第6章 公安の維持

 近年、世界各地で急進的な宗教思想や過激な民族独立運動を背景としたテロが頻発している。我が国では、平成12年11月、日本国内に潜伏していた日本赤軍最高幹部重信房子を「ハーグ事件」における逮捕監禁容疑等で逮捕した。その後の捜査で、日本赤軍は、世界革命、日本革命を目指して、日本赤軍を引き継ぐ非公然組織である、人民革命党を設立していたことが判明した。
 一方、国内に目を向けると、革マル派は、これまで党派色を隠してJR等基幹産業の労働組合を始め各界各層への浸透を図ってきたが、12年は、JR総連内における革マル派組織の存在を明らかにし、党派色を鮮明にしてJR労組問題に積極的に介入した。オウム真理教は、教団の最高幹部出所後、名称を「アレフ」と変更するなど、表面的には、これまでの教団と異なる存在であることを強調しているが、教団運営は依然として麻原彰晃こと松本智津夫の確立した教義に基づいて行われている。日本共産党は、第22回党大会で規約を大幅に改定したが、党の基本的性格に変化はなかった。右翼による違法行為は、増加傾向にあり、地域住民の生活の平穏を害する街頭宣伝活動が執拗に行われている。
 12年7月には、九州・沖縄サミットが開催され、沖縄県に警察史上最大の部隊を特別派遣するなど全国警察が一体となって警備に取り組んだ。
 警察では、このような情勢に的確に対処すべく、各種テロ対策を最重点に諸対策を推進し、公安の維持に努めている。
1 対日有害活動の現状
(1) 北朝鮮による対日諸工作
 北朝鮮は、1999年(平成11年)12月、村山富市元首相を団長とする超党派の国会議員で構成された「日本国政党代表訪朝団」を受け入れた。そして、訪朝団と朝鮮労働党との会談の結果、「国交正常化のための日朝政府間会談再開の重要性について合意し、それぞれが自国の政府に会談の早期再開を促すことにした」とする共同声明が発表された。その後、日朝間の国交正常化交渉再開のための予備会談等を経て、2000年(12年)4月、平壌において、7年5か月ぶりとなる日朝国交正常化交渉第9回本会談が開催された。さらに、8月に、同第10回本会談が東京及び千葉において、また、10月に、同第11回本会談が北京において開催された。北朝鮮は、一連の会談において、我が国に対し、国交正常化の前提として過去の清算を最優先に求めつつ、ミサイル問題その他の懸案事項については、国交正常化後に話し合う用意がある旨の意向を示した。また、朝鮮総聯は、日朝国交正常化実現に向け、中央幹部がいくつかの政党の本部を訪問したほか、朝鮮総聯が主催する行事に与野党の国会議員を招待し、早期の国交正常化及び各政党の訪朝団派遣の実現を要請した。
 他方で、北朝鮮は、自衛隊と米軍との合同演習等をとらえ、「日本反動らが時代の流れに逆行して対決と再侵略の道を進むなら、彼らには孤立と破滅のみがもたらされるであろう」などと対日批判を繰り返した。
 日本人ら致容疑問題については、1999年(11年)12月に開催された日朝赤十字会談における合意に基づき、2000年(12年)3月、朝鮮赤十字会が日本人行方不明者の調査を開始したことが明らかにされた。続いて7月には、朝鮮赤十字会が「新たに確認された2人」(警察がら致の疑いがあるとしている7件10人には該当しない者)の行方不明者の資料を日本赤十字社に渡したこと、今後も「合意事項を信義と誠意をもって履行する」として行方不明者の調査に真しに取り組んでいることなどが報じられた。しかし、国交正常化交渉本会談等においては「我が国では、ら致はあり得ない」という従来の主張を繰り返した。また、1985年(昭和60年)2月、大阪在住の日本人男性を北朝鮮にら致したとされる北朝鮮工作員の辛光洙(シン・グァンス)らが韓国において検挙された際、北朝鮮では、労働党機関紙に「容疑者は、我々や総聯とは何の関係もない人々である」旨の論評を掲載したにもかかわらず、2000年(平成12年)9月、同人が南北共同宣言に基づき北朝鮮に送還された際には、不屈の統一愛国闘士として「祖国統一賞」を授与した。
 このように、北朝鮮は、今後も経済支援の獲得を念頭に置いた早期の日朝国交正常化や更なる食糧支援等の獲得を目指して、直接又は朝鮮総聯を介した諸活動を強めるとともに、事象をとらえた対日批判や日本人ら致容疑問題の存在を否定する主張を継続するものとみられる。北朝鮮による対日諸工作については、このほか、11月、警視庁が検挙した在日朝鮮人による詐欺事件等の捜査を通じて、同人らが北朝鮮の指示に基づき在日韓国人等を抱き込むなどの工作活動を行っていたことが判明した。また、2001年(13年)3月、富山県黒部市の黒部川河口で、1990年(2年)に福井県の海岸で発見された北朝鮮工作員が密入国するために使用したとみられる水中スクーター様の物と極めて類似した物が発見された。
(2) ロシアによる対日諸工作
 ロシアでは、2000年(平成12年)5月に、旧KGB出身で情報の重要性を熟知し、連邦保安庁(FSB)長官も務めたプーチン大統領が就任して以降、政権中枢に旧KGB出身者を多数登用するなど、情報機関を重視する傾向がみられる。例えば、トゥルブニコフ対外情報庁(SVR)前長官が、第一外務次官兼独立国家共同体(CIS)諸国担当の大統領特使に任命されている。また、エリツィン大統領時代に廃止された大統領警護局(SBP)を復活させたほか、FSBに対し軍内部を監視する権限を与えるとともに、インターネット等の通信傍受に係る手続の緩和を認めるなど、治安機関の強化を図った。
 対外諜報活動に関しては、2000年(12年)には、我が国において、海上自衛官を自衛隊法違反(秘密漏洩)事件で検挙している。諸外国においても、2000年(12年)には、ポーランド及びエストニアにおいて、2001年(13年)に入ってからも米国及びブルガリアにおいて、ロシア外交官によるスパイ活動が摘発されたとの報道がなされている。このように、ロシアの情報機関は、我が国を始め、諸外国で違法な情報活動を活発に行っていることが明らかとなっている。
[事例] 2000年(12年)9月、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の機関員とみられる在日ロシア連邦大使館付武官に10数回にわたり接触し、自衛隊の秘密文書等を提供していた海上自衛官(38)を、自衛隊法違反(秘密漏洩)で検挙した(警視庁、神奈川)。
(3) 中国による対日諸工作
 中国では、2000年(平成12年)3月に開催された第9期全国人民代表大会第3回会議における政府活動報告において、科学技術による軍事力強化方針を堅持し、国防科学技術工業の改革、調整及び発展を強化する方針が示された。また、江沢民国家主席は、10月に行われた大規模軍事演習において、軍のハイテク化を促進し、軍事レベルの向上を図るよう全軍に指示した。
 他方、米国下院情報特別委員会は、3月、中国が対米スパイ活動を強化していると警告する中央情報局(CIA)と連邦捜査局(FBI)の共同報告書の一部を公表した。そのなかで、中国は、1990年代初頭から対米スパイ活動を活発化させ、在外公館に駐在する外交官が、私企業、駐在ビジネスマン、留学生等を巻き込み、軍事技術、政治・外交等広範囲にわたる情報を収集している旨が指摘された。
