特集:犯罪のグローバル化と警察の取組み 

第1節 犯罪のグローバル化の脅威

1 犯罪のグローバル化の状況

 今日の我が国における来日外国人犯罪を取り巻く状況についてみると、来日外国人犯罪の検挙件数、検挙人員等の統計上の数字だけでは把握できない「犯罪のグローバル化」というべき状況がみられ、治安に対する重大な脅威となっている。
 過去の来日外国人犯罪においても、短期滞在の在留資格等により来日し、犯行後は本国に逃げ帰るいわゆるヒット・アンド・アウェイ型の犯罪や、地縁や血縁を中核として結合した来日外国人の犯罪等、治安を脅かす事案はみられた。しかし、最近の来日外国人犯罪は、単発的な犯罪が目立った平成の初期の状況とは全く異質のものであり、次の(1)から(3)のように、世界的規模で活動する犯罪組織の我が国への浸透、犯罪組織の構成員の多国籍化、犯罪行為の世界的展開といった特徴を持ち、より深刻度を増している。
 
図-1 犯罪のグローバル化の脅威
図-1 犯罪のグローバル化の脅威

(1)世界的規模で活動する犯罪組織の我が国への浸透
 外国に本拠を置く犯罪組織が我が国に忍び寄っている状況は、以前からもみられたが、最近では、世界的規模で活動する犯罪組織が、我が国を新たな標的にするとともに、我が国の犯罪組織等と相互に連携・補完を図りつつ、より大規模かつ効率的に犯罪を敢行している。
 
図-2 世界的規模で活動する犯罪組織の我が国への浸透
図-2 世界的規模で活動する犯罪組織の我が国への浸透

事例1
 ナイジェリア人の男(39)らは、平成18年ころから約3年間にわたって、海外に本拠を置くナイジェリア人犯罪組織から生カードやカードデータを入手し、クレジットカードを偽造した上で、偽造カードを用いて家電量販店等において電化製品等を大量にだまし取り、これを古物商等において換金していた。21年5月までに、ナイジェリア人10人、カナダ人1人及び日本人1人の計12人を支払用カード電磁的記録不正作出・同供用罪、詐欺罪等で逮捕した(愛知、岐阜)。
 偽造に利用されたカードデータには、欧米で発行されたカードデータが含まれており、世界的規模でカード偽造等を敢行している犯罪組織が我が国にも偽造拠点を設けていることが判明した。

事例2
 モンテネグロ人の男(42)らは、19年6月、東京都内の貴金属店に客を装って侵入し、店員に対して催涙スプレーを吹き付け、店内に陳列されていた2億8,000万円相当の貴金属を奪い取った。同男らは、欧州や中東等、世界各国の貴金属店等を対象に犯行を重ねている、「ピンクパンサー」と呼ばれる国際的武装強盗団の構成員とみられ、犯行後間もなく、国外に逃亡している。警察では、国際刑事警察機構(ICPO-Interpol)(注1)及び関係する外国治安機関と緊密に連携を図りつつ、全容解明に向けて、22年5月現在も捜査中である。(関係警察:警視庁)
 また、本件に関連して、中東系及び南米系の来日外国人が、同男らに対して、国内での宿泊場所や航空券の手配等の支援活動を行っていたことが判明しており、本件は、世界的規模で活動する犯罪組織の我が国への浸透を示すものである。

注1:International Criminal Police Organization-Interpol
 
被害に遭った貴金属店
被害に遭った貴金属店
 
盗まれたティアラ
盗まれたティアラ

事例3
 世界的規模で詐欺を敢行しているナイジェリア人犯罪組織と関係を有するナイジェリア人の男(41)らは、17年ころから、日本人数名に多数の銀行口座を開設させ、これらを米国を始めとする欧米で敢行している詐欺事件による詐取金(総額約22億円)の入金先口座として活用し、詐取金入金後はこれを我が国で引き出し、米国、カナダ、イギリス等の海外に送金するなど、マネー・ローンダリングを敢行していた。19年11月までに、ナイジェリア人の男及び日本人の男を組織的な犯罪の処
罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」という。)違反(犯罪収益等隠匿)で逮捕したほか、この2人を含む14人を詐欺罪で逮捕した(埼玉、千葉)。
 ナイジェリア人犯罪組織は、ナイジェリア詐欺(注2)と呼ばれる大規模な詐欺を世界的規模で敢行しており、本件からは、このようなグローバルな犯罪組織が我が国に浸透している状況がうかがわれる。

注2:大規模な資金洗浄や商談を持ち掛け、前渡し金や商品をだまし取る手口等で、ナイジェリアを舞台に世界的な広がりを見せ、ナイジェリア刑法で詐欺罪を規定している419条に抵触する犯罪であることから、「419詐欺」とも呼ばれる。
 
事例3

(2)構成員の多国籍化
 来日外国人で構成される犯罪組織についてみると、従前は、地縁や血縁を中核にして結び付いていたものが主であった。最近では、より巧妙かつ効率的に犯罪を敢行するため、様々な国籍の構成員が、それぞれの特性を生かして、役割を分担するなど、国籍等にかかわらず結び付いており、犯罪組織の構成員が多国籍化している。
 
