第3節 警察活動のささえ

1 警察の組織
 我が国の警察組織は、都道府県の警察機関と国の警察機関から構成されている。まず、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、公共の安全と秩序の維持に当たるという警察の責務を遂行するため、都道府県を単位として、都道府県警察が置かれ、これらの都道府県の警察機関を指導・調整する国の警察機関として、警察庁が置かれている。さらに、警察庁には、その地方機関として、管区警察局等が置かれている。
(1) 国と都道府県の警察組織の概要
ア 警察庁の組織
 警察庁には、警察庁長官とその補佐機関としての次長のほか、内部部局として、長官官房、生活安全局、刑事局、交通局、警備局及び情報通信局が置かれ、長官官房には国際部が、刑事局には暴力団対策部がそれぞれ置かれている。また、警察庁の附属機関として、警察大学校、科学警察研究所及び皇宮警察本部が置かれ、地方機関として、管区警察局、東京都警察通信部及び北海道警察通信部が置かれている。
 警察庁長官は、国家公安委員会の管理の下に、警察庁の所掌事務について都道府県警察を指揮監督するほか、内閣総理大臣から大規模災害等に際して緊急事態の布告が発せられたときは、布告地域を管轄する都道府県警察の警視総監又は道府県警察本部長に対し必要な命令、指揮を行うなど警察法に基づく権限を有している。
イ 都道府県警察の組織
 都道府県警察は、都道府県に置かれる機関であり、都警察の本部として警視庁が、道府県警察の本部として道府県警察本部が置かれ、都道府県の各地域を管轄する警察署とその下部機構としての交番・駐在所が置かれている。また、都道府県警察の長として、都警察には警視総監が、道府県警察には道府県警察本部長が置かれている。なお、北海道は、その区域を五つの方面に分け、道警察本部の所在地(札幌)を管轄する方面以外の方面については、それぞれ方面本部が置かれている。
(2) 管区警察局の役割とその活動状況
ア 管区警察局の組織
 管区警察局は、警察庁の事務を地域を分けて分掌する機関で、東北管区警察局、関東管区警察局、中部管区警察局、近畿管区警察局、中国管区警察局、四国管区警察局及び九州管区警察局が設けられている。なお、北海道及び東京都は、管区警察局の管轄区域外とされている。
イ 管区警察局の役割と活動状況
 管区警察局は、広域的対応を必要とする警察事象その他の国の公安に係る警察事象に関する警察活動についての調整、情報通信基盤の高度化、サイバーテロへの対応、監察や教育訓練等の業務について、主体的な役割を果たしている。また、13年4月、監察体制の強化及び広域調整機能の強化のため、総務監察部(関東管区警察局にあっては監察部)及び広域調整部が設置された。
(ア) 広域犯罪の捜査
 管区警察局は、組織犯罪対策、来日外国人犯罪対策、広域対応を必要とする銃器・薬物事犯や殺人、強盗等の重要事件に係る合同・共同捜査、ハイテク犯罪対策、広域捜査隊の運用、広域捜査訓練等に関して管轄区域内の各府県警察に対する必要な指導調整を行っている。
[事例] 12年2月、中部管区警察局は、中国人及び日本人のグループによる広域窃盗事件の検挙のために、関係県警察の捜査担当者を召集して合同捜査会議を開催し、具体的な捜査方針を決定するとともに、犯罪組織の解明、摘発に向けた情報交換を行うなど、関係県警察間の連携の強化を図った。
(イ) 大規模災害対策
 管区警察局は、大地震等の大規模災害が発生した場合には、被災情報、交通状況等に関する情報の収集に当たるとともに、管区警察局ごとに編成された管区機動隊、広域緊急援助隊、管区警察局等に設置された機動警察通信隊の派遣に関する必要な調整を行っている。また、緊急車両の通行を確保するための広域的な交通規制を的確に実施するための措置を講じている。
[事例] 12年10月、中国管区警察局は、鳥取県西部地震発生に際し、「災害警備本部」を設置し、管区内各県警察の広域緊急援助隊等の特別派遣に関する必要な調整を行った。
 また、機動警察通信隊を招集し、ヘリコプターテレビや衛星通信車等により被災状況等の現地の映像を警察庁、管区警察局及び鳥取県警察本部に伝送した。
(ウ) その他の広域的な警察活動
