第3章 組織犯罪対策 

3 総合的な薬物対策

(1)政府の薬物対策
 薬物問題は治安の根幹にかかわる重要な問題であり、政府一体となった対策が進められている。薬物乱用対策推進本部(本部長:内閣総理大臣、副本部長:国家公安委員会委員長、法務大臣、財務大臣等)は、平成15年7月、「薬物乱用防止新五か年戦略」を策定するとともに、水際対策が重要となっていることから、「薬物密輸入阻止のための緊急水際対策」を策定し、これらに基づく総合的な薬物対策を推進している。

コラム1 「薬物乱用防止新五か年戦略」

 薬物乱用対策推進本部は、第三次覚せい剤乱用期の終息に向けて、10年5月に「薬物乱用防止五か年戦略」を策定したが、覚せい剤事犯の検挙者数は引き続き高い水準にあるなど、同乱用期は依然として継続していたこと、また、水際における薬物の大量押収、通信手段の発達等により摘発が困難となっていたことなどから、15年7月、新たに「薬物乱用防止新五か年戦略」を策定した。
 同戦略は、「第三次覚せい剤乱用期の一刻も早い終息に向けて総合的に対策を講ずるとともに、世界的な薬物乱用問題の解決に我が国も積極的に貢献する」ことを基本目標に、中・高校生を中心に薬物乱用の危険性の啓発を継続するなどの青少年対策、薬物密売組織の壊滅を図るなどの密売対策、薬物の密輸を水際で食い止めるなどの水際対策及び国際協力、薬物依存・中毒者の治療、社会復帰の支援によって再乱用を防止するなどの再乱用防止対策を目標として掲げている。

(2)警察の薬物対策
〔1〕 供給の遮断
 我が国で乱用されている薬物のほとんどが海外から流入していることから、これを水際で阻止するため、税関、海上保安庁等の関係機関との連携を強化するとともに、外国の取締機関等との情報交換を緊密に行っている。
 また、薬物犯罪組織の壊滅を図るため、コントロールド・デリバリー等の効果的な捜査手法を活用した捜査を推進しているほか、密売人等をより重く処罰するため、麻薬特例法の規定に基づき、業として行う密輸・密売等の検挙を推進している。さらに、同法に規定されているマネー・ローンダリング行為の検挙や薬物犯罪収益の没収・追徴の徹底等の対策を推進し、薬物犯罪組織に資金面から打撃を与えている。
 
 表3-14 コントロールド・デリバリーの実施件数(平成8~17年)
表3-14 コントロールド・デリバリーの実施件数(平成8~17年)
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 表3-15 麻薬特例法違反(5条)事件数の推移(平成8~17年)
表3-15 麻薬特例法違反(5条)事件数の推移(平成8~17年)
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〔2〕 需要の根絶
 薬物乱用は、乱用者自身の精神、身体をむしばむばかりではなく、幻覚、妄想等により、乱用者が殺人、放火等の凶悪な事件や重大な交通事故等を引き起こすこともあり、社会の安全を脅かすものである。
 薬物の需要の根絶を図るためには、社会全体に、薬物を拒絶する規範意識が堅持されていることが重要である。警察では、末端乱用者の検挙を徹底するとともに、広報啓発活動を行い、薬物の危険性・有害性についての正しい知識の周知を図っている。

 
 表3-16 薬物常用者(注)による犯罪の検挙人員(平成16、17年)
表3-16 薬物常用者による犯罪の検挙人員(平成16、17年)
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注:覚せい剤、麻薬、大麻、あへん、向精神薬を常用している者及びトルエン等の有機溶剤又はこれらを含有するシンナー、接着剤等を常習的に乱用している者をいい、中毒症状にあるかどうかを問わない。

 
 薬物乱用防止キャンペーン
写真 薬物乱用防止キャンペーン

 
 第11回アジア・太平洋薬物取締会議
写真 第11回アジア・太平洋薬物取締会議

(3)国際協力の推進(第6章第15項(280頁)参照)
 薬物の不正取引は、薬物犯罪組織により国境を越えて行われており、一国のみでは解決できない問題である。主要国首脳会議(サミット)、国際連合等の国際的な枠組みの中でも、地球規模の重大な問題として、その解決に向けた取組みが進められている。警察では、捜査員の相互派遣、国際会議への参加を通じた情報交換等の国際捜査協力のほか、関係国に対する薬物捜査に関する技術支援を推進している。
 例えば、平成17年2月には、28か国、2地域、1国際機関の参加(オブザーバーを含む。)を得て、第11回アジア・太平洋薬物取締会議を東京で開催し、国際共同捜査の効果及び必要性等について討議を行ったほか、同年9月から10月にかけて、独立行政法人国際協力機構(JICA)と共催で、アジア、中南米等の17か国から薬物取締機関の上級幹部を招へいし、薬物取締りに関する情報交換と日本の捜査技術の移転を図るための薬物犯罪取締セミナーを開催した。

 第3節 薬物銃器対策

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