トピックスIII デジタルフォレンジックの強化
警察では、犯罪を立証する上で重要な役割を果たすデジタルフォレンジック(犯罪の立証のための電磁的記録の解析技術及びその手続)を強化し、適正な手続による客観的証拠の収集の徹底を図っています。
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コンピュータ、携帯電話等の電子機器が一般に普及し、あらゆる犯罪に悪用されるようになってきており、その捜査に当たっては、各種電子機器に保存されている電磁的記録の解析が必要不可欠となっています。また、裁判員制度の下では、法律や技術の専門家ではない裁判員の的確な心証形成が可能となるよう、客観的証拠の収集の徹底を図る必要があります。
警察では、消去、改ざん等が容易な電磁的記録の適正な手続による解析・証拠化等を行うため、関係機関等と連携しながら、デジタルフォレンジックを強化しています。
(1)デジタルフォレンジックの重要性
電子機器等に保存されている犯罪捜査に必要な情報を証拠化するためには、電子機器等から当該情報を抽出した上で、文書や画像等の人が認識できる形に変換するという電磁的記録の解析が必要不可欠となります。その際、破損した電子機器等からの情報の抽出・解析や暗号等で隠ぺいされた情報の抽出・解析等、高度な技術が求められます。
また、電子機器等の進歩は著しく、次々と新たな機器が登場することから、常に最新の技術や情報を収集・活用していくことが重要となります。
破損した電子機器に保存された電磁的記録の解析
図III- 1 デジタルフォレンジック
(2)デジタルフォレンジックの強化に向けた警察の取組み
〔1〕 体制の整備
警察では、警察庁情報通信局、管区警察局情報通信部及び都道府県(方面)情報通信部に情報技術解析課を設置し、都道府県警察が行う犯罪捜査において、捜索差押え現場でコンピュータ、電磁的記録媒体等を差し押さえるための技術的指導や押収した携帯電話、コンピュータ等から証拠を取り出すための解析等のデジタルフォレンジックを活用した技術支援体制を構築しています。
各都道府県(方面)情報通信部情報技術解析課が実施した技術支援の件数は、図III‐2のとおり増加傾向にあります。
図III- 2 技術支援件数(平成17~20年)
事例1
大学院生(24)が、著作者の意に反する改変を行ったテレビアニメの静止画像をコンピュータ・ウイルスに添付し、ファイル共有ソフト「ウィニー(Winny)」を使用して公衆送信した著作権法違反(著作権侵害等)事件に関し、近畿管区警察局京都府情報通信部は、平成20年1月にコンピュータ・ウイルスの解析を行うなど、事件解決に向けた技術支援を行った。
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事例2
公立学校教員採用選考試験をめぐる贈収賄事件に関し、九州管区警察局大分県情報通信部は、20年6月に大分県警察によるコンピュータ等の捜索差押えの現場に職員を派遣し、押収したコンピュータ等の解析を行うなど、事件解決に向けた技術支援を行った。
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〔2〕 解析能力の向上
警察庁技術センター(注1)では、都道府県(方面)情報通信部で対応が困難な暗号等により隠ぺいされた情報、破損したハードディスク等に記録された情報の抽出・解析等を行うとともに、新たな解析手法の検討を行っています。
また、コンピュータ・ウイルス等の不正プログラムを作成するなどの高度な技術を利用した犯罪の発生や新たな電子機器等の登場に対応するため、警察庁情報通信局情報技術解析課における調査、警察情報通信研究センターにおける研究等を通じて電磁的記録の解析に関する知見の集約・体系化を進め、解析能力の向上を図っています。
さらに、管区警察局及び都道府県(方面)情報通信部の職員がその技術を適切に活用できるよう、警察大学校における教育訓練等を通じた人材育成を行っています。
警察庁技術センターでの解析作業
〔3〕 関係機関等との連携の強化
警察では、電磁的記録の解析に必要な技術情報を得るため、電子機器等の製造業者を始めとする企業との技術協力を推進するとともに、国内捜査関係機関が参加するデジタルフォレンジック連絡会及びアジア大洋州地域の捜査関係機関が参加するサイバー犯罪捜査技術会議の開催やデジタルフォレンジックの世界的権威であるNFI(注2)への職員の派遣等を通じて情報共有を図るなど、関係機関等との連携の強化に努めています。
デジタルフォレンジック連絡会
アジア大洋州地域サイバー犯罪捜査技術会議