第8章 国際化社会と警察活動

 社会・経済のグローバリゼーションの進展に伴って、犯罪活動も容易に国境を越えることが可能になり、犯罪のグローバリゼーションともいうべき問題を生じさせている。なかでも国際組織犯罪(注1)の深刻化が進んでいる。
 さらに、近年における我が国の厳しい経済情勢にもかかわらず、我が国と近隣諸国との賃金格差を背景として多数の不法就労を目的とした外国人が我が国に流入し、定着化する問題が生じている。これらの者の中には、不法就労よりも効率的に利益を得る手段として犯罪に手を染め、地縁、血縁等によって我が国国内で犯罪グループを形成し、あるいは我が国の暴力団や外国に本拠を置く国際犯罪組織(注2)と連携をとるものがある。
 このような国際犯罪(注3)対策の問題は、平成12年7月に開催された九州・沖縄サミットにおいて首脳会合の議題として取り上げられるなど、国際協議の場でも国際犯罪対策が重要なテーマとなっており、警察では、取締りはもとより、より根本的な解決を目指した総合的な対策に取り組んでいる。
(注1) 国際組織犯罪とは、各国間の協議の場等において、国・地域や手段を問わず国境を越えて組織的に行われる犯罪全般を指すことが多い。
(注2) 国際犯罪組織とは、本白書では、国際犯罪を行う多数人の集合体のことをいい、外国に本拠を置く犯罪組織や不法滞在外国人によって構成された外国人犯罪グループ等がこれに当たる。
(注3) 国際犯罪とは、外国人による犯罪、国民の外国における犯罪その他外国に係る犯罪をいう。
1 警察事象の国際化の概況と対策
(1) 来日外国人による犯罪
 平成2年に約350万人であった外国人入国者数は、12年には約1.5倍の約527万人となっており、来日外国人(注)による犯罪の検挙状況は、検挙件数、検挙人員とも11年を下回ったものの、2年と比べ件数で約4.9倍、人員で約2.7倍となっている(図8-1)。
(注) 来日外国人とは、我が国にいる外国人から定着居住者(永住者等)、在日米軍関係者及び在留資格不明の者を除いた者をいう。
ア 来日外国人による刑法犯
 12年中の来日外国人による刑法犯の検挙件数は2万2,947件(前年比2,188件(8.7%)減)、検挙人員は6,329人(366人(6.1%)増)である。
 また、来日外国人による刑法犯の包括罪種別検挙状況は、表8-1のとおりである。
(ア) 凶悪犯
 凶悪犯の検挙件数は242件(前年比25件(9.4%)減)、検挙人員は318人(前年比29人(8.4%)減)とそれぞれ減少しているが、殺人及び強姦は増加している。また、強盗は過去最高であった11年と比べ若干減少しているものの、検挙件数は164件、検挙人員は236人で、依然として高水準で推移している。
 その態様をみると、ピッキング用具を使用した侵入盗の犯人による居直り強盗事件、通報で駆けつけた警察官に対するけん銃発砲事件、緊縛強盗事件等の凶悪な犯罪が目立っている。
[事例] 12年6月、中国人3名は、共謀の上、東京都北区の会社事務所の金庫から現金を窃取したが、付近住民の通報により駆けつけた警察官に発見されて逃走した。そのうち1人が、追跡した警察官にけん銃を発砲した。同月、2人を窃盗等で検挙するとともに、9月、警察官に対して発砲した男(41)を強盗殺人未遂等で検挙した。同人らは、警察官に発見された場合には、逮捕を免れるためにけん銃を使用することをあらかじめ計画し、犯行の際、けん銃を所持していた(警視庁)。
(イ) 窃盗犯
 窃盗犯の検挙件数は1万9,952件(前年比2,452件(10.9%)減)、検挙人員は3,803人(399人(11.7%)増)で、広域にわたって組織的に敢行されるピッキング用具を使用した侵入盗が急増している。来日外国人による侵入盗の検挙件数の約8割が中国人によるものであり、暴力団員の関与も認められる。また、密輸出を目的とした組織的な自動車盗も目立っている。
[事例] 中国人の男(30)らは、9年2月から11年2月までの間、東京都内にある高級ブランド時計店等を対象に、ピッキング用具を使用して店内に侵入し、ガラスショーケース等をバール等で破壊して中の商品を窃取する手口の犯行を連続して敢行していた。12年10月までに38件(被害総額約7億4,800万円相当)の犯行を確認し、4人を窃盗罪で検挙した(警視庁)。
(ウ) 知能犯
 知能犯の検挙件数は819件(前年比296件(56.6%)増)、検挙人員は277人(13人(4.9%)増)である。偽造クレジットカードを使用した詐欺事件や身分を証明するための旅券、外国人登録証明書等の公文書を偽造・行使した事件が目立っており、なかでも、クレジットカードの磁気データをカード名義人に気付かれないように取得(スキミング)し、そのデータをカード原板に入力して偽造カードを作成し、それを用いて商品をだまし取る形態のクレジットカード犯罪が多発している。
イ 来日外国人犯罪の国籍・地域別検挙状況