 警衛、警護、警備の実施や、都道府県境を越えて活動する鉄道警察隊員の活動、高速道路における交通規制、暴走族の指導取締り、航空機等の装備資機材の広域的運用等においても、管区警察局が管轄区域内の各府県警察に対して指導調整を行い、警察事務の統一的かつ能率的な遂行を図っている。
[事例1] 九州管区警察局は、管区内の高速道路で発生したすべての交通事故をデータベース化し、夜間に事故の多発する区間等の分析を行い、各県警察の高速道路交通警察隊に対して交通事故防止活動に有効な資料を提供するとともに、12年8月、管区内各県警察の高速道路交通警察隊による一斉交通取締りを調整し、効果的な死亡事故防止活動を推進した。
[事例2] 12年10月、関東管区警察局は、保安部長を委員長とする「関東管区警察局平成13年初日の出暴走対策委員会」を設置し、管区内各県警察、警視庁、中部管区内3県警察との警察本部との連携を強化し、年末年始に繰り返されている山梨県下富士山麓を目指した初日の出暴走の防圧を図る活動を推進した。
(エ) 情報通信基盤の高度化
 管区警察局では、警察活動を行う上で必要不可欠である情報通信の中核として、警察庁と各管区警察局等を結ぶ管区間系無線多重回線及び管区警察局とその管轄区域内の各府県警察本部等を結ぶ管区内系無線多重回線等の情報通信システムの維持管理に当たっている。
 また、機動警察通信隊の編成、運用や警察統合情報通信ネットワークシステムの運用等に関する中核的役割を果たしている(5(1)イ、5(2)イ参照)。
(オ) サイバーテロへの対応
 管区警察局では、サイバーテロの未然防止、被害拡大防止のための監視・緊急対処体制の整備を行っており、13年4月、技術対策課を新設した。
(カ) 監察
 管区警察局では、管轄区域内の各府県警察に対する監察を随時又は計画的に行い、その事務執行の合理化、適正化に努めている(詳細については、第2節1参照)。
(キ) 教育訓練
 管区警察局では、管轄区域内の各府県警察の警察職員に対し、職務倫理を保持させ、適正に職務を遂行する能力を修得させるため、中堅幹部職員の養成に重点を置いた教養を実施するとともに、専門的な警察活動に係る警察職員の能力を充実させるため、各種の研修会等を開催しているほか、管区機動隊や広域緊急援助隊等の各種訓練を行っている。
[事例1] 12年4月、四国管区警察局は、広域化する暴力団の資金源活動を封圧するため、管区内各県警察の暴力団捜査担当者を集めて捜査研究会を開催し、捜査要領、暴力団排除活動等について協議検討するとともに、情報交換を行った。
[事例2] 12年10月、東北管区警察局は、青森市を会場に、管区内各県警察の広域緊急援助隊を召集し、東北管区広域緊急援助隊総合訓練を実施した。同訓練では、北海道警察広域緊急援助隊、航空自衛隊北部航空方面隊、関係行政機関、民間団体等の参加も得て、警備部隊による機能別訓練、交通部隊による緊急輸送確保訓練、航空機等による被災情報収集訓練のほか任務に応じた災害対応技術を競う競技方式による訓練を行った。
(ク) その他
 管区警察局では、高等検察庁、地方入国管理局、管区海上保安本部等の他のブロック単位の関係機関等と共に連絡協議会を開催するなど、連携の強化に努めている。
 なお、緊急事態の布告が発せられた場合は、管区警察局長は、布告区域を管轄する府県警察の警察本部長に対し、必要な命令をし、又は指揮をするものとされており、管区警察局は、緊急事態に際して国が治安責任を全うするために不可欠な機関として位置付けられている。
[事例] 12年10月、近畿管区警察局は、大阪湾等を管轄する第五管区海上保安本部、大阪入国管理局の参加を得て「第4回関西地区集団密航に関する関係機関連絡会」を開催した。会議では、集団密航対策について、情報交換、意見交換が行われるとともに、関係機関の緊密な連絡通報対策の必要性が確認された。
2 警察職員
 警察庁及び都道府県警察に勤務する警察職員は、警察官、皇宮護衛官、事務職員、技術職員等で構成され、これらの職員が一体となって、警察職務の遂行に当たっている。
 警察が、その責務を全うしていくためには、現在警察で勤務している職員の高い士気を維持するとともに、今後の警察を担っていく優秀な人材を確保する必要がある。そのため、職員の待遇改善、勤務環境の整備等に努めているところであり、現在の職員だけでなく、将来警察で勤務する者にとっても、魅力ある職場づくりを積極的に推進しているところである。
