ウ 我が国における銃器密売  過去10年間に明らかになった銃器密売事犯においては,上記密輸入事件(遠洋漁船員による南アフリカからのけん銃密輸入事件)のように,密輸入したけん銃を国内の暴力団関係者に密売した事例や,暴力団幹部が,宅配便を利用して,けん銃10丁,実包160個を他の系列の暴力団幹部に密売した事例があり,暴力団等がけん銃の密売に関わっている状況がうかがわれる。しかしながら,国内における銃器密売の実態は,次のような理由から未解明の部分が多い。  銃器密売を含め,銃器犯罪は秘匿性及び組織性の高い犯罪であり,隠匿の巧妙化が顕著となる一方,協力者(情報提供者)を犯罪組織から秘匿・保護することが要請されるなど,その捜査をめぐる情勢は極めて厳しい。特に密売事犯は,目撃者等関係者が限定されており,事案の核心に迫る情報の入手は極めて難しく,これを立証するためには直接実行行為に携わった者の供述が不可欠となる場合が多い。しかし,例えばけん銃の不法所持等銃刀法違反で検挙し,押収したけん銃の入手先を追及しても,「私に譲り渡した者は既に死んでしまった」などと抗弁したり,「死んでも言えない」と供述を拒否することが多く,密売組織の中枢人物への刑事責任の追及,密売組織の全容解明が困難であるのが現状である。 事例  13年4月,暴力団幹部が札幌市内の宅配運送会社から発送した段ボール箱2個を発送先の大阪府内で捜索し,けん銃10丁,実包160個を発見・押収するとともに,発送人である暴力団幹部及び受取りに関与した別系列の暴力団幹部ら3人を逮捕した(北海道,警視庁,愛知,兵庫)。