第3章 組織犯罪対策 

2 犯罪収益対策

(1)マネー・ローンダリング事犯の検挙状況
 マネー・ローンダリング(資金洗浄)行為(注1)は、当初、不正によって処罰されていたにすぎなかったが、平成12年2月に組織的犯罪処罰法が施行されたことにより、その前提犯罪(注2)が59(現在66)の法律に係る犯罪に拡大され、不法収益等による法人等の事業経営の支配を目的とする行為が処罰の対象となるなど、その処罰範囲が拡大されている。警察では、両法を的確に運用し、犯罪収益等のはく奪を図っている。
 17年中は、マネー・ローンダリング事犯を、麻薬特例法違反で5件、組織的犯罪処罰法違反で107件検挙した。このうち、麻薬特例法違反の検挙件数の80%、組織的犯罪処罰法違反の検挙件数の44.9%を暴力団構成員及び準構成員によるものが、また、同法違反の検挙件数の3.7%を来日外国人によるものが占めている。

注1:犯罪によって得た収益の出所や真の所有者が分からないようにして、捜査機関の発見・検挙から逃れようとする行為
 2:不法な収益を生み出す犯罪であって、その収益がマネー・ローンダリング行為の対象となる犯罪


 
 表3-1 マネー・ローンダリング事犯検挙件数(平成12~17年)
表3-1 マネー・ローンダリング事犯検挙件数(平成12~17年)
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事例
 山口組傘下組織会長(52)らは、15年4月から17年8月にかけて、違法に収益を上げている東京都目黒区の売春クラブの店長から、用心棒代として合計130万円を受け取った。17年11月、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受)で逮捕した(警視庁)。

(2)起訴前の犯罪収益等の没収保全の適用状況
 没収すべき犯罪収益等が隠匿等され没収できなくなる危険を回避するため、起訴前においても、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。)の請求を受け、裁判官の命令によりその処分を禁止することができる。
 平成17年中、警察官たる司法警察員から裁判官に対し、組織的犯罪処罰法及び麻薬特例法に基づく起訴前の没収保全命令をそれぞれ8件請求し、そのすべてについて裁判官から命令が発出されている。
 
 表3-2 起訴前の犯罪収益等の没収保全命令(平成12~17年)
表3-2 起訴前の犯罪収益等の没収保全命令(平成12~17年)
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(3)疑わしい取引に関する情報の届出
 警察庁は、我が国の金融情報機関(FIU)(注1)である金融庁の特定金融情報室から、金融機関等から届出がなされた疑わしい取引の情報について提供を受け、提供を受けた情報に分析・検討を加えた上で、各都道府県警察にこの情報を提供している。各都道府県警察では、この情報を端緒として捜査を行っている。

注1:Financial Intelligence Unitの略。金融機関等による疑わしい取引に関する届出を犯罪捜査に有効に活用できるようにするため、各国が情報を一元的に集約・分析して捜査機関等に提供する機関として設置しているもの。1998年(10年)のバーミンガム・サミットにおいて、その設置が合意された。


 
 表3-3 警察庁が金融庁から情報提供を受けた件数(平成12~17年)
表3-3 警察庁が金融庁から情報提供を受けた件数(平成12~17年)
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(4)マネー・ローンダリングに対する国際的な取組みと我が国の対応
 犯罪収益は、相対的に規制の緩い国に流入していく傾向がある。そのため、マネー・ローンダリングを防止するためには、各国が連携して規制の在り方を検討し、その平準化に努める必要がある。我が国はこれまで、金融活動作業部会(FATF)(注2)やアジア・太平洋マネー・ローンダリング対策グループ(APG)(注3)における国際的基準の策定や普及等に参画しており、警察庁もこの活動に貢献している。
 FATFでは、1990年(平成2年)、法執行、刑事司法、金融規制の各分野で各国がとるべきマネー・ローンダリング対策を示した「40の勧告」を策定・公表し、1996年(8年)には、マネー・ローンダリングの前提犯罪を拡大するなどの改訂を行った。
 また、2001年(13年)にはテロ資金対策を目的とした「テロ資金供与に関するFATF特別勧告(8の特別勧告)」を策定し(注4)、2003年(15年)には、マネー・ローンダリングの技術がより巧妙化したことなどから、「40の勧告」をより包括的な指針とすべく、非金融機関への対象の拡大等を内容とする再改訂を行った。

注2:Financial Action Task Forceの略。1989年(元年)のアルシュ・サミットにおいて、マネー・ローンダリング対策の推進を目的として設置された国際的な枠組みであり、マネー・ローンダリング及びテロ資金対策に関する国際的な基準の策定及び普及並びに国際協力の推進に指導的な役割を果たしている。17年10月現在、OECD加盟国を中心に31の国・地域及び2国際機関により構成されている。
 3:Asia/Pacific Group on Money Launderingの略。1997年(9年)にタイで開催されたFATF第4回アジア・太平洋マネー・ローンダリング・シンポジウムで設置が決定された国際的な枠組みであり、アジア・太平洋地域内のマネー・ローンダリング及びテロ資金対策に取り組んでいる。18年4月現在、31の国・地域により構成されている。なお、16年7月、我が国はオーストラリアと共に共同議長国となった。
 4:2004年(16年)には、キャッシュ・クーリエ(現金等支払手段の輸出入)に関する項目が追加され、「9の特別勧告」となっている。


〔1〕 我が国の対応
 我が国では、16年12月に国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部において、FATF勧告の実施について盛り込んだ「テロの未然防止に関する行動計画」を決定し、17年11月には、警察庁が同勧告を実施するための法律案を作成するとともに、FIUを金融庁から警察庁に移管することが決定された。
 さらに、18年6月には、顧客等の本人確認、取引記録の保存及び疑わしい取引の届出義務の制度を国家公安委員会・警察庁が主管し、また、従来の金融機関等に加え、宝石・貴金属商、不動産業、弁護士・公認会計士その他の法律・会計の職業的専門家等にも当該義務を課す方向で検討を進めることなどを内容とする「犯罪収益流通防止法案(仮称)の考え方」及び「犯罪収益流通防止法案(仮称)の概要」が、国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部において決定され、犯罪対策閣僚会議に報告された。

 第1節 組織犯罪の情勢

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