(1) 定員
 平成13年度の警察職員の定員は、総数26万9,910人で、その内訳は、表9-1のとおりである。
 近年の警察事象を見ると、質・量ともに悪化の一途をたどっており、また、ハイテク犯罪や国際組織犯罪等の新たな治安課題が出現するなど、我が国の治安情勢は年々厳しさを増している。さらに、ストーカー行為の取締りやパトロールの強化、いわゆる空き交番の解消等、国民の身近な要望にこたえる活動の推進も強く求められている。
 現下の厳しい治安情勢に的確に対処し、国民生活の基盤をなす良好な治安を維持するためには、交番の機能強化やストーカー対策等、国民の身近な要望等にこたえるための体制の確立、少年事件対策や被害者対策等、複雑・多様化する警察事象に立ち向かうための体制の確立が必要である。国及び地方の財政状況が極めて厳しい中で、これらの体制を確立するために、徹底した合理化によってもなお不足する人員について増員を行うとの考えのもとに、13年度は、著しく業務負担の重い12県警察を対象として、地方警察官2,580人の増員を行った。これによって、警察官1人当たりの負担人口は、全国平均で551人となっている(ただし、人口は12年3月31日現在の住民基本台帳人口による。)。
(注) 阪神・淡路大震災に伴う増員については、13年度は100人を減じ、150人が措置されている。
(2) 教育訓練
 警察官には、逮捕、武器使用等の実力行使の権限が与えられており、また、自らの判断と責任で緊急に事案を処理しなければならない場合も多いことから、適正に職務を執行するための良識と高度な実務能力が必要とされる。このため、警察では、警察学校と職場において、あらゆる機会を通じて、「職務倫理の基本」を中心とする職務倫理に関する教育を最重点として実施しているほか、プロとしての実務能力と資質の向上に努めている。また、柔道、剣道、逮捕術、けん銃等の術科訓練においては、最近の犯罪情勢にかんがみ、凶悪犯罪、特に銃器使用犯罪に的確に対処するための実戦的な訓練に力を入れている。
 警察学校においては、新たに採用した警察官に対して、警察官として必要な基礎的知識や技能を修得させる採用時の教育訓練、各階級昇任者に対して、幹部として必要な知識と技能を修得させる昇任時の教育訓練、特定の分野に関して高度の専門的な知識と技能を修得させる各種の教育訓練等を実施している。また、その教育効果を高めるため、ゼミ方式授業や部外講師による講義等の充実、学生のプライバシーに配慮した学生寮の改善等の教育環境の整備を行っている。
 職場においては、警察官の能力開発の基本的な手法として、上司等による日常の勤務を通じての個人指導(OJT)を始め、各種の研修会・講習会の開催、小集団活動の推進等の教育訓練を積極的に行うとともに、各種資格取得奨励制度等の自己啓発を支援するシステムの拡充に努めている。
 なお、極めて卓越した専門的技能や知識を有する職員を「警察庁指定広域技能指導官」に指定するなどして、職員に対する専門的な実務指導に当たらせている。
 さらに、国際化に的確に対応するため、各種語学教育を積極的に推進するとともに、職員を外国の語学学校や警察機関等に派遣し、語学力と実務能力の向上を図っている。
 また、市民の立場に立ち親切に職務を行うため、民間企業への派遣研修、部外講師による応接マナー講習会、応接指導者研修等を行っている。
(3) 勤務
ア 警察職員の勤務
 警察では、その責務を果たすため、24時間警戒態勢を確保している。そこで、交番勤務等を行う地域警察官を始め、全警察官のおおむね4割は,交替制勤務で3日ないし4日に1度の夜間勤務を行っている。交替制勤務以外でも、警察署に勤務する警察官の多くは、1週間に1度程度の割合で夜間勤務に従事している。また、犯罪捜査を始め、事件、事故及び災害への対応のため、勤務時間外に長時間にわたり困難な業務に当たることが多い。
 このような警察職員の勤務の特殊性にかんがみ、これまで、駐在所勤務員の複数化、交番等の勤務環境の改善、階級別定数の見直し、巡査長制度の見直し、完全週休二日制導入に伴う勤務制度の改善、年次休暇の計画的取得の促進、超過勤務手当等の給与の改善等を図ってきたが、今後とも職員の待遇改善を積極的に推進することとしている。
