はじめに  平成14年の刑法犯認知件数は285万3,739件と7年連続で戦後最多を記録し,刑法犯検挙率は過去最低の水準となっている。東京都世田谷区内における国会議員殺人事件,静岡県三島市内におけるけん銃使用人質立てこもり事件,少年による凶悪事件の相次ぐ発生を始め,数々の重要事件,事故及び災害が発生し,更には,ストーカー事案等の市民生活の安全と平穏を脅かす事案の多発,交通事故の多発,元在日ロシア連邦通商代表部職員が絡む秘密保護法違反事件の発生等,同年の治安情勢は極めて厳しいものであった。  このような情勢の下,警察としては当面,次のような施策を重点的に推進していくこととしている。 ○ 組織犯罪との闘い  犯罪情勢悪化の要因の一つに,来日外国人による組織的な犯罪,けん銃及び薬物の密輸・密売事件,暴力団による犯罪等,組織を背景として行われる犯罪の深刻化がある。犯罪組織は相互に複雑かつ緊密に連携しつつ犯罪を敢行しており,我が国の治安にとって大きな脅威となっている。このような情勢に対応し,治安の回復を図るため,警察のこれまでの各種の取組みを充実強化することに加え,戦略的な捜査調整等の諸対策を推進するなどにより,組織に打撃を与え,攻略することを目指す(第1章参照)。 ○ 街頭犯罪及び侵入犯罪の発生を抑止するための総合対策  犯罪情勢は厳しさを増しており,なかでも,街頭において敢行される犯罪や住宅等に侵入して行われる犯罪等,国民が身近に不安を感じる犯罪が急激に増加している。警察は,街頭犯罪等抑止計画に基づき,犯罪抑止のための検挙・防犯活動を推進するとともに,「犯罪に強い社会」の構築に向け,国民の自主防犯行動を促進し,生活安全産業の育成を図るなど,街頭犯罪及び侵入犯罪の発生を抑止するための総合対策を推進し,良好な治安の回復に努める(第2章参照)。 ○ 国民の身近な不安を解消するための諸活動の推進  地域における安全と平穏を確保するため,地域警察官は,交番,駐在所を拠点として,犯罪多発地域・時間帯におけるパトロールを始め,地域に密着した活動を展開し,事件・事故への即応体制を構築する。また,ストーカー事案や配偶者暴力事案への対応等,女性や子どもを守る施策を推進するとともに,警察安全相談の充実強化を図り,地域住民の立場に立った積極的な取組みを行う(第2章参照)。 ○ 高度情報通信ネットワーク社会の形成に対応した警察活動の推進  高度情報通信ネットワークの安全性及び信頼性を確保するため,ハイテク犯罪対策に係る体制や法制の整備を図り,違法・有害コンテンツ対策や情報セキュリティ意識の向上等の取組みを推進する。また,G8における検討や欧州評議会の「サイバー犯罪に関する条約」への署名を踏まえ,国際的な連携を強化するとともに,プロバイダ等連絡協議会等を通じて産業界等との緊密な連携を確保する(第2章参照)。 ○ 少年の非行防止と健全育成  深刻な少年非行情勢に対処するため,少年事件捜査力の充実強化を図るとともに,少年サポートセンターを中心に少年相談活動や不良行為少年に対する継続補導,少年の社会参加活動を始めとする居場所づくりの推進等の少年非行抑止対策に取り組む。また,少年の保護対策として,「出会い系サイト」に係る犯罪被害の防止,児童虐待の早期発見と事件化,少年の薬物乱用の防止等を推進していく(第2章参照)。 ○ 良好な生活環境の保持  風俗営業の健全化と風俗環境の浄化を図るとともに,ヤミ金融や悪質商法等の経済事犯,偽ブランド品の販売等の知的財産権侵害事犯,食品の安全に係る事犯等の保健衛生事犯の取締りを強化し,正常な経済活動を確保する。また,悪質な産業廃棄物不法投棄等の環境犯罪への対策を推進し,環境被害の拡大防止を図る(第2章参照)。 ○ 銃器・薬物対策の推進  銃器・薬物対策については,政府の「銃器対策推進本部」と「薬物乱用対策推進本部」を中心に関係機関が連携の上,政府を挙げて総合的に推進している。警察では,銃器対策については,暴力団等によるけん銃密輸・密売事件や武器庫等の摘発を重点とした取締り等を積極的に推進し,薬物対策については,薬物密輸・密売ルートの壊滅を図るため,密輸・密売組織の実態解明,国内外の関係機関との連携強化,官民一体となった情報収集の強化等の諸対策を推進する(第2章参照)。 ○ 厳しさを増す犯罪情勢への取組み  平成14年の刑法犯認知件数は,戦後最多を記録しており,その内容も,街頭犯罪や侵入犯罪の増加,来日外国人犯罪の深刻化等,極めて憂慮すべき状況にある。