11 サイバー犯罪
情報通信ネットワークは、国民生活の利便性を向上させ、社会・経済の根幹を支えるインフラとして機能している。その一方で、サイバー犯罪(注1)は年々増加しており、犯罪の手口についても高度化・多様化している状況にある。
(1)サイバー犯罪の情勢
〔1〕 サイバー犯罪の検挙状況
サイバー犯罪の検挙件数は増加の一途をたどっており、平成18年中は4,425件と、前年より1,264件(40.0%)増加し、過去最高となった。
ア ネットワーク利用犯罪
18年中のネットワーク利用犯罪(注2)の検挙件数は3,593件と、前年より782件(27.8%)増加した。特に、詐欺の検挙件数が1,597件と、ネットワーク利用犯罪の検挙件数の44.4%を占めている。さらに、詐欺の検挙件数の83.1%がインターネット・オークションを利用したものであった。また、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童買春・児童ポルノ法」という。)違反、児童福祉法違反及びいわゆる青少年保護育成条例違反の検挙件数は978件と、前年より312件(46.8%)増加し、児童(18歳未満の者をいう。以下同じ。)の性的犯罪の被害も深刻な状況となっている。
表1-12 サイバー犯罪の検挙件数の内訳(平成14~18年)
イ 不正アクセス禁止法違反
18年中の不正アクセス行為の禁止等に関する法律(以下「不正アクセス禁止法」という。)違反の検挙件数は703件と、前年より426件(153.8%)増加し、過去最高を記録した。このうち、フィッシングやスパイウェアといった高度な技術を利用して他人の識別符号(ID、パスワード等)を取得したものが417件に上り、前年の12.3倍と急増した。
図1-27 不正アクセス禁止法違反の検挙件数(平成14~18年)
〔2〕 出会い系サイトに関係した事件の検挙状況
18年中の出会い系サイト(注3)に関係した事件の検挙件数は1,915件(前年比334件(21.1%)増)であり、これらの事件の被害者1,387人のうち、児童は1,153人(83.1%)であった。また、インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(以下「出会い系サイト規制法」という。)違反の検挙件数は47件(前年比29件(161.1%)増)であり、うち児童によるものは18件(前年比13件(260.0%)増)であった。
図1-28 出会い系サイトに関係した事件の検挙件数の推移(平成13~18年)
〔3〕 サイバー犯罪等に関する相談の受理状況
18年中の都道府県警察におけるサイバー犯罪等に関する相談の受理件数は61,467件で、初めて前年より減少した。その要因としては、警察庁における利用者の困りごとに応じた基本的な対応策等を回答するインターネット安全・安心相談システム(
http://www.cybersafety.go.jp)の運用開始(17年6月)等が考えられる。18年中の同システムへのアクセス件数は、393,234件であった。
表1-13 サイバー犯罪等に関する相談の内訳(平成14年~18年)
(2)サイバー犯罪の取締りの推進
増加するサイバー犯罪に対応するため、これまでにサイバー犯罪対策に必要な法令の整備を進めてきたほか、態勢の強化等に努め、取締りの徹底を図っている。
〔1〕 法令の整備
ア 不正アクセス禁止法
他人の識別符号を不正に入力し、情報通信ネットワークを通じてコンピュータにアクセスする行為を禁止するとともに、当該行為の被害を受けたアクセス管理者からの申出により、都道府県公安委員会が再発防止のために必要な資料の提供、助言、指導等を行うことなどとしている。
イ 古物営業法
インターネット・オークションを営もうとする者の届出義務、盗品その他犯罪によって領得された物の疑いがある場合の申告義務、出品者の確認並びに取引記録の作成及び保存に関する努力義務、競りの中止命令等について規定している。
ウ 出会い系サイト規制法
出会い系サイトを利用して児童を相手方とする性交等や対償を伴う異性交際を誘引することなどを禁止するとともに、事業者に対しては、児童が利用してはならないことの明示及び利用者が児童でないことの確認を義務付け、これに違反した場合は、都道府県公安委員会が必要な措置を講ずるよう命ずることができることなどとしている。
〔2〕 態勢の強化
ア サイバー犯罪対策の強化・効率化のための体制の整備
