特集:大規模災害と警察~震災の教訓を踏まえた危機管理体制の再構築~ 

3 被災地における安全・安心の確保

(1)被災地における犯罪抑止対策

① 被災地の犯罪情勢

 被災3県における刑法犯の認知件数は全般的に減少したものの、沿岸地域において津波による甚大な被害が発生し、多くの住民が避難したために民家や店舗等への侵入が容易になったことから、発災当初、これらの民家や店舗等を狙った窃盗事件が多発した。
 また、福島第一原子力発電所の半径20キロメートル圏内の警戒区域や計画的避難区域等においては、避難者が家財等を自宅や店舗等に残したまま避難し、町全体が無人と化したため、空き巣や出店荒し等の窃盗事件が多発した。

② 地域警察特別派遣部隊による警戒・警ら活動

 被災地における犯罪の発生を抑止し、地域の安全・安心を確保するため、被災3県警察は、地域警察特別派遣部隊(1日当たり最大警察官449人、パトカー210台)とともに、警戒・警ら活動を推進した。
 
地域警察特別派遣部隊のパトロール
地域警察特別派遣部隊のパトロール

③ 閉鎖施設等に対する防犯対策の強化

 震災により閉鎖した金融機関、コンビニエンスストア等のATMや金庫から現金等を窃取する事件が発生したことから、警察庁から金融機関等に対して、管理強化や現金の早期回収を要請した。また、金融庁、関係金融機関等と「『被災地等における安全・安心の確保対策』にかかる連絡会議」を開催し、コンビニエンスストア等に設置されたATMの防犯対策の強化について申合せを行った。

④ 警備業者との連携

 全国警備業協会や各都道府県の警備業協会の呼び掛けに応じた全国の警備業者が、多数の警備員をボランティアとして動員し、警察との連携の下、被災地における防犯パトロール等の防犯活動を実施した。

⑤ 福島第一原子力発電所周辺における活動

 警戒区域の設定(平成23年4月22日)に伴い、関係者以外の者の立入禁止措置の実効性を確保するため、警察では、警戒区域外周の主要道路上において、24時間体制での検問を行っている。また、警戒区域内への一時立入り(同年5月10日~)に伴い、住民を乗せたバスの先導、立入区域周辺における警戒・警ら活動等、住民の一時立入りに対する支援活動を行っている。
 加えて、大半の住民が避難した福島第一原子力発電所の周辺地域では、空き巣や出店荒し等の侵入窃盗の認知件数が大幅に増加した。このような状況も踏まえ、福島県警察では、同年6月2日以降、特別警備隊を編成して重点パトロールを行うなど、警戒体制を強化している。
 
警戒区域外周における検問
警戒区域外周における検問

(2)震災に便乗した犯罪の取締り

① 初動捜査等

 被災3県警察は、特別機動捜査派遣部隊(1日当たり最大警察官92人、捜査用車両23台)とともに活動し、犯罪発生時の初動捜査等を的確に行い、犯罪の取締機能を回復、維持した。同部隊は、平成23年4月13日から被災3県警察に派遣され、24年6月4日までに、強盗、窃盗等、235件、278人を検挙した。
 
警戒区域内での活動状況
警戒区域内での活動状況

② 震災に便乗した悪質商法、詐欺等への対策

 震災や原子力発電所の事故に便乗した悪質商法、義援金等の名目の詐欺、被災者に対する生活資金や事業資金の融資保証名目の詐欺等が全国各地で発生している。24年6月4日までに、こうした震災に便乗した悪質商法等について16事件、詐欺について70件を検挙した。
 警察では、震災に便乗した悪質商法、詐欺等の発生を受け、関連情報の収集や消費生活センター等の関係機関・団体との情報共有を行った上で、取締りの徹底を図るとともに、被害の拡大を防ぐため、政府広報、ウェブサイト等を利用した広報啓発活動、口座凍結のための情報提供等を推進している。

