第1章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

4 構造的な不正事案

(1)政治・行政をめぐる不正事案

国や地方公共団体の幹部や職員等による贈収賄事件、競売入札妨害事件、買収等の公職選挙法違反事件等の政治・行政をめぐる不正が相次いで表面化している。

警察では、不正の実態に応じて様々な刑罰法令を適用するなどして、事案の解明を進めている。

第22回参議院議員通常選挙(平成22年7月11日施行)における選挙期日後90日現在(22年10月9日現在)の公職選挙法違反の検挙件数は220件、検挙人員は339人(うち逮捕者70人)と、前回の第21回参議院議員通常選挙期日後90日の時点に比べ、検挙件数が64件(41.0%)、検挙人員が102人(43.0%)、逮捕人員が15人(27.3%)増加した。

図1―21 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数の推移(平成13~22年)

事例〔1〕

元福岡県副知事(67)は、19年8月頃、福岡県町村会会長らから、福岡県後期高齢者医療広域連合の議員定数及び事務局経費に関する各市町村の負担方法の決定につき、有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼等の趣旨で、現金100万円を収受した。22年2月、同元副知事を収賄罪で逮捕した(福岡)。

事例〔2〕

特許庁職員(45)は、17年8月頃から21年11月頃にかけて、前後66回にわたり、データ通信システム開発等事業者の部長らから、新事務処理システムの開発に関する情報を提供するなど有利かつ便宜な取り計らいを受けたことの謝礼等の趣旨で、タクシー乗車の利益(料金合計約256万円相当)を受けた。22年6月、同職員を収賄罪で逮捕した(警視庁)。

事例〔3〕

第22回参議院議員通常選挙における候補者で落選した者(65)らは、共謀の上、22年6月下旬頃、選挙運動員7人に対し、選挙人に電話をかけて投票依頼する選挙運動をしたことの報酬として、1人当たり給与等に相当する金額を供与する約束をした。同年7月、同候補者ら2人を公職選挙法違反(買収)で逮捕した(警視庁)。

(2)経済をめぐる不正事案

最近の悪化した経済状況を背景として、金融機関からの各種融資をめぐる詐欺事犯、証券市場を舞台とした証券の発行や取引に関連した事犯のほか、役職員らによる不正等企業の内部統制の不備に起因する事犯が後を絶たない状況にある。また、生活保護費や年金等の社会保障制度を悪用した事犯や国の補助金等の不正受給事犯も相次いで発生している。

警察では、これら金融・不良債権関連事犯、証券取引事犯、企業の経営等に係る違法事犯、その他国民の経済活動の健全性又は信頼性に重大な影響を及ぼすおそれのある犯罪の取締りを推進している。

また、このような犯罪の捜査では、対象となる企業等の財務実態の解明が不可欠であるとともに、年々、犯行手口が巧妙化していることから、都道府県警察において、公認会計士や税理士等の専門的な知識を有する者を財務捜査官として採用し、その高度な技能を活用して、事案の早期解明を図っている。

図1―22 金融・不良債権関連事犯の検挙事件数の推移(平成13~22年)

事例〔1〕

情報システム開発会社役員(44)らは、同社が発行した新株予約権について、その行使に係る払込みを仮装して新株を発行しようと企て、平成20年7月頃、総額8億8,800万円の払込みを仮装した上、一般投資家等に向けて、適法な資金調達がなされた旨の虚偽の事実を公表するとともに、同年8月頃、仮装払込金を含めた虚偽の資本金変更登記を行った。22年3月、6人を金融商品取引法違反(偽計)及び電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪で逮捕した(警視庁)。

事例〔2〕

元大手商工ローンA 社役員(62)らは、同社が裁判所による民事再生手続開始の決定を受けたことから、資産隠しにより同社の債権者を害し、自己及び自己が実質的に支配するB 社の利益を図る目的で、20年12月頃、A 社が保有する簿価合計約418億円の不動産担保貸付債権をB 社に無償で譲渡してA 社の財産を債権者の不利益に処分し、同社に財産上の損害を加えたほか、同債権譲渡に関して虚偽の登記を行った。22年6月、3人を民事再生法違反(詐欺再生)及び電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪等で逮捕した(警視庁)。

事例〔3〕

団体役員(64)らは、就職安定資金融資制度を悪用して金員をだまし取ろうと企て、21年5月頃から22年1月頃にかけて、内容虚偽の離職・住居喪失証明書等を作成し、公共職業安定所に提出し就職安定資金融資対象者証明書の交付を受けた上、金融機関に同証明書とともに融資申請書類等を提出するなどして融資を申込み、住宅入居初期費用等として約2,000万円をだまし取った。22年7月までに、24人を詐欺罪等で逮捕した(大分)。


第1節 犯罪情勢とその対策

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