特集:変容する捜査環境と警察の取組 

3 急速に進む世代交代

警察官が大量退職し、平成15年からの10年間で地方警察官(注1)の4割以上が入れ替わるなど、急速に世代交代が進んでいる(注2)。これは、刑事部門においても例外ではなく、多くの捜査員が退職する一方、若い捜査員が多数任用されている。

このような中、地域の治安に責任を持つ警察署においては、捜査経験が豊富な捜査員が少なくなってきており、犯罪の捜査に必要不可欠な捜査技能の伝承が課題となっている。

注1:都道府県警察の警視正以上の階級の警察官である地方警務官を除く、都道府県警察の警察官

注2:192頁参照

(1)急速に進む世代交代

警察署の刑事部門においては、多くの捜査員が退職する一方、若い捜査員が多数任用されており、若年化が進むとともに、捜査経験が豊富な捜査員が少なくなっている。

① 年齢構成の推移

警察署の捜査員の年齢構成をみると、30歳未満の捜査員の割合は上昇傾向にあり、平成5年には9.4%であったが、25年は21.0%と2倍以上に上昇した。一方、40歳以上の捜査員の割合は低下傾向にあり、5年には51.7%と全体の半数以上を占めていたが、25年には36.3%と全体の約3分の1となった。このように、過去20年間で、相当程度の若年化が進んでいる。

 
図表-42 警察署の捜査員の年齢構成の推移(平成5~25年)
図表-42 警察署の捜査員の年齢構成の推移(平成5~25年)
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② 経験年数の推移

警察署の捜査員の捜査経験年数をみると、捜査経験年数が3年未満の捜査員の割合は上昇傾向にあり、5年には20.1%であったが、25年には32.3%と1.5倍以上となった。一方、捜査経験年数が10年以上の捜査員の割合は低下傾向にあり、5年には49.4%と全体の約半数を占めていたが、25年には31.3%と全体の3分の1以下となった。このように、過去20年間で、捜査経験が豊富な捜査員の割合が相当程度低下している。

 
図表-43 警察署の捜査員の捜査経験年数の推移(平成5~25年)
図表-43 警察署の捜査員の捜査経験年数の推移(平成5~25年)
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(2)捜査技能の伝承に関する課題

警察署において、捜査経験が豊富な捜査員が少なくなっていることを背景に、捜査技能の伝承について、従来の方法によらない新たな方法を活用する必要性が生じている。

① 捜査技能の習得方法

捜査に当たっては、捜査手法、適用法令等に関する知識だけでなく、事件の端緒情報の収集、取調べ等を的確に行う捜査技能が必要となる。捜査を進める上では、刻々と変化する状況に応じ、臨機応変に判断することが求められるため、こうした技能の習得には、実践的な訓練が必要となる。

従来、捜査技能については、先輩や上司のやり方を見習わせ、実際に何度も経験させてみるなど、捜査経験が豊富な捜査員と共同して捜査に当たるオンザジョブトレーニング(以下「OJT」という。)により伝承されてきた。

② 捜査技能の伝承

捜査経験が豊富な捜査員が少なくなっている中、取調べ等の捜査技能をいかにして若手捜査員に伝承していくかが課題となっている。

特に警察署において、世代交代が急速に進み、捜査経験が豊富な捜査員が少なくなっている一方、多くの若手捜査員が任用されていることから、一人一人の若手捜査員に対して実務を通じて捜査技能について指導する期間が短くなっている。このため、指導に当たる捜査員には、短期間で捜査技能を習得させられるよう、より効率的で合理的な指導を行うことが求められている。

また、若手捜査員は、短期間で捜査技能を習得することはもちろん、捜査経験年数が短くとも、新たに任用された捜査員の指導に当たることが求められている。

このように、OJTによる方法のみでは捜査技能の伝承が困難となる中、体系的に捜査技能が伝承されるよう、組織的な取組を進める必要がある。

コラム② 第一線における捜査技能の伝承

警視庁町田警察署刑事課強行犯係 村上 高志(むらかみ たかし) 巡査部長

 
警視庁町田警察署刑事課強行犯係 村上高志 巡査部長

私は現在、警視庁町田警察署刑事課の強行犯捜査係で、性犯罪や強盗事件の捜査を担当しています。

私が捜査の基本を叩き込まれたのは、前任の警察署に設置された特別捜査本部で捜査第一課の上司と組んで捜査に従事していたときでした。捜査活動を通じての経験と上司からの継続した指導のおかげで、仕事の段取りから取調べ等の捜査技能に至る捜査の基本を身に付けることができたと思っています。例えば、取調べ技能については、上司の取調べを実際に見聞きすることによって、被疑者との信頼関係の形成や、質問を切り出すタイミング等を見習い、また、上司から受けた指導を踏まえながら取調べを経験することによって身に付けてきました。

昇任して町田警察署の刑事課に配属され、巡査部長として先頭に立って捜査に当たることとなりました。刑事課では次々と新任捜査員が任用されており、私も部下の指導を任されることになりました。しかし、刑事課での勤務は、次々に発生する事件の捜査、被害相談への対応、証拠品の管理業務に追われ、多忙を極めます。このような中で、実際の捜査を通して部下を丁寧に指導する時間を確保することは難しいと実感しています。また、刑事に任用されたばかりの部下に対する捜査技能の伝え方に苦心しており、捜査活動以外での訓練の機会や、様々な捜査技能を整理し分かりやすく説明した教材があれば、活用したいと考えています。

上司から学んだ捜査技能を可能な限り部下に伝えていき、共に成長していきたいと思います。

 
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 第2節 警察捜査を取り巻く環境の変容

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