 中国は、軍需工業その他の産業のハイテク化を図るため、我が国に対して、多数の研究者、技術者、留学生、代表団等を派遣し技術、知識の修得にあたらせているほか、在日公館員等を介して先端企業関係者に対する幅広い働き掛けを行うなど、多様な手段により技術情報の収集を行っている。
(4) 多様化する情報収集活動
 東西冷戦の終結後、自国の利益を擁護するため、友好国に対しても諜報活動を行うなど、各国の情報収集活動には多様化が認められる。また、従来の政治情報、軍事情報に加え、経済情報の収集活動に力を入れるなど、諜報活動の対象とする情報についてもその見直しが図られている。
 欧州議会の調査総局は、1998年(平成10年)9月、米国の情報機関である国家安全保障局(NSA)が、欧州において非軍事部門の情報を入手するため、民間企業の業務通信等に対して日常的に通信の傍受を行っているとの報告書を議会に提出したのに続き、1999年(11年)6月、NSAの通信傍受の技術的実態を明らかにした報告書を発表した。また、2000年(12年)7月には、欧州議会の本会議において、本件に関する臨時委員会設置決議が可決された。
 このように各国において多様化した活発な情報収集活動がみられることから、我が国においても、今後、経済情報、科学技術情報その他の重要な情報の漏えいや、情報収集活動に伴う違法事案等の発生が懸念され、その動向に注目していく必要がある。
(5) 大量破壊兵器関連物資等の不正輸出
 北朝鮮は、1998年(平成10年)8月、ミサイルの発射実験を実施した。また、1999年(11年)7月には、北朝鮮貨物船が、ミサイル部品やその設計図を隠匿していた容疑でインド当局に拘束される事案が発生した。このような情勢のなか、2000年(12年)7月の九州・沖縄サミットでは「G8コミュニケ・沖縄2000」に「軍縮、不拡散及び軍備管理」が盛り込まれ、大量破壊兵器及びその運搬システムの拡散を防止するための世界的な体制の強化を歓迎するとともに、ミサイルの拡散を抑制するために更なる多数国間の措置を検討し推進する必要があることが認識された。
 一方、我が国では、2000年(12年)1月、通商産業大臣の許可を受けずに対戦車ロケット砲専用光学照準器の部分品をイラン向けに不正輸出した外国為替及び外国貿易法違反の容疑で、光学機器専門商社元代表取締役を検挙した。また、米国では、2001年(13年)1月、米国政府が、イランにミサイル技術を提供したとみられる北朝鮮企業に対して、米国内法に基づき経済制裁(不拡散措置)を発動したことが報じられた。
 国際的に大量破壊兵器の拡散を防止するための実効的な輸出管理体制の確立が安全保障にとって極めて重要であることが改めて認識されており、こうした中で、我が国が自らの輸出管理を徹底することは、国際的な責務であると同時に我が国の安全保障上も重要である。警察では、我が国から技術、物資等が不正に輸出されることがないよう、引き続き関係機関と連携の上、取締りを積極的に推進していくこととしている。
2 国際テロ情勢の現状と対策
(1) 日本赤軍の動向と日本赤軍最高幹部等の逮捕
ア 日本赤軍の動向
 1995年(平成7年)3月以降、世界各地で相次いでメンバーが検挙されたことにより、日本赤軍が中東以外の地域に新たな拠点の構築を図り、世界各地に分散、潜伏している事実が改めて浮き彫りにされた。その一方で、1997年(9年)2月、レバノンにおいてメンバー5人(岡本公三、足立正生、山本萬里子、和光晴生及び戸平和夫)が一斉検挙され、日本赤軍はレバノンという最重要拠点を喪失するに至った。2000年(12年)3月には、レバノン政府が岡本公三を除く4人を国外退去処分としたため、警察は、4人が日本に帰国した直後に足立正生、山本萬里子及び和光晴生に対しては逮捕状を、また、戸平和夫に対しては収監指揮書をそれぞれ執行した。
イ 日本赤軍最高幹部重信房子の逮捕
 2000年(12年)11月、警察は、日本国内に潜伏していた日本赤軍最高幹部重信房子を大阪府内で発見し、「ハーグ事件」における逮捕監禁容疑で逮捕した。また、その後、同人を同事件における殺人未遂容疑で再逮捕した。捜査を進めた結果、重信房子が他人名義の旅券を不正に取得してアジア諸国に渡航していた事実が明らかになったほか、大阪及び千葉にアジトを設け、国内においても活動していたことが判明した。重信房子の潜伏に関連して、警察は、これまでに現職の公立高校教師及び病院長を含む日本赤軍関係者7人を犯人蔵匿・隠避容疑で逮捕した。なお、重信房子は、11月には殺人未遂罪及び逮捕監禁罪(「ハーグ事件」)で、また、12月には有印私文書偽造・同行使罪、免状等不実記載罪及び旅券法違反(「旅券法違反等事件」)で、さらに、2001年(13年)1月にも有印私文書偽造・同行使罪、免状等不実記載罪及び旅券法違反(「奥平純三不正出国事件」)でそれぞれ起訴された。
 押収した資料を分析した結果、日本赤軍は、1991年(3年)8月、日本赤軍を引き継ぐ非公然組織である人民革命党を設立したが、対外的には人民革命党の名称を用いることなく、知名度の高い日本赤軍の名のままで活動してきたことが判明した。
 さらに、人民革命党については、その司令部の国内移転を検討していたことが明らかになっているが、このことが重信房子の国内潜入の主要目的の一つであったと考えられる。
 重信房子は、2001年(13年)4月、弁護士を通じて獄中から声明を発表し、日本赤軍の解散を宣言し、日本赤軍は、「テルアビブ・ロッド空港事件」を記念して毎年5月30日に出している「5.30声明」の中で、この宣言を組織として追認するとした。しかし、重信房子の出した解散宣言は、多数の死傷者を出した「テルアビブ・ロッド空港事件」を高く評価する一方で、逃走中のメンバーへの言及はなく、この宣言により、テロ組織としての日本赤軍の危険性が変化するものとはみられない。警察としては、依然として逃亡中の7人のメンバーの早期発見、逮捕に向けて関係機関や外国との連携を強化している。
(2) 「よど号」犯人グループの動向
 「よど号」犯人グループは、依然として北朝鮮を本拠地として、執筆活動や貿易会社の運営を中心とした経済活動等を行っている。現在、北朝鮮にとどまっているメンバーは5人とみられ、このうち、岡本武は死亡したと伝えられているが、現在まで確認されていない。「よど号」犯人グループのメンバーである田中義三は、1996年(平成8年)3月、タイにおいて偽造外国紙幣(米ドル)使用目的所持等容疑で逮捕されたが、その後、1999年(11年)6月、無罪判決を受けた。2000年(12年)6月、警察は、同人の身柄引渡しを受け、「よど号」ハイジャック事件における強盗致傷等の容疑で逮捕した。
 帰国問題に関しては、「よど号」犯人グループは、日本政府と話し合い、無罪の合意を得た上で帰国する「無罪合意帰国」を主張し、インターネット等を活用し、活発な宣伝活動を行っている。なお、2000年(12年)10月、「よど号」犯人グループの妻子5人は、帰国手続きを進めるとのコメントを連名で発表し、2001年(13年)5月、第一陣として3人が我が国の発給する帰国のための渡航書により帰国した。
(3) 厳しさを増す国際テロ情勢
