第5章 公安委員会制度と警察活動の支え 

4 適正な警察活動

(1)警察改革の持続的断行

 国家公安委員会・警察庁は、「警察改革要綱」に掲げる施策をすべて実行に移し、また、厳しい治安情勢に対処するため、警察改革の精神の下、治安回復に取り組んできた。
 しかしながら、平成18年中の懲戒処分者数が361人と前年に比べ20人増加したほか、警察職員による飲酒運転、ファイル共有ソフトに係る情報流出、警察官による捜査情報の漏えい等国民の信頼を大きく揺るがす非違事案が今なお発生している。また、侵入強盗や性犯罪の認知件数は依然として高い水準にあり、長崎市長が暴力団員に銃撃され殺害された事件、愛知県長久手町における銃器を使用した人質立てこもり事件等、市民生活に大きな不安と脅威を与える事件が相次いで発生するなど、犯罪情勢は依然として厳しい。
 国家公安委員会・警察庁は、国民からの厳しい批判を反省・教訓として「警察改革要綱」を策定した原点に立ち返り、警察改革を持続的に断行するため、17年12月、評価書の公表と同時に、「警察改革の持続的断行について」と題する、次の5項目から成る指針を取りまとめた。警察では、この指針に基づき今後とも持続的に改革を断行し、その実施状況を検証していくこととしている。
 
警察改革要綱(概要)と警察改革の持続的断行について(概要)

(2)適正な予算執行の確保

 警察では、予算執行に関する不適正事案が相次いで判明したことを受け、このような事案の再発を防止し、国民の信頼を回復するため、次のような取組みを進めている。

〔1〕 警察が行う会計監査
 国家公安委員会が定める会計の監査に関する規則に基づき、警察庁長官、警視総監、道府県警察本部長及び方面本部長は、監査対象部署の実態に応じて監査手法に改善・工夫を加えながら、より適正な会計経理を推進するため、会計監査を実施している。
 
 図5-8 会計の監査に関する規則(平成16年国家公安委員会規則第9号)
図5-8 会計の監査に関する規則(平成16年国家公安委員会規則第9号)

 平成18年度に警察庁が実施した監査では、捜査費、旅費及び契約に係る予算の執行状況を重点的に監査することとし、捜査費の執行に直接携わった捜査員1,427人を含む3,807人に対して聞き取りを実施するなどした。その結果、
 ・ 国費事件認定前は、都費の捜査費を執行して捜査協力者に対する謝礼を支払うべきところ、国費の捜査費を執行して支払っていたことから、国費を執行して支払った額を返納すること(警視庁)。
 ・ 捜査員等の旅行に際して、旅費の支給漏れがあったことから、本来支給すべき額を追加支給すること(科学警察研究所、長野、富山、鳥取)。
などについて、それぞれ改善を指示した。また、捜査費関係文書の記載内容の不備や旅費の支払いの遅延が認められたものなどについて、必要な改善措置を講ずるよう、関係部署を指導した。
 19年度については、18年度の会計監査実施結果を踏まえ、監査対象部署の実態に応じた厳正な会計監査を行うこととしている。

事 例
 高知県警察では、18年2月、監査委員の監査において、捜査費の執行の一部に関して支出の実体がないなどと指摘がなされたことから、同年12月までに、12年度から16年度にかけての捜査費の執行状況を調査した。その結果、手続に問題がある捜査費の執行等が判明したことから、高知県警察の職員等は、19年3月までに、国に約670万円、高知県に約820万円を返納した。
 高知県警察は、調査結果を踏まえ、会計監査を充実させるとともに、指導体制を強化し、職員に捜査費経理に関する正確な知識を修得させるなどして、捜査費経理の適正化を図ることとした。

〔2〕 会計に関する職員教育
 職員に予算執行の手続に関する正確な知識を修得させるとともに、適正経理の重要性を再認識させるため、会計に関する職員教育を徹底している。また、それに必要な捜査費等の経理に関する各種の解説資料を作成、配布している。