 12年中の来日外国人の刑法犯の国籍・地域別検挙状況は、表8-2のとおりである。アジア地域が検挙件数で1万8,201件(全体の79.3%)、検挙人員で4,804人(全体の75.9%)と依然として高い割合を占めており、とりわけ、中国が検挙件数で全体の61.8%、検挙人員で全体の48.0%を占めている。
ウ 大都市圏以外の地域への拡散
 検挙からみた来日外国人刑法犯の都道府県別発生状況は、図8-2のとおりで、元年では東京を除き来日外国人犯罪は目立たなかったものの、6年には神奈川、愛知等の大都市圏においても多発する一方、地方へも拡散している状況がみられるようになった。12年には更に地方への拡散が進み、来日外国人犯罪が全国的な問題となっている。
エ 来日外国人による特別法犯
 12年中の来日外国人による特別法犯の検挙件数は8,024件、検挙人員は6,382人であり、前年に比べ、それぞれ1,239件(13.4%)、1,091人(14.6%)減少している(図8-3)。
オ 来日外国人による薬物事犯
 12年中の来日外国人による薬物事犯の検挙件数は1,051件(前年比12件(1.2%)増)、検挙人員は720人(前年比34人(4.5%)減)であり、国籍別にみると、依然としてイラン人の占める割合が高い(第2章第2節2(1)エ参照)。
(2) 我が国における国際犯罪組織の活動状況
 近年、外国に本拠を置く国際犯罪組織が我が国に進出し、また、国内に居住する不法滞在者(注)等が犯罪組織を形成する傾向が著しい。
 平成12年中の検挙件数に占める共犯ありの割合をみると、刑法犯全体では共犯ありの割合が18.1%であるのに対し、来日外国人による刑法犯では49.5%であり、日本人の場合に比べて格段に高くなっている(第3章1(2)イ参照)。
(注) 不法滞在者とは、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)第3条違反の不法入国者、入国審査官から上陸の許可等を受けないで本邦に上陸した不法上陸者及び適法に入国した後、在留期間を経過して残留しているなどの不法残留者をいう。
ア 外国に本拠を置く国際犯罪組織
 国際的な密航請負組織である「蛇頭」は、中国での密航者の勧誘、引率、搬送、船舶や偽造旅券の調達、日本での密航者の受入れ、隠匿等を行っている。我が国に不法滞在している中国人を集めて、受入れ組織を構築するなど、広域的に活動し、集団密航に深く関与している。また、一部には「蛇頭」と暴力団員が連携して集団密航を助長する事案もみられ、10年は9件、11年は4件、12年は1件の暴力団構成員等が関与した集団密航事件を検挙している。
 また、蛇頭のほかにも、ロシア人グループによる盗難自動車密輸出事件、韓国人すりグループによるすり等がみられる。
[事例1] 12年9月、福岡県北九州市門司区の港湾関係者からコンテナの陸揚げ作業に取りかかったところ不審な男たちが逃走したとの通報を受けて、付近を捜索した結果、中国船籍貨物船のコンテナから逃走した中国人男性9人を発見し、入管法違反(不法入国等)で検挙した。12月までに、密航者を出迎えるためレンタカーを借りていた男2人及び受入れの指示を行った暴力団員1人を同法違反(集団密航助長)で検挙した(福岡)。
[事例2] ロシア人船長(41)らは、11年ころから、ロシア国内で需要の高い日本製高級RV車を安値で入手するため、我が国の暴力団と結託し、暴力団員らが窃取した盗難車を買い付け、自国へ密輸出していた。12年6月までに、ロシア人4人を含む暴力団幹部ら39人を窃盗罪、盗品等有償譲受け罪等で検挙した(神奈川、富山)。
[事例3] 12年10月、韓国人の男3人は、神奈川県内を走行中のJR東海道線の下り列車内において、乗客のショルダーバッグ内に手を差し入れたところを捜査員に現認され、取り押さえられそうになるや、催涙スプレーを噴霧し、柳刃包丁で捜査員を威嚇しながら逃走を図った。1人を強盗致傷で検挙したが、被疑者らが噴霧した催涙スプレーにより乗客及び捜査員ら14人が傷害を負った(神奈川)。
イ 国内に居住する外国人犯罪者のグループによる犯罪
 我が国において不法滞在者等が、より効率的な利益の獲得等を目的として、国籍、出身地等の別によりグループ化し、悪質かつ組織的な犯罪を引き起こしている。
[事例1] 中国人男女3人は、11年12月、パソコン等を使用して複数の大学の卒業証書等を偽造し、中国人不法滞在者らに販売していた。12年1月、有印私文書偽造罪で検挙した(神奈川)。
[事例2] 日系ブラジル人の少年(18)ら少年4人は、12年8月、コンビニエンスストアに押し入り、金属バット等を突き付けるなどして店員の反抗を抑圧し、レジから現金を奪った。10月、少年らを強盗で検挙した。その後の捜査により、8月から9月の間に群馬県下及び埼玉県下において連続発生したコンビニエンスストアを対象にした同種強盗事件7件が同少年らのグループによる犯行であったことが判明した(群馬、埼玉)。
[事例3] 韓国人4人は、不法滞在の韓国人らからの依頼を受け、約2年8か月の間に、約130回にわたり合計約2,400万円を受領して韓国へ不正送金していた。12年11月、銀行法違反(無免許営業)で検挙した(警視庁、広島、兵庫、新潟)。