 近年、世界各地で、従来の政治的イデオロギーに代わって、急進的な宗教的思想や過激な民族独立運動を背景としたテロが頻発している。特にイスラム過激派は、そのネットワークが世界的な広がりを見せており、これまでの活動拠点である中東だけでなく、旧ソ連邦諸国やアフガニスタン、パキスタン、フィリピン等のアジア諸国にも勢力を伸長させ、一般市民を巻き込んだ自爆テロ、破壊力の大きな爆弾による大量無差別テロ等を相次いで敢行している(表6-1)。
 2000年(平成12年)中、東南アジアでは、フィリピンでイスラム国家樹立を求める「アブ・サヤフ・グループ」がフィリピンにおけるキリスト教学校襲撃事件(3月)及びマレーシアにおける外国人観光客誘拐事件(4月)等を、また、フィリピンからの分離独立を目指す「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」がミンダナオ島を中心に襲撃、誘拐事件等をそれぞれ引き起こした。また、マニラ首都圏等で爆弾テロ事件(5月、12月)が発生し、多数の死傷者が出た。インドネシアにおいては、フィリピン大使公邸前における爆弾テロ事件(8月)及びキリスト教会を標的とした連続爆弾テロ事件(12月)が発生し、多数の死傷者が出た。
 中央アジアでは、イスラム過激派「ウズベキスタン・イスラム運動(IMU)」がイスラム国家の樹立を目的にテロ活動を活発に展開したため、9月、米国は、米国内法に基づき同組織を新たにテロ組織として指定した。また、12月、国連安全保障理事会は、アフガニスタンを事実上支配しているタリバン政権がイスラム過激派の黒幕的存在とされるオサマ・ビン・ラーディンを保護していることを遺憾に思う旨を表明し、同政権に対して制裁を強化するとともに、同人の第三国への引渡しを要求する決議を採択した。
 中東では、7月、米国、イスラエル及びパレスチナ間で、クリントン米国大統領の仲介による中東和平3首脳会談が開かれたが、聖地エルサレム帰属問題に関して合意が得られず、最終合意には至らなかった。その後、9月にイスラエルの野党リクードのシャロン党首が「神殿の丘」を訪問したことに端を発し、パレスチナ自治区やユダヤ人入植地等においてイスラエル軍とパレスチナ人との衝突が激化した。また、10月には、イエメンのアデン港において米国の駆逐艦が爆弾テロの被害を受け、17人が死亡する事件が発生したほか、首都サヌアにおいて英国大使館に対する爆弾テロ事件も発生した。
 欧州では、スペインの「バスク祖国と自由(ETA)」が、マドリード市内等で自動車爆弾テロ事件(6月、7月)、国民党議員射殺事件(7月)等を引き起こした。英国では、「アイルランド共和軍(IRA)」が英国政府との和平交渉に大筋で合意しているものの、同組織の分派や過激派がテロ活動を継続しているため、今後、和平交渉の推移に注目する必要がある。
 日本においても、6月、警察は、スリランカ人6人を出入国管理及び難民認定法違反で検挙し関係場所を捜索した結果、スリランカにおいてタミル国家樹立を求める「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」に関する資料を発見、押収した。このとき押収された資料から、テロ組織につながる外国人が我が国の豊かな経済力に着目して、資金調達等に関与していることがうかがわれた。
(4) 我が国の国際テロ対策
ア 情報収集と分析の強化
 近年、海外において日本人がテロの標的となったり、テロに巻き込まれるケースが発生していることから、警察では、職員の海外派遣等を通じて、各国治安機関との情報交換を行うなど情報収集活動を行い、将来テロを行うおそれのある集団の早期発見・把握に努めるとともに、イスラム過激派等の国際テロ情勢について専門的・総合的な分析を行っている。
イ 事案対処能力の強化
 警察では、海外において「在ペルー日本国大使公邸占拠事件」と類似の事案が発生した場合に迅速に対処できるように、警察庁におかれている「国際テロ緊急展開チーム(TRT:Terrorism Response Team)」が、平素から、国際テロ事件の捜査手法の研究、各国人質交渉専門家による訓練等を行い、事案対処能力の向上を図っている。
ウ 国際協力の促進に向けた取組み
 国際テロ対策は、国際社会全体が直面する重要かつ喫緊の課題であり、効果的に進めるには、世界各国の連携、協力が必要であることから、サミットや国連等の場において活発な討議がなされている。2000年(平成12年)7月に開催された九州・沖縄サミットでも重要議題として取り上げられ、我が国は議長国としてテロ問題へのG8としての対応を取りまとめた。「G8コミュニケ・沖縄2000」には、テロリズムのための資金の供与の防止に関する条約の採択を歓迎し、すべての国に対し、テロ対策における国際的協力の強化に向けたテロ対策に関する12の国際条約の締約国となることを呼び掛けるなどの内容が盛り込まれた。また、サミットの外相会合総括を受けて開催されたハイジャックに関するG8ワークショップには、警察庁も参加し、航空保安に関する議論に積極的に加わった。
 この他にも、警察は、国際協力の促進に向けた様々な取組みを継続している。その一環として、1993年度(5年度)以降、我が国の政府開発援助(ODA)事業として、開発途上国のテロ対策実務担当者を招致して「国際テロセミナー」を開催し、我が国で講じているテロ対策、テロ対策装備の活用状況等を紹介するとともに、国際テロ対策についての研究、討議等を通じて、国際テロ対策に関するノウハウの技術移転を積極的に行っている。また、1995年度(7年度)以降、テロ事件の捜査技術に関するノウハウの提供を積極的に行うため、国際協力事業団(JICA)との共催により、開発途上国のテロ対策実務担当者を招致し、「国際テロ事件捜査セミナー」を開催している。さらに、2001年(13年)2月、テロ対策に関する地域協力を推進するため、中近東地域のテロ対策担当者を招致し、東京において「中近東地域テロ対策協議」を開催した。
3 オウム真理教の動向と対策
(1) オウム真理教の現状
ア 教義及び指導体制
 オウム真理教(以下「教団」という。)は、平成11年12月の最高幹部出所後、名称を「宗教団体・アレフ」と変更し、麻原彰晃こと松本智津夫の教団内における位置付けも「観想の対象・霊的存在」としたほか、破産管財人との間で地下鉄サリン事件等一連のオウム真理教関連事件の被害者に対する補償に合意するなど、表面的には、これまでの教団とは異なる存在であることを強調した。しかし、教団は、依然として松本智津夫が確立した教義(仏教、キリスト教、ヒンドゥー教の自己解釈に終末思想を合成して作り上げた独自のもの)を堅持しており、信者は現在もその教えを繰り返し学習している。信者教育用のテキスト「尊師ファイナルスピーチ<説法集>(全4巻)」、「アレフ教学システム(全3巻)」は、すべて松本智津夫の説法からの抜粋であり、その中には、殺人をも肯定する極めて反社会的な「タントラ・ヴァジラヤーナ(秘密金剛乗)」の用語、殺人を意味する「ポア」の用語も残っている。また、多くの教団施設には依然として松本智津夫の写真を掲げている。
 教団の指導体制は、11年12月に出所した最高幹部を実質的なトップとし、その下に数名の「正悟師」を中心とする幹部を置く体制となっているが、松本智津夫の教団に対する影響力は依然として強い。
イ 構成員及び施設
 教団の構成員数は、12年末現在、1,650人以上(出家650人、在家1,000人以上)とみられるが、これら構成員の中には、科学技術、コンピュータ技術等の専門的知識・技能を持つ者が多数含まれている。
