第5章 公安の維持と災害対策

9 大衆運動の動向

 平成17年中の大衆運動は、自衛隊のイラク派遣、在日米軍の再編等を闘争課題に挙げて取り組まれたが、15年の米国等によるイラクに対する武力行使や、16年の自衛隊のイラク派遣をとらえた取組みのような一般市民を大きく巻き込むような盛り上がりはみられなかった。
 また、労働組合、大衆団体等は、憲法改正手続を定める国民投票法案や、教育基本法案等を闘争課題としてとらえ、大衆運動の盛り上げを図った。

(1)イラク反戦運動
 これまで自衛隊のイラク派遣に反対してきた労働組合、大衆団体等は、米国等によるイラクに対する武力行使から2年が経過する平成17年3月、東京都内で集会やデモを行ったが、参加者数は16年の約3万人から大幅に減少して、約4,500人(主催者発表)にとどまり、自衛隊のイラク派遣をとらえた反戦運動の沈静化を示す結果となった。
 17年10月には、陸上自衛隊第八次イラク復興支援群の派遣に際して、熊本市に約3,500人(主催者発表)を集め、集会やデモに取り組んだが、全国に波及するような盛り上がりにはつながらなかった。
 また、同年12月、自衛隊のイラクへの派遣期間を1年間延長する閣議決定に対し、東京都台東区内に約1,000人(主催者発表)を集め、集会やデモに取り組んだが、一般市民を大きく巻き込むような盛り上がりはみられなかった。
 
 自衛隊のイラク派遣延長に対する抗議行動(共同)
写真 自衛隊のイラク派遣延長に対する抗議行動(共同)

(2)反原発運動
 平成17年4月、青森県が日本原燃株式会社とウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料工場の建設計画に同意する旨の基本協定を締結することに対し、同県内の反原発団体が、調印式会場付近において抗議行動に取り組んだ。
 また、7年12月にナトリウム漏れ事故を起こし運転を停止している高速増殖炉「もんじゅ」の再稼働をめぐり、福井県内の住民らが原子炉設置許可の無効確認を求めた訴訟で、最高裁判所は、17年5月、名古屋高等裁判所金沢支部判決を破棄し、住民側の請求を棄却する判決を出したが、この判決に対し、福井県内の反原発団体は、同年6月、同県内で抗議集会を開催した。
 また、九州電力株式会社の玄海原子力発電所におけるプルサーマル計画(注)に抗議し、同年5月及び9月、地元漁民らが佐賀県玄海町外津湾で海上デモを行った。
 しかしながら、いずれの抗議行動も、大きな盛り上がりはみられなかった。

注:原子力発電所から出る使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、ウランとの混合酸化物(MOX)燃料に加 工して、再び通常の原子力発電所で燃やす計画


 
 玄海原子力発電所のプルサーマル計画に対する抗議集会(共同)
写真 玄海原子力発電所のプルサーマル計画に対する抗議集会(共同)

(3)海外から波及した過激な大衆運動
 平成13年12月以降、反グローバリズムを掲げる海外団体の関連組織が結成されるなど、海外において活発化している反グローバリズム運動は、我が国でも、運動基盤の広がりをみせている。
 国内の反グローバリズム団体、労働組合、大衆団体等の中には、17年1月にブラジルのポルトアレグレで開催された世界の反グローバリズム運動の国際会議(世界社会フォーラム)に参加したものもある。また、同年11月には、韓国の釜山で開催されたAPEC首脳会議及び閣僚会議において、さらに、同年12月には、香港で開催された世界貿易機関(WTO)第6回閣僚会議において、自由貿易や経済のグローバル化に反対する現地の集会、デモに参加した。このように国内の反グローバリズム団体等は海外の反グローバリズム団体との連携を深めている。
 環境保護団体「グリーンピース」の元構成員が昭和52年に結成した環境保護団体「シー・シェパード(Sea Shepherd)」は、平成17年10月8日を「ジャパン・ドルフィン・デー」と称して、在外日本公館等に対して日本のいるか漁に対する抗議行動を行った。また、「グリーンピース」と「シー・シェパード」は、同年12月から18年1月にかけて、南極海で調査捕鯨を行っていた日本の船舶に対し、船舶を用いて執拗に追跡するなどして妨害活動を実施した。動物実験の完全廃止を訴えて、過激な活動を展開している「ストップ・ハンティンドン・アニマル・クルエルティ(SHAC)」は、17年1月及び8月、在英国日本大使館への抗議行動を行い、同年9月、全世界に対し、ウェブサイトで動物実験受託会社と関係のある日本企業等に抗議する電子メールの送付を呼び掛けたほか、欧米を中心に不定期に日本企業の海外支店等への抗議行動を行った。
 
WTO第6回閣僚会議に対する抗議行動(時事)
写真 WTO第6回閣僚会議に対する抗議行動(時事)

 9 大衆運動の動向

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