はじめに

 平成12年中の治安情勢は、少年による高速バス乗っ取り事件、有珠山及び三宅島の噴火、悪質かつ計画的な身の代金目的誘拐事件の多発を始め、数々の重要事件、事故及び災害が発生し、また、ストーカー事案等の市民生活の安全と平穏を脅かす事案の多発、交通死亡事故の多発、在日ロシア連邦大使館付武官が絡む自衛隊法違反(秘密漏洩)事件の発生等、極めて厳しい状況であった。  特に、少年非行情勢については、社会を震撼させる特異・重大事件が相次いで発生しているほか、路上強盗、恐喝、ひったくり等の「手っ取り早く」金銭を得る目的の路上での犯罪が多発している。他方、児童虐待が深刻な社会問題となるとともに、犯罪やいじめによる被害少年が増加している。
 このような情勢の下、警察としては当面、次のような施策を重点的に推進していくこととしている。
○ 少年の健全育成を図るための総合的な取組み
 深刻な少年非行情勢に対処するため、「強くやさしい」少年警察運営を基本方針として、総合的な少年非行対策を推進していく。
 少年犯罪が凶悪・粗暴化し、社会を震撼させる特異・重大事件が相次いで発生していることから、少年事件捜査力の充実強化を図るとともに、少年サポートセンターを中心に少年相談活動や不良行為少年に対する継続補導等の少年非行防止対策を推進していく。
 また、少年の保護対策として、犯罪等の被害を受けた少年に対するカウンセリング等の継続的支援の実施、児童虐待の早期発見と事件化、児童買春・児童ポルノ事犯の徹底した取締り等を推進するほか、有害環境浄化対策、少年の薬物乱用防止対策を推進していく(第1章参照)。
○ 市民の安全と平穏の確保
 ストーカー対策の推進、配偶者からの暴力事案への適切な対応の推進、犯罪防止に配慮した環境設計活動の推進、相談業務の強化、地域安全活動の推進、交番等の「生活安全センター」としての機能の強化等を図る。
 また、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の適切な施行、悪質な生活経済事犯等の取締り等を推進する(第2章参照)。
○ 銃器・薬物対策の推進
 銃器・薬物対策については、「銃器対策推進本部」と「薬物乱用対策推進本部」を中心に関係機関が連携の上、政府を挙げて総合的に推進している。警察では、銃器対策については、暴力団等によるけん銃密輸・密売事件や武器庫等の摘発を重点とした取締り等を積極的に推進し、薬物対策については、薬物の密輸入・密売事犯の取締りの強化、薬物組織犯罪対策の推進、末端乱用者の徹底検挙等を重点推進事項とし、諸対策を推進する(第2章参照)。
○ 環境犯罪対策の推進
 環境問題がますます重要となり、我が国においても社会問題化している情勢を踏まえ、産業廃棄物事犯等を「環境犯罪」ととらえて、広域にわたる産業廃棄物の不法投棄事犯等に対する取締りを強化するなどの対策を一層推進する(第2章参照)。
○ 高度情報通信ネットワーク社会の安全性の確保
 平成12年11月に制定された高度情報通信ネットワーク社会形成基本法において「高度情報通信ネットワークの安全性の確保等」が「施策の策定に係る基本方針」として位置付けられているなど、「世界最先端のIT国家」の実現に向け情報セキュリティ対策の重要度が増していることから、ハイテク犯罪対策、サイバーテロ対策等を柱とした諸施策を推進していく(第2章参照)。
○ 厳しさを増す犯罪情勢への対応
 刑法犯認知件数は増加を続け、戦後最高を記録している。また、質的にも組織犯罪が深刻化するなど犯罪情勢は厳しさを増している。こうした情勢に対応し、我が国の治安を維持するため、捜査体制の整備、各種技能や財務解析等の専門的知識を有する捜査官の育成、科学捜査力の強化等の各種施策を講じ、国民の期待にこたえる捜査を遂行していく(第3章参照)。 ○ 金融・不良債権関連事犯対策
 融資過程又は債権回収過程における詐欺、背任、競売入札妨害等の金融・不良債権関連事犯の捜査を徹底的に行い、不正事案の摘発及び防止に努める(第3章参照)。