複数の都道府県にまたがって敢行されるサイバー犯罪については、関係都道府県警察が捜査の重複を防ぎつつ、連携して対処する必要がある。このため、警察庁では、情報技術犯罪対策課を設置し、都道府県警察が行うサイバー犯罪捜査に関する指導・調整を行っているほか、捜査員の能力向上のための研修、産業界や外国関係機関等との連携、広報啓発活動等を推進している。
都道府県警察では、サイバー犯罪対策を効率的に進めるため、関係部門が連携の上、サイバー犯罪対策に関する知識及び技能を有する捜査員等により構成されるサイバー犯罪対策プロジェクトを設置している。また、サイバー犯罪捜査に必要な専門的技術・知識を有する捜査員を育成したり、民間企業でシステム・エンジニアとして勤務した経験を有する者をサイバー犯罪捜査官として採用したりしている。
図1-29 サイバー犯罪対策のための体制
イ 国による技術支援体制の確立
情報通信技術の発展に伴い、サイバー犯罪に悪用される技術が高度化し、その取締りには、高度な技術的知見が必要となったことから、警察庁では、サイバー犯罪対策に関し都道府県警察を技術的に指導する組織として情報通信局、管区警察局情報通信部及び都道府県(方面)情報通信部に情報技術解析課を設置している。また、警察庁技術センターでは、特に高度な暗号等で隠ぺいされた情報等の抽出・解析、コンピュータ・ウイルス等の不正プログラムの動作の解析等を行っている。
ウ デジタルフォレンジックの強化
コンピュータ、携帯電話等の電子機器があらゆる犯罪に悪用されるようになってきており、各種電子機器に保存されている電磁的記録の解析は捜査に不可欠となってきている。また、今後、法律や技術の専門家ではない一般国民が刑事裁判に参加する裁判員制度が導入されることから、客観的証拠の収集の徹底を図る必要がある。このため、消去、改ざん等が容易な電磁的記録を解析する技術や手続につき、その適正の確保が一層重要となる。
このため、警察では、電磁的記録の解析に係る知見の集約・体系化、外国関係機関、民間企業等との技術協力の実施等により、デジタルフォレンジック(注)の確立に向けた取組みを推進している。
図1-30 デジタルフォレンジック
〔3〕 国際連携
ア 国際的なサイバー犯罪捜査協力の推進
サイバー犯罪は、容易に国境を越えて行われることから、多国間協議の場で捜査機関相互の協力や各国国内の体制整備に関する議論が行われている。
警察庁は、G8各国がサイバー犯罪に対して共通して講ずるべき対策を検討するためにG8ローマ/リヨン・グループの下に置かれたハイテク犯罪サブグループや国際刑事警察機構(ICPO-Interpol)(注1)における、捜査手法に関する情報の交換や関係国の取締能力の向上についての検討に積極的に参加し、国際的な連携の強化に努めている。
また、国際的なサイバー犯罪に対する適時・効果的な対応を確保するため、平成19年3月現在、48か国・地域に24時間常時対応できる連絡窓口である24時間コンタクトポイントが設置されているが、我が国では警察庁にこれを設置し、国際捜査協力の円滑化を図っている。
このほか、2001年(13年)11月、欧州評議会でサイバー犯罪に関する条約が採択されたことから、我が国でも、16年4月に同条約の締結について国会の承認を得、現在、締結に向けた国内法の整備のため、不正アクセス禁止法、刑法及び刑事訴訟法の改正を含む犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案が国会で審議されている。
アジア大洋州地域サイバー犯罪捜査技術会議
イ 国際的なサイバー犯罪捜査技術協力の推進
警察庁では、犯罪の取締りに関する技術情報を共有し、相互の技術水準の向上を図ることを目的として、アジア大洋州地域の法執行機関を結ぶサイバー犯罪技術情報ネットワークシステム(CTINS)(注2)を整備・運用しており、19年3月現在、14の国・地域が参加している。さらに、CTINSに参加する国・地域のサイバー犯罪の捜査等に当たる技術者等を集め、アジア大洋州地域サイバー犯罪捜査技術会議を毎年度開催し、各国の相互理解を深めている。
(3)インターネット上の違法・有害情報対策の強化
〔1〕 サイバーパトロールの実施
都道府県警察では、ウェブサイトや電子掲示板等を閲覧して違法・有害情報(注3)の有無を調査するサイバーパトロールを実施している。違法・有害情報を発見した場合には、違法行為の検挙、プロバイダや電子掲示板の管理者等(以下「プロバイダ等」という。)に対する削除の要請等の措置を講じ、違法・有害情報の氾濫の防止に取り組んでいる。