 教団は、全国13都府県に29か所の拠点施設(活動拠点等の枢要施設21か所、支部・道場などの修行施設8か所)を有するほか、全国約200か所に出家信者が数人から十数人で居住する、いわゆる分散居住施設を確保している。このうち、12年12月、信者の集団転入により判明した東京都世田谷区の「南烏山施設」は、互いに隣接するマンション3棟の10数室を教団が確保したものであり、信者約30人が入居した。同施設には、更に信者が入居することが予想されるほか、部屋の一部は道場に改装されており、今後教団の中心施設となる可能性がある。
ウ 経済状態
 教団は、従来から教団関連企業がコンピュータ部品を輸入し、パソコンを組み立て販売することにより大きな収益をあげており、12年3月には、教団関連のコンピュータ関連企業が官公庁等のシステム開発・納入を行っていたことが明らかとなり、一般国民から厳しい批判を受けた。この後、教団は、システム開発事業を信者個人が受注する形態に切り替え事業を継続している。
 12年12月末現在の教団関連企業は、コンピュータ関連企業5社のほか、書籍・食品関連企業等8社の13社となっている。これらの教団関連企業による収益及び信者個人が受注するシステム開発事業による収益が教団の収入の中心をなすものとみられる。
 このほかに、出家信者の稼働収益、在家信者からの会費・布施のほか、年数回開催する集中セミナーの参加費等による収入があるが、教団の資産、経理の実態は不透明である。
エ 住民運動
 教団施設が所在する地域においては、教団に不安を抱く地元住民による立ち退き要求運動が継続しており、とりわけ一部の拠点施設所在地での運動は活発である。
 教団の進出に反対する地元住民からなる対策組織は、12年末現在で全国15都府県268自治体で392組織を数えるほか、撤退を求める民事訴訟も3件提起されている(神奈川、茨城、岐阜)。神奈川県における訴訟について、横浜地方裁判所は、12年9月、「現在のオウム教団が、松本智津夫と絶縁したというのであればともかく、依然として、松本智津夫との関係を完全に絶つことができない以上、オウム教団の危険性については、従前と変わることはないといわざるを得ない」と教団の本質及び危険性について明確にした上で、住民勝訴の判決を下した。その後、教団側の控訴により東京高等裁判所において争われていたが、13年4月、住民勝訴の判決が下された。
 なお、関係自治体には、オウム信者からの転入の届出を受理しない方針を決定しているところも多いが、これに対しては、教団も全国3か所(東京都世田谷区、茨城県三和町、大阪府吹田市)で転入の届出の受理を求める行政訴訟を提起している。
オ 被害者補償
 12年2月、教団は、地下鉄サリン事件等一連のオウム真理教関連事件の被害者に対する補償の実行を改めて表明するとともに2,500万円を破産管財人の管理する補償基金である「サリン事件等共助基金」に支払った。7月には破産管財人との間に、宗教法人であったオウム真理教(7年10月、東京地裁が宗教法人法に基づく解散命令を決定)の破産残債務全額を引き受ける旨の合意書を締結するとともに、その中で、今後の支払いについて、9億6,000万円を17年6月末日までに支払うこと、そのうち、2億円を13年6月末日までに第1回分割金として支払うこと、残額7億6,000万円は1年間当たり1億円を最低額とする分割払いとすることを明らかにした(注)。その後、教団は支払いを継続し、12月には補償額の合計が2億円に達した。
 教団が被害者補償を推進する背景には、11年12月に成立した無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(以下「団体規制法」という。)による観察処分が適用されている中で、教団に対する国民の批判を少しでも緩和することで団体規制法による観察処分の適用を切り抜け、教団の存続を図ろうとする狙いがあるものとみられる。
(注) 破産宣告(8年5月確定)後の教団の負債額は約51億9,900万円、これに対し教団の資産総額は約10億4,100万円であり、破産管財人は10年10月、(諸経費等を除いた)中間配当として約9億6,000万円を被害者約2,100人に交付した。
 合意書により17年6月までに支払うこととされた9億6,000万円はこの中間配当の額に相当するものであり、破産管財人は残債務約40億円のうち、中間配当と同額を5年という期限を設けて教団に確実に支払わせることで、被害者補償の実効を高めようとしたとみられる。
(2) オウム真理教対策の推進
ア 事件捜査
 警察は、地下鉄サリン事件以降、信者の違法行為に対しては、刑法及び各種法令を積極的に適用して、平成12年末までに信者498人を検挙(このうち、指名手配被疑者については110人中106人を検挙)した。12年中は、13件の強制捜査を行い、12人の信者を逮捕するとともに、11都道府県で延べ114カ所に対する捜索を実施し、パソコン、フロッピーディスク等関係資料約9,300点を押収した。これらの捜査の中には、違法な手段による資産隠し、新たな資金源活動に対する捜査もある。
イ 警戒警備活動
 教団施設が所在する地域においては、教団の進出に反対する地元住民からなる対策組織による立ち退き要求運動が継続しており、関係する自治体も警察庁を含む関係省庁に対し要望を行っている。
 警察は、これらの教団施設が所在する地域の住民の平穏な生活を守り公共の安全を確保するため、施設周辺に臨時交番・警戒ボックスを設置し、パトロール、監視活動及び検問を強化するなど、施設の性格や住民運動の状況を踏まえた警戒警備活動を行っている。
ウ 団体規制法に基づく観察処分の発効と立入検査の実施
 12年2月1日、団体規制法に基づく教団に対する観察処分が発効し、4日には、関係5県警察と公安調査庁が、教団施設5か所に対して同法に基づく第1回目の立入検査を実施した。第2回目以降の立入検査は公安調査庁が単独で実施しているが、警察は、現地において公安調査庁と情報交換を行い、実施時には周辺警戒を行うなど、協力体制をとっている。なお、12年中は、延べ41か所の教団施設に対する立入検査が実施された。
 団体規制法の施行状況については、公安調査庁と警察庁が共同で12年5月に第1回目の、13年4月には第2回目の国会報告を行っている。
エ 関係省庁との連携
 警察庁は、11年5月、内閣に設置された「オウム真理教対策関係省庁連絡会議」(13年6月現在、内閣官房、警察庁、総務省、法務省、公安調査庁、国税庁、文部科学省、厚生労働省の8省庁等で構成)等を通じて関係省庁と緊密な連携を確保しつつ、必要な対応を行っている。
 また、社会復帰を希望する信者及び元信者に対する精神医学的・心理学的な援助・支援の在り方について研究する3省庁合同の研究会(警察庁、法務省、厚生労働省で構成)に参加し、信者の社会復帰対策についても関係省庁と協議を図った。
 このほか、各都道府県警察においても警察署や交番等で信者やその家族からの相談に応じ、さらに事情に応じて必要な措置を採るなどして、信者の社会復帰対策に努めている。
4 日本共産党の動向と対策
(1) 党活動の動向
ア 総選挙での敗北を受け、党勢拡大の大運動に取組み
