第7章 災害、事故と警察活動

 平成12年は、各地で火山噴火、地震等による自然災害が頻発した。警察では、これらの災害の発生に際して、直ちに体制を確立して、被害情報の収集、被災者の避難誘導や救出救助、交通規制に当たるとともに、被災地の警戒パトロールによる被害の未然防止に努めた。
1 各地で頻発した自然災害と警察活動
(1) 平成12年(2000年)有珠山噴火と警察活動
 有珠山は、平成12年3月31日、昭和53年10月以来21年5か月ぶりに西山西山麓から噴火し、4月1日には金比羅山でも噴火を始めた。この噴火に伴い、北海道伊達市、虻田町、壮瞥町の1市2町において、避難勧告及び避難指示が出され、3月31日には、約6,900世帯約1万5,800人の住民が避難所等へ避難し、人的被害の発生はなかった。
 北海道警察では、この噴火活動に伴い、災害警備本部を設置し、避難誘導、避難拒否者の説得活動、交通規制・立入規制及び避難所対策等所要の災害警備活動を実施した。
 また、警察庁においても、非常災害警備本部を設置し、関連情報の収集、関係機関等との連絡調整を行うとともに、各都県警察において広域緊急援助隊、女性警察官等を特別派遣するための調整を行うなど必要な措置を講じた。
(2) 平成12年(2000年)三宅島噴火及び新島・神津島近海地震と警察活動
 三宅島は、平成12年6月26日から火山性地震が増加し始めたことに伴い、緊急火山情報が出され、約1,300世帯約2,600人の住民に避難勧告が行われた。27日には三宅島の西海域で海底噴火が発生したが、その後、沈静化の傾向が見られたことから、避難勧告は解除された。しかしながら、7月8日には雄山が噴火し、再度避難勧告が出され、9月2日には、防災関係者を除く全島民の島外避難が決定され、同日から4日までの間に全島民が島外に避難した。その後も雄山からの火山ガスの大量放出や泥流の危険性等が指摘され、防災関係者も島外に避難し、三宅島は無人化した。これまでの噴火に伴う人的被害の発生はない。
 6月26日から始まった三宅島近海から新島・神津島近海の地震活動は、新島・神津島等において、震度6弱を6回、震度5強を7回、震度5弱を18回観測するなどしており、7月1日に発生した地震に伴う崖崩れにより1人が死亡した。
 警視庁では、災害警備本部を設置し、指揮体制及び警備体制の強化を図ったほか、現地に機動隊等を派遣し、避難所における警戒及び突発事案への対応、誘導警戒、避難指示地域の外周での立入規制活動等所要の災害警備活動を実施した。なお、避難住民訪問連絡活動やビデオレター放映会等の島外避難者対策等については、島民の島外への避難後も継続している。
 また、警察庁においても、非常災害警備本部を設置し、関連情報の収集、関係機関等との連絡調整、広域緊急援助隊の待機指示を行うなど必要な措置を講じた。
(3) 平成12年(2000年)鳥取県西部地震と警察活動
 平成12年10月6日13時30分、鳥取県西部で発生したマグニチュード7.3の地震では、鳥取県境港市、日野町で震度6強、鳥取県西伯町、溝口町等で震度6弱を観測したほか、中国・近畿・四国地方を中心に震度1~5強を観測した。この地震に伴う被害は、負傷者147人、住家全壊396棟、半壊2,863棟、一部損壊1万5,827棟、道路損壊599か所、山崖崩れ373か所等であった。
 震源地を管轄する鳥取県警察等では、地震発生後、直ちに災害警備本部等を設置し、管内の被害情報の収集、避難誘導、交通規制等所要の災害警備活動を実施した。
 また、警察庁においても、災害警備本部を設置するとともに、関係管区警察局、関係都府県警察及び関係機関等との連絡体制を確立し、現場に広域緊急援助隊、ヘリコプター等を派遣するなどした。
(4) その他の自然災害
 台風第14号と秋雨前線の影響により平成12年9月11日から12日にかけて東海地方で降った大雨のため、愛知県、岐阜県等各地で河川の氾濫や土砂崩れ等が発生した。
 台風は、12年中に23個発生したが、我が国への上陸はなかった。
 これら台風、大雨、強風等の風水害による12年中の被害は、死者・行方不明者14人、負傷者177人、住家全・半壊254棟、流出3棟、床上・床下浸水8万473棟、道路損壊2,240か所、山崖崩れ1,277か所等であった。
 また、降積雪等による12年中の被害は、死者・行方不明者63人、負傷者362人、住家全・半壊5棟等であった。
 警察では、平素から災害危険箇所の点検、パトロール等の活動を行うとともに、これらの災害の発生に際して、災害警備本部等を設置して所要の体制を確立し、関係機関との情報交換に努めるとともに、現場に広域緊急援助隊を始めとする警察部隊、ヘリコプター等を派遣して情報の収集、救出救助・行方不明者の捜索、住民の避難誘導及び交通規制等所要の災害警備活動を実施した。
2 各種事故と警察活動
(1) 水難
ア 水難の発生状況
