第6章 公安の維持と災害対策 

10 大衆運動の動向

(1) 新たな闘争課題を模索する大衆運動
 平成16年中の大衆運動は、自衛隊のイラク派遣をとらえた反戦運動や、沖縄県宜野湾市の米軍ヘリ墜落事故を契機とした反基地運動のように、注目度の高い事象をとらえて取り組まれたが、一般市民を大きく巻き込むことはなかった。反戦運動や反基地運動の中心は、既成の労働組合や大衆団体であり、15年の米国等によるイラクに対する武力行使直前の際の反戦運動のような、多数の一般市民の参加はみられなかった。反基地運動では、宜野湾市での「宜野湾市民大会」に3万人(主催者発表)が集まったものの、普天間基地の返還、辺野古沖の代替施設建設への反対運動が行われる地域は、専ら沖縄県内にとどまっている。
 また、憲法改正問題や教育基本法改正問題でも、多数の一般市民を巻き込むような大きな盛り上がりはみられなかった。
 最近では、党派にとらわれない大衆運動が拡大し、参加の呼び掛けには、インターネットが用いられることが多い。また、海外の反戦団体の呼び掛けに呼応した集会やデモ、抗議行動等が行われることも多い。今後、こうした傾向は強まるものとみられる。

 
(2) イラク反戦運動
 自衛隊のイラク派遣をめぐり、平成16年3月20日、全国で延べ13万人(主催者発表)が集会やデモに取り組んだ。東京都千代田区の日比谷公園一帯では、労働組合、大衆団体等が3万人(主催者発表)を集め、集会やデモ等を行った。これは、米国の反戦団体からの呼び掛けに呼応した労働組合、大衆団体等が、米国等によるイラクに対する武力行使の開始から1年が経過した時期をとらえ、実施したものである。
 しかし、その後は運動が低調となり、自衛隊派遣の期限が切れる同年12月14日に各種の集会やデモが行われたが、このときにも、多様な勢力が結集することはなかった。
 また、17年3月19日、大衆団体が、イラク攻撃2周年であるとして、東京都で4,500人(主催者発表)を集めて集会やデモを行ったものの、参加者は以前より大幅に減少した。

 
自衛隊のイラク派遣中止を求めるデモ(平成16年3月、東京)(時事)
自衛隊のイラク派遣中止を求めるデモ(平成16年3月、東京)(時事)

 
(3) 反原発運動
 平成16年3月に関西電力株式会社が、同年5月に四国電力株式会社がプルサーマル計画(注)を実施する方針を示すとともに、高速増殖原型炉「もんじゅ」の再稼働に向けた準備を進めていた。こうした中、同年8月9日、福井県にある関西電力株式会社の美浜原子力発電所3号機で、二次冷却水の蒸気が噴出し、作業員5人が死亡し、6人が重軽傷を負う事故が発生し、同社のプルサーマル計画等が中断した。これに対し、反原発団体は、電力会社等へ抗議を行うとともに、同計画を中止させるため、集会やデモを行ったが、大きな盛り上がりはみられなかった。
 また、青森県では、同年12月21日に使用済核燃料の再処理工場で、ウラン試験と呼ばれる試験運転が実施されたことから、反原発団体が青森市で抗議集会に取り組んだものの、低調に終わった。

 
青森県六ヶ所村でのウラン試験に対する抗議集会(平成16年12月、青森)(時事)
青森県六ヶ所村でのウラン試験に対する抗議集会(平成16年12月、青森)(時事)


注:原子力発電所から出る使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、ウランとの混合酸化物(MOX)燃料に加工して、再び通常の原子力発電所で燃やす計画

 
(4) 海外から波及した過激な大衆運動
 近年、欧米を中心に顕在化した反グローバリズム運動は、国内でも、平成13年12月以降、反グローバリズムを掲げる海外団体の関連組織が結成されるなど、運動基盤の広がりがみられる。
 16年中は、国内の大衆団体が、1月にインドのムンバイで開催された世界の反グローバリズム運動の国際会議(世界社会フォーラム)や、6月に韓国のソウルで開催されたアジア社会運動総会へ参加した。また、10月には、米国のワシントンD.C.で開催された国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会等の一連の国際金融会議をとらえ、IMF日本事務所が入居するビル前で抗議行動を行った。さらに、11月、日本と韓国の労働者等が、東京都で日韓自由貿易協定交渉に反対する抗議行動に取り組んだ。
 捕鯨問題をめぐる過激な行動で知られ、15年11月に威力業務妨害罪で構成員が検挙された「シー・シェパード(Sea Shepherd)」は、16年10月から和歌山県太地町で行われた追込漁の様子を残酷であるとしてウェブサイトで伝えるとともに、11月19日を捕鯨に反対する「世界抗議デー」にするとして、在外日本公館等に対する抗議活動を行うよう呼び掛け、海外でデモや署名活動を行った。また、動物実験の完全廃止を訴えて、過激な活動を展開し、15年4月に動物実験施設への不法侵入事件で構成員が検挙された「ストップ・ハンティンドン・アニマル・クルエルティ(SHAC: Stop Huntingdon Animal Cruelty)」は、在英国日本大使館や日本企業の海外支店への抗議活動を行った。

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