第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

第2節 犯罪の検挙と抑止のための基盤整備

1 捜査力の強化

(1)捜査手法、取調べの高度化への取組

警察庁では、「捜査手法、取調べの高度化を図るための研究会」(注)の提言を受け、平成24年3月、「捜査手法、取調べの高度化プログラム」を策定し、次の施策を推進している。

注:国家公安委員会委員長が主催し、有識者から構成された研究会。平成22年2月、治安水準を落とすことなく取調べの可視化を実現するため幅広い観点から検討することを目的として発足し、24年2月に最終報告を公表した。
① 取調べの録音・録画の試行の拡充

警察では、裁判員裁判における自白の任意性の効果的・効率的な立証に資する方策について検討するため、20年9月から警視庁等において取調べの録音・録画の試行を開始し、21年4月からは全ての都道府県警察で試行を実施していたが、24年4月からは、裁判員裁判対象事件について、自白事件に限らず必要に応じて否認事件等にも試行を拡大するとともに、様々な場面を対象に試行を実施している。また、同年5月からは、知的障害を有する被疑者に係る事件についても試行を開始している(注)

注:裁判員裁判対象事件については、20年9月から25年3月までの間に4,546件、知的障害を有する被疑者に係る事件については、24年5月から25年3月までの間に872件の試行を実施した。
② 取調べの高度化・適正化等の推進

警察庁では、取調べにおいて真実の供述を適正かつ効果的に得るための技術の在り方やその伝承方法について、時代に対応した改善を図るため、24年12月に心理学的知見を取り入れた教本「取調べ(基礎編)」を作成したほか、25年5月には「取調べ技術総合研究・研修センター」を新設するなどして、取調べの高度化・適正化等を推進している。

③ 捜査手法の高度化の推進

警察庁では、取調べ及び供述調書への過度の依存から脱却するとともに、科学技術の発達等に伴う犯罪の高度化・複雑化等に的確に対応し、客観証拠による的確な立証を図ることを可能とするため、DNA型データベースを拡充するための取組や、通信傍受の拡大、仮装身分捜査の導入を始めとする捜査手法の高度化に向けた検討を推進している。

コラム④ 「取調べ技術総合研究・研修センター」の新設

平成25年5月、警察大学校に「取調べ技術総合研究・研修センター」を設置し、諸外国の例を参考に、心理学的知見に基づく取調べ技術の体系化及びその習得のための研修方法に関する調査研究、並びに各都道府県警察の取調べ指導担当者を対象とした実践的な研修を実施している。

(2)初動捜査体制の整備、鑑識活動の強化等

事件発生時には、迅速・的確な初動捜査を行い、犯人を現場やその周辺で逮捕し、又は現場の証拠物や目撃者の証言等を確保することが重要である。

警察では、機動力をいかした捜査活動を行うため、各都道府県警察本部に機動捜査隊を設置し、事件発生時に現場や関係箇所に急行して犯人確保等を行っているほか、機動鑑識隊(班)や現場科学検査班等を編成し、現場鑑識活動を強化するとともに、関連技術の研究開発や資機材の開発・整備を推進している。

 
図2-25 初動捜査体制の整備、鑑識活動の強化等
図2-25 初動捜査体制の整備、鑑識活動の強化等

コラム⑤ 防犯カメラを駆使した捜査による被疑者の検挙

近年、防犯カメラの普及に伴い、犯罪捜査において、防犯カメラの画像が、犯行状況や犯人像の確認、事件関係者の足取りの確認、画像を公開しての追跡捜査等様々な場面で活用されている。

最近では、浦安市北栄における女性殺人事件(平成24年4月)、地下鉄副都心線渋谷駅構内における殺人未遂事件(同年5月)、六本木五丁目雑居ビル飲食店内における傷害致死事件(同年9月)、板橋区赤塚における女性強盗殺人事件(同年11月)等の重要事件が防犯カメラ画像の活用によって被疑者の検挙に至ったほか、オウム真理教関係警察庁指定特別手配被疑者の追跡捜査においても威力を発揮した。

(3)国民からの情報提供の促進

警察では、犯罪捜査に不可欠な国民の理解と協力を得るため、国民に対し、都道府県警察のウェブサイトを活用して情報提供を呼び掛けるほか、様々な媒体を活用して、聞き込み捜査に対する協力、事件に関する情報の提供等を広く呼び掛けている。また、必要に応じ、被疑者の発見・検挙や犯罪の再発防止のため、被疑者の氏名等を広く一般に公表して捜査を行う公開捜査を行っている。

さらに、警察庁では、平成19年度から、国民からの情報提供を促進し、重要犯罪等の検挙を図ることを目的として、公的懸賞金制度である捜査特別報奨金制度を導入し、警察庁ウェブサイト(http://www.npa.go.jp/reward/index.html)等で対象となる事件等について広報している。

 
警察庁ウェブサイト
警察庁ウェブサイト

(4)犯罪死の見逃し防止への取組

平成24年中に警察が取り扱った死体数は約17万4,000体であり、過去10年間で約1.3倍に増加している。

警察においては、死体取扱数の増加に対応し、適正な検視業務を推進して犯罪死の見逃しを防止するため、検視官(注)及びその補助者の増員、検視業務に携わる警察官に対する教育訓練の充実、資機材の整備による検視体制の強化を推進している。

また、25年4月1日には、警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律が施行されたことから、警察では、同法に規定された調査、検査等の措置を的確に実施するなど、その適正な運用に努めている。

注:原則として、刑事部門における10年以上の捜査経験又は捜査幹部として4年以上の強行犯捜査等の経験を有する警視の階級にある警察官で、警察大学校における法医専門研究科を修了した者の中から任用される検視の専門家であり、全国で333人(平成25年4月1日現在)配置されている。
 
図2-26 死体取扱数・検視官臨場率の推移(平成15~24年)
図2-26 死体取扱数・検視官臨場率の推移(平成15~24年)
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