特集 国際テロ対策

2 テロ資金対策

(1)これまでのテロ資金対策

① 国際社会の取組

テロ対策の要諦はその未然防止にあり、そのためには、テロリストの活動に不可欠な資金を絶つことが極めて重要である。また、テロリストの活動は国境を越えて行われるものであり、仮に十分な対策が執られない国があれば、当該国がテロ資金対策の「抜け穴」として利用されるおそれがあるため、各国が連携してテロ資金対策を講ずることが不可欠である。

このような理念の下、国際連合では、平成11年に、テロ行為に使用されることを意図して資金を提供する行為等の犯罪化等を義務付ける「テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約」が採択された。また、同年、国際テロリストの資産の凍結等を各国に求める国際連合安全保障理事会決議が採択されて以降、逐次テロ資金対策に係る決議が採択されてきた。さらに、マネー・ローンダリング(注1)及びテロ資金対策に関する国際協力を推進するために設置されている政府間会合であるFATF(注2)は、テロ資金対策等に関する勧告の遵守を各国に求めている。

注1:犯罪によって得た収益を、その出所や真の所有者が分からないようにして、捜査機関による収益の発見や検挙を逃れようとする行為
注2:Financial Action Task Force(金融活動作業部会)の略

コラム FATFとは

FATFは、平成元年のアルシュ・サミットにおいて、薬物犯罪に関するマネー・ローンダリング対策における国際協力の強化のため、先進主要国を中心として設置された政府間会合である。28年5月末現在、我が国を含む35の国・地域及び2国際機関が参加している。FATFは、テロ資金対策等として、各国が講ずるべき措置を、「FATF勧告」として示すとともに、加盟国における勧告の遵守を徹底するため、順次、各加盟国に審査団を派遣して相互審査を実施している。

 
FATF全体会合
FATF全体会合
② 我が国におけるテロ資金対策

大規模なテロの敢行やテロ組織の維持・運営には、そのための資金が必要不可欠であることから、テロ行為を未然に防止するためには、テロリストがテロを実行するために資金その他の財産の提供を受け、又は財産を使用することを防ぐための取組が重要である。我が国では、テロ資金提供処罰法(注1)に基づき、テロリストに対するテロ資金の提供等を規制している。また、犯罪収益移転防止法(注2)に基づき、顧客等の本人特定事項等の取引時確認、疑わしい取引の届出等を特定事業者に対し求めている。さらに、外為法(注3)及び国際テロリスト財産凍結法(注4)に基づき、国際テロリストに係る取引を規制し、その財産の凍結等の措置を講じている。 

注1:公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律
注2:犯罪による収益の移転防止に関する法律
注3:外国為替及び外国貿易法
注4:国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法

(2)国際テロリスト財産凍結法

① 国際テロリスト財産凍結法の制定

平成13年10月、FATFでは、米国における同時多発テロ事件を受け、国際テロリストの資産の凍結・没収やテロ資金供与及び関連する資金洗浄の犯罪化を求める「テロ資金供与に関するFATF特別勧告」(注)を策定した。我が国においても、こうした国際社会の取組に対応するため、外為法に基づき国際テロリストに係る対外取引を規制してきたところであるが、国際テロリストに係る国内取引については規制されていなかったため、FATFからも早急に必要な法制上の措置を講ずることが求められていた。

このような状況を踏まえ、26年11月、国際テロリストに係る国内取引を規制するための国際テロリスト財産凍結法が成立し、27年10月に施行された。

注:当初「8の特別勧告」であったが、16年に「9の特別勧告」に改訂された。さらに、24年には、マネー・ローンダリング対策に関する「40の勧告」と一本化され、新「40の勧告」に改訂された。
② 国際テロリスト財産凍結法の概要

国際テロリスト財産凍結法は、国際連合安全保障理事会決議第1267号等が国際テロリストの財産の凍結等の措置を求めていることを踏まえ、我が国において実施すべき措置について必要な事項を定めるものである。

 
図表特-13 国際テロリスト財産凍結法の概要
図表特-13 国際テロリスト財産凍結法の概要
ア 規制の対象となる国際テロリスト

国際テロリスト財産凍結法では、国際連合安全保障理事会決議により設置された委員会が作成した名簿に記載されたタリバーン関係者や、ISIL及びAQ関係者等を、財産の凍結等の措置を執るべき国際テロリストとして公告することとしている。28年5月20日現在、同法に基づき、402個人98団体の国際テロリストが公告されている。

イ 公告された国際テロリストの財産の凍結等の措置

公告された国際テロリスト(以下「公告国際テロリスト」という。)は、金銭の贈与、貸付けを受けることなどの一定の行為をする場合には、都道府県公安委員会の許可を受けなければならないほか、都道府県公安委員会は、公告国際テロリストに対し、その者が所持している財産の一部の提出を命じ、これを仮領置することができる。

③ 関係機関や民間事業者との連携

テロ資金対策を徹底するためには、警察による取組に加え、民間事業者等と連携した官民一体のテロ資金対策が重要となる。そのため、警察では、国際テロリスト財産凍結法上の措置が適正かつ円滑に行われることを確保するため、民間事業者等に、国際テロリストに係る情報を提供するなど、必要な情報提供を行っている。



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