第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

3 新たな刑事司法制度に対応した警察捜査

令和元年6月1日に刑事訴訟法等の一部を改正する法律が全面施行された。これにより、取調べの録音・録画制度や合理化・効率化された通信傍受が導入された。警察では、これらの新たな制度へ対応するための取組等を推進している。

(1)取調べの録音・録画に係る取組

① 取調べの録音・録画制度の運用

令和元年6月1日から開始された取調べの録音・録画制度は、逮捕又は勾留されている被疑者を裁判員裁判対象事件等について取り調べる場合に、原則として、その全過程を録音・録画することを義務付けるものである。警察では、これまでの試行により蓄積された経験をいかし、同制度の下での適正かつ効果的な取調べを推進している。

② 取調べの録音・録画の試行

これまで警察では、平成21年4月に全ての都道府県警察において、裁判員裁判対象事件について、取調べの録音・録画の試行を開始し、その後、その対象を知的障害、発達障害、精神障害等の障害を有する被疑者に係る事件にまで拡大するなど、同試行を積極的に実施してきた。

また、平成28年10月からは、取調べの録音・録画制度に適切に対応できるよう、同制度の施行を見据えた新たな指針を策定して試行を拡充するなど、必要な準備を進めてきた。

③ 取調べの録音・録画の試行の実施状況

警察では、裁判員裁判対象事件に係る取調べの録音・録画制度の施行に向けて、原則全過程の録音・録画の実施の徹底に努めてきた。取調べの録音・録画の試行の実施状況については、図表2-74及び図表2-75のとおりである。

 
図表2-74 裁判員裁判対象事件に係る取調べの録音・録画の試行の実施件数の推移(平成21~30年度)
図表2-74 裁判員裁判対象事件に係る取調べの録音・録画の試行の実施件数の推移(平成21~30年度)
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図表2-75 裁判員裁判対象事件に係る取調べの録音・録画実施事件1件当たりの平均実施時間の推移(平成21~30年度)
図表2-75 裁判員裁判対象事件に係る取調べの録音・録画実施事件1件当たりの平均実施時間の推移(平成21~30年度)
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(2)通信傍受の合理化・効率化

刑事訴訟法等の一部を改正する法律により、通信傍受法(注1)も改正され、平成28年12月から、特殊詐欺や組織窃盗、暴力団等の犯罪組織による殺傷事件等の一般国民に重大な脅威を与えている組織犯罪についても通信傍受が活用できることとなっている(注2)

また、従来は、通信傍受を行う際、通信事業者職員等による立会いが義務付けられていたことに加え、通信事業者の施設において傍受を行うこととされていたため、多数の捜査員を相当期間派遣する必要があるなど、通信事業者、捜査機関双方に大きな負担が生じていたところ、令和元年6月1日からは、通信内容の暗号化等の技術的措置を講じることで通信傍受の適正性を担保しつつ、通信事業者による立会い・封印を不要とし、また、警察の施設での通信傍受を可能とする手続を新たに導入するなど、手続の合理化・効率化が図られている。

通信傍受は、他の捜査手法のみでは困難な組織的犯罪の全容解明や真に摘発すべき犯罪組織中枢の検挙に有用な捜査手法となり得ることから、警察では、引き続き通信傍受法の定める厳格な要件・手続に従いつつ、通信傍受の有効かつ適正な実施に努めていくこととしている。

注1:犯罪捜査のための通信傍受に関する法律

注2:新たに対象犯罪に追加されたのは、殺人、傷害、逮捕・監禁、略取誘拐、人身売買、窃盗、強盗、詐欺、恐喝、爆発物の使用、児童ポルノ等の不特定多数者への提供等。また、追加された犯罪で通信傍受を実施するためには、従来の実施要件に加え、一定の組織性(当該犯罪があらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われたと疑うに足りる状況があること)を有することを要する。

 
図表2-76 通信傍受法改正後における通信傍受の概要
図表2-76 通信傍受法改正後における通信傍受の概要

(3)その他

上記のほか、刑事訴訟法等の一部を改正する法律により、証拠の一覧表の交付手続の導入等を内容とする証拠開示制度の拡充、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度、被疑者国選弁護制度の対象事件の拡大等を内容とする弁護人による援助の充実、ビデオリンク方式による証人尋問の拡充等を内容とする犯罪被害者等及び証人を保護するための措置等の新たな制度が導入されている。



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