(2)警察の対応 1)情報収集と捜査の徹底等  テロ対策の要諦は,その未然防止にある。そのために情報収集及び捜査等を徹底する必要があるが,とりわけ,幅広い情報収集と的確な分析が不可欠である。  テロは極めて秘匿性の高い行為であるため,テロに関する情報のほとんどは断片的であることから,情報の蓄積と総合的な分析が不可欠である。  警察は,同時多発テロ事件後,情報収集・分析活動を強化するとともに,各国治安機関との情報交換の内容を深め,頻度を高めるなど連携を強化,さらに,国際テロリストの我が国への潜入防止を図るため,入国管理局,海上保安庁等関係機関との連携を強化し,水際対策の徹底を図っている。 2)テロ対処部隊の充実強化 特殊部隊(SAT):7都道府県警察に設置 任務  ハイジャック,重要施設占拠事案等の重大テロ事件,組織的な犯行や強力な武器が使用されている事件等に出動し,被害者・関係者の安全を確保しつつ,事態を鎮圧して,被疑者を検挙することを主たる任務としている。 装備  ライフル銃,自動小銃,特殊閃(せん)光弾,作戦用ヘリコプター等 銃器対策部隊:全国警察の機動隊に設置 任務  銃器等を使用した事案への対処や原子力発電所等の重要施設の警戒警備を主たる任務としているが,重大事案発生時には,SATの到着までの第一次的な対応に当たるとともに,その支援に当たることを任務としている。 装備  サブマシンガン,ライフル銃,防弾衣,防弾帽,防弾楯(たて),装甲警備車等 NBCテロ対応専門部隊:8都道府県警察に設置 任務  生物化学テロが発生した場合に,迅速に発生現場に臨場して,関係機関と連携を図りながら,情報収集,原因物質の回収・検知,被害者の避難・誘導等に当たることを任務としている。 装備  NBCテロ対策車,化学防護服,生化学防護服,化学剤検知器,生物剤検知器等  これらの部隊については,同時多発テロ事件以降の厳しいテロ情勢を踏まえ,国内におけるテロ対策に万全を期すため,実戦的な訓練を積み重ねるとともに,関係機関との情報交換や装備資機材の充実等により,対処能力の更なる強化を図っている。 3)重要施設の警戒警備 原子力関連施設警戒隊を激励する警察庁長官(新潟)  平成15年3月の米国等によるイラクに対する武力行使の開始に伴い,総理大臣官邸等我が国の重要施設や米国等関連施設等の警戒警備の強化を図った。特に,原子力関連施設については,サブマシンガン,ライフル銃や装甲警備車等を配備した機動隊銃器対策部隊により原子力関連施設警戒隊を編成するなどして,警戒警備の徹底を図った。 4)生物化学テロ対策 未然防止対策の徹底 ○ 生物化学テロに使用されるおそれのある物質を管理する事業者等に対する保管管理の強化指導 ○ 関連物質の不自然な取引等に関する情報収集の強化 ○ 空中散布を防ぐための小型航空機の保管管理の強化指導 ○ 生物テロに備えた保健・医療機関等との密接な連携体制の確立 現場対処能力の向上 ○ 全国の機動隊等への装備資機材の増強配備 ○ 現場対処訓練の徹底による部隊練度の向上 ○ NBCテロ対応専門部隊の機動的運用 NBCテロ対応専門部隊の訓練状況(福岡) 5)ハイジャック防止対策 6)関係省庁との連携強化  警察では,重大テロ等対策に関し,関係省庁と会議を通じた情報の交換や対応策の検討等を行っている。特に,防衛庁・自衛隊とは,平素から情報の交換,施設の利用,技術的事項に係る相互の助言等により密接な連携を図り,重大テロ等が発生した場合には,必要に応じ,装備資機材の貸与,警察部隊の輸送支援を要請するなど,十分な連携の下で事態に対処することとしている。 共同図上訓練(北海道) 7)国際テロ緊急展開チームの派遣  テロ事件発生時には,専門知識を有する要員を現地に派遣し,治安当局との連携,情報収集及び各国捜査機関への捜査支援活動等に当たることが重要。  警察庁警備局外事課に国際テロ緊急展開チーム(TRT:Terrorism Response Team)を設置し,平素から,国際テロ事件の捜査手法の研究,各国人質交渉専門家による訓練等を通して事案対処能力の向上を図っている。 事例  2002年(14年)10月,インドネシア・バリ島における爆弾テロ事件に際し,国際テロ緊急展開チームを現地に派遣,現地治安当局及び現地に派遣された各国治安機関担当者らとの情報交換を行った。  また,科学警察研究所から鑑識分野の専門家をチームの一員として派遣し,遺体の身元確認作業の指導,援助を実施した。 8)国際協力の推進に向けた取組み  世界各国との連携,協力は,国際テロ対策を効果的に進めるために不可欠。  サミットや国連の場等において活発な討議がなされており,警察庁も積極的に参加している。  2002年(14年)6月にカナダで開催されたカナナスキス・サミット,9月にデンマークで開催されたアジア欧州会合(ASEM)首脳会合,10月にメキシコで開催されたAPEC首脳会議において,テロ対策に関する様々な宣言等が採択された。  警察も国際協力に向けた様々な取組みを実施。 ○「国際テロ事件捜査セミナー」  テロ事件の捜査技術に関するノウハウの提供を行うため,国際協力事業団(JICA)との共催で,開発途上国のテロ対策実務担当者を招致した。 ○「アジア地域テロ対策協議」の開催  2003年(15年)3月,テロ対策に関する地域協力を推進するため,東南アジア地域及び中央アジア地域のテロ対策担当者を招致した。  テロ資金対策では国際社会と共同歩調をとり,積極的な取組みを実施。  14年6月,「テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約」を締結。同条約の締結により,我が国は,12のテロ防止関連条約すべてを締結した。  国連安保理決議第1373号で求められているテロリスト等の資産凍結にも積極的に取り組んでおり,機動的な資産凍結の実施のために設置された「テロリスト等に対する資産凍結等に係る関係省庁連絡会議」に警察庁も参加している。  15年7月末現在,我が国では,376のテロ関連個人・団体を資産凍結対象としている。 9)サイバーテロ対策  社会の情報化,ネットワーク化の飛躍的発展により,情報システムや情報通信ネットワークが重要インフラ等の公共性の高い社会基盤に浸透するのに伴い,サイバーテロの脅威が現実のものとなっている。 ・ 14年10月,世界規模でインターネットのデータの流れを制御するルートDNSサーバ(注1)に対するDDoS攻撃(注2)が発生 (注1)ルートDNSサーバ:インターネット上でドメイン名とIPアドレスを対応させるための情報を提供するネームサーバの最上位に位置するものであり,14年10月当時の設置台数は,世界で13台(日本に1台)であった。 (注2)DDoS(Distributed Denial of Service)攻撃:攻撃目標のサーバに対して,複数のサーバやパソコンから同時に大量のデータを送りつけ,その機能を停止させる電子的攻撃。 ・ 15年1月,韓国において特に甚大なインターネット接続障害を生じたスラマーワーム(注3)が発生  このような情勢下,同年5月に開催されたG8の司法・内務閣僚会合において,重要情報インフラ防護が議題の一つに挙げられ,国際的な連携強化や政府と民間部門の関係強化が重要な課題とされている。 (注3)スラマーワーム:Microsoft SQL Server 2000 SP2等のセキュリティホールを利用してサーバに侵入し,さらに他の任意のサーバへ同様の侵入を繰り返すことによりネットワークのトラフィックを増大させ,システムダウンを引き起こすワーム。