(5)国際連携(第6章第15項(280頁)参照) 〔1〕 国際的なサイバー犯罪捜査協力の推進 ア G8ハイテク犯罪サブグループにおける取組み  サイバー犯罪及びサイバーテロは、容易に国境を越えて行われ、一国だけでは解決できない問題であることから、様々な多国間協議の場で捜査機関相互の協力や各国国内の体制整備に関する議論が行われている。  主要8か国(G8)(注1)各国がサイバー犯罪に対して共通して講ずるべき対策を検討するため、G8ローマ/リヨン・グループの下に置かれたハイテク犯罪サブグループでは、1997年(平成9年)12月のG8司法内務閣僚会合で策定された「ハイテク犯罪と闘うための原則と行動計画」に基づき、国際捜査協力や各国国内の体制整備に関する議論がなされている。 注1:日本、米国、英国、フランス、ドイツ、カナダ、イタリア及びロシア  「ハイテク犯罪と闘うための原則と行動計画」には、サイバー犯罪に関する国際捜査協力について24時間対応できる連絡窓口である24時間コンタクトポイントの指定が含まれているが、これは、国際的なサイバー犯罪に対する適時・効果的な対応確保のため、この分野に精通した職員からなるコンタクトポイントを通じて、迅速かつ信頼できる通信手段により連絡をとることを想定したもので、現在43か国・地域まで拡張され、サイバー犯罪の国際捜査協力に大きな役割を果たしている。我が国では、警察庁に24時間コンタクトポイントを設置し、国際的な対応を必要とする事件への対応の円滑化を図るとともに、二国間での情報交換を積極的に行うなど、サイバー犯罪の取締りに関する国際的な捜査協力を推進している。  また、ハイテク犯罪サブグループにおいては、重要インフラを防護するための各国の取組みに関する意見交換、情報の共有の在り方等についての議論が行われている。これらを踏まえ、G8各国を中心とした18か国(18年6月現在)による重要インフラの防護に関する情報を交換するための連絡窓口が設置されている。  さらに、2005年(17年)5月、G8各国の法執行機関が中心となった重要インフラの防護に関する図上訓練が実施され、警察庁も訓練に参加し、各国との連携強化に努めた。 イ その他の取組み  警察庁は、国際刑事警察機構(ICPO-Interpol)における捜査手法に関する情報の交換や関係国の取締能力の向上についての検討に積極的に参加し、国際的な連携の強化に努めている。  17年9月には、アジアの近隣諸国・地域との間でサイバー犯罪に関する捜査機関相互の連携を強化するため、中国、韓国、タイ、香港等の7か国・地域からサイバー犯罪捜査機関の幹部を招き、第7回アジア・南太平洋IT犯罪作業部会をICPOと共催した。  第7回アジア・南太平洋IT犯罪作業部会  また、18年4月には、児童ポルノ事犯等児童を被害者とするサイバー犯罪の国際的な動向について理解を共有するとともに、その捜査手法や捜査技術について習熟を図ることを目的として、アジア等の6か国からサイバー犯罪捜査担当者を招き、インターネット利用児童ポルノ事犯捜査セミナーをICPO及び児童失踪・児童虐待国際センター(ICMEC)(注2)と共催した。 注2:International Center for Missing&Exploited Children  さらに、警察庁は、二国間の捜査協力の一環として、同年5月に、英国の重大組織犯罪対策庁(SOCA)(注1)電子犯罪部との間で、ネットワーク情報その他の情報技術解析に関する協力を含めたサイバー犯罪の防止及び取締りのための国際協力を推進することを内容とする合意文書に署名した。 注1:Serious Organized Crime Agencyの略。違法薬物取引、人身取引、詐欺のほか、サイバー犯罪、通貨偽造、銃器犯罪等の組織犯罪を担当する英国の法執行機関。2006年(18年)4月1日に、国家犯罪捜査庁(NCS:National Crime Squad)、国家犯罪情報部(NCIS:National Criminal Intelligence Service)、歳入税関局の薬物取引及び金融犯罪捜査部門並びに入国管理局の組織的不法移民犯罪担当部門を統合して発足 〔2〕 国際的なサイバー犯罪捜査技術協力の推進  サイバー犯罪の国際捜査協力やサイバーテロに係る国際協力を進める上で、各国は、電磁的記録の解析手順や解析に使用するソフトウェア、電磁的記録媒体の取扱い等において、同等の技術水準を確保していることが望ましい。