このような厳しい犯罪情勢に対応し,治安の回復を図るため,捜査体制の整備,科学技術の活用等により,捜査力・執行力の総合的な充実強化に取り組むとともに,関係機関・団体との連携を強力に推進する(第3章参照)。 ○ 金融・不良債権関連事犯対策  融資過程又は債権回収過程における詐欺,背任,競売入札妨害等の金融・不良債権関連事犯の捜査を徹底的に行い,不正事案の摘発及び防止に努める(第3章参照)。 ○ 暴力団総合対策の推進  暴力団が市民生活に対する重大な脅威となっている情勢に対処し,暴力団を壊滅させるため,暴力団犯罪の徹底検挙,暴力団対策法の適正かつ効果的な運用及び暴力団排除活動の積極的推進を三本の柱として暴力団総合対策を強力に推進する(第4章参照)。 ○ 安全で快適な交通の確保  交通安全教育指針に基づく段階的かつ体系的な交通安全教育の推進や,悪質・危険性,迷惑性の高い違反に対する取締りの強化等,交通事故を防止し,その被害軽減を図るための施策を総合的に展開する。また,交通渋滞や交通公害,地球温暖化が大きな社会問題となっていることから,ITS(高度道路交通システム)の推進を図るなど,快適な交通の確保のための諸施策を推進する(第5章参照)。 ○ 各種テロ対策の強化及び各種違法事案の未然防圧,徹底検挙  最近の厳しい国際テロ情勢を踏まえ,各国治安機関との情報交換等内外の情報収集・分析を進め,捜査活動を一層強化するほか,テロ対処部隊の充実強化,重要施設の警戒警備,生物化学テロ対策,ハイジャック対策,サイバーテロ対策,国際協力等を積極的に推進する。また,極左暴力集団及び右翼による「テロ,ゲリラ」事件の未然防圧と各種違法事案の取締りを推進する(第6章参照)。 ○ オウム真理教対策の推進  地下鉄サリン事件等凶悪なテロを行ったオウム真理教は,現在も無差別大量殺人行為に及ぶ危険性があると認められ,公安審査委員会により観察処分の期間更新決定を受けている。警察は,特別手配被疑者3人の発見検挙に全力を尽くすとともに,教団信者による違法行為の厳正な取締りを推進する。また,住民の平穏な生活を守るため,必要な警戒警備活動を行っていく(第6章参照)。 ○ 国際化社会における警察活動  世界的規模で急速な国際化が進展するなかで,関係機関・団体等との連携を強化し,来日外国人との共生のための各種活動を推進するとともに,海外における邦人に対するテロ,誘拐,襲撃事件等に対する様々な安全対策を推進する。  また,我が国警察の有する警察運営,交番制度,捜査手法,犯罪鑑識等の技術やノウハウに関する技術協力等を推進するとともに,海外における大規模な災害の発生に際して行っている国際緊急援助活動に関し,これを迅速かつ効果的に実施ために必要な各種訓練等を推進する(第8章参照)。 ○ 適正な警察活動の確保  公安委員会の管理機能の充実・活性化,警察における監察機能の充実・強化,警察職員の職務執行に対する苦情の適正な処理,警察署協議会の適切な運営による地域住民の要望・意見の把握,情報公開の推進,職務執行による責任の明確化により,警察活動の一層の適正化を図る(第9章参照)。 ○ 警察活動をささえる基盤の強化  組織,人員の効率的運用,教育の充実による職員の実務能力と資質の向上,業務推進方法の見直し,装備資機材の高度化等を更に推進するとともに,人的体制の整備を図る。  また,職員の高い士気を維持するため,福利厚生の充実,勤務制度の改善等に努めるとともに,今後の警察を担う優秀な人材を確保するため,人物重視の採用方法,中途採用等の採用の複線化等を積極的に推進する(第9章参照)。 ○ 警察の情報通信システムの充実及び事案に即応する体制の強化  事件,事故及び災害に迅速かつ的確に対応するため,各種情報通信システムの充実強化を図るとともに,機動警察通信隊の体制強化に努める(第9章参照)。 ○ 被害者対策の推進  被害者への支援をより充実させるため,犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律の適正な運用を図るとともに,被害者に対する情報提供,相談・カウンセリング体制の整備,捜査過程における被害者の負担の軽減及び関係機関・団体等との連携等の各種施策を一層推進する(第9章参照)。