 日本共産党は、平成12年6月に行われた第42回衆議院議員総選挙において、前回2議席を獲得した小選挙区で議席を失った上、比例区でも20議席(改選前比4議席減)を得るにとどまり、主要な野党では唯一議席を減少させた。
 共産党は、7月に第6回中央委員会総会を開催し、総選挙の結果について、共産党に対する批判宣伝を敗因に挙げた上で、あらゆる攻撃をはね返す強大な党を建設すべきとした。さらに、総選挙での敗北の根本には党建設の立ち後れがあるとして、11年の「総選挙をめざす党躍進の大運動」に引き続き、11月の第22回党大会までの4か月間を、「党員拡大を重点とした党勢拡大の大運動」とすることを提起した。その後、9月に開催した第7回中央委員会総会で党員は38万人に微増した一方、機関紙読者は197万人まで減少したことを明らかにし、党建設の立ち後れが党活動の最大の弱点となっていることを重ねて強調した。
イ 第22回党大会で規約を大幅に改定
 共産党は、第7回中央委員会総会で党規約の大幅な改定案を提案し、第22回党大会で採択した。今回の改定では規約前文を全面削除し、共産主義社会を実現するという党の目標等についての表現振りに変更が加えられた。具体的には、「労働者階級の前衛政党」という部分は削除され、「労働者階級の党であると同時に、日本国民の党」(第2条)との表現に改められた。また、党の目標については、従来は、「人民の民主主義革命を遂行」、「社会主義革命をへて日本に社会主義社会を実現」、「高度の共産主義社会を実現」等と、科学的社会主義の党としての原則にそって書かれていたが、「人間による人間の搾取もなく、抑圧も戦争もない、真に平等で自由な人間関係からなる共同社会の実現をめざす」(第2条)という表現に変更された。
 一方、「党は、科学的社会主義を理論的な基礎とする」という党の性格を示す規定や「党は、(中略)民主集中制を組織の原則とする」という組織原則の規定は、引き続き新設の第一章「日本共産党の名称、性格、組織原則」に明らかにされた(第2条及び第3条)。
 以上のように、共産党は大幅な規約改定を行ったが、その本質に係る部分は変更されなかった。また、綱領改定は行われず、共産党の基本的性格に変化はなかった。こうした規約の大幅な改定に対して、党内では、一層の柔軟路線を求める立場と科学的社会主義の原則を堅持する立場の双方から規約改定を批判する意見が出された。
 なお、大会決議では自衛隊に関し、「憲法違反の存在であるという認識には変わりがない」が、「過渡的な時期に、急迫不正の主権侵害、大規模災害など、必要にせまられた場合には、存在している自衛隊を国民の安全のために活用する。」との態度を示した。
 また、大会人事で、不破哲三委員長が議長に、志位和夫書記局長が委員長に就任し、市田忠義書記局次長が書記局長に昇格したが、「不破・志位」体制に実質的変化はなかった。
(2) 全労連の動向
 日本共産党の指導、援助により結成された全国労働組合総連合(全労連)は、平成11年7月の第18回定期大会で決定した「組織拡大強化第3次3カ年計画」に基づき、「200万全労連・600地域組織」を目指して組織拡大に取り組んだ。しかし、十分な成果が得られなかったことから、12年7月の第19回定期大会で、パート・臨時・派遣労働者その他の未組織労働者の組織化を柱に、すべての労働者を視野に入れた組織拡大に取り組む方針を打ち出した。
5 大衆運動の動向
 平成12年中は、産業廃棄物処理場やごみ焼却場の建設をめぐる反対運動、ダム建設や治水・干拓事業を環境破壊ととらえた運動が行われるなど、生活に身近な問題が大衆運動のテーマとなる傾向がみられた。
 環境保護団体グリーンピースは、我が国において有害物質による環境汚染の防止や森林の保護を訴える運動に取り組む過程で、PCB(ポリ塩化ビフェニル)を含む廃棄物を積載した貨物船が横浜港に入港した際、貨物船に乗り込み、横断幕を展張し、メンバー自身の体を鎖でコンテナに結びつけるなどした艦船侵入事件、東京都豊島区の清掃工場に隣接するビルの外壁にロッククライミングの要領でよじ登り、11階部分から横断幕を展張した建造物侵入事件、九州・沖縄サミット会場直近の立入り禁止区域内に制止を振り切って立ち入った軽犯罪法違反事件といった不法事案を引き起こした。
 10月、東京都日の出町所在の一般廃棄物処分場建設予定地内に反対する地元住民と支援者多数が所有していた共有地に対して、ごみ処分場建設をめぐっては全国で初めての行政代執行が行われ、反対派が座り込みや集会を行った。
6 右翼の動向と対策
(1) 悪質化する右翼団体
ア 違法行為の増加
 右翼は、思想を重視する伝統的な右翼が組織力を減退させる一方で、暴力団と関係を有する右翼の勢力伸長が著しい。こうした中で、右翼による違法行為の検挙件数は、最近5年間、毎年増加し、平成12年は1,195件であった(8年に比べ508件(73.9%)増加)。
 また、刑法犯検挙件数及び特別法犯検挙件数の全体に占める内訳をみると、粗暴犯が約36.9%、薬物犯罪が約13.3%を占めている。
 資金獲得目的犯罪の検挙件数は、最近5年間、ほぼ毎年増加し、12年は349件であった(8年に比べ156件(80.8%)増加)。企業を取り巻く厳しい経営環境の下、右翼の発行する機関紙等の購読や賛助金の拠出を打ち切る企業が増加しており、資金的に苦しい右翼も多い中、一部の右翼は、悪質、巧妙な方法で、新たな資金源を模索している。特に、最近では、環境問題に対する世間の関心の高まりを逆手にとって、産業廃棄物業者に対し、その違法行為をとらえて恐喝する事件が顕著になっている。また、商取引や競売等の民事訴訟手続に絡む違法行為により、企業等から利益を得ようとする動きも後を絶たない。
 右翼及びその周辺者からの銃器の押収は減少傾向にあるが、8月、東京都千代田区において、暴力団構成員15人が、解散して間がない右翼団体事務所として使用されていた場所に押し掛け、債権取立てをめぐるトラブルから、居合わせた元右翼団体構成員3人とけん銃及び刃物での乱闘となり、2人が死亡し、5人が負傷する事件が発生した。このように、右翼及びその周辺者の間に銃器が蔓延している実態がうかがわれ、市民にも被害が生じかねない状況にある。銃器の入手経路については十分に明らかではないが、12年中に右翼等から押収した銃器のうち、暴力団との関係を有する右翼等からの押収が約6割を占めることなどから、右翼等の保有する銃器の多くは暴力団から入手していると推察される。このような右翼と暴力団との関係が、右翼による違法行為の増加を招いている一因であるとみられる。
[事例1] 12年4月、右翼団体幹部(53)らは、老人ホーム増改築工事の下請け参入を断られたことに立腹し、約10日間10回にわたり、老人ホームに対して街頭宣伝車からお経を流していやがらせを行い、工事現場出入口付近に街頭宣伝車を停止するなどして資材搬入を妨害した。6月、威力業務妨害罪で検挙し、街頭宣伝車を押収し、街頭宣伝活動はやんだ(岡山)。
[事例2] 12年7月、右翼団体幹部(63)らが、牧場経営者に対して、牧場敷地内に産業廃棄物を不法投棄していると因縁を付け、牧場周辺で街頭宣伝活動を行うなどして脅迫の上、現金、手形総額500万円を脅し取った。同月、恐喝罪で検挙した(滋賀、長野)。
イ 地域住民の生活の平穏を害する街頭宣伝活動