[事例4] 名古屋市内の久屋大通公園周辺等においてイラン人密売組織が覚せい剤、大麻、コカイン等の様々な種類の薬物を密売しており、10年1月以降、イラン人密売人34人を含む73人を覚せい剤取締法違反(営利目的譲渡等)で検挙するとともに、大量の薬物を押収した(愛知)。
(3) 不法入国・不法滞在者問題
 近年の我が国の厳しい経済情勢にもかかわらず、依然として就労を目的として来日する外国人は後を絶たず、これらの中には、短期滞在等の在留資格で入国したにもかかわらず就労をし、また、在留期間の経過後に不法残留をしながら就労するなどの不法就労者(注)もいる。
 不法就労者の大半は不法滞在者であるとみられ、これらの不法滞在者のうち、法務省の推計による不法残留者数は、ピーク時の平成5年には30万人近くに達し、その後徐々に減少する傾向にあるものの、13年1月1日現在で23万2,121人と依然として大量の不法残留者が存在している。
 もともと就労目的で来日した不法滞在者の中には、不法就労よりも効率的に利益を得る手段として犯罪に手を染める者も多く、大量の不法滞在者の存在は来日外国人による犯罪の温床となっている。
 12年中の来日外国人の検挙人員1万2,711人のうち、不法滞在者は6,828人で53.7%と過半数を占めている。
(注) 不法就労者とは、就労している不法滞在者及び無許可で資格外活動を行っている者をいう。
ア 国籍・地域別不法残留者、不法入国者及び不法上陸者の状況
 法務省の推計による不法残留者数を国籍・地域別にみると表8-3のとおりであり、韓国が5万6,023人(構成比24.1%)と最も多く、次いでフィリピンの3万1,666人(13.6%)、中国の3万975人(13.3%)、タイの1万9,500人(8.4%)である。
 また、12年中、警察が検挙した不法入国者及び不法上陸者の数は2,080人であり、これを国籍・地域別にみると、中国が1,509人と最も多く、次いでイランの114人、タイの80人となっている。
イ 集団密航事件
 12年中の警察及び海上保安庁による集団密航事件の検挙件数は21件(前年比23件(52.3%)減)、検挙人員は103人(前年比667人(86.6%)減)である。このうち、前年には全検挙人員の9割強を占めていた中国人による集団密航事件の検挙件数は14件(前年比18件(56.3%)減)検挙人員は80人(前年比621人(88.6%)減)と大幅に減少した(表8-4)。
 この原因としては、警察、法務省入国管理局、海上保安庁等関係機関における水際対策を強化したこと、我が国から累次密航防止の申入れを行ってきた結果、中国側が福建省沿岸部における密航取締りを強化したため、船舶を利用した大規模な密航が減少したこと、我が国の雇用情勢が依然として厳しいと認識されていることなどが考えられる。
 その一方で、偽造旅券や不正取得した査証を使用する密航事案が発生するなど、密航の手口は多様化、巧妙化している。
 このような状況に対応するため、警察では、12年12月の日中治安当局間協議第2回会合等を通じて密航問題等における日中警察の連携を強化しており、中国捜査機関を中心とする外国捜査機関との積極的な情報交換により、「蛇頭」等の摘発を強力に推進していくこととしている。
 また、12年2月18日に施行された入管法の改正において新設された、不法入国者等が引き続き我が国に在留する行為を処罰する「不法在留罪」の適用により、12年12月末までに296件、218人を検挙しており、悪質な不法滞在者の取締りを一層強化することとしている。
[事例] 日本人男性(45)は、12年3月、中国人3人に偽造した日本企業名義の招へい保証書を使用して商用目的の短期滞在査証を不正に取得させて、上海から航空機で我が国に上陸させた。9月、入管法違反(営利目的で集団密航者を上陸させる罪)で検挙した(警視庁)。
 さらに、本件に関して警察庁及び中国公安部との間で情報交換を緊密に行った結果、11月、上海市公安局は我が国に向けて密航者を送り出していた「蛇頭」構成員1人を検挙した。同人らは、11年10月以降6回にわたり、中国人約20人を我が国に不正に入国させていた。
ウ 不法滞在を助長する文書偽造事件
 12年中も合法的な入国滞在を装うための文書偽造事件が多発した。偽造旅券を使用した不法入国事件の検挙件数は357件で、前年に比べ50件減少した。国籍別では、中国(226件)、韓国(32件)、フィリピン(25件)、タイ(22件)の順であった。また、日本人の配偶者として在留資格を不正に取得する偽装結婚事件や外国人登録証偽造事件も検挙されている。
[事例] 10年10月ころから日本での就労を希望する中国人に日本人の配偶者の在留資格で入国させるため日本人との虚偽の婚姻を届出させていたブローカー2人及び偽装結婚の当事者17人(中国人4人、日本人13人)を、13年2月までに、公正証書原本不実記載・同行使罪で検挙した(秋田、青森)。
エ 雇用関係事犯
