第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

3 警察安全相談の充実強化

(1)警察安全相談受理体制

 警察では、国民から寄せられた相談に円滑に対応することができるよう、都道府県警察本部に警察総合相談室を、警察署に警察安全相談窓口をそれぞれ設置し、警察職員のほか経験豊富な元警察官等を非常勤の警察安全相談員として配置するなど、相談受理体制を整備している。
 また、都道府県警察本部に警察相談専用電話を開設し、全国統一番号の「#(シャープ)9110」番(注)に電話をかければ警察本部の警察総合相談室に自動的に接続されるようになっており、相談の利便を図っているほか、9月11日を「警察相談の日」と定め、「#9110」番や各都道府県警察に設置している各種相談窓口について広報し、利用を呼び掛けている。

注:携帯電話からも利用できる。なお、ダイヤル回線及び一部のIP電話では利用できないので、警察安全相談専用の一般加入電話番号を警察庁ウェブサイト等で広報している。
 
「#(シャープ)9110」番の広報活動
「#(シャープ)9110」番の広報活動
 
図2-49 相談取扱件数の推移(平成14年~23年)
図2-49 相談取扱件数の推移(平成14年~23年)
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図2-50 相談内容の内訳(平成23年)
図2-50 相談内容の内訳(平成23年)
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(2)相談内容に応じた適切な対応の推進

① 相談への組織的な対応

 寄せられた相談に対しては、相談内容に応じて、関係する部署が連携を図って対応し、刑罰法令に抵触する事案を検挙することはもとより、刑罰法令に抵触しない事案であっても必要に応じて相談者への防犯指導や相手方への指導警告を行うなどして犯罪等の被害の未然防止を図っている。

事例①
 高校教諭から「生徒が車に乗った男から胸を触られた」との相談を受理したことから、警戒活動を実施して同種事案の発生を防止するとともに、目撃された車両のナンバー等から所要の捜査を行い、平成23年12月、男(40)を暴行罪で逮捕した(茨城)。

事例②
 「隣の住民から10数年来、根も葉もない誹謗中傷を受けるなどトラブルとなっており、困っている」との相談を受理したことから、双方から事情聴取を行い、相手方に、根拠のない中傷は厳に慎むよう指導したところ、トラブルは収まり、その後も警察官が相談者方へ訪問するなどしたところ、相談者から「親身になって話を聞いてくれてありがとうございました」との礼状が寄せられた(石川)。

② 相談業務担当者に対する研修の実施

 多種多様な相談に適切に対応できる警察安全相談業務担当者を育成するため、警察庁では、都道府県警察本部の警察安全相談業務担当者に対して相談対応要領や相談者の心理等を内容とする研修を実施している。また、都道府県警察でも警察署の警察安全相談業務担当者等を対象に研修会等を実施している。
 
警察安全相談員研修会
警察安全相談員研修会

③ 関係機関・団体等との連携の推進

 警察以外の機関・団体で取り扱うことが適切である相談や警察以外の機関・団体と相互に緊密な連携を図ることが必要とされる相談への適切な対応を図るため、関係機関・団体等とのネットワークを強化し、円滑な引継ぎを行うとともに、関係機関・団体等と連携して相談の解決に取り組んでいる。
 
県民相談ネットワーク実務担当者連絡会議
県民相談ネットワーク実務担当者連絡会議

事例①
 長崎県五島警察署が立ち上げた「五島地区相談業務ネットワーク会議」(市役所等22の機関・団体が参加)では、高齢者を対象とした悪質商法の相談への対応等を議題として取り上げ、出席者による取扱事例の紹介や意見発表を行い、連携の強化を図った(長崎)。

事例②
 役場職員から「町営住宅で、孫が同居の祖母に暴力を振るっている」との相談を受理したことから、祖母に事情聴取を行ったところ、被害届の提出を望まなかったが、今後も孫による暴力を受けるおそれがあったため、一時的に祖母を宿泊施設に避難させた。警察署と役場で対応を協議し、役場において祖母に対する養護老人ホームへの入所措置が取られ、孫は役場からの退去の求めに応じて町営住宅を退去した(岡山)。

コラム⑩ 暴力を伴う男女間トラブルに起因する長崎県西海市における殺人事件と同事件に伴う一連の警察の対応について


(1)事件の概要

 千葉県警察、長崎県警察及び三重県警察において、平成23年10月から男女間における暴力を伴うトラブルに関し被害女性の父親等から相談を受けていたところ、同年12月、当該トラブルの相手方の男が長崎県西海市に所在する女性の実家に押し掛け、その家族を殺害した。

(2)警察の対応の問題点及び再発防止策

 千葉県警察、長崎県警察及び三重県警察において本事件への対応の検証を行った結果、男女間トラブルが重大事件に発展するおそれが高いという危機意識の不足、警察署における組織的対応の不備、関係県警察における連携の不備といった問題点が明らかとなった。
 警察庁では、24年3月、同種事案の再発防止に向けた通達を発出した。その具体的な内容は、
 ○ 恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案の特徴の再認識
 ○ 重大事件への発展の予防のための積極的な事件化等の対応の徹底
 ○ 警察署長による積極的な指揮等の組織による的確な対応の徹底
 ○ 関係都道府県警察の連携・情報共有の体制の強化
等である。こうした対策の徹底を図るため、都道府県警察本部でストーカー事案等を担当する幹部を招集した会議を開催するなどした。

(3)再検証による組織運営上の問題点の把握と再発防止策の検討

 24年3月、「千葉県警察、長崎県警察及び三重県警察による検証結果の報告書に習志野警察署におけるレクリエーション旅行に関する事項が記載されていなかったことや、当該レクリエーション旅行により警察の捜査が遅れた可能性があること」などが報じられた。
 千葉県公安委員会の厳正な管理の下、千葉県警察は、警務部長を長とし、監察部門を主体とする体制を編成し、レクリエーション旅行が実施された経緯、捜査等に与えた影響の有無、検証結果の報告書に旅行に関する事項が記載されなかった理由等につき、前回の検証の担当者も対象とした再検証を行った。なお、国家公安委員会も千葉県公安委員会に対し、調査に対する点検の徹底を要請した。
 再検証に当たって、千葉県公安委員会は臨時会議も含め計7回の会議を開催し、随時調査状況の報告を求めるなどして点検を行った。再検証の結果、レクリエーション旅行が警察の対応に影響したと考えられること、また、千葉県警察の組織運営の観点からの問題点として、幹部による組織管理の不備、被害者・国民の視点の欠如及び「警察改革の精神」の不徹底が明らかとなった。
 24年4月、こうした組織運営上の問題点を踏まえ、同県警察は、警察本部長を長とする「第一線警察の組織運営の在り方に関する検討委員会」を設置し、警察署幹部の役割と発揮すべきリーダシップ等の在り方、国民の視点に立脚した教養の充実、「警察改革の精神」を再徹底するための効果的な方策等について検討することとし、検討結果を公安委員会に報告してその点検を受けた上で、ガイドライン等として取りまとめ、実施することとした。
 一方、警察庁は、庁内に官房長を長とする「「警察改革の精神」の徹底等に向けた総合的な施策検討委員会」を設置し、新たな施策を総合的に検討することとした。あわせて、全国の都道府県警察に対し、千葉県警察の再検証を通じて把握された同県警察の組織運営の観点からの問題点を自らのものとして受け止め、各都道府県警察における実情を確認の上、必要な施策を講じることや、「警察改革の精神」を組織に内在化させるための取組を一層強化し、警察本部長を長とする委員会等を設置した上で施策の検討を推進することを指示した。

 第3節 安全で安心な暮らしを守る施策

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