 右翼による違法行為の典型的なものは、企業やその経営者等の糾弾活動と称して、街頭宣伝車を利用して大音量かつ執拗な街頭宣伝活動を行い、被害者の嫌悪感、恐怖心等につけ込んで、金員を提供させるものである。特に、最近では、関係者の自宅周辺に押しかけて執拗な街頭宣伝活動を行う傾向にあり、騒音被害にとどまらず交通渋滞をも引き起こすなど、地域住民の生活の平穏を害している。
 12年は、約220社の企業を糾弾する街頭宣伝活動が行われたが、その多くは資金獲得目的とみられる。また、関係者の自宅や勤め先の周辺で行われた街頭宣伝活動は、約90人を対象として延べ約1,090回に上っており、1年以上にわたり70回以上も街頭宣伝活動が継続した極めて悪質な糾弾活動もみられた。
 これに対し、企業等が民事保全法に基づき、街頭宣伝活動を制限する仮処分命令を裁判所に申請して右翼に対抗することが定着し、12年中は、警察で把握しているだけで、55件の仮処分命令が出された。そのうち、44件が仮処分命令に従い街頭宣伝活動を中止するなどしていることから、仮処分命令が企業等にとって有効な対抗手段となっている状況が認められるが、一方で仮処分命令を無視するなどの動きもみられた。
ウ 時局問題や領土問題をめぐる政府等への批判
 右翼は、12年中、時局問題や領土問題をとらえ、政府等に対する批判活動に活発に取り組んだ。
 北朝鮮問題では、約1,390団体約4,610人が、街頭宣伝車約1、430台を動員して、全国各地で、日朝国交正常化交渉や北朝鮮への米支援について、北朝鮮・朝鮮総聯及び政府・外務省を批判する街頭宣伝活動等を行った。
 在日外国人に対する地方参政権付与問題では、約370団体、約1、000人が、街頭宣伝車約250台を動員して、いわゆる永住外国人地方参政権付与法案の成立に反対する街頭宣伝活動等を行った。
 北方領土問題では、「北方領土の日(2月7日)」に25都道府県で約180団体約1、030人が、街頭宣伝車約310台を動員し、また、旧ソ連軍が満州に侵攻した日(8月9日)を「反ロデー」と称して18都道府県で約270団体約1、970人が、街頭宣伝車約490台を動員して、ロシアを批判するなどの街頭宣伝活動を行った。
 また、右翼は、外国要人の来日時や国内要人の出席する行事の開催時等には、開催地、宿泊先等において、抗議を企図した執拗な接近、はいかい等を行った。
(2) 右翼対策の推進
ア 違法行為の徹底検挙
 警察は、右翼によるテロ等重大事件を未然防圧するとともに、悪質右翼団体を壊滅するために、違法行為の徹底した取締りを行い、平成12年中、1,195件(1,584人)を検挙した。そのうち、道路交通法違反が348件(354人)、粗暴犯が313件(464人)、薬物犯罪が113件(114人)であった。特に、悪質な右翼の資金源を断つため、恐喝162件(269人)のほか、競売妨害14件(33人)、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反63件(104人)、政治資金規正法違反7件(9人)等、資金獲得目的犯罪349件(570人)を検挙した。
イ 街頭宣伝車対策の推進
 警察では、右翼の街頭宣伝車による拡声機騒音対策として45の都府県において制定された暴騒音規制条例に基づき停止命令(中止命令)161件、勧告422件、立入り128件を行った。また、国会議事堂等周辺地域及び外国公館等周辺地域の静穏の保持に関する法律違反、暴騒音規制条例違反で右翼13人を検挙した。さらに、街頭宣伝車を利用した名誉毀損、恐喝事件をはじめ、街頭宣伝活動に伴う違法行為により右翼173人を検挙した。
ウ テロ・ゲリラ事件の未然防止
 警察では、右翼による銃器使用テロ事件を未然防止するため、銃器の摘発を推進した結果、右翼及びその周辺者から銃器63丁を押収した。
 なお、12年中は、銃器を使用したテロ・ゲリラ事件はみられなかったが、右翼によるテロ・ゲリラ事件1件(1人)を検挙した(表6-2)。
[事例] 5月、右翼(28)が、大阪府吹田市所在の教団大阪支部に火炎びんを投てきした。同月、火炎びんの使用等に処罰に関する法律違反等で検挙した(大阪)。
7 極左暴力集団の動向と対策
(1) 極左暴力集団の動向
ア JR労組問題に積極的に介入した革マル派
 革マル派は、これまで党派色を隠してJR等の基幹産業の労働組合を始めとする各界各層への浸透を図ってきたが、平成12年は、JR総連内における革マル派組織の存在を明らかにするなど、党派色を鮮明にしてJR労組問題に積極的に介入した。
 同派は、1月、都内で開かれたJR総連傘下のJR東労組東京地本の旗開きに押し掛け、相次ぐトンネル壁の崩落事故に対するJR総連傘下労組の取組みの弱さを批判するビラを配布した。その後同派は、1月下旬から全国のJR社宅に対し「主張」と題するビラを連続的に配布し、JR東労組会長の講演録や組合員の投稿記事を登載する一方、これまで支援・擁護してきたJR東労組の一部の幹部を批判した。
 これに対し、JR東労組は機関紙で革マル派のビラ配布行動を批判する記事を掲載したが、革マル派は機関紙「解放」に植田琢磨議長名で「『労組への介入』ではない!」と題する声明を掲載し、「JR東労組のダラ幹ども」と厳しく批判して、「既存の労働組合の外部につくり出されている革命党であるわが同盟は、あらゆる産別・労働組合の内部でたたかっている戦闘的労働者とともに、JR総連労働運動の組織的防衛のために奮闘してきたし、今後もまたそうである」と主張し、革マル派のJR労組問題への介入を正当化した。同派が、議長名の記事を機関紙に掲載するのは極めて珍しく、しかもJR労組問題に関して議長名による声明を出したのは今回が初めてであった。
 10月には、JR総連傘下のJR九州労で組合員全体の8割にあたる737人の組合員がJR九州労を脱退し、対立するJR連合傘下のJR九州労組へ加入届を提出するという事態が発生した。革マル派は、脱退の中心となった労組幹部を「裏切り者」と批判するとともに、脱退届を提出した組合員の「復帰」とJR九州労の組織再建を呼び掛けた。その後、同派は機関紙「解放」に、中央労働者組織委員会名の論文を掲載し、その中でJR九州労の問題を生み出した要因として「JR総連内におけるわが党の組織力の弱体化のゆえであることを、われわれは痛苦の念をもって自己批判する」等と述べ、JR総連内における同派勢力の存在を明らかにした。
 他方、11月、埼玉県下においてJR総連元組合員が行方不明になるという事案が発生した。JR総連は本事案を「革マル派構成員が連れ去り、監禁している」として革マル派を告発した。
 これに対して革マル派は、JR総連元組合員のら致、監禁を否定するとともに、機関紙で「JR総連本部執行部を打倒することを宣言する」などと反発を強めた。
 このように革マル派が、党派色を鮮明にしてJR労組問題への介入を強めた背景には、JR総連等が、対外的に革マル派を「テロ集団」等と批判し、同派を監禁等で告訴・告発したことから、このままではJR総連や東労組内に相当浸透している同派の組織・活動家に混乱をきたし、JR労組運動への影響力が低下するとの危機感があったものと思われる。
 警察は、12年中、革マル派が国労の内部資料等を入手する目的で9年5月に東京都豊島区内の国労執行委員宅に侵入した事件を解明し、非公然活動家1人を検挙、2人を指名手配するなど、革マル派活動家17人を検挙、14人を指名手配(このうち4人を検挙)した。