 我が国の雇用情勢が低迷する中においても、依然として外国人が不法に就労している状況がみられる。その原因の一つとして、外国人を雇用しようとする者や就労あっせんブローカーの存在が挙げられ、一部に暴力団の関与する事案もみられる。外国人労働者の雇用主の中には、彼らを低賃金で雇用する者がみられ、また、就労あっせんブローカーは、外国人労働者と雇用主等との間に介在して不当な利益を得るなどしている。
 このため、警察では、入管法に規定するいわゆる不法就労助長罪のほか、職業安定法、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)、労働基準法等の雇用関係法令を適用して、暴力団等を取り締まるとともに、ブローカーへの突き上げ捜査、国際協力及び関係機関との連携の強化により不法就労外国人の供給の遮断を図っている。
 外国人労働者に係る雇用関係事犯の法令別検挙状況は、表8-5のとおりである。また、12年中に検挙した就労あっせんブローカーは17人(前年比27人減)であり、その中には、外国に居住して国際的な犯罪組織の一員として活動している日本人ブローカーもいた。
 また、飲食店等で外国人女性をホステスや売春婦等として従事させた事犯の雇用関係事犯の検挙件数に占める割合は、55.8%となっている。
[事例] 12年8月、日本でホステス等として稼働を希望するタイ人女性に高額な債務(400~450万円)を負わせた上、偽造旅券等により不法入国等させ飲食店等にあっせんしていたバンコク在住の日本人ブローカー(43)を職業安定法違反(有害業務の職業紹介)で検挙した。同人は、タイ国に拠点を置くブローカー組織の一員として、1年半の間に約80人のタイ人女性を不法入国等させていた(千葉)。
 雇用関係事犯として検挙した事務所、飲食店等において雇用されていた外国人の国籍・地域別状況は、表8-6のとおりである。
オ 風俗関係事犯
 短期滞在、興行等の在留資格で入国し、風俗関係事犯に関与する外国人女性は依然として多く、これらの外国人女性は、風俗営業店における接待、店舗型性風俗特殊営業店における接客行為、更に売春事犯等にまで関与しており、地域的にも大都市圏以外の地域にまで広がりをみせている。
 風俗営業、店舗型性風俗特殊営業等に従事する外国人女性の中には、ブローカーや経営者等に入国費用等の名目で高額な債務を背負わされた上、旅券を取り上げられ、売春を強要されるなどの性的搾取の被害に遭っている女性もみられる。
 12年中に風俗関係事犯において被疑者又は参考人として取り扱った風俗営業店等に稼働する外国人女性は1,190人である。国籍・地域別では、依然として、韓国が395人と最も多いほか、タイ、フィリピン等の東南アジア諸国の女性が多い(表8-7)。
[事例] 12年6月、ロシア人ブローカーらが富山空港や新潟空港から入国させたロシア人女性を1人当たり114万円で買い受け、東京都内等の店舗型性風俗特殊営業店にあっせんしていた山口組傘下組織幹部(55)ら受入れブローカー3人を入管法違反(不法就労助長)及び職業安定法違反(有害業務の職業紹介)で検挙した(警視庁、富山)。
(4) 銃器・薬物の密輸入
ア 銃器の密輸入
 平成12年中に押収されたけん銃903丁のうち真正けん銃は812丁(89.9%)で、そのほとんどが米国、フィリピン、中国等の外国製であり、海外から密輸入されたものであると考えられる。12年中に検挙した密輸入事件で押収したけん銃の仕出国をみると、フィリピンが最も多い。また、密輸入の手口としては、貨物船を利用した持込みが目立っている。
 警察では、違法に銃器が流入することを阻止するため、関係機関、外国捜査機関等との捜査協力を強化し、密輸入を敢行するおそれのある密輸・密売組織やガンマニア等の実態解明及び摘発を推進している(第2章第2節1参照)。
イ 薬物の密輸入
 我が国で乱用されている覚せい剤等の薬物のほとんどは、国際的な薬物犯罪組織と暴力団の関与の下に海外から密輸入されているものである。12年中の薬物の密輸入に係る大量押収事件(一度に1キログラム(コカインは500グラム)以上を押収した事件をいう。)は74件で、前年に比べ14件(15.9%)減少した。このうち仕出国(積出地)が明らかな大量押収事件は72件で、これらの事件における主な仕出国(積出地)を薬物の種類別にみると、覚せい剤は中国、北朝鮮、乾燥大麻はタイ、インドネシア、大麻樹脂はタイ、ドイツ、コカインはコロンビア、ボリビア、ヘロインは中国(香港)、タイ、あへんはロシア、タイとなっている。
 密輸入の方法としては、船舶貨物、航空貨物等への偽装隠匿や身体への巻き付け、手荷物等への隠匿が目立っている。
 警察では、薬物の流入を阻止するため、関係機関との連携による水際対策の強化、仕出国(積出地)等関係諸国の取締り機関との連携の強化等を図り、薬物の密輸ルート及び密輸・密売組織の壊滅に向けた取締りを強力に推進している。12年中は、過去最高の覚せい剤押収量を記録した11年に引き続き、大型の覚せい剤密輸入事件を相次いで摘発し、史上2番目の押収量を記録した(第2章第2節2(1)参照)。
