4 街頭犯罪・侵入犯罪抑止総合対策  刑法犯の認知件数は、平成8年以降急増したが、中でも街頭での強盗やひったくり、住宅等に侵入して行われる強盗や窃盗等の増加が顕著であった。こうした街頭犯罪・侵入犯罪は、平穏な日常生活の場で行われるものであるため、その急増が国民に大きな不安を与えてきた。  このため、警察では、街頭犯罪及び侵入犯罪の発生を抑止するため、15年1月から「街頭犯罪・侵入犯罪抑止総合対策」を推進している。各都道府県警察では、地域の犯罪発生実態に応じ、重点を置くべき地域や犯罪類型を絞った計画を策定し、これに基づく総合対策を実施している。 (1) 犯罪情報分析システムの構築と活用  警察では、犯罪発生実態を多角的に分析することにより、迅速・的確な捜査活動を行うとともに、効果的に犯罪の発生を抑止するため、犯罪情報分析システムを構築している。  例えば、京都府警察では、犯罪統計では把握することのできない、被疑者の犯行状況とその際の被害者の行動、被疑者や被害品の詳細な特徴等を、毎日、犯罪を認知した警察署から警察本部へ報告させている。警察本部では、これを分析してより詳細に犯罪の発生状況を明らかにし、直ちにその結果を各警察署に伝達して、防犯活動や検挙活動への活用を図っている。 (2) 街頭活動の強化  警察では、街頭犯罪・侵入犯罪の抑止対策を効果的に推進するため、犯罪の多発する地域や時間帯に重点を置くなど、犯罪発生実態に即した警戒活動・取締活動を実施している。  このため、交番・駐在所の地域警察官による街頭パトロールを強化しているほか、警察本部の自動車警ら隊、機動隊、交通機動隊等の部隊を重点地区・時間帯に集中的に投入している。また、各部門の警察官を集めた特別の捜査班や、平素は執務室で勤務する警察官も組み入れた特別の警戒部隊を編成するなど、体制の強化に努めている。 事例  大阪府警察では、府下で発生したひったくりの約7割がオートバイによる犯行であることから、機動性に優れたオートバイによりパトロール等を行う「大阪スカイブルー隊」を設置した。また、警察本部の交通機動隊の白バイやパトカー、航空隊のヘリコプター、機動隊を、ひったくりが多発する地域や時間帯に投入し、警戒活動・取締活動を実施した。こうした対策が奏功し、平成16年中のひったくりの認知件数は、前年より1,417件(18.1%)減少した。 (3) 秩序違反行為の指導取締りの強化  街頭犯罪や侵入犯罪の発生を抑止するためには、当該犯罪そのものの検挙だけでなく、刃物や侵入器具の携帯、いわゆるピンクビラのはり付けや街頭で公然と行われる客引き行為等の秩序違反行為についても、適切な指導取締りを行う必要がある。警察では、こうした指導取締りが、国民の規範意識を高めるとともに、街頭犯罪を含めた犯罪全体の抑止にもつながると考えており、これらの違反行為を見過ごすことなく、事案の内容に応じて的確に指導、警告、検挙を行っている。  具体的には、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律に規定されているピッキング用具等の特殊開錠用具等の所持・携帯、軽犯罪法に規定されている凶器や侵入器具の携帯、銃砲刀剣類所持等取締法に規定されている刃物の携帯、各都道府県で定めている迷惑行為等を防止するための条例に規定されている粗暴行為、客引き行為等の検挙活動を強化している。 表3-6 主な秩序違反行為の送致件数、送致人員の推移(平成12~16年) (4) 乗り物盗対策とひったくり対策  [1] 乗り物盗対策  警察庁、財務省、経済産業省、国土交通省と民間17団体は、自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチームを立ち上げ、「自動車盗難等防止行動計画」(平成17年4月改訂)を策定し、イモビライザ等を備えた盗難防止性能の高い自動車の普及、自動車の使用者に対する防犯指導及び広報啓発、盗難自動車の不正輸出防止対策等を推進している。  また、警察では、オートバイ盗の防犯対策として、製造業者に車両盗難の実態や手口に関する情報を提供することなどにより、メインスイッチ部(キー部分)の破壊防止対策の高度化を支援するとともに、イモビライザ等盗難防止装置の普及を促進している。あわせて、販売店等の協力を得ながら利用者に対する広報啓発活動を行い、二重施錠の励行や防犯登録制度の普及を促進している。 自動車盗防止ポスター  さらに、自転車盗の防犯対策として、利用者に施錠の励行や防犯登録を呼び掛けているほか、関係業界に対し、破壊されにくい強じんな錠の開発や既存の錠の改善を要請している。  [2] ひったくり対策  ひったくり事件の多発を受けて、警察では、その発生状況や手口を分析し、ひったくりの被害防止に効果のあるかばんの携行方法、通行する道路の選び方等について重点的に指導啓発を行っている。また、防犯協会や自転車関係業界と協力して、自転車の前かごに取り付けるひったくり防止ネットや防犯ブザー等の防犯製品の普及を促進している。 (5) 侵入犯罪対策  平成14年まで多発していたピッキング用具を使用する侵入窃盗の認知件数は、16年には4,355件と、前年より4,996件(53.4%)減少した。また、15年に多発したドリルを使用したサムターン回しによる侵入窃盗の認知件数は、16年には1,763件と、前年より2,603件(59.6%)減少した。これらの大幅な減少は、15年9月から施行された特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律により、正当な理由によらない特殊開錠用具の所持及び指定侵入工具の隠匿携帯の取締りを強化したことや、侵入手段の巧妙化について広報するなど国民に対して防犯対策の実施を呼び掛けたことによる効果であると考えられる。  同法のうち、指定建物錠の防犯性能の表示に関する規定が16年1月から施行され、シリンダー錠等について、ピッキングにより解錠するまでに要する時間等、製造・輸入業者が表示すべき事項やその表示方法が統一的に定められ、それに基づく表示制度の運用が同年4月から開始された。これは、消費者が建物錠の製品を選択する上での指標となるものであり、市場原理の下で、防犯性能の高い建物錠の開発・普及が促進されることが期待される。  また、警察庁では、14年11月以降、国土交通省、経済産業省、建物部品関連の民間団体と共に、防犯性能の高い建物部品の開発・普及に関する官民合同会議を開催している。16年4月には、侵入までに5分以上の時間を要するなど一定の防犯性能があると評価した製品を掲載した「防犯性能の高い建物部品目録」をウェブサイトで公表した。また、同年5月には、この目録に登載された建物部品に共通して使用する標章である「CPマーク」(Crime Prevention(防犯)の頭文字を図案化したもの)を制定し、防犯性能の高い建物部品の普及に努めている。17年4月現在、目録に掲載された部品は16種類、2,638品目に上っている。 CPマーク 窓ガラスの防犯性能試験 (6) 店舗対象の強盗対策  金融機関を対象とした強盗事件が多発し、銃器等の凶器を使用した凶悪な事案が増加していることから、警察では、金融機関の防犯体制や店舗の構造、防犯設備等に関する基準を定め、これに基づき、関係機関・団体に対する防犯指導を推進している。  また、都市部を中心に、深夜におけるコンビニエンスストアやスーパーマーケットを対象とした強盗事件が急増していることから、警察では、防犯体制、現金管理の方法、店舗の構造等について定めた「コンビニエンスストア・スーパーマーケットの防犯基準」を策定し、これに基づいて防犯指導を行っているほか、防犯訓練や警察官による巡回を実施している。  他方、コンビニエンスストアは、地域の要所に所在し、深夜にも従業員が稼働しているため、効果的に地域安全活動の一翼を担うことができることから、警察では、自主防犯対策の強化、未成年者に対する酒類・たばこの販売や少年の深夜はいかい等の問題への対応等について協力を求めるとともに、「子ども110番の家(注)」や防犯連絡所に指定するなど、コンビニエンスストアの地域安全活動への参画(セーフティステーション化)を推進している。 注:警察署、地区防犯協会、教育委員会等から嘱託を受け、子どもが犯罪の被害に遭ったり、つきまといや声かけ等により不安を抱くなどして助けを求めてきたりした際に、一時的な保護や警察への通報等を行う民家、商店等 コンビニエンスストア防犯指導者研修会の模擬強盗訓練 (7) タクシーや自動販売機の防犯対策  タクシーを対象とした強盗事件が、都市部を中心に多発していることから、警察庁では、タクシー強盗防犯対策会議を開催し、関係機関・団体の協力を得て、平成16年3月、防犯責任者の指定・任務、乗務員の平素の心構えや身の危険を感じた際の対処要領、車両に備えるべき防犯設備等について定めた「タクシーの防犯基準」を策定し、これに基づき事業者に対して防犯指導を行っている。  また、自動販売機の製造業者に対しては、盗難の手口に関する情報を提供し、破壊や盗難に強い自動販売機の開発・普及、警報器の設置等の防犯対策を講じるよう働き掛けている。自動販売機の設置者に対しては、自動販売機内に保管されている売上金の早期回収や定期的な点検等の自主的な警戒を徹底するよう指導している。