをめぐって発生する不測の死傷事故が少な

図2-6 交通事故による歩行者の年齢層別死者率(昭和47年)

表2-6 迷子保護数の推移(昭和43~47年)

くないが、その誘発原因となりかねない危険な場所や施設がなんらの安全措置も講ぜられないままに放置されている例が多い。例えば、警視庁では、昭和47年の秋季防犯運動の際に、子供を守る施策の一つとして、このような危険な対象について調査を行ない、4,051箇所を指摘し、管理者に対して所要の改善方を勧告したが、その内訳は、

道路上の危険なところ 1,132箇所
建築資器材置場  977 〃
危険物の放置  674 〃
がけ、鉄道沿い等の危険箇所  636 〃
川、用水池、古井戸  632 〃

であった。
 次に、65歳以上の老人についてみると、我が国の老人人口は約730万人
で、全人口の約7%を占めている。この割合は、現在のところ、スウェーデン、イギリスの各13%、フランスの12%などに比較して、かなり低い水準にあるが、昭和65年には全人口の11%、85年には15%、95年には17%となるものと予測されている。また、ひとり暮しの老人は全国に約46万人いると推計されている(以上「厚生白書(昭和47年版)」による。)。
 老人の自殺についてみると、表2-7のとおりである。
 老人の自殺率について主要各国と比較すると、表2-8のとおりであり、我が国の自殺率は全年齢でみれば特に高いとはいえないが、老人については極端に高くなっている。
 以上のような事情に即して、子供や老人の安全を守るために、警察は次の

表2-7 老人(65歳以上)自殺者数の推移(昭和42~46年)

表2-8 主要国の老齢者自殺率(1969年)

ような活動を行なっている。
 迷子等の保護にあたっては、保護者の早期発見に努めることはもとより、幼児等を置き去りにする無責任保護者に対する刑事責任の追及も行なっている。
 子供を危険な環境から守る活動としては、危険箇所の実態は握を徹底し、管理者等に対して改善方の勧告を積極的に行なっている。
 また、交通安全のためには、スクール・ゾーンの設定、登下校時の交通整理により安全を確保する等、街頭での現場指導を励行するとともに、関係機関、団体等を通じて子供や老人に対する安全教育の徹底を図っている。更に、ひとり暮しの老人については、平素から巡回連絡等を通じて「愛の訪問」活動を行ない、困りごとや要望等を積極的には握し、事故や犯罪の防止に努めるとともに、関係機関への連絡等を積極的に行なっている。
(2) 年間15万人の酔っぱらいの保護
 でい酔あるいは酩酊状態で、自己又は他人の生命身体に危害を及ぼすおそれがあったり、粗野乱暴な言動で公衆に迷惑をかけるなどの理由で警察に保護された者は昭和47年中に、15万490人の多きを数えたが、最近5年間の推移をみると表2-9のとおりである。
 ちなみに、警視庁が昭和47年中に、でい酔者及び酩酊者として保護した3万2,695人は、性別でみると男性がほとんどであるが、その4%は女性であった。また、年齢的には、30代が35%で最も多く、次いで40代30%、20代15%、50代14%、60歳以上5%となっているほか、少年が1%含まれている。

表2-9 でい酔者及び酩酊者保護数(昭和43~47年)

 時期についてみると、12月に11.8%、3月に9.1%、4月に8.5%と年末、花見どきに多い。曜日別では、土曜日、金曜日と週末に多い。
 ちなみに、国税庁の調査によると昭和47年の酒類(日本酒、洋酒、ビール等)の消費量は542万7,815klで、成人1人当たり年間消費量は74lに達し、図2-7に示すとおり、消費量は年々増加する傾向にある。
 このような酔っぱらいを保護するための施設として、警察では表2-10のとおり、東京など主要都道府県に保護センターを設置しており、昭和47年中にこれらの施設に保護されたでい酔者は9万7,004人(でい酔などによる被保護者総数の64%)であった。一方、昭和47年中に、公衆に迷惑をかけるような著しく粗野又は乱暴な言動をして、「酩酊者規制法」違反で検挙さ

図2-7 酒類の消費量及び酔っぱらいの保護数(昭和43~47年)

表2-10 保護センターの設置状況(昭和47年12月末現在)

れ、送致された者は1,396人であった。
(3) 女性が多い家出
 捜索願出のあった家出人は、表2-11のとおり、年間10万人前後で推移してきたが、昭和47年には大幅に減少している。また、家出の態様では、「子供を遺棄して家出するケース」、「老人の家出」、「蒸発といわれる理由なき家出」などが目立っている。