イ 組織拡大を図る中核派
 中核派は、12年の闘争課題に衆議院議員総選挙、沖縄サミット、国労問題を掲げて、市民や労働者の獲得による組織拡大に向け、労働運動や大衆運動に取り組んだ。
 労働運動では、いわゆる1,047人問題(国鉄分割民営化に際し、JRに採用されなかった旧国鉄職員がJRへの就職を求めている問題)に関し、いわゆる四党合意(平成12年5月に与党三党(自民党、公明党、保守党)と社民党が、国労がJRに法的責任がないことを認め、国労臨時全国大会においてその旨を決定することを前提に、問題の解決を図るとした合意のこと)の受入れに反対する集会を開催した。このほか、国労の臨時・定期全国大会に全国から活動家延べ約700人を動員し、「四党合意反対」等を訴える取組みを積極的に行った。
 大衆運動では、新ガイドライン反対運動で幅広い勢力を結集させた「百万人署名運動」(9年9月「日米新安保ガイドラインと有事立法に反対する百万人署名運動」として結成し、11年9月、名称を「とめよう戦争への道!百万人署名運動」に変更)を引き続き主導して、大衆団体、労組への浸透を更に深め、組織拡大に結びつけることを目指した。
 また、同派は、12年6月の衆議院議員総選挙に国政選挙としては35年ぶりに元都議会議員を擁立したが、落選した。
ウ 内ゲバを繰り返す革労協
 革労協は、11年5月、狭間嘉明を中心とするグループ(以下「主流派」という。)と山田茂樹を中心とするグループ(以下「反主流派」という。)に分裂、その後双方が切り崩しを狙って主導権争いを展開し、11年中に5件、12年中に6件の内ゲバ事件を引き起こした。
 警察は、6月、都内において反主流派活動家17人を凶器準備集合罪で検挙するとともに、九州大学校内における内ゲバ事件により、主流派活動家7人、反主流派活動家5人の計12人を傷害罪等で検挙するなど徹底した取締りを実施した。さらに、13年2月には、神奈川県内において反主流派活動家を襲撃するため路上に停車した車両内で待ち伏せていた主流派の内ゲバ実行部隊員4人を現場で凶器準備集合罪等で検挙した。
 なお、反主流派の拠点となっている明治大学では、自治会費や学園祭の収益の一部が反主流派の活動資金になっており、大学は12年の大学祭の中止、13年度からの自治会費代理徴収の中止を決定した。これに対し反主流派が、機関紙等で大学当局を批判するなど反発を強め、11月、同大学学生部長がサングラスやマスクで顔を隠した集団に襲撃され、重傷を負う事件が発生した。
エ テロ、ゲリラ事件の発生
 中核派、革労協は、成田空港問題等をめぐって、12年中に6件のテロ、ゲリラ事件を引き起こした(表6-3)。
 運輸省及び新東京国際空港公団は、13年11月の暫定平行滑走路完成に向け、東峰、天神峰地区等の工事区域をフェンスで囲う工事や造成工事、道路の付け替え工事を行った。これに対して、反対同盟北原グループ及び極左暴力集団は、工事中止を訴えて工事区域周辺において集会、デモによる抗議行動に取り組んだ。
 こうした中、中核派が「8.26運輸省運輸政策局幹部宅爆発事件」、「9.13運輸省大臣官房文書課長所有車両放火事件」、「11.8新東京国際空港公団幹部宅爆発事件」を引き起こしたほか、暫定平行滑走路が完成する13年11月までを「1年間決戦」として闘う方針を打ち出した。
 また、成田空港問題以外においても、革労協が同派の分裂をめぐって「5.15明大和泉校舎第二学生会館放火事件」、同派の拠点校である明治大学の学園祭等をめぐって「11.2明治大学教授襲撃事件」、九州・沖縄サミットをめぐって「7.3米軍横田基地に向けた飛翔弾発射事件」を引き起こした。
(2) 極左対策の推進
 警察は、各種法令を適用し、極左暴力集団の潜在的違法事案を掘り起こすなど事件捜査の徹底を図るとともに、アパート、マンション等に対するローラー作戦を継続して実施した。また、極左対策に対する国民の理解と協力を得るため、ポスター等の各種広報媒体を活用して広範な広報活動を積極的に推進した。
 これらの対策を推進した結果、非公然活動家9人を含む120人の極左活動家を検挙した。
8 各種重要警備等
(1) 相次いだ重要警衛・警護・警備
ア 九州・沖縄サミット警備
 九州・沖縄サミットは、我が国初めての地方・分離開催となり、平成12年7月8日の福岡蔵相会合を皮切りに、7月12日、13日の宮崎外相会合、そして、7月21日~23日の沖縄での首脳会議が開催された。警察は宮崎へ約3,500人、沖縄へ約2万500人の特別派遣部隊を派遣し、福岡、宮崎はそれぞれ約5,000人体制で、また沖縄は約2万2,000人体制で警備を実施した。各会議開催期間中には、極左暴力集団による集会、デモや右翼の取組み、市民団体等による米軍嘉手納基地包囲行動等があり、グリーンピース構成員4人を軽犯罪法違反で現行犯逮捕したが、これ以外の違法事案の発生はなかった。また、テロ、ゲリラ事件を封圧し、首脳等の身辺の安全と会議の円滑な進行という警察に課せられた任務を完遂した。
(ア) 九州・沖縄サミットをめぐる諸情勢
a 「戦後史を画する大決戦」として取り組んだ極左暴力集団
 極左暴力集団は、九州・沖縄サミットを「帝国主義の侵略戦争と基地強化の会議」と捉え、「粉砕」を主張し、「戦後史を画する大決戦」、「2000年最大の課題」として反対闘争に取り組んだ。福岡蔵相会合に際しては、中核派、革マル派、革労協反主流派が延べ約150人、宮崎外相会合に際して、革マル派、革労協反主流派の13人が集会、デモ、ビラ配布を行った。沖縄首脳会議に際しては、全国から約1,200人の活動家が沖縄県入りし、沖縄県内の活動家とともに7月19日~23日の間、延べ約4,500人(嘉手納基地包囲行動に参加した約1,100人を含む。)を動員して、連日、集会、デモ等に取り組んだ。
b 要人への接近を企図した右翼
 沖縄では、首脳会議開催期間中、右翼3団体の5人が会場周辺や要人の行き先地周辺等をはいかいしたものの、同会議開催前及び開催期間中を通して、街頭宣伝車を使った街頭宣伝活動は行われなかった。また、福岡では、蔵相会合開催期間中に、右翼1人が空港周辺をはいかいしたにとどまったほか、宮崎では、外相会合開催前に、約70団体、約360人が街頭宣伝車約110台を動員して街頭宣伝活動を行ったものの、同会合開催期間中は、1人が会議会場付近をはいかいしたにとどまった。
c 反基地、重債務帳消等多彩な課題を掲げて取り組まれた大衆運動
 沖縄県内で反基地運動に取り組む諸団体は、サミット自体に対しては、反対する態度はとらず、サミット開催の機会に沖縄の基地問題を世界に訴える方向での取組みを中心とした。最大の取組みは、7月20日に行われた嘉手納基地包囲行動で、約1万8,000人が参加し、「人間の鎖」で嘉手納基地を取り囲み、反基地を訴えた。一方、サミット開催に合わせて開発途上国の債務の帳消しや軽減を求めるなど様々な課題を掲げる多くの団体が、集会、デモ、国際シンポジウム等の多彩な催しに取り組んだが、混乱は生じなかった。
 サミット初日の7月21日、環境保護団体グリーンピースは、所有船「レインボー・ウオリア号」からゴムボート数隻を下ろして、示威行動をしながらサミット会場周辺の名護湾を航行した。このうちのゴムボート1隻が、再三にわたる警告を無視して、サミット開催期間中立入り禁止のブセナビーチ内に立ち入ったため、警察は、乗船していた4人を軽犯罪法違反で現行犯逮捕した。