そこで警察庁では、技術水準の維持向上のため、各国の法執行機関等との情報共有や人材育成のための国際連携を推進している。 ア サイバー犯罪技術情報ネットワークシステム  警察庁では、13年3月から、犯罪の取締りに関する技術情報を共有し、相互の技術水準の向上を図ることを目的として、アジア地域の法執行機関を結ぶサイバー犯罪技術情報ネットワークシステム(CTINS)(注2)を整備・運用しており、18年6月現在、11の国・地域が参加している。ICPOアジア・南太平洋IT犯罪作業部会においても、この作業部会に参加する国・地域間の情報共有手段の一つとして活用されることが期待されている。 注2:Cybercrime Technology Information Network Systemの略。電子メール、電子掲示板及びデータベースの機能を備え、暗号化されたネットワークにより、各国の担当官が安全に情報を共有できる手段を提供している。 イ アジア地域サイバー犯罪捜査技術会議  警察庁では、CTINSに参加する国・地域との円滑な情報共有を推進するとともに、国際連携の強化を図るため、サイバー犯罪の捜査等に当たる技術者等を集めアジア地域サイバー犯罪捜査技術会議を12年度から毎年度開催している。この会議では、各国が実施しているサイバー犯罪への技術的対策について発表、議論及び意見交換を行い、各国の相互理解を深めている。  アジア地域サイバー犯罪捜査技術会議 ウ 人材育成  17年3月、警察庁は、電磁的記録媒体を解析するソフトウェアの使用方法等を指導するため、インドネシア国家警察に解析技術に精通した専門家を派遣した。また、18年1月には、ICPO及び国際協力機構(JICA)と共に、サイバー犯罪捜査技術に関して各国の指導的立場にある者の捜査技術の更なる向上のため、アジア地域等18か国のサイバー犯罪捜査担当者等を集めた、ICPO・IT犯罪捜査技術に関するトレーナー育成ワークショップを開催し、実践的な教育訓練を行った。  他方、警察庁では、サイバーフォース要員を外国の法執行機関等に派遣して実地訓練を受けさせるなど、国際的なサイバーテロ対策の動向を見据えた訓練を実施している。  インドネシア国家警察に対する技術支援 〔3〕 FIRSTへの参加  警察庁では、サイバーフォースを、情報セキュリティに関する最新の技術情報を共有し、適切な事案対処の促進を目的とする世界的な枠組みである事案対処及びセキュリティ組織のフォーラム(FIRST)(注)に参加させている。FIRSTには、世界各国から170以上の組織が官民を問わず参加しており、一般に公開されていない技術情報を共有している。警察庁のサイバーフォースは、17年11月、警察機関としては世界で初めてFIRSTに加盟することが認められた。 注:Forum of Incident Response and Security Teamsの略 コラム8 都道府県警察官と情報通信部職員の連携  警察庁には、地方機関として7の管区警察局と、府県ごとに府県情報通信部が置かれている。また、これとは別に、東京都警察情報通信部及び北海道警察情報通信部が置かれ、北海道警察情報通信部には、4の方面ごとに方面情報通信部が置かれている。これら都道府県(方面)情報通信部は、都道府県警察の行う捜査活動を技術的に支援するとともに、災害等の事案に際しては、機動警察通信隊を派遣し、現場活動に必要不可欠な通信の確保に努めるなど、都道府県警察と連携して様々な事案に対応している。  ここでは、都道府県警察官と情報通信部職員が連携してサイバー犯罪の解決に当たった事例を、実際に捜査に従事した者の手記により紹介することとする。 事例1  無職の男(39)は、平成16年6月から同年12月にかけて、インターネット・オークションにおいて家電製品を売ると偽り、延べ約500人の落札者から代金として合計約1億2,000万円を預貯金口座に振り込ませてだまし取った。17年6月、詐欺罪で逮捕した(北海道)。 北海道旭川方面旭川東警察署生活安全課 中村哲也 巡査部長  インターネット・オークションサイトなど利用したことのない私にとっては、この事件をどのように解決すればよいのか、途方に暮れていました。