(5) 被疑者の国外逃亡事案
 犯罪を引き起こした後、国外に逃亡する者の数は、平成12年末現在、517人で、警察庁が調査を始めた昭和52年以降最も多い(図8-4)。
 平成12年末現在の日本人を含む国外逃亡被疑者のうち出国年月日が判明している172人について、その犯行から出国までの期間をみると、犯行当日に出国した者が3人、犯行翌日に出国した者が16人おり、犯行から10日以内の短期間のうちに60人の者が出国している。
 警察では、被疑者が国外に逃亡するおそれがある場合は、港や空港に手配するなどしてその出国前の検挙に努めており、出国した場合でも、関係国の捜査機関等の協力を得ながら、被疑者の所在を確認し、また、国際刑事警察機構(ICPO)に対し、国際手配書の発行を請求するなど、被疑者の発見及び検挙に努めている。
 日本人の逃亡被疑者が発見されたときは、逃亡先国において不法滞在等により身柄拘束され、強制退去処分に付された被疑者の身柄を公海上の航空機内において引き取るなど、逃亡犯罪人引渡しに関する条約又は相手国の国内法に基づく国外退去処分等により、その者の身柄の引取りを行っている。12年中には、10人の身柄の引取りを行った。
[事例] フィリピンへ逃亡した強盗被疑者(54)について、同国に対して協力要請を行った結果、12年6月、国外退去処分に付された同人を、公海上の航空機内において逮捕した(警視庁)。
(6) 国際捜査力の強化
ア 総合的取組み体制の確立
 近年急増している来日外国人犯罪の捜査については、外国語の問題を始めとして日本人による犯罪の捜査とは種々異なる点が認められるところである。また、来日外国人犯罪者は同一の個人又はグループで多種多様な犯罪を引き起こしていることから、同時に多方面にわたる専門捜査員が共同して捜査に当たる必要がある。
 警察では、平成11年、警察庁に「国際化対策委員会」を設置し、各都道府県警察にも同様の組織を置いて、組織の総力を挙げて来日外国人犯罪対策を推進している。
イ 国際捜査官の育成
 来日外国人犯罪の捜査に従事する警察官には、外国語はもとより、出入国管理、国際捜査共助、刑事手続等に関する条約その他の内外の法制等、極めて幅広い分野に関する特別の知識が要求されることから、警察では、従来から部内又は部外委託により語学研修を行うとともに、国際捜査実務に関する研修を行ってきた。警察庁では、警察大学校国際捜査研修所において、国際捜査に関する実務研修、北京語、韓国語等アジア諸国の言語を中心とした語学教育、海外研修等を実施している。12年度中には、警察庁から米国等に計103人の青年警察官を派遣したほか、計43人の国際捜査官を中国、韓国等に派遣した。また、都道府県警察においても、国際捜査に従事する捜査員に対する教育や、通訳担当者も参加する実務的な語学研修等を実施するとともに、6年度からは、特に高い語学能力を備えた者を特別に採用し、国際捜査力の確保に努めている。
ウ 通訳体制の整備
 近年、アジア諸国出身者を中心とする来日外国人犯罪の増加に伴い、アジア諸国の言語等の通訳人の需要が急増している。都道府県警察においては、高い語学能力を備えた者を警察職員として採用し、取調べにおける通訳等に当たらせているが、警察部内でそのすべてに対応することは困難であり、通訳の一部を部外の通訳人に依頼して対応している。これらの部外通訳人に対しては、刑事手続等の理解が深められるよう、「通訳ハンドブック」等を配布したり、各種研修会等を開催している。また、通訳人の運用に当たっては、夜間等に突発的に発生する事件に迅速に対応するなどの必要があるため、都道府県警察及び管区警察局に通訳センターを設置するなどして、その体制の整備に努めている。
 なお、被疑者に対しては、刑事手続の流れ等について各国語の対訳を作成し、適宜被疑者に提示しながら通訳人を介して説明するなど、被疑者の権利内容等の理解の徹底を図っている。
(7) 関係行政機関及び地域住民との連携
 来日外国人問題は、総合的な観点からの対策を必要とする問題であり、各関係行政機関や地域住民との連携が不可欠である。
 警察では、法務省、労働省、地方公共団体等の関係機関・団体との情報交換を積極的に行い、行政全体として総合的な対策が講じられるように様々な形で働き掛けを行っている。12年3月には、警察庁、法務省及び労働省の担当局長によって構成される「不法就労外国人対策等関係局長連絡会議」が開催され、不法就労等外国人対策について、緊密な情報交換、合同摘発の強化等に取り組むことを合意し、これに基づき、入国管理局との合同摘発を推進するとともに労働基準監督機関との連携を強化している。
 また、6月には、政府の「外国人労働者問題啓発月間」に合わせて「来日外国人犯罪対策及び不法滞在・不法就労防止のための活動強化月間」を実施した。
 さらに、都道府県警察では、漁協関係者等との海上合同パトロールを実施するなど、各種協議会等を通じた地域住民との協力活動を推進している。
