第6章 公安委員会制度と警察活動の支え 

第6章 公安委員会制度と警察活動の支え

1 警察改革の持続的断行~治安と信頼の回復に向けて~

 警察が、国民から負託された責務を全うするためには、警察に対する国民の理解と協力が不可欠であり、これらは、国民の信頼を基礎として得られるものである。国家公安委員会・警察庁は、平成12年8月に策定した「警察改革要綱」に基づき、国民の警察に対する信頼を回復するため、都道府県公安委員会・都道府県警察と共に警察改革に取り組んできた。
 国家公安委員会・警察庁では、同要綱策定後5年を経過したことから、その実施状況について総合評価方式による政策評価を実施し、17年12月、評価書を警察庁ウェブサイト(http://www.npa.go.jp)で公表した。ここでは、その概要を紹介する。

(1)改革に至る経緯
〔1〕 不祥事の続発と国民の批判
 平成11年9月以降、警察に関する不祥事案が相次いで発生・発覚した。12年3月、国家公安委員会は、警察の刷新・改革の方策について各界の有識者からの意見を聴取する場として、警察刷新会議の開催を求め、これを受け、同月、第1回会議が開催された。

〔2〕 警察刷新会議の緊急提言と警察改革要綱の策定
 警察刷新会議は、広範な国民の声を反映しつつ議論を行い、国民の納得の得られる提言をまとめるとの方針の下、11回にわたる会議を開催し、12年7月、「警察刷新に関する緊急提言」を取りまとめ、国家公安委員会に提出した。国家公安委員会・警察庁は、緊急提言を重く受け止め、国民からの厳しい批判を反省、教訓として、警察が当面取り組むべき施策を「警察改革要綱」として取りまとめた。

警察改革要綱(骨子)
 1 警察行政の透明性の確保と自浄機能の強化  3 新たな時代の要請にこたえる警察の構築
 2 「国民のための警察」の確立        4 警察活動を支える人的基盤の強化

(2)警察改革の主要な取組みとその推進状況
 警察改革要綱に盛り込まれた施策は、これまですべて実施に移されたが、その実施状況の概要は、次のとおりである。

〔1〕 情報公開の推進(第6章第3項(2)(255頁)参照)
 警察行政の透明性を確保し、国民に対する説明責任を果たすため、警察の施策を示す訓令・通達の公表を進めるとともに、都道府県警察に対して情報公開を推進し、各都道府県警察が情報公開条例の実施機関となる方向で検討を進めるよう指導してきた。これにより、警察庁では、平成17年6月30日現在、13年当時の4倍以上に当たる1,475件の通達等を公表しており、また、14年10月までに、すべての都道府県警察が情報公開条例の実施機関となった。
 
 図6-1 警察庁通達公表件数の推移
図6-1 警察庁通達公表件数の推移
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〔2〕 警察職員の職務執行に対する苦情の適正な処理(第6章第2項(3)(253頁)参照)
 苦情を組織的に適切に処理し、不適切な職務執行や非能率的な業務運営を把握してこれを確実に是正していくため、12年12月に警察法が改正され、都道府県警察の職員の職務執行について苦情がある者は、都道府県公安委員会に対し文書により苦情の申出をすることができることとされ、各都道府県公安委員会はこれに対して文書で処理結果を通知することとされた。また、文書によらない苦情、警察本部長等に対する苦情についても、所要の調査を行い、処理結果を通知している。これにより、警察に非があると認められる苦情については、問題点が検討・是正され、職務執行や業務改善等に反映されるなどしている。17年中の苦情受理件数は10,353件と、14年より3,533件減少し、また、18年1月までに処理した17年中の苦情のうち、警察に非があると認められるものは17.3%を占めた。

〔3〕 警察における厳正な監察の実施(第6章第2項(2)(253頁)参照)
 警察内部の自浄能力を高めるため、警察庁、管区警察局及び都道府県警察において監察担当官を増員するほか、都道府県警察で監察を掌理する首席監察官を、すべて国家公安委員会の任命に係る地方警務官とするなど監察体制を強化するとともに、監察に関する規則に基づく厳正な監察を実施している。これにより、警察庁及び管区警察局による監察実施回数が大幅に増加しており、17年度の実施回数は1,409回と、12年度より801回増加した。また、都道府県警察においては、年1回以上ほぼすべての警察署に対し監察が実施されている。
 また、職員の懲戒処分の指針及び懲戒処分公表の指針を策定・公表し、これに基づいて懲戒処分の実施及び公表を行っている。

〔4〕 公安委員会の管理機能の充実と活性化(第6章第2項(2)(253頁)、第5項(258頁)参照)
 警察に対する管理機能を充実させるため、12年1月、監察に関する規則を制定し、監察の実施状況を公安委員会に四半期に一度報告することなどを義務付けるとともに、同年12月の警察法の改正により、公安委員会の警察に対する監察の指示権が規定されたほか(注)、13年4月、警察庁長官官房に課長級の国家公安委員会会務官を新設するなど国家公安委員会及び都道府県公安委員会の補佐体制が強化された。これにより、公安委員会の監察をチェックする機能の実効性が確保されるとともに、公安委員会の会議の開催時間や開催回数が増加するなど、審議の充実が図られており、また、会議以外の活動も活発に行われ、公安委員会の第三者的管理機能の充実が図られている。

