第3章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

第2節 犯罪の検挙と抑止のための基盤強化

1 科学技術の活用

(1) 自動車ナンバー自動読取システム
 自動車盗や自動車を利用した犯罪を検挙するためには、通行する自動車の検問を実施することが有効である。しかし、事件を認知してから検問を開始するまでに時間を要するほか、徹底した検問を行えば交通渋滞を引き起こすおそれがあるなどの問題がある。このため、警察では、昭和61年度から、通過する自動車のナンバーを自動的に読み取り、手配車両のナンバーと照合する自動車ナンバー自動読取システムの整備を進めている。

 
(2) 指紋自動識別システム、掌紋自動識別システム
 指紋及び掌紋は、「万人不同」、「終生不変」の特性を有し、個人を識別するための資料として極めて有用であることから、犯罪捜査で重要な役割を果たしている。
 警察庁では、昭和57年から、指紋の隆線の特徴点(端点と分岐点)を一定のパターンとしてコンピュータに登録し、照会した指紋が記憶しているパターンと一致しているかどうかを自動的に認識・分類するパターン認識技術を応用した指紋自動識別システムを導入し、遺留指紋の照合業務等を効率化した。平成10年からは、指紋を短時間で採取できるライブスキャナを導入し、現在ではすべての警察署に設置されている。

 
ライブスキャナ(被疑者は模擬)
ライブスキャナ(被疑者は模擬)

 また、14年から、指紋識別システムと同様に、犯罪現場から採取した掌紋と被疑者から採取した掌紋を登録し、照会した掌紋と自動的に照合を行い、犯人を特定する掌紋自動識別システムを運用しており、指紋自動識別システムと併用することにより、事件の解決に役立てている。

 
掌紋自動識別システム
掌紋自動識別システム

事例
 16年6月に発生した殺人事件で、犯行現場に置かれていた机の上面から、犯人が遺留した可能性の高い掌紋を採取した。これを掌紋自動識別システムにより照合した結果、犯罪経歴のある土木作業員の男(24)から過去に採取した掌紋と一致したため、発生の翌日にこの男を取り調べたところ、犯行を自供した。同月、殺人罪で逮捕した(神奈川)。

 
(3) DNA型鑑定
 DNA型鑑定とは、ヒトの細胞内に存在するDNA(デオキシリボ核酸)の塩基配列を分析することによって個人を高い精度で識別する鑑定方法であり、警察では、平成元年から犯罪捜査に活用している。
 15年度から、フラグメントアナライザーと呼ばれる自動分析装置を用いた鑑定法を導入しており、従来の方式による場合と比べて、より古い、より微量の資料からの鑑定が可能となったほか、検査が自動化されたため、鑑定に要する時間が短縮された。

事例
 16年3月、自殺や家出をする動機がない被害者が行方不明となったことから、捜査した結果、無職の女(31)が被害者の遺体を山中で焼却したと自供した。捜索の結果、供述どおり遺体が発見されたが、焼損が激しく、従来のDNA型鑑定では身元確認が困難であった。そこで、フラグメントアナライザーを使用したところ、遺体のDNA型と被害者が使用していた日用品から得られたDNA型が一致することが判明した。この結果に基づき、同月、殺人罪等で逮捕した(大分)。

コラム1 DNA型情報のデータベース化
 16年12月から、犯行現場等に被疑者が遺留したと認められる血痕等の資料のDNA型情報を登録し、検索する遺留資料DNA型情報検索システムの運用を開始した。
 このシステムにより、ある事件の犯行現場に遺留された資料のDNA型情報とシステムに登録されているDNA型情報とを照合することで、これらの事件が同一の被疑者によって引き起こされたかどうかを検証することができる。また、検挙した被疑者のDNA型情報とシステムに登録されているDNA型情報とを照合することで、被疑者の余罪を効率的に捜査することができる。
 なお、犯罪捜査上の必要があって適法に得た被疑者のDNA型情報については、17年6月に開催したDNA型データベースに関する有識者会議での検討結果を踏まえ、できる限り早期にデータベースを構築し、運用を開始することとしている。

 
遺留資料DNA型情報検索システム
遺留資料DNA型情報検索システム

 
(4) 三次元顔画像識別システム
 三次元顔画像識別システムとは、金融機関等に設置された防犯カメラで撮影された被疑者の顔が下を向いていたり、帽子やマスク等で顔が隠れていたりするため個人識別が困難な場合に、別に取得した被疑者の三次元顔画像を防犯カメラの画像と同じ角度、同じ大きさに調整した後、両画像を重ね合わせ、個人識別を行うシステムである。新たな鑑定法として期待されており、一部の府県で運用が開始されている。

 
三次元顔画像識別システム
三次元顔画像識別システム

 
(5) プロファイリング
 プロファイリングとは、犯行現場の状況、犯行の手段、被害者等に関する情報や資料を、統計データや心理学的手法等を用いて分析・評価することにより、犯行の連続性の推定や次回の犯行の予測、犯人の年齢層、生活様式、職業、前歴、居住地等の推定を行うものである。
 被害者と犯人とのつながりが薄い事件や、物証・目撃情報が乏しい事件のように、通常の捜査活動では解決困難な事件の捜査で効果を発揮することが期待されており、警察では、現在、導入に向けた取組みを推進している。

 
(6) 犯罪情報地理分析システム
 犯罪情報地理分析システムとは、地理情報システム(GIS:Geographic Information System)を用いて、個々の犯罪のデータを電子地図上に表示し、地理的・時間的な犯罪発生状況の比較・分析を行うことなどにより、合理的・効率的な捜査力の運用、防犯対策の実施、警察官の配置等
に役立てることを目的としたものである。
 例えば、類似事件の抽出や未検挙事件の分析による余罪捜査、犯罪が多発する地域や時間に的を絞って捜査員を配置し、被疑者を検挙するよう撃捜査等に活用することが考えられる。
 平成16年1月から17年3月にかけて、3県(群馬県、三重県、福岡県)で試験的に整備しており、システムによる分析結果に基づき被疑者を検挙することができた事例から、その効果を検証することとしている。

 
犯罪情報地理分析システム
犯罪情報地理分析システム

事例1
 犯罪情報地理分析システムによる分析結果に基づき、ひったくりの多発地域・時間帯に重点を置いてパトロールを行っていたときに、その直近でひったくりが発生した。そこで、現場へ急行し、犯行直後の中国人留学生の男(24)を発見、職務質問を実施したところ、犯行を自供した。16年4月、窃盗罪で逮捕した(福岡)。

事例2
 犯罪情報地理分析システムにより、車上狙いが多く発生する場所や時間、その手口について分析した資料を作成し、地域警察官へ配布した。この資料に基づき店舗の駐輪場で張り込み捜査を実施していた地域警察官が、駐輪していた自転車の前かごからかばん1個を窃取した無職の男(57)を発見し、職務質問を実施したところ、犯行を自供した。16年10月、窃盗罪で逮捕した(群馬)。

 
(7) 警察総合捜査情報システム
 警察庁では、警察署、警察本部及び警察庁に設置した情報処理装置を相互に通信回線で結び、犯罪統計、犯罪手口及び捜査管理に関する情報を統合し、業務負担の軽減や処理時間の短縮を図るとともに、事件に関する情報をデータベース化して多角的な活用を可能とする、警察総合捜査情報システムを整備しており、平成16年1月から運用を開始した。

 第2節 犯罪の検挙と抑止のための基盤強化

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