第1節 公安委員会制度

 公安委員会制度は、警察の民主的管理と政治的中立性の確保を図るために設けられたものであり、国には国家公安委員会が、都道府県には都道府県公安委員会(道にあっては、方面公安委員会を含む。)が、それぞれ設置されている。すなわち、公安委員会制度は、強い執行力を持つ警察行政について、その政治的中立性を確保し、かつ、運営の独善化を防ぐためには、国民の良識を代表する者が警察の管理を行うことが適切と考えられたことから設けられたものである。
1 国家公安委員会
(1) 国家公安委員会の組織
 国家公安委員会は、国務大臣たる委員長と5人の委員によって構成されている。委員長に国務大臣が充てられているのは、行政委員会制度を採用する一方で、治安に関する内閣の行政責任を明確化しようとする趣旨である。また、委員は、内閣総理大臣により、国会の両議院の同意を得た上で任命されている。
(2) 国家公安委員会の役割
 現在の国家公安委員会は、昭和29年の現行警察法制定により設置されたものであり、警察行政の民主的運営、政治的中立性の確保の点で、大きな役割を果たしてきている。
 国家公安委員会は、国の警察機関として、国の公安に係る警察運営をつかさどり、警察教養、警察装備等に関する事項を統轄し、警察職員の活動の基準の策定等警察行政に関する調整を行うことによって個人の権利と自由を保障し、公共の安全と秩序を維持することをその任務とし、この任務を遂行するため警察庁を管理している。「管理」とは、国家公安委員会の所掌事務につき、その大綱方針を定め、その大綱方針に即して警察事務の運営を行わせるために、警察庁を監督することである。平成12年12月、国家公安委員会は国家公安委員会運営規則を改正し、国家公安委員会は警察庁を管理する事務について運営の大綱方針を定めること、警察庁における事務の処理が大綱方針に適合していないと認めるときは警察庁長官に必要な指示をすることなどを定め、「管理」の概念を明確化した。
 このほか、国家公安委員会は、警察庁長官及び都道府県警察の幹部職員(警視総監、道府県警察本部長、方面本部長及びその他の警視正以上の階級にある警察官。以下「地方警務官」という。)の任免、緊急事態の布告に関する内閣総理大臣に対する勧告等、警察法に基づく事務を所掌するとともに、犯罪被害者等給付金支給法、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴力団対策法」という。)、道路交通法等各種法令の規定に基づく事務を所掌している。
(3) 国家公安委員会の活動状況
 現在、国家公安委員会は、毎週木曜日に定例会議を開催しているほか、必要がある場合には臨時会議を開催することとしている。定例会議では、警察庁から、その一週間における重要な事件、事故及び災害の発生状況とこれらに対する警察の取組みや、治安情勢の中長期的傾向とそれを踏まえた警察の施策等様々な警察の業務について所要の報告を徴するとともに、委員会としての意思を決定している。
 平成12年中には、通信傍受規則を制定するなど23件の国家公安委員会規則を制定したほか、地方警務官9人に対して懲戒処分を行った。
 また、暴力団対策法に基づく審査専門委員の任命、同法に基づく暴力団の指定に係る要件の該当性の確認及び確認のための審査専門委員からの意見聴取、道路交通法に基づく交通の方法に関する教則の一部改正、国会議事堂等周辺地域及び外国公館等周辺地域の静穏の保持に関する法律に基づく政党事務所周辺地域等の指定に係る協議等、各種法令に基づく権限を行使した。
 さらに、日本赤軍最高幹部の検挙、少年による高速バス乗っ取り事件、有珠山の火山活動等の各種重要事件、事故及び災害への警察の取組みのほか、九州・沖縄サミットをめぐる情勢と警察措置、平成13年度警察庁予算概算要求案の概要、職員の不祥事案の発生等多様な案件について詳細な報告を徴し、活発な審議を行った。
 不祥事案の続発を契機として、警察に対する信頼が大きく損なわれ、現行警察制度全般にわたる問題が提起されることとなった状況にかんがみ、3月、国家公安委員会は、警察の刷新改革の方策についての各界の有識者からの意見を聴取する場の開催を求めた。それを受けて発足した警察刷新会議は、7月、警察刷新に関する緊急提言を提出した。国家公安委員会は、緊急提言を重く受け止め、8月、警察庁とともに、警察が当面取り組むべき施策を警察改革要綱として取りまとめ、その実現に全力を尽くしている。
 こうした国家公安委員会の活動の活性化のため、12年12月に、国家公安委員会委員それぞれの執務室を整備し、13年4月には、警察庁に国家公安委員会の庶務等の事務をつかさどる国家公安委員会会務官を置き、これを補助する職員を配置するなどにより国家公安委員会の補佐体制を強化した。