イ 警察官の殉職、受傷
 警察官は、個人の生命、身体及び財産を保護し、公共の安全と秩序の維持に当たるため、自らの身の危険を顧みず職務を遂行し、その結果、不幸にして職に殉じることや受傷する場合がある。平成12年においては、窃盗事件の発生により検問を行っていた警察官が、被疑者に職務質問をする際に、ナイフで刺され殉職する事案、山岳遭難者の遺体を収容する作業中に雪崩に巻き込まれ、警察官2人が殉職し、3人が受傷する事案等が発生した。
 このように、殉職した警察官や受傷した警察官又はその家族に対しては、公務災害補償制度による公的補償のほか、警察関係厚生団体による子弟に対する奨学金の支給等、各種の措置がとられている。また、危険な状況下での警察官の果敢な職務執行をたたえるものとして賞じゅつ金の支給等の措置がとられている。
(4) 女性警察職員
 平成13年4月1日現在、全国の都道府県警察には、警察官約8,800人、一般職員約1万2,200人の女性が勤務している。
 女性の警察官の働く分野も次第に拡大され、交通の取締り、少年補導等の分野のみならず、犯罪捜査、暴力団対策、警衛・警護等の幅広い分野で活躍している。
 特に、新たな治安上の課題であるストーカー事案、家庭内暴力、児童虐待、性犯罪等の事象への取組み、被害者対策の充実等に的確に対応していくためには、女性警察官の能力や特性を効果的に活用していくことが不可欠となっており、全国の警察組織において、更に多くの女性が幅広い分野で活躍することが期待されている。
 このため、民間企業と契約した「ベビーシッター制度」等、女性が働きやすい職場環境の整備も積極的に進められている。
(5) 採用への総合的取組み
 平成12年度に都道府県警察の警察官採用試験を受験した者は約13万4,600人、合格した者は約8,900人(うち大学卒業者は約6,100人)であり、競争倍率は約15倍であった。
 警察官としてふさわしい能力と適性を有する人材を確保することは、警察力の基盤強化を図る上で極めて重要な意義を有しており、このため警察ではこれまでも人材の確保に努めてきた。しかし、今後、警察官の採用必要数が増加していくことが見込まれる反面、若年人口は減少していくことなどから、警察官の採用をめぐる情勢についても、厳しさを増すことが予想される。このような情勢を踏まえ、今後とも優秀な人材の確保を図るため、中途採用、受験可能な最高年齢の引上げ等採用の複線化を行うとともに、勤務環境を改善し、快適な独身寮の整備、拡充等を始めとする各種施設の整備を図るなど、魅力ある職場づくりのための施策を積極的に推進することとしている。
 なお、中途採用については、悪質・巧妙化する知能犯罪や化学物質を悪用した犯罪、多発する来日外国人犯罪等に対処するため、財務、情報処理、化学物質等に関する専門的知識・技能を有する者、外国語による取調べや折衝能力を有する者等の警察官としての採用を推進している。
3 予算
 警察予算は、国の予算に計上される警察庁予算と各都道府県の予算に計上される都道府県警察予算とで構成される。警察庁予算には、警察庁、管区警察局等国の機関に必要な経費のみならず、都道府県警察が使用する警察用車両やヘリコプターの購入費、警察学校等の増改築費、特定の重要犯罪の捜査に必要な活動経費等の都道府県警察に要する経費や都道府県警察への補助金が含まれている。
 平成12年度の警察庁予算は、当初予算において、テロ等重大特異事案対策の強化、国境を越える犯罪に対応する警察活動の強化、交通安全対策の強化等について重点的に予算措置している。
 12年度の警察庁当初予算(省庁再編に伴い総務庁より移管された12年4月から12月までの12年度総務庁計上予算(8,567万円)を含む。)は、総額2,864億3,664万円で、前年度に比べ227億8,306万円(10.7%)の増加であり、国の一般歳出総額の0.60%を占めている。
 なお、12年度の国の予算においては、補正予算が組まれたが、警察庁においては、情報通信技術(IT)特別対策、環境特別対策、都市基盤整備特別対策、教育・青少年・科学技術等特別対策、防災特別対策の経費として、合計253億3,786万円に上る予算を措置した。最終補正後の警察庁予算現額の内訳は、図9-1のとおりである。