表2-11 家出人捜索願出数(昭和43~47年)

 昭和47年中に捜索願いの出された家出人の実態をみると次のとおりである。
 年齢層別にみた人口1万人当たりの家出人率は、表2-12のとおりで、少年の家出人率が成人に比較して極めて高くなっている。
 男女別では、男性が4万3,360人(48%)、女性が4万7,100人(52%)で、これを年齢層別にみると、表2-13のとおり、17歳以下と60歳以上では男性が多いが、その中間年齢では女性が多い。

表2-12 年齢層別家出人率(昭和47年)

表2-13 家出人の男女別年齢層別比較(昭和47年)

表2-14 学生生徒別家出人数(昭和43~47年)

 学生生徒別では、表2-14のとおり、中、高校生の家出が多く、その大半を占めている。
 原因動機別では、表2-15のとおりで、いずれの年齢層でみても家庭不利など家庭内のトラブルに起因するものが多いことと、60歳以上の老齢層には病苦を原因とするものが多いことが目立っている。
 人口対比で、家出人の多い都道府県をみると、表2-16のとおりであるが、逆に少ない方は島根、宮崎、鹿児島などであり、東京は29番目となっている。
 家出から発見(自分から帰宅し解決したものを含む。)までの期間などについてみると、昭和47年1月から6月までの上半期に捜索願出があった4万4,899人の追跡調査の結果では、昭和47年末までの間に84%が発見され、そのうち約半数は1週間以内に発見されている。これを年齢層別でみると、表2-17のとおり、20歳未満の場合は96%とかなり高い発見率を示しており、20歳以上60歳未満は79%、60歳以上は92%の発見率となって

表2-15 家出人の年齢層別動機原因(昭和47年)

表2-16 家出人率の高い都道府県(昭和47年)

表2-17 捜索願出のあった家出人発見状況(昭和47年1~6月間)(昭和47年末現在)

表2-18 家出人発見数(昭和43~47年)

いる。なお、これら発見された家出人のうち、自殺死体として発見された者が、60歳以上の場合、191人もいることは注目される。
 また、捜索願出の有無にかかわらず、家出人として発見され、あるいは保護された者の数は、表2-18のとおり、昭和45年以降減少傾向にある。
 昭和47年中に発見された家出人についてその発見方法をみると、表2-19のとおり、56%が警察活動によって発見されており、44%は自分から帰宅している。
 家出人のなかには、犯罪の被害者となっているおそれのあるものや、自殺

表2-19 家出人の発見方法(昭和47年)

のおそれのあるものも含まれている。そこで、特に早期発見保護を必要とする家出人については、昭和46年から、重要手配制度を設け、立回り予想地区の警察署に対し手配を行なっており、手配受理警察署では、家出人についての情報収集や立回り予想地区での職務質問の励行等必要な捜索及び捜査活動を行なって早期発見保護に努めている。
 このほか、将来の構想として、コンピューターの導入による家出人登録及び照会制度を検討している。

4 地理案内・遺失物・困りごと相談

(1) 地理案内
 警察が行なっている地理案内の件数は場所によってぼう大なものになり、東京のターミナル駅や繁華街を受け持つ派出所では、昭和47年中の1日平均の件数として次のような概数が報告されている。

渋谷駅前派出所 2,560件
数寄屋橋派出所 1,420件
新宿駅東口派出所 1,320件
池袋駅東口派出所 1,300件
上野駅派出所 1,280件

 このうち、渋谷駅前派出所を例にとれば、ここだけで1年間に90万人余の人に地理案内をしていることになる。
 ちなみに、東京以外については、サンプル調査によれば、表2-20のようになっている。
 ところで、地理案内を求める人の尋ね先はどのようなところが多いかについて、前述の渋谷駅前派出所の例をみると、表2-21のとおりである。
 地理案内は、その取扱量が意外に多いのみではなく、その尋ね方が不正確等のために予想外に時間を費やすこともあり、都内の主要派出所では、地理案内のために最低1人は専従しなければならない状況である。また、主要国道沿いの駐在所にあっては、深夜に起こされて道順を尋ねられるなどのことも多く、勤務員やその家族の相当な負担となっている。
 このような地理案内に伴う負担を軽減するため、派出所や駐在所の前に大

表2-21 渋谷駅前派出所における地理案内の主な尋ね先(昭和47年)

表2-20 地理案内の件数(昭和47年)