 また、警察行政に関する国民の声を今後の国家公安委員会運営に的確に反映させていくため、インターネット上のホームページに活動状況等を紹介するとともに、電子メール等により国民の要望、意見を受け付けている。
2 都道府県公安委員会
(1) 都道府県公安委員会の組織
 都道府県公安委員会は、都道府及び指定県(政令指定市を包括する県)については5人、それ以外の県及び北海道の方面については3人の委員によって組織されており、委員は都道府県知事が都道府県議会の同意等を得て任命することとされている。
(2) 都道府県公安委員会の役割と活動状況
 現在の都道府県公安委員会も、昭和29年の現行警察法制定により設置されたものであり、都道府県における警察行政の民主的運営、政治的中立性の確保の点で、大きな役割を果たしてきている。
 都道府県公安委員会は、都道府県警察を管理する権限を有しており、都道府県警察から日々生起する事件、事故及び災害の発生状況とこれらに対する警察の取組み等について所要の報告を徴するとともに委員会としての意思を決定しており、これらは、都道府県警察の業務運営に反映されている。
 また、法令又は条例の委任に基づく都道府県公安委員会規則の制定、地方警務官の任免についての同意、地方警務官以外の都道府県警察の職員の任免についての意見陳述、都道府県警察の一定の組織の新設・改廃、警察庁又は他の都道府県警察に対する援助の要求、管轄区域の境界周辺における事案の処理及び移動警察等に関する協議等、警察法に基づく権限を有ている。
 このほか、都道府県公安委員会は、主なものとして、各種法令に基づく次のような事務を所掌している。
○ 犯罪被害者等給付金支給法に基づく犯罪被害者等給付金の支給の裁定等
○ 古物営業法及び質屋営業法に基づく古物営業・質屋営業の許可とそれに対する取消処分等(聴聞等を含む。以下同じ。)
○ 警備業法に基づく警備業を営もうとする者の認定とそれに対する取消処分等
○ 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく風俗営業の許可とそれに対する取消処分等、店舗型性風俗特殊営業を営む者等に対する営業停止の命令等
○ 銃砲刀剣類所持等取締法に基づく銃砲刀剣類の所持許可とそれに対する取消処分等
○ 暴力団対策法に基づく指定暴力団の指定、暴力的要求行為等に対する措置命令等
○ 道路交通法に基づく道路における交通規制、運転免許とそれに対する取消処分等
 こうした都道府県公安委員会の活動の活性化のため、都道府県警察では、公安委員会補佐室等を設置するとともに、公安委員会の庶務等を行う職員の増強を行うなどして、補佐体制を強化した。
[事例1] 福岡県公安委員会は、12年中、11件の殺人事件等の遺族等16人について、計2,756万175円の犯罪被害者等給付金を支給する旨の裁定を行った。
[事例2] 12年3月、北海道公安委員会は、有珠山噴火災害に際し、宮城県公安委員会等に援助の要求を行い、これに基づき宮城県警察等19都県警察から女性警察官による「はまなす隊」など約800人及び航空機等が派遣され、災害警備活動に当たった。
[事例3] 12年3月、四国縦貫自動車道のうち徳島道が本線と通じることに伴い、愛媛県公安委員会、徳島県公安委員会、香川県公安委員会及び高知県公安委員会は、四国縦貫自動車道及び四国横断自動車道における、交通取締り等に関する各県警察の警察官の権限行使に関する協定を締結した。この結果、県境を越えてこれらの道路における迅速かつ円滑な警察活動が可能となった。
[事例4] 12年8月、青森県公安委員会は、青森市で開催された「青森ねぶた祭」におけるすり犯取締りのため、東京都公安委員会に援助の要求を行い、これに基づき、警視庁から4人の警察官が派遣され、取締りに当たり、常習すり3人を窃盗罪で検挙した。
3 公安委員会相互間の連絡
 警察法により、都道府県公安委員会は、国家公安委員会及び他の都道府県公安委員会と常に緊密な連絡を保たなければならないこととされており、これを踏まえ、各種の連絡協議会等が開催されている。
(1) 国家公安委員会と都道府県公安委員会相互間の連絡
 平成12年中、国家公安委員会と全国の都道府県公安委員会との連絡協議会が2回開催され、全国の治安情勢等についての報告や意見交換が詳細にわたり行われた。
(2) 都道府県公安委員会相互間の連絡
 平成12年中、全国の八つのブロック(各管区及び北海道)において、国家公安委員会委員の出席を得て、各ブロック内の道府県公安委員会及び方面公安委員会相互の連絡協議会が計16回開催されるとともに、都道府及び指定県に置かれる11の公安委員会相互の連絡会議が1回開催され、各都道府県の治安情勢やそれに対するそれぞれの取組みについての報告や意見交換が詳細にわたり行われた。


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