事例①
 自営業の男(50)らは、23年3月、医薬品を販売する許可がないにもかかわらず、「体内に侵入した放射性物質を吸着し、尿と便に混ぜて排泄します」などと放射性物質の体外排泄効果をうたって医薬品を販売するなどした。同年4月、2人を薬事法違反(医薬品の無許可販売等)で逮捕した(警視庁)。

事例②
 自営業の男(53)は、23年3月、マスコミ関係者を装って高齢者宅等に電話をかけ、「今回の東北地方の地震大変ですよね。寄付金を集めています」などと告げて、被災者への義援金名目で現金をだまし取ろうとした。同月、同人を詐欺未遂罪で逮捕した(警視庁)。

③ 復旧・復興事業からの暴力団排除の取組

 復旧・復興事業への暴力団等の介入を阻止するため、暴力団等の動向の把握、取締りの徹底に加え、建設業、廃棄物処理事業等の各業界団体に、契約書等への暴力団排除条項の導入の徹底を要請するなど、関係機関・団体との連携を強化している。
 
暴力団排除対策推進会議の開催
暴力団排除対策推進会議の開催

事例③
 住吉会傘下組織幹部(62)は、23年5月、岩手県内の仮設住宅建築工事に関して、派遣禁止業務である建設業務につき労働者を派遣した。同年7月、同人を労働者派遣事業法違反(禁止業務についての労働者派遣事業)で逮捕した(岩手)。

コラム④ 被災地等における安全・安心の確保対策ワーキングチーム


 23年3月31日、関係省庁が緊密に連携し、被災地等における安全・安心の確保に係る総合的な対策を検討・推進するため、犯罪対策閣僚会議の下に「被災地等における安全・安心の確保対策ワーキングチーム」が設置され、同年4月6日、「被災地等における安全・安心の確保対策」が策定され、各種施策が推進されている。

(3)被災者への支援

① 避難所等の訪問を通じた相談対応の強化

 避難所等での生活が長期間にわたることから生じる様々な問題を解消し、被災者の安全・安心を確保するため、被災者からの相談への対応、防犯指導等を行う部隊(1日当たり最大115人)が派遣され、女性警察官等が避難所や仮設住宅を訪問して活動を行った。
 
避難所を訪問する女性警察官
避難所を訪問する女性警察官

② 被災した少年への支援

 被災地では、被災によって少年が大きな精神的打撃を受けているほか、保護者を亡くす、家庭の経済的基盤を失うなど、少年が置かれている環境が不安定化していることから、少年補導職員等の巡回による少年相談、継続的な支援等を積極的に行っている。
 
少年補導職員等の活動
少年補導職員等の活動

③ 津波により流出した金庫の取扱い

 被災3県警察の警察署では、津波により流出した約6,000個の金庫が拾得物として届けられたことから、遺失者を特定するため、業者に委託して金庫の開扉を順次進め、通帳、権利証等の在中物件を手掛かりに遺失者の特定やその所在を確認し、金庫内に在中していた現金の99.8%を所有者に返還した(平成24年5月10日現在)。
 
拾得された金庫
拾得された金庫

④ 運転免許手続に関する対応

ア 運転免許証の有効期間の延長等
 震災発生日以降に運転免許証の有効期間が満了する被災者については、有効期間を延長するなどの措置を講じた。

イ 運転免許証の再交付の推進
 本震災では、運転免許センター等も被災したが、運転免許証が自動車等の運転の際に必要であること、身分証明書として有用であることに鑑み、業務の復旧に努めた結果、23年4月3日までには全ての県において運転免許再交付業務を再開した。また、再交付申請の際に必要となる写真を警察で撮影するほか、住所地を離れて避難生活を送っている被災者に対しては、避難施設等の責任者等が作成する居住証明書による再交付申請を受け付けるなど、被災者の負担軽減に努めた。特に、岩手県警察及び宮城県警察においては、被害の大きかった沿岸部を中心に、再交付申請のための臨時窓口を、小中学校や市民会館等に設置した。
 
臨時窓口における申請者への説明
臨時窓口における申請者への説明

 第1節 東日本大震災における警察活動の検証

前の項目に戻る     次の項目に進む