(8) 国際捜査協力の強化
ア 外国捜査機関との協力
 国際犯罪の増加に伴って、外国捜査機関に対する各種照会や証拠資料の収集の依頼等を行うことが一層重要となり、従来に増してICPOルートや外交ルート等による外国捜査機関との情報交換を始めとした相互協力の必要性が高まっている。
 過去10年間に警察庁が行った国際犯罪に関する情報の発信・受信の状況は、表8-8のとおりである。また、外国からの要請に基づき捜査共助を実施した件数及び外国に対して捜査共助を要請した件数は、表8-9、表8-10のとおりであり、いずれも増加傾向にある。その大半はICPOルートによるものである。
イ 国際刑事警察機構(ICPO-Interpol)との協力
 ICPOは、国際犯罪捜査に関する情報交換、犯人逮捕と引渡しに関する円滑な協力の確保等の国際的な捜査協力を迅速かつ的確に行うための各国の警察機関を構成員とする国際機関であり、2000年(平成12年)末現在、178か国・地域(注)が加盟している。
(注) アルバ及びオランダ領アンティルの2地域。
 ICPOの活動は、国際犯罪に関する情報の収集や交換のほか、逃亡犯罪人の所在確認や身柄の確保を求める国際手配書の発行、各種国際会議の開催等多岐にわたっている。また、犯罪情報システムや通信網の拡充を図るとともに、加盟国の国家中央事務局(NCB)に対して24時間体制を確保するよう要請し、情報連絡網の体制整備に努めている。
 警察庁は、ICPOの国家中央事務局として捜査協力を積極的に実施するとともに、事務総局への警察職員の派遣、分担金の拠出、通信技術の提供等、ICPOに対する各種貢献を積極的に行っている。
 また、1996年(平成8年)から2000年(12年)11月までの間、警察庁国際部長(当時)が第15代ICPO総裁として総会を主宰し、長期的方針、予算の決定における調整を行うなど運営を主導した。
ウ 国際社会における国際犯罪対策への取組み
 国境を越えて引き起こされる国際犯罪に対処するためには、国際的な捜査協力が不可欠であることから、近年、サミット等の国際協議の場においても国際犯罪対策が重要なテーマとなっている。
 警察では、犯罪の国際化に伴い、その防止、捜査及び検挙に向けて関係諸国との協議を行っている。12年中に警察職員が出席した主な国際会議は、表8-11のとおりである。
(ア) サミット等における取組み
 1995年(平成7年)に開催されたハリファクス・サミットにおいて設置が決定された「国際組織犯罪対策上級専門家会合(リヨン・グループ)」は、国際組織犯罪対策のための国際協力の枠組みづくりを進めており、現在までに「国際組織犯罪と闘うための40の勧告」を策定したほか、ハイテク犯罪を始めとする各種犯罪分野において刑事法制や法執行協力の在り方等について検討を進めている。
 2000年(平成12年)7月に開催された九州・沖縄サミットにおいては、国際犯罪及び薬物問題が首脳会合の議題として取り上げられた。特に、ハイテク犯罪がグローバルな社会の安全性と信頼性に対して深刻な脅威となっているとの認識の下、各国首脳は、ハッキングやコンピュータ・ウィルスへの対策の必要性を強調するとともに、産業界との対話の促進を呼び掛けた。薬物については、覚せい剤問題が首脳コミュニケに初めて特記されたほか、専門家会合の開催を始め、国連と協調しつつG8間協力を進めていくことが合意された。また、マネー・ローンダリングについて、FATF(金融活動作業部会)が策定したマネー・ローンダリング対策に非協力的な国・地域への対策を支持することが表明された((ウ)a参照)。さらに、腐敗・汚職問題について、新たな国連文書の交渉開始に向けた準備を行うことが合意され、リヨン・グループにその作業の開始が指示された。このほか、国際組織犯罪と闘う枠組みにおける「抜け穴」を作らないよう、途上国の刑事司法制度の強化を支援する必要性が示されるとともに、犯罪被害者対策の重要性について初めて言及された。
 また、2001年(平成13年)2月には、ミラノにおいてG8司法・内務閣僚級会合が開催され、警察庁から次長が出席し、不法移民対策、テロ対策、インターネット上の児童ポルノを含むハイテク犯罪対策、マネー・ローンダリング対策、腐敗・汚職対策等について協議が行われ、国際協力の一層の強化・緊密化等が合意された。
(イ) 国際連合における国際組織犯罪条約策定への取組み
 1994年(平成6年)11月、国際組織犯罪世界閣僚会議で採択された「ナポリ政治宣言及び世界行動計画」において、国際組織犯罪に効果的に対処するための締約国間の協力促進を目的とした条約の検討が提唱された。これをきっかけとして、1998年(10年)12月、国連総会において、本条約及び人の密輸(人、特に女性・児童の不正取引等)、銃器の密造・不正取引、不法移民(密入国の助長等)の3分野に関し条約を補足する議定書の策定の検討を目的とした政府間特別委員会の設立が決議された。
