第1章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

2 科学技術の活用

(1)DNA型鑑定
 DNA型鑑定とは、DNA(デオキシリボ核酸)の個人ごとに異なる部分を比較することで個人を識別する鑑定法である(注1)。現在、警察で行っているDNA型鑑定は、主にSTR型検査法(注2)と呼ばれるもので、日本人で最も出現頻度が高いDNA型の組合せの場合で、約4兆7千億人に1人という確率で個人識別を行うことが可能となっている。
 DNA型鑑定を実施する事件数は年々増加し、殺人事件等の凶悪事件だけでなく、窃盗事件等の身近な犯罪の解決にも多大な効果を上げている。警察では、被疑者の身体から採取した資料のDNA型の記録と被疑者が犯罪現場等に遺留したと認められる資料のDNA型の記録をデータベースに登録し、犯人の割り出しや余罪の確認等に活用しており、平成20年12月末現在、データベースの活用により被疑者が確認された事件は4,585事件(3,407人)となっている。

注1:警察で行うDNA型鑑定に使用されるのは、DNAのうち身体的特徴や病気に関する情報が含まれていない部分であり、また、鑑定結果であるDNA型情報からも身体的特徴や病気が判明することはない。
 2:STRと呼ばれる4塩基(A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)及びC(シトシン))を基本単位とする繰り返し配列について、その繰り返し回数に個人差があることを利用し、個人を識別する検査方法

 
図1-30 DNA型鑑定(STR型検査法)に使用する部分
図1-30 DNA型鑑定(STR型検査法)に使用する部分

(2)指掌紋自動識別システム
 指紋及び掌紋(以下「指掌紋」という。)は、「万人不同」及び「終生不変」の特性を有し、個人を識別するための資料として極めて有用であることから、犯罪捜査で重要な役割を果たしている。警察では、被疑者から採取した指掌紋と被疑者が犯罪現場等に遺留したと認められる指掌紋をデータベースに登録して自動照合を行う指掌紋自動識別システムを運用し、犯人の割り出しや余罪の確認等に活用している。

(3)三次元顔画像識別システム
 三次元顔画像識別システムとは、防犯カメラ等で撮影された人物の顔画像と、別に取得した被疑者の三次元顔画像とを照合し、両者が同一人物であるかどうかを識別するものである。一般に、防犯カメラで被疑者の顔が撮影される角度は様々であるため、被疑者写真等と比較するだけでは個人識別が困難な場合が多いが、このシステムでは、被疑者の三次元顔画像を防犯カメラの画像と同じ角度及び大きさに調整し、両画像を重ね合わせることにより、個人識別を行うことが可能である。防犯カメラの設置が増加する中、犯行を証明する有効な証拠を得ることができるシステムとして、一部の道府県警察で活用されている。
 
図1-31 三次元顔画像識別システムによる顔画像照合
図1-31 三次元顔画像識別システムによる顔画像照合

(4)自動車ナンバー自動読取システム
 自動車盗や自動車を利用した犯罪を検挙するためには、通過する自動車の検問を実施することが有効である。しかし、事件を認知してから検問を開始するまでに時間を要するほか、徹底した検問を行えば交通渋滞を引き起こすおそれがあるなどの問題がある。このため、警察庁では、昭和61年度から、通過する自動車のナンバーを自動的に読み取り、手配車両のナンバーと照合する自動車ナンバー自動読取システムの整備を進めている。

(5)プロファイリング
 プロファイリングとは、犯行現場の状況、犯行の手段、被害者等に関する情報や資料を、統計データや心理学的手法等を用いて分析・評価することにより、犯行の連続性、犯人の年齢層、生活様式、職業、前歴、居住地等の推定や次回の犯行の予測を行うものである。
 従来、事件捜査では、犯人特定のために、犯行現場の状況や犯人の遺留品、さらには聞き込み捜査等で得られた様々な情報等をつなぎ合わせるとともに、捜査員の経験則に基づく職人的な「勘」をも駆使して犯人を推定・浮上させ、特定してきたものであるが、近年、より効率的で合理的な捜査を推進するため、捜査員の「勘」と、科学的見地に基づくプロファイリングでの推定結果を併せ見て、犯人を推定・浮上させる捜査手法を活用している。
 また、プロファイリング技術の高度化・専門化(注1)及び一般化(注2)に取り組んでいるところである。

注1:専従者の育成及び体制の整備
 2:捜査員に対する指導の徹底及び有効活用の促進

 
図1-32 プロファイリングの実施件数の推移(平成16~20年)
図1-32 プロファイリングの実施件数の推移(平成16~20年)
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(6)情報分析支援システムの構築
 「人からの捜査」、「物からの捜査」が困難となる中、犯罪の迅速な検挙を確保するためには、捜査現場の体制・執行力の更なる強化に加え、犯罪関連情報の総合的な分析を推進することにより、捜査の方向性や捜査項目の優先順位の判断を支援することが重要である。
 このため、警察庁では、従来、複数のシステムを使用して行っていた各業務を集約することにより、
 ・ 1台の端末装置によって各業務を行う
 ・ 各業務間の連携により重複入力を排除し、横断的な検索を行う
 ・ 犯罪手口、犯罪統計等の犯罪関連情報を地図上に表示し、他の様々な情報と組み合わせるなどして犯罪の発生場所、時間帯、被疑者の特徴等を総合的に分析する
ことを可能とする情報分析支援システム(CIS-CATS)を平成21年1月から運用し、事件解決に役立てている。
 
図1-33 情報分析支援システム
図1-33 情報分析支援システム

 第2節 犯罪の検挙と抑止のための基盤整備

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