(3)監察

 警察では、警察内部の自浄能力を高めるため、都道府県警察で監察を掌理する首席監察官をすべて国家公安委員会の任命に係る地方警務官とするほか、警察庁、管区警察局及び都道府県警察において監察担当官を増員するなど監察体制を強化するとともに、国家公安委員会が定める監察に関する規則に基づき、能率的な運営及び規律の保持のため、厳正な監察を実施している。これにより、警察庁、管区警察局等による監察実施回数が大幅に増加した。
 
 図5-9 監察に関する規則(平成12年国家公安委員会規則第2号)
図5-9 監察に関する規則(平成12年国家公安委員会規則第2号)

 平成18年度は、図5-10のとおり、監察実施項目を定め、業務及び服務の両面において監察を行った。同年度の警察庁及び管区警察局による都道府県警察に対する監察の実施回数は1,464回と、12年度より856回増加した。他方、都道府県警察においては、年1回以上ほぼすべての警察署に対し監察が実施されている。
 
 図5-10 平成18年度の監察実施計画
図5-10 平成18年度の監察実施計画

 なお、警察法の規定により、国家公安委員会は警察庁に対して、都道府県公安委員会は都道府県警察に対して、監察について必要があると認めるときは、具体的又は個別的な監察の指示をすることができ、これまで、神奈川県公安委員会(13年4月)及び奈良県公安委員会(同年7月)が、警察職員による不祥事案の発生に際して各県警察に対し監察を指示したほか、予算執行に関する不適正事案の発生に際して、北海道公安委員会及び福岡県公安委員会が、各道県警察に対し監察を指示した。

(4)苦情の適正な処理

 警察法には苦情申出制度が設けられており、都道府県警察の職員の職務執行について苦情がある者は、都道府県公安委員会に対し文書により苦情の申出をすることができる。
 なお、警察本部長や警察署長あてに申出があったものなど、都道府県警察の職員の職務執行についての苦情でこの制度によらない申出についても、これに準じた取扱いがなされている。
 
 図5-11 苦情申出制度の概要
図5-11 苦情申立制度の概要

(5)情報管理の徹底

 警察では、犯罪捜査、運転免許等に関する大量の個人情報のほか、多くの機密情報を取り扱っているところ、平成18年に入り、ファイル共有ソフトを介した捜査資料等の情報流出事案が立て続けに判明した。
 警察庁は、これまでも、警察情報セキュリティポリシー(警察情報セキュリティに関する規範の体系)を策定するなどして、情報の流出、改ざん等への対策を進めてきたが、相次ぐ情報流出事案を受け、同年3月にすべてのコンピュータ及び外部記録媒体の緊急点検を含む緊急対策を、同年5月にすべての都道府県警察を対象に情報流出防止に関する特別監査及び業務指導を行った。
 また、19年に入っても、捜査資料等を記録した外部記録媒体等を自宅に持ち帰り、ファイル共有ソフトを介してこれらの情報が流出した事案が、2月には山梨県警察で、4月には北海道警察で、6月には警視庁で立て続けに判明した。特に警視庁の事案は、流出した情報がファイル数で1万件に及ぶ大規模なものとなった。これらの事案の発生等により、捜査資料の管理の在り方について厳しい指摘がなされている。
 今後、外部記録媒体への情報を書き込む際の自動暗号化措置の導入や、19年度末までに私有コンピュータの公務使用を一掃するための各都道府県警察と連携した取組みを進めることとしているが、この種の事案を根絶するためには、職員一人一人の意識改革の徹底が必要不可欠であることから、徹底した監査及び業務指導を始め、情報セキュリティの向上のための総合的な対策を更に推進していくこととしている。また、捜査資料については、不必要な捜査資料の廃棄・消去を確実に行い、かつ、これらの複写を禁止するなど、組織的管理を一層徹底していくこととしている。
 
 図5-12 情報管理の徹底に向けた各種対策
図5-12 情報管理の徹底に向けた各種対策

 4 適正な警察活動

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