図-3 構成員の多国籍化
図-3 構成員の多国籍化

事例1
 パキスタン人の男(31)らは、平成14年1月から20年4月にかけて、1都6県において、不正に海外へ輸出する目的で、自動車、建設用重機等を対象とした約500件の窃盗を繰り返し、盗品をヤード(注)に持ち込み、解体の上、コンテナに詰めて海外へ輸出した。20年10月までに、パキスタン人6人、イギリス人1人、カメルーン人9人、スリランカ人11人及び日本人3人の計30人を窃盗罪等で逮捕した(埼玉、茨城、栃木)。
 本件は、ヤードを経営するパキスタン人、カメルーン人及びスリランカ人が中心となり、窃盗実行犯として日本人が加わるなど、構成員が多国籍化した犯罪組織により敢行された。

注:周囲を鉄壁等で囲まれた作業所等であって、海外への輸出等を目的として、自動車等の解体、コンテナ詰め等の作業に使用していると認められる施設
 
解体していたヤード
解体していたヤード
 
コンテナ詰めされた重機
コンテナ詰めされた重機

事例2
 ペルー人の男(24)らは、15年12月から20年4月にかけて、1都2府11県において、一般住宅等を対象として、約340件の窃盗事件を敢行した。20年9月までに、ペルー人2人、コロンビア人3人及び日本人1人の計6人を窃盗罪等で逮捕した(警視庁)。
 同男らは、我が国に入国後、空き巣ねらいの指南を受けるうちに連携を強め、窃盗組織を形成し、一般住宅等を対象とした空き巣ねらいを繰り返していた。この組織は、運転手役、見張り役、実行犯等に役割分担し、効率的に犯罪を敢行するために多国籍化した犯罪組織である。

事例3
 中国人の男(41)らは、20年6月から同年11月にかけて、1都2府11県の中国エステ店等においてスキミング(注)したカードデータを基に、クレジットカードを偽造した上で、偽造カードを用いて家電量販店等からパソコン、デジタルカメラ等の商品をだまし取り、これを換金した。21年11月までに、中国人15人、フィリピン人1人及び日本人26人の計42人を支払用カード電磁的記録不正作出・同供用罪、詐欺罪等で検挙した(警視庁、宮城、大阪、奈良)。
 本件においては、中国人がカードデータのスキミング及び偽造カードの作成を行い、フィリピン人及び日本人が商品をだまし取るなど、犯罪組織内で役割分担をしており、様々な国籍の構成員が犯行に関わっている。
 
押収したカード類
押収したカード類

(3)犯罪行為の世界的展開
 犯罪行為の発生場所が日本国外に及ぶ事案は過去にもみられたものの、その地域は被疑者や被害者の出身地等であることが多かった。しかし、最近では、犯行関連場所が、日本国内にとどまらず2、3か国に及んだり、被疑者や被害者との関係を有しない地域であったりするなど、犯罪行為が世界的に展開されている。
 
図-4 犯罪行為の世界的展開
図-4 犯罪行為の世界的展開

事例
 平成20年9月、商談名目で誘われて南アフリカを訪れた日本人の男性会社員(57)が、現地において誘拐され、米国の西海岸から発信された「身の代金50万ドルを台湾の銀行口座に振り込め」との電子メールが、同人が勤務する東京都内の会社あてに届いた。
 南アフリカ警察は、事件発生から2日後に南アフリカ・ヨハネスブルグ郊外の住宅で、同人を無事救出するとともに、ナイジェリア人6人及び南アフリカ人1人の計7人を逮捕した。(関係警察:警視庁)
 商談名目で呼び寄せた外国人を誘拐し、身の代金を要求する手口は、ナイジェリア等のアフリカ諸国で多く発生しており、逮捕された7人は、このような犯罪を敢行している国際犯罪組織の構成員とみられている。

注:真正なカードのデータをスキマー(磁気情報読取装置)を用いて読み取る行為
 
事例

コラム1 国際犯罪組織と暴力団のつながり

 暴力団は、近年、社会経済情勢に応じて資金獲得の方法を多様化させており、安定して資金を獲得するため、国際犯罪組織と連携し、組織的に犯罪を敢行している。その背景には、暴力団は日本国内の事情に通じている一方、国際犯罪組織は海外におけるネットワークを有しており、それぞれが連携することで安定した資金獲得が実現できるということが挙げられる。
 暴力団と国際組織犯罪とのつながりを示す事例として、次のようなものがある。

 自動車板金業者(53)が中心となり、稲川会傘下組織構成員(30)らによる日本人窃盗グループのほか、ブラジル人窃盗グループ、スリランカ人窃盗グループ、アフガニスタン人買取グループ等が連携し、
・日本人窃盗グループ、ブラジル人窃盗グループ及びスリランカ人窃盗グループは、自動車を窃取し、盗難自動車を自動車板金業者のあっせんによりアフガニスタン人買取グループに売却する
・自動車板金業者及びアフガニスタン人買取グループは、自動車板金業者が経営する自動車修理工場において盗難自動車の車台番号を削るなどして不正に改造し、これらを国内で不正に販売したり、ナイジェリア人等に転売したりする
・ナイジェリア人等は、海外に不正に輸出する
といった役割分担により、14年3月から19年7月にかけて、1都6県において、自動車盗等約1,100件(被害総額約15億7,500万円相当)を敢行した。
 神奈川県警察及び静岡県警察は合同捜査本部を設置し、20年1月までに、自動車板金業者ら33人を逮捕し、これらの国際犯罪組織を壊滅させた。
 
コラム1 国際犯罪組織と暴力団のつながり

 第1節 犯罪のグローバル化の脅威

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