きな地図を用意したり、尋ね先の多い場所を書き込んだ略図を渡せるように用意しているところもある。
(2) 現金だけで100億円の遺失物
 最近5年間の遺失届、拾得届の推移は、図2-8のとおりである。通貨については年々額が増加しているが、物品については顕著な変化はみられない。
 物品の内容は、かさ、財布、バッグ、かばん、腕時計、衣類、免許証など、身につけているものが多い。なかには、入歯や遺骨まであり、あらゆる物件が含まれているといってよい。
 昭和47年についてみると、遺失届は約160万件、拾得届は約279万件で、遺失届より拾得届の方が多い。遺失者の方はあっさりあきらめてしまっている場合が多いということであろう。
 このうち、通貨についてみると、遺失届が約97億円、拾得届が約48億円

図2-8 遺失物・拾得物の推移(昭和43~47年)

であり、物品の場合とは逆に、拾得届は遺失届の半分しかない。届け出のあった分だけでもぼう大な金額で、国民1人が平均100円を落とし、50円を拾っていることになる。東京都内に限っていうと、遺失金額の最高は980万円、拾得金額の最高は750万円で、金額も大きくなっている。
 また、遺失物品点数は、約250万点で遺失件数(約160万件)の約1.5倍、拾得物品点数は約543万点で拾得件数(約279万件)の約2倍となっている。これは、遺失届が1件出された場合であっても、遺失物品点数としては数点となる場合もあるためである。

表2-22 拾得物取扱状況(昭和47年)

 ところで拾得物は、遺失者が判明すればその者に返還されて、拾得者は5分ないし2割の報労金を受領し、6月と14日経過しても遺失者が判明しなければ拾得者の所有となるが、2月内に拾得者が引き取らないと都道府県に帰属することになる。現実に拾得物がどのようになったかをみると、表2-22のとおり、金銭については、約55%の金額が遺失者に戻っており、拾得者取得が約38%、都道府県帰属が約7%となっている。
 物品の場合は、遺失者への返還が約14%、拾得者取得が約62%、都道府県帰属が約24%となっている。
(3) 困りごと相談
 日本では、欧米のように身辺の困りごとについて弁護士に依頼する風習があまりないなどのこともあって、身近な困りごと等を警察に相談することが多い。
 このような国民の要請にこたえるために、都道府県警察本部、各警察署には、「困りごと相談所」、「交通相談所」等を設けて各種の相談に応じている(交通相談については、第6章「交通安全と警察活動」5(4)参照)。
 警察に持ちこまれる悩みや困りごとは、昭和47年についてみると、図2-9のとおりで受理数は約22万件に及んでおり、相談内容として最も多いのは交通事故関係で7万6,216件であり、次いで契約関係のもつれ等が2万6,539件、身上相談2万2,470件、子供の怠学・家出などの少年非行関係

図2-9 困りごと相談取扱状況(昭和47年)

が1万7,715件、生活相談が1万6,314件となっている。このほか、近年、公害にかかる問題が時代を反映して急増してきていることが注目される。
 相談ごとの処理結果は、次のとおりとなっている。

解決 80,313 36.8%
助言 117,602 53.9%
関係機関への引継ぎ 7,936 3.6%
打切り 7,959 3.6%
継続 4,484 2.1%
  

 このように、解決と助言を合わせると、90%を越え、警察の相談活動が実際に困りごとの解決に寄与している状況がうかがえる。

5 地域社会との対話

(1) 巡回連絡
 巡回連絡は、派出所や駐在所の勤務員が受持区域内の家庭、事業所等を訪問して、地域住民に犯罪予防や事故防止について必要な連絡指導を行なうとともに、住民の警察に対する要望意見を聞くなど、管内の実態を掌握することを目的として行なっている活動である。
 警察は、この巡回連絡によって得られた住民の要望や管内実態の資料を、国民生活の安全と平穏を守るための警察の日常活動に生かすようにしている。
 例えば、管内の住民の居住状況については案内簿に整理し、地理案内、住民の不慮の事故の場合の連絡等に活用している。
 なお、巡回連絡の効果をいっそう高めるために、実施回数の増加、従事警察官に対する対話要領の指導教養、住民に対する巡回連絡の趣旨の広報等に努めている。またこのほか、巡回連絡用名刺、犯罪や交通事故等の写真を集めた巡回連絡用写真帳、チラシ、パンフレットの活用等にも意を用いている。
(2) 要望のは握
 地域住民の要望をよく聞き、それに沿った警察行政を行なうため、個々の警察官の日常活動によるもののほか、次のような組織的活動を推進している。