 12年度の都道府県警察予算は、各都道府県において、それぞれの財政事情、犯罪情勢等を勘案しながら編成されているが、その総額は、3兆4,570億5,000万円で、前年度に比べ224億5,600万円(0.6%)減少し、都道府県予算総額の6.3%を占めている。その内訳は、図9-2のとおりである。
 警察庁予算と都道府県警察予算の合計額(重複する補助金額を控除した額)を国の人口で割ると、12年度の国民一人当たりの警察予算額は約2万9,000円となる。
4 装備
(1) 機動装備隊の活動
 機動装備隊は、事件、事故及び災害が発生したときに、現場における装備面からの支援を充実・強化する目的で各都道府県警察において編成されている警察装備に関する特別部隊である。
 日常的には、装備品を維持・管理し、その操作方法の指導、各種装備品に関する部門間の調整等を任務としている。また、事件、事故等に際しては、必要な装備品を現場に搬送して操作するなどの各種支援活動に取り組んでいる。
[事例] 沖縄県警察では、12年7月、九州・沖縄サミット開催に伴い、全国で初めて特別派遣部隊を加えての機動装備隊を編成し、装備品の修理、搬送、操作等、昼夜を問わない支援活動を行いその任務を達成した。また、「現場修理」を原則として活動した結果、警察用車両等の故障に対し直ちに修繕を行うなど、警備活動の支援を迅速に行った。
(2) 車両、船舶、航空機
ア 車両
 警察用車両は、パトカー、白バイ等の各種活動用車両が全国に約3万5,000台整備されている。
 平成12年度は、薬物犯罪、環境犯罪に対処するための車両及び交通安全対策用の車両を増強整備したほか、被害者対策用の車両を新たに整備した。
 今後も、警察事象の広域化、複雑化等に的確に対応して、国民の負託にこたえていくため、警察機動力のかなめである警察用車両の整備・充実を一層図っていく必要がある。
イ 船舶
 警察用船舶は、全長5メートルから23メートル級のものが全国に約200隻あり、港湾、離島、湖沼等に配備され、多様化する水上レジャーの安全指導、水難救助、けん銃、覚せい剤等の密輸事犯の取締り等の水上警察活動に活用されている。
 今後の警察用船舶の整備に当たっては、水上警察事象の広域化、高速化に対応するため、大型化、高速化、高性能化を更に図っていく必要がある。
 なお、水上警察活動については、第2章第1節2(2)ア参照。
ウ 航空機
 警察用航空機は、すべてヘリコプターで、昭和35年より配備を始め、全国で約80機運航している。
 警察用航空機は、空からのパトロール、犯人の捜索や追跡等の捜査活動、交通指導取締り、災害時等の救難救助や情報収集等警察活動全般にわたる幅広い分野で活動している。
 今後とも、災害対策を含む警察活動全般をより効果的に遂行するため、引き続き警察用航空機の整備・充実を図っていく必要がある。
 なお、警察用航空機の活動については、第2章第1節2(2)ウ参照。
(3) 警察装備の開発改善・整備
 警察では、警察活動の基盤となる装備品に、最先端科学技術を導入することによって、警察業務の効率化と高度化に努めている。
 平成12年度においては、第一線警察からの要望が多い銃器事犯対策用装備品、水難救助用装備品等の開発改善に努めたほか、環境犯罪対策用装備品や、東海地方の大雨による水害を教訓として、災害発生の際に対処するための装備品を整備した。
5 警察活動と情報通信
(1) 危機管理を支える警察情報通信
 警察では、事件、事故及び災害がどこで発生し、それがどのような形態であっても、即座に対応できるように、警察の神経系統である各種情報通信システムを独自に開発し、全国的整備を行うとともに、システムの高度化に努めている(主要な警察の情報通信システムは、表9-2参照)。
 また、各都道府県単位に国の機関である通信部を設置し、各種情報通信システムの間断ない管理・運営を行っている。管区警察局には情報通信部を設置して、広域・重大事案発生時の通信施設の運用等に関する指導調整等の業務を行っている。
 なお,警察の情報通信基盤は、自営の無線多重回線、衛星通信回線、電気通信事業者から借り上げた専用回線等により構成されており、これらを活用して、警察庁から警察本部はもちろん、第一線の警察署や交番に及ぶ全国的な各種ネットワークを構築し、警察業務を遂行する上で不可欠な情報伝達を行っている。