○ 暴力団総合対策の推進
 暴力団が市民生活に対する重大な脅威となっている情勢に対処し、暴力団を壊滅させるため、暴力団犯罪の徹底検挙、暴力団対策法の適正かつ効果的な運用及び暴力団排除活動の積極的推進を三本の柱として暴力団総合対策を強力に推進する(第4章参照)。 ○ 安全で快適な交通の確保
 厳しい交通情勢の中、第7次交通安全基本計画(平成13年3月作成)において、交通事故による死傷者数を限りなくゼロに近づけることが究極の目標とされ、17年までに、年間の死者数を8,466人以下とすることを目指すこととされた。
 警察においても、段階的かつ体系的な安全教育の推進や、悪質・危険性、迷惑性の高い違反に対する取締りの強化等により、交通事故の防止や被害軽減を図るための施策を総合的に推進する。また、交通渋滞や交通公害、地球温暖化が大きな社会問題となっていることから、ITS(高度道路交通システム)の推進を図るなど、快適な交通の確保のための諸対策を推進する(第5章参照)。 ○ オウム真理教の実態解明と事件捜査
 オウム真理教の反社会的な本質に変わりはない。警察は、オウム真理教に対する情報収集体制を強化し、その実態解明を推進するとともに、教団施設周辺における警戒警備活動とオウム真理教信者の違法行為について厳正な捜査活動を行っていく。また、警察庁長官狙撃事件とオウム真理教との関連を解明するためにも、逃走中の警察庁指定特別手配被疑者等の早期検挙に全力を尽くす(第6章参照)。
○ 各種テロ対策の強化及び各種違法事案の未然防圧、徹底検挙
 極左暴力集団による凶悪なテロ、ゲリラ事件及び各種違法事案の未然防圧と取締りを推進する。また、右翼によるテロ等重大事件の未然防圧及び銃器摘発を強化するとともに、悪質な街頭宣伝活動や資金源活動等に対する取締りを推進する。さらに、国際テロの脅威の拡散傾向もあり、これら国内外の厳しい情勢を踏まえ、各種情報の収集分析、特殊部隊(SAT)の強化、サイバーテロ対策、NBCテロ対策、国際協力等を積極的に推進する(第6章参照)。
○ 警察事象の国際化への対応
 国境を越える犯罪へ対応するため、捜査能力と語学能力を兼ね備えた国際捜査官の育成、通訳体制の整備等国際捜査力を強化するとともに、関係行政機関や地域住民との連携を強化するほか、外国捜査機関との協力や国際社会における国際犯罪対策に積極的に取り組み、総合的な国際犯罪対策を推進する(第8章参照)。
○ 適正な警察活動の確保
 警察における監察機能の充実・強化、警察職員の職務執行に対する苦情の適正な処理、警察署協議会の適切な運営による地域住民の要望・意見の把握、情報公開の推進、職務執行における責任の明確化により、警察活動の一層の適正化を図る(第9章参照)。
○ 警察活動をささえる基盤の強化
 組織、人員の効率的運用、教育の充実による職員の資質の向上、業務処理方法の見直し、装備資機材の高度化等を更に積極的に推進するとともに、必要な人的体制の整備を図る。
 また、職員の高い士気を維持するとともに、今後の警察を担う優秀な人材を確保するため、中途採用等の採用の複線化を図るとともに、勤務環境の改善、職員住宅や独身寮の整備充実、等を積極的に推進する(第9章参照)。
○ 警察の情報通信システムの充実及び事案に即応する体制の強化
 事件、事故及び災害に迅速かつ的確に対応するため、各種情報通信システムの充実強化を図るとともに、機動警察通信隊の体制強化に努める(第9章参照)。
○ 被害者対策の推進
 被害者への支援をより充実させるため、指定被害者支援要員制度の効果的運用、関係機関・民間被害者援助団体との連携強化を始め、被害者に対する情報提供、相談・カウンセリング体制の整備、捜査過程における被害者の負担の軽減等の各種施策の一層の推進を図る。また、平成13年4月に成立した犯罪被害者等給付金支給法の一部を改正する法律の円滑な施行に向け準備を進める(第9章参照)。


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