(3) 子どもを守るために  最近、子どもが被害者となる重大事件が多発しており、国民の不安感も高まっていることから、警察では、保護者を始め、地域住民、教育委員会、学校との連携を強化し、子どもに対する犯罪やその前兆と思われる事案に関する情報を把握し、これを地域住民や関係機関・団体に提供するとともに、子どもの防犯対策の普及、警ら・警戒活動の強化、子どもの所在不明事案等の捜査の徹底を図っている。  〔1〕 登下校時の安全対策  平成15年中、子どもの略取誘拐事件や所在不明事案が相次いで発生したことを受け、警察庁では、同年10月、15歳以下の少年の略取誘拐事案の実態に関する調査を行った。その結果、略取誘拐事案は、路上での発生が半数以上を占め、登下校の時間帯の発生が多いことが明らかになった。これを参考に、警察庁では、略取誘拐事案の防止のために指導啓発すべき重点事項を次のとおり定め、ボランティアや関係機関と協力して、子どもに対する防犯教育や、保護者、学校、教育委員会、地域住民への助言・連絡等を行っている。 事例1 岐阜県養老警察署では、15年10月、子どもが犯罪の被害に遭わないよう、地域住民延べ1,900人と合同で、通学路の安全点検を行った。 地域住民による通学路の安全点検(岐阜) 事例2 静岡県では、12年から、女性ボランティア団体「富士エレガンス」が、富士地区防犯協会と協力して、富士市内の小学校の新入生に人形劇を用いた防犯講習会を開催し、防犯ホイッスルを配付している。16年は、20校、2,404人の新入生を対象に実施した。 事例3 京都府では、警察署が学校、幼稚園、子ども会等で開催する防犯教室において、8年から、女性ボランティア団体「平安レディース」が、寸劇・紙芝居等を行い、子どもにも分かりやすい防犯指導を実施している。そこでは、警察の提供した子ども向けの防犯テキストや犯罪情勢等に関する資料が活用されている。 平安レディースによる紙芝居(京都)  また、街頭でつきまといや声かけ等をされたときに、子どもが安全な場所に避難することができるよう、地域のボランティアの協力を得て、全国各地で「子ども110番の家」に対する支援を実施している。あらかじめ「子ども110番の家」になることを引き受けた民家、商店では、事案発生時に避難してきた子どもを保護し、警察への連絡を行うことにより、子どもが被害者となる凶悪事件の未然防止を図っている。 事例4 長崎県警察では、16年3月から、「子ども110番の家」の制度に協力するボランティアに対し、避難してきた子どもの保護、不審人物・不審車両の特徴の聞き取り、警察への110番通報等の要領を記したマニュアルを配布し、活動を支援している。 子ども110番の家マニュアル(長崎) 警視庁こども110番マーク  〔2〕 学校施設の安全対策  15年中に学校で発生した刑法犯の認知件数は46,723件で、11年の1.5倍に増加した。また、学校へ不審者が侵入する事件も続発しており、11年には京都府で、13年には大阪府で、15年には再び京都府で、児童が殺傷される事件が発生した。警察では、地域住民、教育委員会、学校関係者が行う学校施設の安全管理に協力し、このような事件の発生防止を図っている。  警察庁は、文部科学省が14年12月に公表した「学校への不審者侵入時の危機管理マニュアル」の作成に協力した。このマニュアルでは、不審者の侵入防止等に関して必要と思われる対応例が侵入事案の各場面に応じて整理され、日頃からこうした侵入事案に備えるための方策を解説している。警察では、学校や教育委員会に協力し、これを活用して、児童・生徒、教職員、地域住民が参加する防犯訓練を実施している。 事例5 石川県警察では、学校、地域住民、警察が協力して学校内やその周辺の警戒に当たる「スクールサポート隊」の結成(13年10月)を支援した。 スクールサポート隊(石川) 事例6 徳島県警察では、警察署が地域住民に学校の安全対策の協力を呼び掛け、これを受けた工業高校の生徒たちが、防犯器具である「さすまた」を作成し、15年9月、小学校に寄贈した。 「さすまた」の寄贈(徳島) 事例7 東京都教育庁は、14年8月、学校や児童館等に不審者が侵入したときの子どもの安全を確保するため、これらの施設と警視庁とを結ぶ非常通報装置を設置した。 事例8 兵庫県警察では、15年6月から、通り魔事件その他学校へ波及するおそれのある事案を110番で認知した場合には、警察本部から発生現場に一番近い学校に直接電話で連絡し、その後、学校や児童館を結ぶ緊急連絡網を通じて近隣校へ注意を喚起する「学校緊急通報制度」を運用している。 事例9 秋田県警察では、15年8月から、不審者の警戒情報や他の都道府県で発生した子どもを被害者とする特異な犯罪の情報を、警察本部から教育委員会や学校に電子メールで一斉に送信するシステムを運用している。