 同委員会における約2年にわたる審議の結果、2000年(平成12年)11月、国連総会において本条約及び人の密輸、不法移民の2分野に関する議定書が採択された。12月には、イタリアのパレルモにおいて署名会議が開催され、我が国を含む124か国(EUを含む。)が本条約に署名した。銃器議定書は、2001年(13年)5月、国連総会で採択された。
 本条約は、重大な犯罪に関する共謀やマネー・ローンダリングの犯罪化等の各国の国内法制充実のための諸規定及び犯罪人引渡し、国際捜査共助等の国際協力の充実・強化のための諸規定から構成されており、各国が本条約及び議定書を締結することにより、刑事司法制度や犯罪防止のための行政措置が平準化し、組織犯罪に対し世界的な取締りの網をかぶせることができるようになるとともに、各国間の迅速な捜査・司法共助等が可能となることが期待される。
 なお、我が国は同委員会の副議長国(9か国)の一つに選出され、条約及び各議定書の規定を実効あるものとするため尽力した。警察庁職員も我が国代表団に参加し、特に銃器議定書に関し、積極的に方向性の提示、各国間の調整等に努め、審議の進行に大きく貢献した。
(ウ) 金融活動作業部会(FATF)等における国際的マネー・ローンダリング対策
a FATFの活動
 FATF(Financial Action Task Force)は、1989年(平成元年)のアルシュ・サミットで設置が決定されたマネー・ローンダリング対策に関する国際協力を推進するための国際フォーラムであり、13年6月末現在、我が国を含む29か国・地域及び2国際機関が参加している。FATFでは、法執行、刑事司法、金融の分野において各国がとるべきマネー・ローンダリング対策を示した「40の勧告」を策定・公表したほか、2000年(12年)以降、マネー・ローンダリング規制の「抜け穴」をふさぐため、金融機関に対する規制が不十分で国際的な司法・捜査協力に非協力的な国・地域(注)を特定し、金融機関がこれらの国・地域との間の取引について特別の注意を払うよう勧告している。
 警察庁は、FATF関連の各種会議における協議に積極的に参加するなど、その活動に貢献している。
(注) 2000年(12年)6月、15の国・地域が特定され、2001年(13年)6月の改定により、十分な改善措置をとったと認められた4か国・地域が除かれ、新たに6か国が追加された。現在は、クック諸島、ドミニカ、エジプト、グアテマラ、ハンガリー、インドネシア、イスラエル、レバノン、マーシャル諸島、ミャンマー、ナウル、ナイジェリア、ニウエ、フィリピン、ロシア、セントクリストファーネビス、セントビンセント・グレナディーンの17の国・地域が非協力的とされている。
b アジア・太平洋マネー・ローンダリング対策グループ(APG)の活動
 1997年(平成9年)にタイで開催されたFATF第4回アジア・太平洋マネー・ローンダリングシンポジウムで、域内のマネー・ローンダリング対策を推進させるため、APG(Asia/Pacific Group on Money Laundering)の設置が決定され、13年6月末現在、我が国を含む22か国・地域が参加している。我が国は、1998年(10年)の第1回APG年次総会を始め、1999年(11年)にはAPG犯罪類型分析専門家会合を東京で開催するなど、その活動に貢献している。
エ アジア諸国との連携の強化
 我が国において活動する国際犯罪組織は、アジアの国々の中に本拠を置くものが多く、その実態解明と検挙の推進には、関係各国による共同の取組みが必要である。国際組織犯罪対策は、自国の治安問題のみならず、国際社会に対する責務でもあるという国際社会における共通認識の下で、アジアにおける国際犯罪組織の最大の活動の場の一つである我が国も、応分の責任を負担し、アジアにおける国際犯罪対策の推進に貢献しているところである。
 来日外国人犯罪(刑法犯)検挙人員の約半数を占める中国との間においては、12年12月、東京において日中治安当局間協議第2回会合が開催され、我が国からは警察庁のほか、法務省、公安調査庁、外務省、大蔵省、厚生省及び海上保安庁が参加して、両国間で密航、薬物、銃器問題、その他の組織犯罪について協議し、両国の一層の協力関係の強化を図った。また、警察では、13年1月、アジア・太平洋国際組織犯罪対策会議を東京において開催し、我が国を含むアジア・太平洋域内及びG8等の30か国2地域並びに3国際機関から法執行機関の幹部等約230人が参加して、アジア太平洋地域を中心とした総合的な国際組織犯罪対策のための国際協力の在り方について協議した。
 このほか、12年10月には、韓国において開催された「北東アジア警察長四者会議」に警察庁次長が出席し、韓国、中国及びロシアの警察の首脳と意見交換を行い、国際組織犯罪対策のための情報交換や捜査協力を進めることなどの面で認識を共にするなど、アジア諸国との連携を強化している。
2 国際化への対応
(1) 来日外国人との共生の推進