ア 大規模災害に対して強じんな警察情報通信
 警察では、大規模災害発生時等には、通信需要が急増する箇所に必要となる通信回線を割り当て、被災地付近の無線不感地帯に対する臨時の無線中継所を設置し、被災地におけるヘリコプターテレビ等の映像を指揮担当部署へ伝送するなど、警察独自の情報通信システムを適宜柔軟に活用している。また、全国に警察通信職員を配置し、被災した箇所の迅速な復旧のための体制を確立している。
イ機動警察通信隊の活動
 大規模な災害、事故、事件等が発生した際に、現場の警察官と警察本部との間における連絡や指揮命令が円滑に行われるように、各都道府県の通信部に設置された機動警察通信隊が出動して、応急通信回線を確保している。
 機動警察通信隊は、平成12年5月に福岡県で発生した少年による高速バス乗っ取り事件、13年3月に発生した芸予地震災害等において、ヘリコプターテレビや地上のテレビカメラで撮影した現場の映像を、衛星通信車等を利用して警察庁、警察本部等に伝送するなど、迅速な情報収集に必要な応急通信回線の確保に努めたほか、12年7月の九州・沖縄サミットにおいては、臨時の無線中継所の開設や臨時電話の設置、警備実施状況を把握するための映像回線の設置等を行った。
 また、どのような事案においても臨機応変に対応することができるようにするため、実践的訓練を行っている。
ウ 広域事件捜査における警察情報通信
 被疑者が頻繁に移動するような広域事件の場合は、捜査活動の範囲も広域にわたることとなる。
 このため、警察では、WIDE通信システムや自動車ナンバー自動読取システム(第3章3(5)ア(ア)参照)を導入し、広域事件捜査の効率化に努めている。
エ 市民生活を守る警察情報通信
 市民生活を守る警察活動を迅速かつ的確に行うためには、市民からの通報の第一線の警察官への伝達や、第一線の警察官相互間の情報交換が円滑に行われることが必要である。
 このため、警察では、通信指令システムやその支援システムの高度化を図っているほか、第一線警察官の使用する警察移動無線の整備拡充に努めている。
(2) 警察事務の情報化
 警察においては、警察事務の情報化を総合的・計画的に推進しているところであり、平成10年5月には、10年度を初年度とした五箇年計画として「警察行政情報化推進計画」を策定し、警察内部における各種情報の共有化を一層推進することとしている。この計画に基づき、業務の効率化、合理化及び市民サービスの向上に努めているほか、インターネット・ホームページを利用し、情報の提供、パブリック・コメント等を実施している。
ア コンピュータ・ネットワークによる情報共有化の推進
 警察においては、犯罪捜査、運転者管理等多方面にわたる各種業務の効率的遂行を支えるため、全国的なコンピュータ・ネットワークを構築し情報の共有化を推進している(表9-2)。
イ 犯罪捜査のための照会業務の効率化
 警察では、各都道府県警察から手配された「人(家出人等)」、「車(盗難車等)」、「物(盗難品等)」に関するデータを大型コンピュータで管理し、第一線の警察官からの照会に対して回答する業務を24時間体制で運用している。また、これらの照会は、各都道府県警察の警察本部やパトカーの端末装置等から、速やかに行うことが可能である。
 さらに、各都道府県警察が保管している被疑者写真等や犯罪手口原紙等の画像情報を警察庁に登録し、各都道府県警察からオンラインで検索できる画像情報検索システムや、被疑者指紋を登録し、犯罪現場に残された遺留指紋と登録された指紋との照合等を行うことができる指紋自動識別システム(第3章3(5)ア(イ)参照)を整備し、被疑者の割り出し等犯罪捜査の効率化を図っている。
ウ 市民サービスの情報化
 12年末現在、日本での運転免許保有者数は、約7,500万人である。警察では、免許証の迅速な交付、免許証の二重取得の防止等を図るため、運転免許保有者に関するデータ及び交通違反に関するデータを警察庁の大型コンピュータで管理することにより、免許の取消し、停止等の行政処分の業務の効率化を図っている。
