3 暴力団のいない安全・安心な社会を目指して
暴力団を始めとする犯罪組織から、国民や企業を守り、安全で安心な社会を実現することは、政府にとって重要な課題であり、警察では、戦後一貫して暴力団の壊滅を目指した強力な取締りを継続してきた。また、平成4年の暴力団対策法施行後、暴力団の不当要求行為による資金獲得活動を中止命令や再発防止命令の発出により速やかに阻止することが可能となったことに加え、全都道府県に暴力追放運動推進センターが設立されるなど我が国で暴力団排除活動が活発化し、暴力団の社会からの孤立化が進んだことなどを踏まえると、暴力団の取締り、暴力団排除活動の推進、暴力団対策法の運用という三本柱による警察の暴力団対策は、暴力団に対して一定の成果を挙げていると評価できると思われる。
しかしながら、今なお、暴力団は、様々な資金獲得活動を継続している。18年中の伝統的資金獲得活動に係る暴力団構成員等の検挙人数が9,412人、暴力的要求行為に係る中止命令件数が1,618件であり、警察が把握していない暴力団の資金獲得活動の被害者が存在している可能性を考慮すれば、いまだに相当数の国民が暴力団への恐怖と不安に苦悩し、実際に財産を奪われる被害に遭い続けていると考えられる。国民の安全と安心を守る警察として、違法行為や不当要求行為による資金獲得活動を社会から完全に一掃するための努力を加速させる必要がある。
また、暴力団が暴力団対策法の規制を逃れるために企業活動への進出を企ててきたこともあり、現在では、資金獲得活動を著しく不透明化させた暴力団が出現している。これを放置すれば、暴力団が、獲得した資金を元手として資金に窮する他の暴力団を吸収して勢力を拡大し、我が国の各界各層に対する影響力を増大させるおそれがあるほか、公正であるべき我が国の経済社会の仕組みを歪め、国民の経済活動を犠牲として肥大化するおそれがあることから、警察では、諸外国の法制度も参考にしながら、不透明化した資金獲得活動への対策を全力を挙げて講ずる必要がある。
こうした認識の下、暴力団のいない安全・安心な社会を目指す上での今後の課題を述べる。
(1)違法な資金獲得活動の取締りの徹底
警察では、引き続き、縄張内等で行われる伝統的資金獲得活動等の明らかに違法な行為に注意を払い、確実に検挙する必要がある。また、コントロールド・デリバリーや通信傍受といった捜査手法も活用しつつ、覚せい剤密売、ヤミ金融、振り込め詐欺等の組織的犯罪への関与に対する警戒を強化し、来日外国人犯罪組織の資金獲得活動についても暴力団との関係に留意しつつ検挙に努める必要がある。その上で、組織的犯罪処罰法又は麻薬特例法に定めるマネー・ローンダリング事犯の検挙も併せて行い、金額の多寡にかかわらず犯罪収益等のはく奪を徹底して行うことが必要である。
(2)不当要求行為による資金獲得活動への対策の推進
警察や都道府県暴力追放運動推進センターが積極的に支援を行い、地区内の飲食店や風俗営業を営む者の大多数の意見を統一した上でのみかじめ料支払い拒否運動(
第1章第3節1(4)〔2〕、事例参照)のような地域、業界等を単位とした暴力団排除活動を一層推進することにより、暴力団に対し、不当要求行為には絶対にひるまず、応じないという社会的メッセージを繰り返し強く打ち出すとともに、そのようなメッセージが社会全体の共通認識となるまで、暴力団排除活動の活発化を徹底して行う必要がある。
また、警察が暴力団の不当要求行為を確実に把握し、暴力団対策法に基づく中止命令や再発防止命令を積極的に発出することができる環境を一層整備するために、被害者等への保護対策の徹底を図ることはもとより、警察からあらゆる職域や地域に更に積極的に講習会に出向くなどして、不当要求行為に関する正しい知識が社会全体に周知され、突然に暴力団の不当要求行為を受けたとしても、すべての国民が無用に恐れず、警察、都道府県暴力追放運動推進センター、弁護士会等と協力し、冷静に対応できる社会の実現に向けて努める必要がある。
さらに、我が国の社会になお存在する暴力団の存在を許容する風潮を一掃すべく、暴力団に積極的に資金を提供することはもとより、不当要求行為に屈すること自体が暴力団を肥え太らせ、暴力団による更なる卑劣な犯罪を惹起するなど、社会悪であるという社会規範の構築に向けて取組みを強化する必要がある。そのため、19年7月に開催された第9回犯罪対策閣僚会議において、暴力団等に対し資金提供を絶対に行わないことなどを内容とする企業のための指針が報告され、同指針を普及促進する旨の申合せがなされたことから今後、警察では、率先してその普及を図ることとしている。