第2章 組織犯罪対策の推進 

4 国際組織犯罪対策

 警察では、我が国の治安に大きな影響を与えている国際犯罪組織を壊滅させるため、内外の関係機関と連携しながら、多角的アプローチにより各種対策を推進している。
 
 図2-28 多角的アプローチによる国際組織犯罪対策
図2-28 多角的アプローチによる国際組織犯罪対策

(1)国内関係機関との連携
〔1〕 水際における取締り
 平成17年1月、警察庁、法務省及び財務省は共同で、航空機で来日する旅客及び乗員に関する情報と関係省庁が保有する要注意人物等に係る情報を入国前に照合することのできる事前旅客情報システム(APIS)(注1)を導入した。19年2月からは、情報の事前提出が航空機及び船舶の長に義務付けられた。また、テロリスト等による偽変造旅券の使用や他人へのなりすましによる不法入国を防ぐため、外国人が入国する際に指紋等の個人識別情報を提供することが義務化され、19年11月20日から導入された。

注1:Advance Passenger Information System


〔2〕 その他の取組み
 警察では、法務省入国管理局と協力し、合法滞在を装う者やこれらを組織的に幇助する者等の徹底した取締りを行うため、合同で不法滞在者の摘発を実施するなどしている。

(2)外国治安機関等との連携
 日本で犯罪を敢行した被疑者が外国人である場合、住所、氏名、生年月日等を把握するためには、その者の国籍国への照会を要する場合があり、また、被疑者が海外に逃亡した場合、逃亡先国における所在確認等の捜査協力を依頼しなければならない。さらに、外国に本拠を置く国際犯罪組織については、世界の各国にわたって犯罪を敢行していることから、関係国の治安機関等との情報交換等を通じた連携が不可欠であり、警察では、次のような取組みを進めている。
〔1〕 ICPOを通じた国際協力
 ICPOは、国際犯罪に関する情報の収集と交換、犯罪対策のための各種国際会議の開催、国際手配書の発行等を行う、各国の警察機関を構成員とする国際機関であり、2007年(平成19年)末現在、186か国・地域が加盟している。各国・地域には連絡窓口として国家中央事務局(NCB)(注2)を置くこととされており、日本では警察庁が指定されている。
 ICPOは、加盟国・地域間の情報交換をより迅速かつ確実に行えるようにするため、盗難車両や盗難旅券、国際手配被疑者等のデータベースを事務総局で運用している。警察庁でも、日本の盗難車両、紛失・盗難旅券等に関する情報を提供している。
 警察庁は、ICPOを通じて外国に対して捜査協力を要請するほか、ICPOの開催する各種会合への参加、事務総局への職員の派遣、分担金の拠出等により、ICPOの活動に貢献している。

注2:National Central Bureau

 
 表2-17 外国に対し捜査共助を要請した件数の推移(平成10~19年)
表2-17 外国に対し捜査共助を要請した件数の推移(平成10~19年)
 
 表2-18 外国から捜査共助を要請された件数の推移(平成10~19年)
表2-18 外国から捜査共助を要請された件数の推移(平成10~19年)
 
 表2-19 ICPOを通じた情報の発信・受信状況(平成10~19年)
表2-19 ICPOを通じた情報の発信・受信状況(平成10~19年)

〔2〕 各国治安当局との協議
 警察庁では、日本との間で多くの国際犯罪が敢行される国や来日外国人犯罪者の国籍国等の治安当局との間で開催される二国間協議に積極的に参画し、これらの国々との連携の強化に努めている。
 
 図2-29 二国間協議の例
図2-29 二国間協議の例

〔3〕 各国との刑事共助条約の締結交渉(209頁参照)
 刑事共助条約は、国際礼譲で行われていた共助の実施を条約上の義務とすることにより、共助が一層確実に実施されることを期するとともに、共助の実施のための連絡を、外交当局間ではなく、条約において指定される中央当局間で直接行うことにより、事務処理の合理化・迅速化を図る条約である。
 我が国は、これまで、米国及び韓国との間で刑事共助条約に締結しており、19年12月に中国との間で刑事共助条約に、20年5月に香港との間で刑事共助協定に署名している。
 警察庁では、引き続き各国との刑事共助条約の締結交渉に参画するとともに、警察として、これら刑事共助条約を基に外国治安機関との捜査協力における連携強化を図っていくこととしている。

(3)国外逃亡被疑者等の追跡
 近年、日本国内で犯罪を行い、国外に逃亡している者及びそのおそれのある者(以下「国外逃亡被疑者等」という。)の数も年々増加傾向にある。被疑者が国外に逃亡することにより、外国捜査機関との捜査協力が必要となる場合も多く、捜査が困難になる面はあるが、警察では、犯罪者の「逃げ得」を許さないための取組みを進め、厳正な対処に努めている。
 被疑者が国外に逃亡するおそれがある場合には、入国管理局に手配するなどして出国前の検挙に努める一方で、被疑者が国外に逃亡した場合には、外交ルートやICPOルートにおける関係国の捜査機関等との捜査協力や刑事共助条約に基づく共助の実施を通じ、被疑者の人定や所在の確認等を進めている。犯罪人の引渡しに関する条約等に基づいて被疑者の引渡しを受けたり、被疑者が逃亡先国で退去強制処分に付された場合には、その被疑者の身柄を公海上の航空機で引き取ったりするなどして確実な検挙に努めている。このほか、事案に応じ、国外逃亡被疑者等が日本国内で行った犯罪に関する資料等を逃亡先国の捜査機関等に提供するなどして、逃亡先国における国外犯処罰規定の適用を促している。
 
 図2-30 国外逃亡被疑者に対する主要な措置
図2-30 国外逃亡被疑者に対する主要な措置

事例

 ブラジル人の男(34)は、平成17年11月、浜松市内において日本人男性を殺害して現金を奪い取った後、ブラジルに逃亡した。同年12月、この男について強盗殺人罪で指名手配及びICPOを通じた国際手配を行うとともに、同国に対し外交当局を通じてブラジル刑法の国外犯処罰規定の適用を要請したところ、19年2月、このブラジル人の男は連邦地方裁判所に起訴され、同年12月、強盗殺人等の罪により、禁錮34年5か月の有罪判決が言い渡された。

 第3節 来日外国人犯罪対策

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