〔2〕 インターネット・ホットラインセンターの運用
18年6月、警察庁ではホットラインに関する業務
(注1)を民間委託し、インターネット・ホットラインセンター(
http://www.internethotline.jp/)の運用が開始された。
同センターでは、18年6月の運用開始から同年11月までの6か月間において23,739件の通報を受理しており、プロバイダ等に対して924件の違法・有害情報の削除依頼を行い、そのうち722件が削除された。
インターネット・ホットラインセンターのウェブサイト
〔3〕 自殺予告事案への対応
近年、インターネット上で自殺を予告する事案や自殺の呼び掛けを通じて知り合った者同士が自殺する事案が多発している。業界団体では、警察庁及び総務省と連携し、17年10月にインターネット上の自殺予告事案への対応に関するガイドラインを策定した。都道府県警察は、プロバイダ等から、このガイドラインに基づき、自殺を予告する者等に関する情報の開示を受け、インターネット上での自殺予告事案に対応している。18年中は、75件の事案に対応し、43人の自殺を行うおそれのあった者について説諭等の措置をとり、自殺を防止した。
コラム1 フィルタリング導入の促進
インターネット上の違法・有害情報の氾濫がインターネット利用者に悪影響を与えており、特に、少年がこうした情報に気軽にアクセスし、児童買春等の被害に遭うといった事件が後を絶たない。このような違法・有害情報から少年を守るため、現在、コンピュータ及び携帯電話について、フィルタリング・ソフト又はサービス(注2)の提供が行われている。都道府県警察では、少年、保護者及び学校職員等を対象とする講演等を通じ、インターネット上の違法・有害情報の実態等を紹介するとともに、フィルタリング・ソフト又はサービスの導入を勧めている。また、例えば、インターネット・ホットラインセンターや警視庁では、蓄積した違法・有害情報のデータベースをフィルタリング・ソフト又はサービスの開発事業者に提供するなど、産業界と連携した取組みを推進している。
図1-31 フィルタリングの仕組み
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(4)サイバー犯罪の防止に向けた取組み
〔1〕 広報啓発活動
警察では、情報セキュリティに関する国民の知識及び意識の向上を図るため、警察やプロバイダ連絡協議会等が主催する研修会、学校関係者等からの依頼による講演会、地域の各種セミナー、情報通信技術関連イベント等の機会を活用して、情報セキュリティ・アドバイザー等が、犯罪手口の実演を交えるなどしてサイバー犯罪の現状、対策等について周知を図るサイバーセキュリティ・カレッジを実施している。
また、広報啓発用パンフレットを配布するほか、情報セキュリティ対策ビデオのケーブルテレビでの放映、特定非営利活動法人POLICEチャンネルのウェブサイト(
http://www.police-ch.jp/)等への掲載、警察署や図書館での貸出し等を推進したり、警察庁ウェブサイト(
http://www.npa.go.jp/)において新たなサイバー犯罪の手口を紹介したりして、インターネットを利用する際の注意喚起を行っている。
情報セキュリティ対策ビデオ
警察庁ウェブサイト
〔2〕 民間企業等との連携
警察庁では、13年度から、有識者、関連事業者、PTAの代表者等で構成する総合セキュリティ対策会議を開催し、情報セキュリティに関する産業界と政府の連携の在り方について検討している。平成18年度総合セキュリティ対策会議においては、インターネットカフェ等における匿名性の問題と対策等について議論を行った。これを踏まえ、警察庁では、インターネットカフェやプリペイド式データ通信カードの利用者の本人確認の実施、インターネット・オークションにおける代金支払いシステムの改善等、安全に、かつ、安心してインターネットを利用できる環境の整備に向けた関係事業者への働き掛けを進めている。
都道府県警察では、関係行政機関、プロバイダ、消費者団体等で構成されるプロバイダ連絡協議会等を設置し、サイバー犯罪の情勢や手口、サイバー犯罪被害防止等に関する情報交換を行っているほか、講習会等の実施、一般向け広報資料の作成等を行っている。