第5章 安全かつ快適な交通の確保

2 高齢運転者の交通事故防止対策の推進

(1)高齢運転者に対する教育等

更新期間が満了する日における年齢が70歳以上の者は、運転免許証を更新する際、高齢者講習の受講が義務付けられている。また、更新期間が満了する日における年齢が75歳以上の者は、満了する日より前の6月以内に、認知機能検査を受けることが義務付けられており、同検査の結果に応じた高齢者講習を受講することとされている。

また、平成29年3月からは、一定の違反行為(注)をした75歳以上の運転者に対して臨時認知機能検査を行い、その結果が直近の認知機能検査の結果と比較して悪化した者等については、臨時高齢者講習を実施している。さらに、運転免許証の更新時の認知機能検査又は臨時認知機能検査の結果、認知症のおそれがあると判定された者については、その者の違反状況にかかわらず、医師の診断を要することとしている。

注:信号無視、通行区分違反、一時不停止等の認知機能が低下した場合に行われやすい違反行為

 
図表5-32 更新時の認知機能検査及び臨時認知機能検査の実施状況(平成29年)
図表5-32 更新時の認知機能検査及び臨時認知機能検査の実施状況(平成29年)
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図表5-33 高齢者講習及び臨時高齢者講習の実施状況(平成29年)
図表5-33 高齢者講習及び臨時高齢者講習の実施状況(平成29年)
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(2)運転免許証の自主返納(申請による運転免許の取消し)

身体機能の低下等を理由に自動車の運転をやめる際には、運転免許の取消しを申請して運転免許証を返納することができるが、その場合には、返納後5年以内に申請すれば、運転経歴証明書の交付を受けることができる。この運転経歴証明書は、金融機関の窓口等で犯罪収益移転防止法の本人確認書類として使用することができる。

警察では、申請による運転免許の取消し及び運転経歴証明書制度の周知を図るとともに、運転免許証を返納した者への支援について、地方公共団体をはじめとする関係機関・団体等に働き掛けるなど、自動車の運転に不安を有する高齢者等が運転免許証を返納しやすい環境の整備に向けた取組を進めている(注)

注:一般社団法人全日本指定自動車教習所協会連合会のウェブサイト(http://www.zensiren.or.jp/kourei/)において、運転免許証を自主返納した者等を対象とした各種支援施策について紹介している都道府県警察等のウェブページを集約し、高齢者等への情報提供に取り組んでいる。

 
図表5-34 申請による運転免許の取消し件数及び運転経歴証明書の交付件数の推移(平成25~29年)
図表5-34 申請による運転免許の取消し件数及び運転経歴証明書の交付件数の推移(平成25~29年)
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運転経歴証明書の様式
運転経歴証明書の様式
 
運転免許証の自主返納に関する広報ポスター
運転免許証の自主返納に関する広報ポスター

CASE

山形県警察では、平成28年3月から、警察署及び運転免許試験場に加え、県内の全ての交番・駐在所において、運転免許証の自主返納や運転経歴証明書の交付の申請を受け付けているほか、運転経歴証明書の交付については、交番・駐在所だけでなく、地域警察官が巡回連絡の際に申請者の自宅でも行うことができるようにするなど、高齢者等の利便性の向上を図っている。

(3)高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議

高齢運転者による交通死亡事故の発生状況等を踏まえ、高齢運転者の交通事故防止対策に政府一丸となって取り組むため、平成28年11月に、「高齢運転者による交通事故防止対策に関する関係閣僚会議」が開催されたほか、同月、中央交通安全対策会議交通対策本部の下に、関係省庁の局長等から構成される「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチーム」が設置された。

警察庁では、29年1月から、「高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議」を開催し、高齢運転者に係る詳細な事故分析を行い、専門家の意見を踏まえ、高齢者の特性が関係する事故を防止するために必要な方策を幅広く検討した。同会議では、改正道路交通法の確実な施行に関する取組を引き続き推進すべきとされた一方、高齢者の運転リスクとして、認知症や視野障害のほか、反射神経の鈍化や筋力の衰え等の加齢に伴う身体機能の低下について指摘がなされ、運転免許証の自主返納、先進安全技術の普及啓発等に向けた取組を推進すべきとされるなど、多角的かつ幅広い議論が行われ、同年6月には「高齢運転者交通事故防止対策に関する提言」が取りまとめられた。

警察では、同提言も踏まえ、運転適性相談の充実・強化、高齢者講習の適切な実施、自動車教習所を活用した交通安全教育等の高齢運転者による安全運転の継続を可能とするための支援を行うとともに、運転免許証の自主返納後における移動手段の確保等の高齢運転者の特性等に応じたきめ細かな対策を推進している。また、同会議の下に、同提言において調査研究を実施すべきとされた認知症、視野障害及びその他の加齢に伴う身体機能の低下という高齢者の運転リスクにそれぞれ対応する3つの分科会(注)を開催し、調査研究を進めている。

注:「認知機能と安全運転の関係に関する調査研究」分科会、「視野と安全運転の関係に関する調査研究」分科会及び「高齢者の特性等に応じたきめ細かな対策の強化に向けた運転免許制度の在り方等に関する調査研究」分科会

MEMO 安全運転サポート車(サポカー(注1)・サポカーS(注2)) の普及啓発

衝突被害軽減ブレーキやペダル踏み間違い時加速抑制装置等の先進安全技術を搭載した安全運転サポート車の普及啓発については、高齢運転者による交通事故防止対策の一環として、官民一体となって取り組む必要がある。警察では、自動車メーカー等と連携しつつ、運転免許センター等の警察施設や指定自動車教習所等において、安全運転サポート車の試乗会等、同車の普及啓発に関する各種イベントを実施している。

また、先進安全技術は、条件によっては適切に作動しない場合があることなど、その機能の限界や使用上の注意点を正しく理解し、機能を過信せずに責任を持って安全運転を行わなければならない旨の周知を図っている。

注1:衝突被害軽減ブレーキを搭載した自動車

注2:衝突被害軽減ブレーキに加え、ペダル踏み間違い時加速抑制装置等を搭載した自動車

 
サポカー・サポカーSに関する広報ポスター
サポカー・サポカーSに関する広報ポスター


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