 来日外国人は、生活習慣の相違等から、地域住民とのコミュニケーションが希薄になりやすく、地域の安全に関する情報を入手し難い立場に置かれており、また、日本人住民との間では、日常生活上の種々のトラブルが発生しやすい。警察では、来日外国人向けの防犯教室の開催、外国語の防犯パンフレットの配布等により、生活の安全に関するアドバイスを実施しているほか、来日外国人のための相談窓口を設置し、日常生活における不安の解消に努めるとともに、地域住民との交流を深めるためのイベントの開催等により、相互理解と信頼関係の構築に努めている。このほか、来日外国人を雇用し、又は研修生として受け入れている企業等が各地で結成している連絡協議会と連携して、外国人従業員や研修生に対し、事件事故等の被害に遭わないためのアドバイスを行うなど各種保護活動を展開している。
[事例1] 愛知県警察では、ブラジル人を中心とした約3,000人の来日外国人が集中居住し、生活習慣や言語の違いから日本人居住者との間で日常生活上及び治安上様々なトラブルが発生していた保見団地に、12年9月、「保見団地共生プロジェクト本部」を発足させた。同本部は、警察官16人を専従で配置した「コア(核)チーム」を設置して24時間体制で団地内を巡回し、相談に応じるなど、来日ブラジル人と日本人が共生できる環境構築に向けた地域安全対策を図っている。
[事例2] 北海道警察では、警察本部相談センターの入口に4か国語で案内板を掲出し、外国人からの相談等を積極的に受け入れるとともに、英語版ホームページを開設し、電子メールによる相談等も受け付けているほか、「外国人旅行者の安全について考えるフォーラム」を開催し、外国人旅行者に必要な情報とその提供手段等について討論した。さらに、大学、研究機関等に働き掛け、「札幌市東部地区外国人留学生等支援連絡協議会」を設立し、外国人留学生等の安全指導の推進を図っている。
(2) 海外における邦人の安全対策
 近年、世界各地で、過激な民族独立運動や急進的な宗教思想を指導原理としたテロが発生しているが、我が国企業の海外展開の広がりや邦人の海外旅行の増加に伴い、海外駐在員、邦人観光客等がテロの被害に遭う危険性が高まっている。
 こうした情勢を踏まえ、警察庁は、各国治安機関との連携を密にして、世界各国のテロ情勢等治安に関する情報交換を行い、その結果を随時外務省に提供して邦人の海外における安全対策に貢献している。なかでも、1997年(平成9年)11月にエジプトで邦人観光客等が襲撃されたルクソール事件や1999年(11年)8月に発生したキルギスにおける邦人誘拐事件の際には、在ペルー日本国大使公邸占拠事件の経験を踏まえ、解決に向けて関係機関と連携し、各国治安機関からの情報収集を積極的に行った。
 また、(財)公共政策調査会等が12年10月にメキシコ市で開催した「第8回海外安全対策会議」には、警察から担当官を講師として派遣して、近年の国際テロ情勢、現地に工場等を設置する際の注意点、危機管理対策等について講演を行った。同会議には、日系企業の代表者や総務責任者、さらに駐在員家族等100人以上が出席し、活発な質疑応答が行われ、安全対策に関する在留邦人の関心の高さがうかがわれた。
3 国際協力への取組み
(1) 外国警察に対する技術協力
ア 警察活動に関するセミナー等の実施
 我が国警察の有する警察運営、交番制度、捜査手法、犯罪鑑識等の技術、ノウハウに対しては、世界各国から高い関心が寄せられているところであり、開発途上国から、これらの各分野での技術協力が強く求められている。
 警察では、これらの要望にこたえるため、各種の分野において独自に又はJICAとの共催によりセミナーを開催し、積極的な技術移転を進めている。平成12年中に実施した主なセミナーは、表8-12のとおりである。特に、2月、3月には、要望が強かった偽造通貨の鑑識技術移転のため、偽造通貨の鑑定法の習熟等を目的とした「偽造通貨に関する国際法科学セミナー」を開催した。
イ 専門家の派遣
 開発途上国への技術協力に当たっては、相手国の担当者を我が国に招いて指導を行うだけでなく、現地において協力を行うことも重要である。12年には、表8-13のとおり、JICAからの依頼により鑑識専門家をフィリピン、モンゴル、パキスタン等のアジア地域をはじめ中南米等にも派遣し、指紋鑑識や写真鑑識等の技術指導を実施したほか、交番制度、交通管制に関する専門家を派遣し、技術協力を推進した。このほか、地球規模の問題として援助の必要性の高まっている薬物対策のため、ミャンマー、カンボジア、タイ等へ専門家を派遣し、薬物鑑定・鑑識及び薬物分析や薬物犯罪の取締りの技術指導を実施している。
(2) 国際緊急援助隊への貢献
 警察では、海外の地域における大規模な災害の発生に際し、国際緊急援助隊の派遣に関する法律に基づき、同法の施行(昭和62年)以降平成12年までの間に、表8-14のとおり国際緊急援助活動を行っており、また平素から、迅速かつ効果的な救助活動を行うため、携行資機材の整備、習熟訓練、救出・救護訓練、リーダー研修等を実施している。


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