3 科学技術の活用 (1)DNA型鑑定  DNA型鑑定とは、個人の識別を目的としてDNA型(注)を鑑定することをいい、警察では、平成元年から犯罪捜査に活用している。  15年から、フラグメントアナライザーと呼ばれる自動分析装置を用いた鑑定法を導入しており、従来の方式による場合と比べて、より古い、より微量の資料からの鑑定が可能となったほか、検査が自動化されたため、鑑定に要する時間が短縮され、より効果的、効率的な鑑定を行うことが可能となった。 注:ヒトの個体のデオキシリボ核酸の塩基配列の特徴で、特定の座位における特定の塩基配列の繰り返しの回数等で表されるもの コラム1 DNA型の記録のデータベース化  16年12月から、犯罪現場等に被疑者が遺留したと認められる血痕等の資料(以下「遺留資料」という。)のDNA型の記録を登録し、検索する遺留資料DNA型情報検索システムの運用を開始し、17年9月には、DNA型記録取扱規則に基づき、遺留資料のDNA型の記録に加え、犯罪捜査上の必要があって適法に被疑者の身体から採取された資料(以下「被疑者資料」という。)のDNA型の記録を登録し、DNA型記録検索システムとして運用を開始した。  このシステムにより、新たに得た被疑者資料のDNA型とシステムに登録されている遺留資料のDNA型とを照合することで、その被疑者の余罪を効率的に捜査することができる。また、新たに得た遺留資料のDNA型とシステムに登録されている遺留資料のDNA型とを照合することで、これらの事件が同一の被疑者によって引き起こされたかどうかを検証することができる。さらに、新たに得た遺留資料のDNA型をシステムに登録されている被疑者資料のDNA型と照合することで、その遺留資料が誰のものであるかを迅速に検証でき、被疑者の迅速な特定に有用な情報を得ることもできる。  このほか、身元が明らかでない変死者等の身体から採取された資料のDNA型の記録とシステムに登録された被疑者資料のDNA型とを照合することで、変死者等の身元の確認を行うことができる。 DNA型記録検索システム 事例1  16年8月以降、奈良・大阪・兵庫の各府県警察は、それぞれの府県で連続して発生した強姦事件等に係る遺留資料のDNA型の記録を遺留資料DNA型情報検索システムに登録していたところ、17年11月までに、これら10事件の遺留資料のDNA型が一致したことから、これらが同一の被疑者によるものであることが判明した。そこで、同年12月から関係府県警察における共同捜査を実施した結果、18年2月、無職の男(42)を強盗強姦罪等で逮捕した。 事例2  滋賀県警察は、17年2月に発生した強制わいせつ事件の遺留資料のDNA型の記録を遺留資料DNA型情報検索システムにより照合した結果、岡山県警察が同システムに登録していた遺留資料のDNA型と一致したことから、これらの事件が同一の被疑者によって引き起こされたものであることが判明した。この結果を基に、両県警察が連携して捜査を進め、同年6月、会社員の男(36)を強制わいせつ罪で逮捕した。 (2)指紋自動識別システム、掌紋自動識別システム  指紋及び掌紋は、「万人不同」、「終生不変」の特性を有し、個人を識別するための資料として極めて有用であることから、犯罪捜査で重要な役割を果たしている。  警察庁では、昭和57年から、指紋の隆線の特徴点(端点と分岐点)を一定のパターンとしてコンピュータに登録し、照会した指紋が記憶しているパターンと一致しているかどうかを自動的に認識・分類するパターン認識技術を応用した指紋自動識別システムを導入し、遺留指紋の照合業務等を効率化した。平成10年からは、指紋を短時間で採取できるライブスキャナを導入し、現在ではすべての警察署に設置されている。  また、14年から、指紋自動識別システムと同様に、犯罪現場から採取した掌紋と被疑者から採取した掌紋を登録し、照会した掌紋と自動的に照合を行い、犯人を特定する掌紋自動識別システムを運用しており、指紋自動識別システムを併用することにより、事件の解決に役立てている。  ライブスキャナ(被疑者は模擬) 事例  17年2月に発生した建造物侵入等事件で、犯罪現場に置かれていた金庫の扉から、被疑者が遺留した可能性の高い掌紋を採取した。これを掌紋自動識別システムにより照合した結果、犯罪経歴のある電気工事作業員の男(38)から過去に採取した掌紋と一致したため、この男を取り調べたところ、犯行を自供した。同年3月、建造物侵入罪等で逮捕した(高知)。 (3)三次元顔画像識別システム  三次元顔画像識別システムとは、金融機関等に設置された防犯カメラで撮影された被疑者の顔が下を向いていたり、帽子やマスク等で顔が隠れていたりするため個人識別が困難な場合に、別に取得した被疑者の三次元顔画像を防犯カメラの画像と同じ角度、同じ大きさに調整した後、両画像を重ね合わせ、個人識別を行うシステムである。新たな鑑定法として期待されており、一部の府県警察で犯罪捜査に活用されている。  三次元顔画像識別システム(被疑者は模擬) (4)自動車ナンバー自動読取システム  自動車盗や自動車を利用した犯罪を検挙するためには、通過する自動車の検問を実施することが有効である。しかし、事件を認知してから検問を開始するまでに時間を要するほか、徹底した検問を行えば交通渋滞を引き起こすおそれがあるなどの問題がある。このため、警察では、昭和61年度から、通過する自動車のナンバーを自動的に読み取り、手配車両のナンバーと照合する自動車ナンバー自動読取システムの整備を進めている。 (5)プロファイリング  プロファイリングとは、犯行現場の状況、犯行の手段、被害者等に関する情報や資料を、統計データや心理学的手法等を用いて分析・評価することにより、犯行の連続性の推定や次回の犯行の予測、犯人の年齢層、生活様式、職業、前歴、居住地等の推定を行うものである。  被害者と犯人のつながりが薄い事件や、物証・目撃情報が乏しい事件のように、通常の捜査活動では解決困難な事件の捜査で効果を発揮することが期待されており、警察では、現在、普及に向けた取組みを推進している。 (6)犯罪情報地理分析システム  犯罪情報地理分析システムとは、地理情報システム(GIS)(注)を用いて、個々の犯罪データを電子地図上に表示し、地理的・時間的な犯罪発生状況の比較・分析を行うことなどにより、合理的・効率的な捜査力の運用、防犯対策の実施、警察官の配置等に役立てることを目的としたものである。 注:Geographic Information System  例えば、類似事件の抽出や未検挙事件の分析による余罪捜査、犯罪が多発する地域や時間に的を絞って捜査員を配置し、被疑者を検挙するよう撃捜査等に活用することが考えられる。  平成16年1月から17年3月にかけて、3県(群馬県、三重県、福岡県)で試験的に整備し、被疑者の検挙に結び付けるなどの成果を上げた。 コラム2 犯罪の検挙に向けた情報の総合分析  「人からの捜査」、「物からの捜査」が困難化する中、犯罪の迅速な検挙を確保するためには、犯罪関連情報を総合的に分析することにより捜査の方向性や捜査項目の優先順位の判断を支援する活動が重要である。警察庁では、平成18年4月、刑事局に情報分析支援室を設置し、統計分析や地理的分析に基づくプロファイリングを含めた情報の総合的な分析手法の導入を図っている。