特集:大規模災害と警察?震災の教訓を踏まえた危機管理体制の再構築? 

警察活動の最前線 被災県警察の声


信頼に応えるために

岩手県宮古警察署地域課田老駐在所
木村 貴仁(きむら たかひと) 警部補
 
岩手県警察本部マスコットキャラクター 風ぴかぽ 雨ぴかぽ
風ぴかぽ 雨ぴかぽ

 「おめぇの制服姿を見ると安心するな」
 私が仮設住宅や一般住宅を巡回連絡したときに多くの方から頂く言葉です。
 私は、東日本大震災発生後の昨年6月から田老駐在所勤務となりました。田老地区は、高さ10メートル、総延長約2.5キロメートルのエックス型の大防潮堤に守られていたものの、大津波や火災により壊滅的な被害を受け、駐在所も建物ごと流失しました。
 赴任当時の引継ぎは、パトカー1台と簿冊3冊のみで、警察活動の拠点は役場の一室という状況であり、「やるべきことが山ほどあるぞ」と気を引き締めたことを覚えています。
 それから1年以上が経過し、私が実感していることは「警察官を信頼していただくことの重さ」です。住民は更なる災害や、被災地を狙った犯罪に不安を抱えており、その心情を話してくれます。その不安の解消は警察官の使命であり、私が巡回連絡やパトロールを実施し、住民の方と身近に接することにより、住民の方が「安心」を感じてもらえるのであれば、これほど嬉しいことはありません。
 現在、当署は全国警察から特別出向者の力強い応援を得て、住民の安全・安心を守るため昼夜を問わず活動しています。
 私もその一員として、全力を尽くす覚悟です。
 
岩手県宮古警察署地域課田老駐在所 木村貴仁(きむら たかひと)警部補

踏ん張る警察官の意地

宮城県河北警察署地域課神取駐在所
川村 頼宗(かわむら よりむね) 巡査部長
*名の「頼」は正しくは「?」。閲覧環境により正しく表示されないことがあるため、JIS第1水準の文字をあてています。
 
宮城県警察本部マスコットキャラクター みやぎくん
みやぎくん

 東日本大震災の発生当初、私の任務は、小学生が多数犠牲になった大川地区での御遺体収容と検視場所までの搬送でした。現場に到着すると、道路脇の舗道上にブルーシートが広げられており、その上に十数体の御遺体が横たわっていました。
 泣きすがる御家族から御遺体を引き離して検視場所まで搬送する任務はとても辛く、小学生の子供を持つ私も御遺族と同じ心境に陥り胸は張り裂けそうで、どうしようもなく涙が止まりませんでした。このような勤務が続き御遺体収容・搬送の任務から抜けたいと弱気になっていました。
 しかし、この被災現場で黙々と捜索する一人の若い警察官がいました。彼はこの被災現場で、奥さんと長男(2歳7か月)と長女(7か月)の3人が行方不明だったのです。彼は、黙々と、普通の人力では持ち上げられないようながれきを動かしていました。私は、彼が何も言わずに捜索活動を続けている姿を見て、自分がこの現場から逃げ出すことなどできなかったのです。彼の気持ち、そして御遺族の気持ちを考えると、任務に従事しながらも私の涙は止まりませんでした。
 被災地では、警察官自身も被災者であり、悲惨な状況から目を背けたくなるときもあります。それでも私たちは、それぞれの思いを口には出さず心に仕舞い込み、この捜索現場を警察官の意地で踏ん張っているのです。
 
宮城県河北警察署地域課神取駐在所 川村?宗(かわむら よりむね)巡査部長

身元確認システムの構築
福島県警察本部刑事部科学捜査研究所
吾妻 和博(あづま かずひろ) 科長
 
福島県警察本部マスコットキャラクター 福ぼうしくん福ぼうしさん
福ぼうしくん 福ぼうしさん

 私は普段、技術職員として犯罪者の足跡の鑑定等を行っていますが、震災発生直後は災害警備本部で検視等に従事する警察官の後方支援に当たりました。
 そこで収容した数多くの御遺体の情報を目にしたのですが、それらの情報は震災の混乱や、御遺体のあまりの多さのために遅々として整理が進まないばかりか、同じ御遺体の情報でも服装、歯形、DNA型等に細分化され、身元確認を効率良く行うのが難しい状況にありました。御遺体は時間が経過すればするほど傷んでしまいます。「一刻も早く御家族の元へ」私はその思いを強くしました。
 そこで、私は県内で発見された御遺体の身体特徴や服装等の情報、DNA型等を一元的に管理できるシステムを構築しました。その上で、御家族等からの情報も集約し、これらを照合することで御遺体の情報を多面的に確認できるようにしたのです。「どうすれば早く確実に身元を確認できるか」システムの運用が始まってからもあれこれ考え続け、半年以上改良を重ねたかいもあり、少しずつ身元確認が効率的になっただけでなく、その精度も格段に高くなりました。
 このシステムは、御遺体の検視活動や行方不明者の情報収集等に携わった全国警察の皆さんの御協力のたまものです。最後のお一人を御家族の元へお返しする日まで、私も全力を尽くしていきたいと思います。
 
福島県警察本部刑事課科学捜査研究所 吾妻和博(あづま かずひろ)科長

注:掲載されているキャラクターは、都道府県警察のマスコットキャラクターです。

 警察活動の最前線 被災県警察の声

前の項目に戻る     次の項目に進む