 また、警察署における遺失・拾得物の受理、遺失者への返還等の窓口業務や自転車防犯登録業務等にコンピュータを活用し、市民サービスの向上を図っている。
エ 情報セキュリティ対策の推進
 警察においては、情報通信技術の急速な進歩に伴い個人情報等の重要な情報の電子化が進むとともに、インターネット等の部外のネットワークとの接続を始めとするネットワーク化が進み、情報セキュリティの重要性が高まっている。
 そこで、警察庁においては、12年12月に「情報セキュリティポリシー」を策定するなど情報セキュリティ対策を推進している。
(3) 犯罪捜査への技術的取組み
 急速に進展する情報通信技術を背景に急増するハイテク犯罪に対応するため、警察庁では、電磁的記録を解析したり、ハイテク犯罪に係る手口を解明するための機器等、最新の設備の整備を推進している。また、都道府県警察におけるハイテク犯罪捜査のため、インターネットへ接続できるシステム等の整備を推進するとともに、技術的中核となる警察庁技術センターには、高速演算装置を始めとする高度な解析用機器を整備し、都道府県警察において解析が困難な場合に、これらの機器を使用し解析に当たっている。
 さらに、警察各部門へのハイテク犯罪捜査に係る技術的ノウハウの提供、インターネット等から得られる最新技術情報の収集及びハイテク犯罪に関するデータベースの構築による情報の共有化に努めているほか、ハイテク犯罪捜査に従事する者に必要となる技術・知識に関する各種の教育訓練を実施している。
6 留置業務の管理運営
 平成12年末現在、全国の留置場の設置数は1,288か所で、年間延べ約403万人(1日平均約1万1,000人)の被逮捕者、被勾留者等が留置されている。なお、年間延べ人員は、3年に比べ2.0倍となっている。
 警察では、これまでも捜査と留置の分離の徹底を図りつつ、被留置者の人権に配慮した処遇及び施設の改善を推進してきたところであるが、11年6月、我が国が拷問等禁止条約(拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約)へ加盟したことを踏まえ、国際的にも評価される適正な留置業務の運営を更に徹底することとしている。
 被留置者の処遇については、月2回健康診断を実施するほか、感染症対策資機材を設置し、被留置者の健康管理を図っている。さらに、ラジオ、日刊新聞紙の備付け、食事内容の改善等にも努めている。また、急増する外国人被留置者の処遇の適正を図るため、洋式トイレやシャワ-装置を設置したり、被留置者の母国語の音声と文字によって留置場における処遇等を教示できる機器の整備を推進している。女性の被留置者については、女性の特性に十分に配慮した処遇を行うほか、その処遇全般を女性の警察官が行う女性専用留置場の設置も推進している。
 留置場施設については、被留置者の人権に配意しつつ、その改善、整備に努めている。例えば、被留置者のプライバシーを保護し、その生活環境の改善を図るため、留置室を横一列の「くし型」に配置し、その前面にはしゃへい板を設置することとしているほか、留置室内トイレの構造の改善、留置場内の冷暖房化等の施設改善を推進している。
 警察庁では、以上のような、留置業務の運用面、施設面での適正を確保しつつ、被留置者の処遇の全国的斉一を図るため、全国の留置場について計画的に巡回視察を実施している。
7 警察官の職務に協力援助した者等に対する救済
 市民が社会公共のため現行犯人を逮捕したり、人命救助を行うなど警察官の職務に協力援助して、負傷し、疾病にかかり、障害を負い、又は死亡した場合は、本人やその家族の生活の安定を図るため、その程度に応じて国又は都道府県が救済を行っている。
 平成12年に、警察官の職務に協力援助して死亡し、又は受傷した市民は、死者7人、受傷者45人で、前年に比べ死者は7人減少し、受傷者は24人増加した。
[事例] 12年6月、警察署長の要請を受けて山岳遭難者の捜索活動に従事していた協力援助者が、捜索の結果発見された山岳遭難者の遺体を収容していたところ、突然発生した雪崩に巻き込まれ死亡した。この事案については、葬祭給付と遺族給付が支給された(新潟)。
8 シンクタンクの活動
(1) 警察政策研究センターにおける活動
