第3章 組織犯罪対策

3 暴力団対策法の運用

指定暴力団員がその所属する暴力団の威力を示して暴力的要求行為等を行った場合等には、暴力団対策法に基づき、都道府県公安委員会は中止命令等を発出することができる。

都道府県公安委員会が最近5年間に発出した中止命令等の発出件数の推移は表3-5のとおりである。

事例①

山口組傘下組織構成員(27)は、飲食店経営者に対し、「お前らの問題で俺は迷惑しているんだ。お前は俺に嘘を言った。どうやってけじめをつけるんだ。いくら出せるんだ」などと告げて、自己が所属する暴力団の威力を示して、詫び料名目でみだりに金品等の贈与を要求した。平成24年1月、県公安委員会は、同構成員に対し、その要求を継続してはならない旨を命じた(静岡)。

事例②

山口組傘下組織幹部(68)は、債権者から債権取立ての依頼を受けて報酬を受ける約束をし、債務者に対し、「貸した金をいつ返すんや。この俺が取り立てるからお金を出しいな」などと告げて、自己が所属する暴力団の威力を示して債務の履行を要求したため、府公安委員会は同幹部に中止命令を発出していたが、同幹部は他の債務者に対しても同様の要求を行った。24年4月、府公安委員会は、同幹部に対し、1年間、更に反復してこれと類似の暴力的要求行為をしてはならない旨を命じた(大阪)。

 
表3-5 暴力団対策法に基づく中止命令等の発出件数の推移(平成20~24年)
表3-5 暴力団対策法に基づく中止命令等の発出件数の推移(平成20~24年)
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コラム② 施行20年を迎えた暴力団対策法

暴力団対策法は、平成24年3月、施行から20年を迎えた。暴力団対策法は、民事介入暴力を始めとする暴力団の資金獲得活動や対立抗争事件その他暴力団員の不当な行為への効果的な対策が強く求められた社会情勢を背景に、3年に制定され、4年3月から施行された。

暴力団対策法は、一定の要件に該当する暴力団を指定し、この指定された暴力団(指定暴力団)の暴力団員(指定暴力団員)の一定の行為を規制の対象とし、指定暴力団員が指定暴力団の威力を示して行う不当な金品等の要求行為(暴力的要求行為)を規制するほか、対立抗争事件に伴う暴力団事務所の使用の制限、少年に対する加入強要の禁止等も規定しており、暴力団の活動を多面的に抑止することが可能となっている。また、都道府県ごとに暴力追放運動推進センター(以下「暴追センター」という。)を指定し、暴力団員の活動による被害の予防等に資するための民間公益活動の促進を図ることも内容としており、我が国における暴力団排除活動を活発化させる原動力となった。

その後、暴力団情勢の変化やその施行状況等を踏まえ、5年、9年、16年、20年及び24年の5回にわたって改正されてきた。24年の改正は、市民に対する危害を防止するための規制の強化(注1)、適格暴追センター(注2)による暴力団事務所使用差止請求を可能にする制度の導入、指定暴力団員の不当要求に対する規制の強化等を内容とするものであり、25年1月までに全面施行された。

24年末現在、指定暴力団は21団体となっており、全暴力団員の約96.5パーセントが暴力団対策法の規制の対象となっている。また、24年末までに、同法に基づき約4万件の行政命令(注3)が発出されている。

注1:61頁参照
注2:国家公安委員会の認定を受けた暴追センター。122頁参照
注3:24年中には、中止命令は1,823件、再発防止命令は81件、事務所使用制限命令は17件、賞揚等禁止命令は12件、請求妨害防止命令は2件発出されている。
 
図3-4 暴力団対策法の概要
図3-4 暴力団対策法の概要


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