第1章 組織犯罪との闘い 

イ 薬物の密売

(ア)暴力団による薬物の密売
 暴力団は,国際的な薬物犯罪組織から薬物を密輸入し,組織的に密売しているが,流通過程のすべてを統括している組織は存在しないものとみられる。密輸入された薬物は,暴力団が支配する元売,中間卸,小売等の段階を経て,末端乱用者に供給される。
 末端乱用者への密売は,他人名義の携帯電話や転送電話を利用して,指定された口座への送金を確認した後に宅配便や郵便で薬物を送付したり,末端乱用者からの連絡後に場所を決めて落ち合い,薬物を引き渡すなどして行われており,警察の取締りから逃れるため,その手口は巧妙化している。また,近年のインターネットの普及により暴力団員等がインターネットを利用して薬物密売を敢行する事案もみられており,薬物密売の広域化に拍車をかけている(イラン人薬物密売組織については,1(3)ウ参照。)。

事例
 覚せい剤の粉と語呂(ごろ)を合わせた携帯電話番号「コナコナ」(090-○○○○-5757)を入手した京都府内の山口組傘下組織暴力団は,同電話を覚せい剤密売のための受付専用電話とし,同電話から密売人の通話料前払い方式(プリペイド式)携帯電話に転送して,組織ぐるみで覚せい剤を密売していた。
 客が「コナコナ」電話に電話すると,密売人が出て,コンビニエンスストア,ぱちんこ店等の落ち合い場所を指定し,客が指定場所に到着して再度,電話をすると密売人車両が客に近づき,密売人車両内で代金と引替えに覚せい剤と注射器を交付する形態で密売が行われていた。密売は,サングラス,マスク等で変装した組の構成員等により,数台の車両を乗り換えながら行われていた。また,覚せい剤は1袋(約0.3グラム)当たり約2万円で密売され,1日の密売終了後,密売人が1袋につき2,000円から3,000円の報酬を差し引いた上,売上金を現場責任者に引き継いでいた。1日20人から60人の乱用者に密売され,1か月に約1,000万円もの利益を得ていたものとみられる。
 14年2月までに,組長を含む関係者135人を検挙し,密売組織を壊滅するとともに,長期間,薬物密売に使用されていた「コナコナ」電話といわれる電話番号について,電話会社に番号停止依頼を行い,同番号の使用は停止された(京都,滋賀)。

(イ)薬物密売人に対する調査
 15年3月から4月にかけて警察庁が行った薬物密売人に対するアンケート調査(以下「密売人に対するアンケート調査」という。)(注)では,覚せい剤の密売が暴力団員等又はイラン人薬物密売組織により行われるとともに,薬物密売に携帯電話等の通信手段が多用されていることなどが明らかとなっている。


(注)この調査は,薬物密売の実態を明らかにするため,15年3月15日から4月15日までの期間,覚せい剤の密売の事実が確認された被疑者(覚せい剤の譲渡しの事実で送致した被疑者)に対し,警察官が口頭により質問し,調査票に記入する方法により行った。なお,アンケートを拒否する者に対してはアンケートは実施しなかった。回答者数は76人で,その属性は,性別が男性90.8%,女性9.2%,主な年齢層が30歳~39歳50.0%,20歳~29歳18.4%,主な国籍が日本84.2%,イラン11.8%となっている。

a 暴力団との関係
 暴力団と関係があると回答した者は61.8%で,その具体的な関係は,表1-11のとおりとなっている。

 
表1-11 密売人と暴力団との具体的な関係

表1-11 密売人と暴力団との具体的な関係
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b 密売する覚せい剤の入手先
 密売する覚せい剤の入手先は,図1-55のとおりであり,所属する組織・グループと他の組織・グループを合計すると58.6%となっている。
 なお,他の組織・グループの主な内訳は,暴力団75.9%,外国人グループ17.2%となっている。

 
図1-55 密売する覚せい剤の入手先(複数回答)

図1-55 密売する覚せい剤の入手先(複数回答)
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c 買い主との連絡手段
 買い主との最初の連絡手段は,図1-56のとおりとなっており,携帯電話が多用されている。

 
図1-56 買い主との最初の連絡手段

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