表2-23 警察に対する住民の要望意見(昭和47年)

ア 要望調査・アンケート
 一般に広く国民の警察に対する要望意見を聞くため、各種の要望調査やアンケートなどを実施し、それを警察施策に反映させている。ちなみに、昭和47年末に総理府がまとめた「警察に関する世論調査」及び同時期に神奈川県警察がまとめた住民の要望調査の結果は、表2-23のとおりである。
イ 新聞等の投書から
 新聞や雑誌に掲載される国民の警察に対する要望、苦情、意見等の投書又は警察本部や警察署への個別の投書、相談、陳情等については謙虚に耳をかたむけ、各種施策に反映させるとともに、投書者等に対しても適切に回答するようにしている。
 昭和47年中の警察に関する新聞投書をみると、表2-24のとおり1,349件あり、なかでも交通事故防止関係が391件(29%)、警察官の言語、態度等に関するものが224件(17%)などとなっている。

表2-24 警察関係の新聞投書内容(昭和47年)

ウ 座談会等の開催と出席
 地域住民の生の声を聞くため、警察署を単位として、各種の座談会を開催し、又は地域の自治会等の会合に積極的に出席して、住民の要望をは握する

表2-25 警察と地域住民との座談会実施状況(千葉県警察調べ)(昭和47年10~12月)

ように努めている。
 ちなみに、千葉県警察の例をみると表2-25のとおりである。
エ モニター等の委嘱
 警察においては、防犯連絡所、警察官立寄所、交通モニターなどを委嘱して、地域住民の要望のは握に努めているが、その設置数及び要望意見数をみ

表2-26 警察に対する要望意見のは握方法(昭和47年)

ると、表2-26のとおりである。
(3) 警察音楽隊
 警察音楽隊は、音楽を通じて、住民と警察との間を結びつけ、警察をよりよく理解してもらうための「かけ橋」としての役割を果たしている。
 昭和47年中に、警察音楽隊は、各種公式行事における演奏や福祉施設等における慰問演奏など、合計4,200回、約700万人を前に演奏している。
 また、毎年1回、これら音楽隊を一堂に集めて、「全国警察音楽隊演奏会」を開催し、600人を越える大ブラスバンドの演奏及びドリルで、国民の耳を楽しませている。昭和47年は、名古屋市で第17回大会が開催され、好評を博した。
(4) 柔・剣道場の開放
 近年、青少年をはじめ、一般市民の間に柔・剣道の愛好者が増加しているので、警察では、可能な限りこれらの愛好者に道場を開放している。練習の回数や時間は警察署によってまちまちであるが、いずれも小・中学生の参加者の多いことが特徴的である。

表2-27 警察署の道場の開放状況(昭和47年)

 これは、青少年の余暇の善用と心身の健全な育成、警察と地域社会の連帯関係の醸成等に大きく寄与しているものと考えられる。
 なお、昭和47年中における警察署の道場の開放状況は、表2-27のとおりである。

6 展望と課題

 社会の複雑化に伴い、地域連帯感が薄れ、利害関係の対立が激しくなるにつれて、従来、家庭、近隣、地域等の内部における話し合いや慣習で処理されていたことが、次第にこのような範囲では解決しきれなくなり、その結果、国民から警察に対して寄せられる訴え、苦情、要望等がますます増大することが予想される。困り事相談や110番への通報件数の増加は、その一つの現われといえよう。また、人や物の動きが激しくなるに従い、日常における地理案内や遺失物の取扱いもますます増加しよう。
 警察としては、これら日常の国民から寄せられる各種の問題について、その適切な処理を図るため、奉仕・保護活動をより積極的に行ない、国民の期特と信頼に十分にこたえていく必要がある。特に、防犯活動の活発化、急訴から現場到着までのいわゆるリスポンス・タイムの短縮、困り事相談体制の強化、家出人の早期発見と保護の徹底等に今後一層努めるべきである。
 更に、子供や老人の安全を図るために、巡回連絡、警ら等の日常活動を通じて、危険な環境の早期は握や必要な助言・連絡の実施を行なうなど、一層きめの細かい配慮を進めることが必要である。
 また近時、警察に対する国民の正しい理解とそれに基づく信頼を得ることが重要な課題となっている。そのため、警察としては、平素から国民の要望を先取りし、それを日常活動に反映させることができるよう、地域社会との対話を深め、警察活動の実態等についてタイミングのよい広報を展開するなどの方策を推進することが必要である。


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