特集 国際テロ対策

5 サイバー空間における脅威

(1)サイバーテロの脅威

インターネットが国民生活や社会経済活動に不可欠な社会基盤として定着する中で、社会機能を麻痺させる電子的攻撃であるサイバーテロ(注)の脅威は、国の治安や安全保障に影響を及ぼすおそれのある問題となっている。また、テロの対象となる施設への侵入等、物理的なテロの実行を容易にする目的でサイバーテロが行われるおそれもある。例えば、攻撃対象の施設の電気設備を使用不能にするために、電力会社の制御システムを機能不全に陥らせて電力供給を停止させることを企図したサイバーテロが行われることが想定される。

注:重要インフラ(情報通信、金融、航空、鉄道、電力、ガス、政府・行政サービス(地方公共団体を含む)、医療、水道、物流、化学、クレジット、石油の各分野における社会基盤)の基幹システム(国民生活又は社会経済活動に不可欠な役務の安定的な供給、公共の安全の確保等に重要な役割を果たすシステム)に対する電子的攻撃又は重要インフラの基幹システムにおける重大な障害で電子的攻撃による可能性が高いもの
① サイバーテロの情勢

我が国では、社会的混乱が生じるようなサイバーテロは発生していないものの、海外では不正プログラムによって重要インフラ事業者等のシステムに機能不全を引き起こす事案が発生している。

事例

平成25年3月、韓国の複数の放送局及び金融機関において、不正プログラムが同時多発的に作動し、数万台に及ぶコンピュータが機能不全を起こした。その結果、ATMやインターネットバンキングのシステムが停止するなど、社会経済活動に大きな影響が生じた。

 
機能不全を起こした韓国金融機関のATM(ロイター/アフロ)
機能不全を起こした韓国金融機関のATM(ロイター/アフロ)

事例

27年12月、ウクライナにおいて大規模な停電が発生した。ウクライナ政府は、これがサイバー攻撃によるものであると明らかにした。同国の電力会社のうち一社が、システムへの不正な侵入を受け、30箇所の変電所との通信を切断されたことにより、8万の顧客が停電の影響を受けたと発表した。

② 国際テロリスト等によるサイバーテロ

27年4月、フランスの国際放送局において、ISILの賛同者とみられる「CyberCaliphate」と称する者によるサイバーテロが発生し、同局の放送が一時的に停止した。加えて、公式ウェブサイトや同局のSNSアカウントが一時的に乗っ取られ、フランスのISILに対する空爆を非難する声明文等が同ウェブサイトや同局のアカウントに掲載される被害が発生するなど、テロリストはインターネットを攻撃手段としても利用している状況にある。

 
放送不可能となったフランスの国際放送局(AP/アフロ)
放送不可能となったフランスの国際放送局(AP/アフロ)

(2)国際テロ組織等によるインターネットの利用

ISILやAQ関連組織等のイスラム過激派組織は、インターネットを活用して過激思想を広め、構成員を勧誘するなどしている。また、テロの計画や準備に関する相互連絡、爆発物の製造方法等のテロの実行に資する情報の配信、支持者からの活動資金の調達のように、テロの実行に向けた様々な準備のためにインターネットを利用しているとみられる。さらに、イスラム過激派組織等は、英語、フランス語等、様々な言語を用いて過激思想等を広めている。

例えば、ISILは、英語版オンライン機関誌「ダービク」の配信を始め、英語、フランス語等の複数の言語でインターネットにおけるプロパガンダを展開している。また、インターネットを通じて、世界のイスラム教徒に向けて米国を中心とした「対ISIL有志連合」に参加する欧米諸国等の市民を殺害するよう呼び掛けており、これに呼応した可能性のあるテロ事件も発生している。さらに、ISILは、イラク軍兵士や異教徒、米国人や英国人の人質等を虐殺し、その映像をインターネット上で公開するなどしており、平成27年1月及び2月に発生したシリアにおける邦人殺害テロ事件においても、ISILが邦人を殺害したとみられる動画がインターネット上に掲載された。

また、「アラビア半島のアル・カーイダ」(AQAP)が配信している英語版オンライン機関誌「インスパイア」では、爆弾の製造方法やテロの標的とすべき人物のリスト等が掲載されている。

 
ISILがインターネット上に配信した英語版オンライン機関誌「ダービク」
ISILがインターネット上に配信した英語版オンライン機関誌「ダービク」
 
AQAPがインターネット上に公開した「インスパイア」
AQAPがインターネット上に公開した「インスパイア」


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