d G8各国に対して高まる国際テロの脅威
 サミットは、世界の注目を集める国際会議のため、国際テロ組織が主義・主張を宣伝する絶好の機会であり、テロの可能性も排除できない。また、日本赤軍は、過去、サミットに際して「ジャカルタ事件」等を引き起こしていることから、その動向に注意を要したが、関係機関と連携し、海空港対策等所要の警備措置を講じたことなどから、国際テロ組織によるテロ事件の発生はなかった。
(イ) 警備対策
a 警備諸対策
 警察庁は、開催1年前の11年7月に「九州・沖縄サミット警備対策委員会」を設置、開催3県警察においては「サミット対策課」を設置して開催に向けた警備諸対策を推進した。各都道府県警察においても警備対策委員会等を設置するなど全国警察一体となって取り組んだ。警察史上最大の約2万500人の部隊の特別派遣を受けた沖縄では、この大部隊を的確に指揮するために特命警備本部制度を採用し、方面本部の責任者に全国警察から人材を活用して配置した。また、沖縄の地理的特性を踏まえ、水上バイクによる警戒を行い、また、特別派遣された部隊の酷暑対策にも配慮した。さらに、今回の警備は、警備による国民への負担を最小限にするという方針の下、特に交通対策については、交通総量の3割削減と必要最小限の交通規制を目標として、民間協力の確保、交通規制情報の周知徹底等総合的な対策を実施し、開催期間中の円滑な交通を確保した。
 また、部隊を特別派遣する都道府県警察では、大部隊を長期間派遣することによる一般治安対策、特に災害等の突発事案対策が必要となったため、全国警察において、当直体制の変更や部隊の臨時編成等の工夫により、治安水準の低下を防止し、市民生活の安全を確保した。
b 極左対策
 極左暴力集団によるテロ、ゲリラの未然防圧のため、各種の事件捜査の徹底を図るとともに、広範な広報活動を実施した。これらの対策を推進した結果、11年10月下旬以降、札幌市内において革マル派非公然アジト「札幌豊平アジト」を摘発するとともに、沖縄県内で極左暴力集団がサミット反対闘争のために設定していたアジト数か所を発見した。また、極左活動家149人を検挙し、全国の活動拠点に対する捜索を実施した。その結果、沖縄県、福岡県、宮崎県では、テロ、ゲリラ等違法事案を封圧することができた。
c 右翼対策
 右翼の中には、サミット開催前から、ロシア、米国を批判する街頭宣伝活動や両国首脳に対する抗議行動への取組みを示唆する言動もみられた。警察では、右翼によるテロ等重大事件を未然に防止するための諸対策や違法行為に対する警戒を強化した結果、右翼による各種の取組みを最小限に押さえ込み、右翼による違法行為を未然防圧することができた。
d サイバーテロ対策
 サミットのプレスセンターや開催県のライフライン等がサイバーテロの標的とされる可能性も否定できない状況であったことから、関係施設に対するシステムの安全確保に関する要請等を行い、緊急対処体制を確立したが、サイバーテロの発生はなかった。
イ 「故小渕恵三」内閣・自由民主党合同葬儀に伴う警備
 12年5月14日に逝去した小渕恵三前首相の内閣・自由民主党合同葬儀は、6月8日、日本武道館で執り行われた。本葬儀には、天皇皇后両陛下のお使及び皇太后陛下のお使、皇太子同妃両殿下を始め各皇族方が御臨席されたほか、葬儀委員長である森喜朗首相を始めクリントン・米国大統領、金大中・韓国大統領等国内外から約6,000人が参列した。
 合同葬儀に際し、外国要人に対するテロや右翼による違法事案が懸念されたが、警察では、警備対策委員会の設置等の諸対策により、要人の安全と関係諸行事の円滑な進行を確保した。
ウ 香淳皇后の崩御に伴う警備
 12年6月16日に香淳皇后が崩御され、7月25日、「斂葬の儀」が執り行われた。天皇皇后両陛下を始め各皇族方、森喜朗首相、シリントーン・タイ王国王女等の国内外の要人が参列したほか、一般拝礼が行われた。
 「斂葬の儀」に際しては、極左暴力集団等が反対集会、デモ等に取り組んだが、警察は、警衛警護警備対策室の設置等の諸対策を推進し、天皇皇后両陛下を始め各皇族方や国内外要人の身辺の安全と関係諸行事の円滑な進行を確保し、雑踏事故防止及び交通の安全と円滑の確保を図った。
エ 警衛・警護
(ア) 警衛
 12年中、天皇皇后両陛下は、全国植樹祭(4月、大分県)、全国豊かな海づくり大会(10月、京都府)、国民体育大会秋季大会(10月、富山県)及び西暦2000年酸性雨国際学会(12月、茨城県)への御臨席、地方事情(11月、岡山県)の御視察を始め、8府県に行幸啓になった。
 皇太子同妃両殿下は、第11回全国「みどりの愛護」のつどい(4月、香川県)を始め、各種の行事・式典への御臨席等のため行啓になった。
 また、天皇皇后両陛下が、国際親善のためオランダ及びスウェーデンを御訪問(5月~6月)になったほか、各皇族方が計3回、外国を御訪問になった。
 これに対し、極左暴力集団等は、御臨席される行事等をとらえて、来県等に反対する集会、デモや街頭宣伝活動に取り組んだ。このような情勢の中で、警察は、皇室と国民との親和に配意した警衛警備を実施し、御身辺の安全確保と歓送迎者の雑踏事故防止等を図った。
(イ) 警護
 12年は、6月の衆議院議員総選挙に伴い、首相を始め国内要人の地方日程が増加した。また、「故小渕恵三」内閣・自由民主党合同葬儀と九州・沖縄サミットに伴い、各国首脳が来日したことに加え、プーチン・ロシア大統領(9月)、金大中・大韓民国大統領(9月)、朱鎔基・中国国務院総理(10月)、ハタミ・イラン・イスラム共和国大統領(10月)等の外国要人が多数来日した。
 警察は、厳しい情勢の下、銃器、爆発物等を使用したテロへの対応を念頭に置いた警護警備諸対策を徹底し、要人の身辺の安全を確保した。
(2) 機動隊の活動
ア 機動隊の種類と機能
 各都道府県警察においては、有事即応体制を保持する常設部隊として機動隊が設置されているほか、その補完のための部隊として管区機動隊及び第二機動隊が置かれている。
 機動隊の中には専門的部隊として、爆発物処理班、機動救助部隊、水難救助部隊、銃器対策部隊等の機能別部隊が編成されている。また、一部都道府県にはハイジャックや人質たてこもり事件等に対処するための特殊部隊(SAT)が設置されており、12年5月に発生した、少年による高速バス乗っ取り事件に際しては、広島県警察と連携の上、事案の解決に貢献した。さらに、大規模災害発生時の初動措置に当たる広域緊急援助隊や国際緊急援助隊が全国警察の機動隊員、管区機動隊員等で編成されている。
イ 機動隊の任務
 機動隊は、危機管理のための集団警備力の中核として、集団不法事案に対する治安警備、主要な警衛・警護警備、台風・地震等の災害警備、祭礼・催し物の雑踏警備に当たるほか、盛り場における集団警らや、暴力団対策、暴走族の一斉取締り等部門を越えた多角的な活動を行っている。また、社会情勢や国民の要請に柔軟に対応するため、機能別部隊の専門能力を生かして捜査活動、人命救助活動等市民に密着した警察活動に従事しており、最近では、暴騒音取締りや核、生物、化学物質を使用したNBCテロ等の新たな事象にも対応すべく、その機能強化を図っているところである。


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