そんな中、情報通信技術のスペシャリストである旭川方面本部情報通信部情報技術解析課の協力を得て、被疑者の使用していたコンピュータに残されていた記録を解析し、その中から重要な資料を発見することができたのです。それが、それまで否認していた被疑者の供述の矛盾点を突くことになり、その結果としてこの事件の真相解明につながったのでした。  サイバー犯罪は技術の進歩とともにその手口も進化します。私自身、流れに乗り遅れないよう日々研鑽するとともに、今後もサイバー犯罪の捜査に当たって常に情報通信部との連携を深めていきたいと思っています。  西井技官(左)と中村巡査部長(右) 北海道警察情報通信部旭川方面情報通信部情報技術解析課 西井謙介 技官  インターネット・オークションは、だれでも気軽に参加できるというメリットがあるものの、被害に巻き込まれる可能性をなくすことができないのが実際のところです。  この事件の技術支援に当たっては、捜査員に同行し、捜索すべき場所や差し押さえるべき物を特定するために技術的な観点から助言をしたり、捜査員の指示の下でコンピュータに残されていた記録を解析したりしました。特にこの事件で使用されていたコンピュータは、非常に特殊な仕様であったため、解析作業は困難を極めました。しかし、様々な手法を用いて試行錯誤を繰り返した結果、最終的に解析を成功させ、事件の早期解決に貢献することができました。  このように、私たちが持っている技術や専門知識によって犯罪捜査の端緒情報や証拠資料を得ることができ、事件の早期解決に役立つことができたときの喜びは、何事にも代え難く、正に「技術屋」として誇りに思い、生きがいを感じた瞬間でもあります。  サイバー犯罪の技術は日々進歩しています。私たち「技術屋」も、日々自己研鑽に励まなければなりません。今後も、最新の技術に対応できるよう努力を重ねていきます。 事例2  出会い系サイトを運営する男(38)は、15年12月ころ、不特定多数の者に自己のウェブサイトを宣伝する内容を記載した迷惑メールを大量に送信した。男は、送信する際、迷惑メールが他の電気通信事業者から送信されたものであるかのように装い、当該事業者の使用するドメイン名を不正に使用して送信したため、あて先が不明となった電子メールが当該事業者に大量に返信され、その管理するサーバの機能を麻痺させた。17年5月、有線電気通信法違反(通信妨害)で逮捕した(京都)。 京都府警察本部生活安全部生活経済課ハイテク犯罪対策室 安達茂樹 警部補  この事件の捜査の過程では、被疑者が経営するアダルトサイト会社を捜索しましたが、社内に200台以上のコンピュータが設置されており、この大量のコンピュータの中から、この事件に使用されたものを特定することは非常に困難でした。  しかし、被疑者を検挙するという捜査員の執念と、情報通信部職員の高度な技術力が見事に結実して、そのコンピュータを特定することができ、そしてこれが突破口となって、この困難な事件を一気に解決することができました。  今から振り返れば、この捜査員と情報通信部職員との連携なくして、この事件の解決はあり得ませんでした。  情報化の進展に伴いサイバー犯罪は、今後、ますます悪質・巧妙化する傾向にあります。捜査力に一層磨きをかけ、また、情報通信部との連携を緊密にして、このような犯罪の検挙に全力を注いでいく覚悟です。 近畿管区警察局京都府情報通信部情報技術解析課 谷口優生 技官  私は現在、事件の捜索・差押え時の捜査員に対する技術支援や押収されたコンピュータを始めとする電子機器の解析を行っています。  捜索現場において技術支援を行うことは、この事件が初めてでしたが、事前の打合せでは、捜査員の方が非常に熱意を持って説明されていて、事件解決への意気込みを強く感じました。  捜索当日は、大量のコンピュータの中から事件に直接関与したコンピュータを探し出さなければなりませんでしたが、捜査員の気迫に押され、粘り強くコンピュータの特定作業に取り組み、結果としてそのコンピュータの特定及び事件全体の解明に大きく貢献することができました。  この事件の捜査では、捜査員の方に大変に感謝されました。このように感謝してもらえることは技術者として、無上の喜びであり、また、この事件の捜査を通じて、この種の事件を解決するためには、捜査員と技術支援員の両方の力を結集することの必要性を強く感じました。私としても、ここで得られた経験をいかし、今後とも、事件解決のため頑張っていくつもりです。