 警察政策研究センターでは、警察が現在直面する課題や将来生じ得る治安かく乱要因に関する調査研究を進めるとともに、警察と学者等有識者との交流の窓口として活動している。
 平成12年には、日本被害者学会の後援による米国におけるドメスティック・バイオレンス等に関するフォーラムや、(財)全国防犯協会連合会及び在日フランス大使館の後援によるフランスの少年犯罪対策に関するフォーラムなど、各種テーマに関するフォーラムの開催等を行った。
[活動例1] 米国におけるドメスティック・バイオレンス等に関するフォーラム
 12年4月、米国から実務家を招き、米国におけるドメスティック・バイレオンス及び児童虐待をテーマに、日本被害者学会の後援によりフォーラムを開催した。同フォーラムでは、米国におけるドメスティック・バイオレンス及び児童虐待対策の法制や法執行の現状と課題に関する講演とこれに対する国内の学者からのコメント、意見交換が行われた。
[活動例2] フランスの少年犯罪対策に関するフォーラム
 12年10月、フランスから実務家を招き、フランスの少年犯罪対策をテーマに、(財)全国防犯協会連合会及び在日フランス大使館の後援によりフォーラムを開催した。同フォーラムでは、フランスにおける被害少年の保護と加害少年の取扱いの現状と対策に関する講演とこれに対する国内の学者からのコメント、意見交換が行われた。
(2) 警察通信研究センターにおける活動
 警察通信研究センターでは、情報通信システムに関する技術、暗号技術等、警察活動にかかわる情報通信技術について研究し、これらを応用した新しい警察通信機器等の開発や捜査活動等の支援を行っている。さらに、急速に進展する高度情報通信社会に対応するため、ハイテク犯罪の技術的な研究を行うなど、研究活動の充実に努めている。
[研究例1] VTR画像の鮮明化に関する研究
 防犯カメラとして今後普及の見込まれるデジタルビデオの様々な記録方式に対応可能なシステムの開発を行い、画像鮮明化手法に関する研究を行った。
[研究例2] 無線通信の通信品質の向上に関する研究
 パトカー等に搭載している無線機の通信品質の向上を図るため、基地局アンテナの偏波面に対する特性の検討を行い、偏波ダイバーシチアンテナの開発及びアダプティブアレー干渉波除去システムの開発に関する研究を行った。
[研究例3] 捜査活動に有効なソフトウェアの開発に関する研究
 捜査活動上必要とされる情報を高速かつ効率的に得るための電磁的記録解析ソフトウェアの開発を行った。
(3) 科学警察研究所における活動
 科学警察研究所では、社会で問題となっている事件、事故等の背景、原因等を科学的に分析して、これに基づいて政策提言を行うなどの活動を行っている。
[研究例1] 高輝度光化学の応用に関する研究
 亜ヒ酸を用い、4人の死者を出した和歌山毒物混入事件(10年8月)に始まる一連の毒物・異物混入事件について、犯行に用いられた毒物と押収された毒物が同一であることの証明に超高エネルギーを有する放射光を用いた蛍光エックス線分析を応用することを試みている。高輝度実験施設であるSPring-8から得られる放射光による有害金属に含有される微量重金属元素の分析から、それらの同一性の証明が可能であることを明らかにした。さらに、有機的科学的手法では異同の識別が困難な物質について、この方法の有効性を確認している。
[研究例2] 制御システムに起因する事故原因の調査研究
 ロープウェイ等に利用されている各種の制御システムの誤作動について調査研究を行い、外部雑音による制御システムの誤動作の一つの要因である雑音源と進入経路について実験を用いて検討した。
[研究例3] 交通安全施設の整備による高齢者の安全確保対策に関する研究
 加齢に伴う視機能や運動能力等の低下が、高齢者の歩行行動と運転行動に及ぼす影響を明らかにするための調査、実験を行った。その結果、道路を横断する場合において、高齢者は自分の歩行速度が遅いことを自覚せずに横断開始の判断を行う傾向があること、道路標識は路側式よりも路上式の方が高齢運転者にとって見やすいことなどが明らかとなった。これを踏まえ、高齢者の安全性を向上させるための歩行者用信号機の設置要件、道路標識・標示の設置方法を提案した。


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