 平成12年中の水難の発生件数は1,813件(前年比131件(7.2%)減)、死者・行方不明者数は1,034人(145人(12.3%)減)で、年々減少傾向にある(表7-1)。また、水難による死者・行方不明者数を年齢層別にみると、表7-2のとおりである。
 死者・行方不明者を発生場所別にみると、図7-1のとおりで、海における発生が最も多く、全体の51.3%を占めている。行為別にみると、図7-2のとおりで、魚とり・釣り中、水泳中、通行中の順に多かった。
イ 水難の防止活動
 警察では、水難の発生しやすい危険な場所について遊泳者等に広報し注意喚起するとともに、その場所の管理者等に対し施設の整備等を働き掛けている。特に人出の多い海水浴場では、臨時詰所の設置、海浜パトロール等を行うほか、船舶やヘリコプターによる監視等を通じて、海水浴客に対する広報、遭難者の早期発見、救出、救護に努めるとともに、関係機関・団体と協力して、救急法講習会や各種の救助訓練を実施している。
 また、兵庫、滋賀、沖縄、和歌山等の8県においては、遊泳者の保護等を目的とした、いわゆる水上安全条例が制定されている。
(2) 山岳遭難
ア 山岳遭難の発生状況
 平成12年中の山岳遭難の発生件数は1,215件(前年比20件(1.7%)増)、遭難者数は1,494人(50人(3.5%)増)であった。最近5年間の山岳遭難の発生状況は、表7-3のとおりである。
 遭難の特徴としては、①遭難者に占める中高年登山者の比率が依然として高いこと、②体力及び技術の不足のほか、気象判断の誤りや装備の不備、登山計画書の未提出等の登山の基本的な知識を欠いたことによる遭難が多いこと、③遭難が発生した際に自救能力のないパーティーが増えていること、④ツアー登山では、ガイドの人員不足、経験不足によりガイドが同行していながら遭難するケースが増えていることなどが挙げられる。
イ 遭難者の捜索、救助活動
 警察では、遭難者の迅速な捜索、救助活動を行うため、山岳警備隊を編成し、平素から各種訓練を行うとともに、救助用装備資機材の整備拡充を行うなど、救助体制の強化に努めている。
 12年中に遭難者の救助活動に出動した警察官は延べ約1万1,700人、ヘリコプター出動回数は延べ502回で、民間救助隊員等の協力によるものを含め、遭難者1,253人を救助したほか、215遺体を収容した。
ウ 山岳遭難の防止活動
 警察では、山岳遭難を防止するため、遭難の発生場所、原因等を分析し、関係機関等との遭難対策検討会を開催するとともに、各種広報媒体を活用して登山の安全に関する国民の意識の向上に努めている。
 主要山岳(系)を管轄する都道府県警察においては、関係機関等と連携して、ツアー登山関係企業等にツアー登山事故防止の申入れ等を行うとともに、登山道等の実地踏査、道標及び危険箇所の点検等のほか、登山者への山岳情報の提供を行っている。また、登山口等に臨時詰所を開設し、登山計画書の提出の奨励、装備の点検等を行っているほか、山岳パトロール等の活動を通じて登山の安全に関する指導を行っている。
(3) レジャースポーツに伴う事故
 近年、水上オートバイ、サーフィン、モーターボート等のレジャースポーツに伴う事故が多発している。平成12年中のレジャースポーツに伴う事故の発生件数は523件(前年比126件(31.7%)増)であった。(表7-4)
 こうした事故の原因の主なものは、技術不足、不注意等であり、無謀操縦等を原因とするものも多いことから、警察では、事故防止を呼び掛けるパンフレットの配布等により安全広報に努めるとともに、レジャースポーツ現場におけるパトロール等を通じての指導、関係機関・団体に対する事故防止指導等を推進している。
3 雑踏警備
(1) 一般雑踏警備活動
 平成12年中、警察では延べ約51万人の警察官を動員して、雑踏事故の防止に努めた。最近5年間の雑踏警備実施状況は、表7-5のとおりである。12年中は5件の雑踏事故が発生し、死者1人、負傷者は25人に上った。これらはすべて、山車、神輿等の運行に伴うものであった。
 警察では、行事の主催者、施設の管理者等に対して、行事の開催に関する警察等への事前連絡の徹底、自主警備体制の強化、危険予防の措置、施設の改善等を要請するとともに、混雑する場所等に警察官を配置し、雑踏事故の未然防止に努めている。
(2) 公営競技場の警備活動
 平成12年中の競輪場、競馬場等の公営競技場への総入場者数は、延べ約1億8,000万人であった。警察では、公営競技をめぐる紛争事案や雑踏事故防止のため、延べ約8万9,000人の警察官を動員して警備に当たった。最近5年間の公営競技場の警備実施状況は、表7-6のとおりである。
 12年中の公営競技をめぐる紛争事案の発生件数は2件で、その内容はレース結果及び競技運営についての抗議形態のものであった。警察では、関係機関・団体に、自主警備体制の確立、施設・設備の改善、酒類の販売等の自粛を要請しているほか、競技開催の都度、警察官の派遣等により雑踏事故及び紛争事案の未然防止に努めている。


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