注:これまで、神奈川県公安委員会(13年4月)及び奈良県公安委員会(同年7月)が、警察職員による不祥事案の発生に際して各県警察に対し監察を指示したほか、予算執行に関する不適正事案の発生に際して、北海道公安委員会及び福岡県公安委員会が、各道県警察に対し監察を指示した。


〔5〕 警察安全相談の充実(第2章第3節第7項(5)(135頁)参照)
 住民からの相談に的確に対応し、犯罪等による被害の未然防止の徹底等を図るため、警察安全相談員の配置等による体制整備、相談担当職員に対する教育の徹底及び関係機関との連携の強化等を図っている。これにより警察安全相談が充実するとともに、警察内部においても相談業務の重要性に関する意識改革が進んでいる。

〔6〕 告訴・告発への取組みの強化
 告訴・告発を適正に受理し、迅速に事件を処理するための体制を確立するため、地方警察官の増員等により体制を強化するなどした。この結果、未処理件数は一貫して減少している。

〔7〕 職務執行における責任の明確化
 警察官等の職務執行における責任を明確化し、職務執行の適正を担保するため、窓口職員等の名札の着用、警察官個人を特定できる識別章の着装及び警察手帳の形状変更を行った。これにより、職員の職責に関する自覚が促されている。

〔8〕 警察署協議会の設置(第6章第3項(254頁)参照)
 12年12月に警察法が改正され、13年6月から警察署協議会制度が発足した。
 18年6月1日現在、1,219警察署中1,215警察署に協議会が設置されている。外国人や学生を含め、幅広い分野、年齢層等から委員が委嘱され、警察署協議会は地域住民の要望・意見を把握するとともに、警察活動について地域住民の理解と協力を得る場として機能している(注)

 
注:平成15年11月から16年1月にかけて、警察庁が9都道県の警察署協議会委員2,814人(回答数2,663人)を対象に実施した、警察署協議会の運営状況に関する調査では、警察署協議会において発言された意見等が警察署の業務運営に反映されているか尋ねたところ、「思う」又は「やや思う」と回答した者が92.2%に上ったほか、委員となった後、警察業務の内容や地域の治安情勢に対する理解度が変わったか尋ねたところ、「理解が高まった」又は「理解がやや高まった」と回答した者が96.7%に上った。


コラム1 警察に対する国民の信頼

 警察庁では、16年12月から17年1月にかけて、全国20歳以上の男女2,000人(回収数:1,408人)を対象に、警察に関する世論調査を実施した。その結果、警察を信頼しているかとの質問については、「信頼している」又は「どちらかと言えば信頼している」と回答した者が60.9%、「どちらかと言えば信頼していない」又は「信頼していない」と回答した者が31.3%を占め、警察を信頼している者が警察を信頼していない者の1.9倍に上ったが、依然として警察を信頼していない者が相当数存在することが明らかとなった。
 なお、警察を信頼している理由及び信頼していない理由を尋ねた結果は、次のとおりであった。
 
 図6-2 警察に対する信頼
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 図6-3 警察を信頼している理由
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 図6-4 警察を信頼していない理由
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(3)警察改革の持続的断行
 国家公安委員会・警察庁は、「警察改革要綱」に掲げる施策をすべて実行に移し、また、厳しい治安情勢に対処するため、警察改革の精神の下、治安回復に取り組んできた。
 しかしながら、警察の予算執行をめぐる不適正事案が相次いで判明し、また、非違事案が依然として少なからず発生している。さらに、刑法犯認知件数は昭和40年代の約2倍近くの水準にあるなど、治安情勢は依然として厳しい状況にあり、警察改革は、いまだ道半ばにある。
 国家公安委員会・警察庁は、国民からの厳しい批判を反省、教訓として「警察改革要綱」を策定した原点に立ち返り、警察改革を持続的に断行するため、17年12月、評価書の公表と同時に、「警察改革の持続的断行について」と題する、次の5項目から成る指針を取りまとめた。警察では、この指針に基づき今後とも持続的に改革を断行し、その実施状況を検証していくこととしている。
〔1〕 「警察改革要綱」の着実な実施と充実
〔2〕 治安の回復
〔3〕 幹部を始めとする職員の意識改革
〔4〕 不祥事の防止
〔5〕 公安委員会の管理機能の一層の充実強化と警察改革の推進状況の不断の検証

コラム2 国民が求める信頼回復のための施策

 平成16年12月から17年1月にかけて警察庁が実施した世論調査(注)の結果をみると、警察が信頼を回復するために力を入れるべき施策として「パトロールの強化」を挙げた者が最も多く(38.8%)、次いで「警察安全相談の充実」(21.9%)、「少年犯罪対策の強化」(18.5%)等、治安対策に係る施策を挙げる者が多かった。他方、「警察職員の職務執行に対する苦情の適切な処理」(15.6%)、「職務執行における責任の明確化」(14.3%)等を挙げる者も一定程度いた。国民の警察に対する信頼を回復するためには、今後も、治安対策だけでなく、これを含む「警察改革要綱」に掲げる施策全般に取り組むことが不可欠であると考えられる。

注:250頁の世論調査と同一のもの

 
 図6-5 信頼回復のための施策
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