第5章 安全かつ快適な交通の確保

 自動車は、現代社会に欠かすことのできない移動・輸送手段であり、そのもたらす恩恵は計り知れない。しかしその一方、交通事故によって毎年多くの尊い人命が失われ、負傷者も増加の一途をたどり、また、交通事故に伴う経済的損失もばく大なものとなっている。平成12年は、交通事故死者数が5年ぶりに増加に転じ、9,066人を数え、負傷者数は115万5,697人と過去最悪を記録した前年を上回るなど、依然として厳しい情勢にある。
 警察は、交通の安全と円滑の確保のため、交通安全教育、免許行政、交通指導取締り、交通安全施設の整備等様々な施策を推進している。
1 交通警察の新たなる展開
(1) 第7次交通安全基本計画
 平成13年3月16日、13年度から17年度までの5か年間を計画期間とする第7次交通安全基本計画が作成された。交通安全基本計画は、内閣総理大臣を会長とする中央交通安全対策会議が作成し、交通の安全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱等を定めているものである。
 第7次交通安全基本計画においては、当面、自動車保有台数当たりの死傷者数を可能な限り減少させるとともに、17年までに、年間の死者数を、交通安全対策基本法施行以降の最低であった昭和54年の8,466人以下とすることを目指すものとされており、そのため、国の関係行政機関および地方公共団体は、諸施策を総合的かつ強力に推進することとされている。
 警察においても、高齢者の交通安全対策の推進、シートベルトの着用及びチャイルドシートの使用の徹底、安全かつ円滑な道路交通環境の整備、交通安全教育の推進、効果的な指導取締りの実施、被害者対策の充実、交通事故調査・分析の充実等を始めとして、交通の安全を確保するための諸施策を推進することとしている。
(2) IT革命と交通警察
ア 道路交通のIT化
 情報通信技術による産業・社会構造の変革が世界規模で生じている中、我が国においては、世界最先端のIT(情報通信技術)立国の形成を目指した取組みが官民一体となって進められている。高度情報通信ネットワーク社会形成基本法に基づき平成13年3月に作成された「e-Japan 重点計画」中、警察の行うITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)に関する事項が盛り込まれるなど、交通警察においても、関連施策を積極的に推進することが求められているところである。
 ITSとは、最先端の情報通信技術等を用いて人と道路と車両とを一体のシステムとして構築することにより、ナビゲーションシステムの高度化、交通管理の最適化等を図り、安全性、輸送効率及び快適性の飛躍的向上を実現するとともに、渋滞の軽減等の交通の円滑化を通じ、環境保全に大きく寄与するものであるが、警察では、これを積極的かつ重点的に推進するとともに、警察の行うITSのキーインフラである光ビーコン(通過車両を感知して交通量等を測定するとともに、車載のカーナビゲーション装置等と交通管制センターとの情報のやりとりをする路上設置型の赤外線通信装置)の設置数を12年度末の約3万基から17年度末までに約6万基にすることを目指している。
イ 新交通管理システム(UTMS)の推進
 警察は、ITSの実現に向けて、光ビーコンを用いた個々の車両と交通管制システムとの双方向通信により、ドライバーに対してリアルタイムの交通情報を提供するとともに、交通の流れを積極的に管理し、「安全・快適にして環境にやさしい交通社会」の実現を目指すUTMS(Universal Traffic Management Systems:新交通管理システム)を推進している。
 このUTMSは、表5-1のとおり、高度交通管制システム(ITCS)を中心に、八つのサブシステムから構成されており、交通の安全と円滑はもとより、地球温暖化の抑止、交通公害の防止、物流の効率化、大量公共輸送機関の利用促進、中心市街地の活性化等に大きな効果が期待されている。
(ア) 高度交通管制システム(ITCS)の整備
 ITCS(Integrated Traffic Control Systems:高度交通管制システム)は、UTMSの中核となるものであり、同システムの整備として既存の交通管制センターの中央装置の高度化を計画的に推進している。交通管制センターは、都市及びその周辺の交通を安全で円滑なものとするため、信号機等の集中制御、光ビーコン等を活用した交通情報の収集・提供等を行う施設であり、12年度は、1か所の中央装置を高度化した。
 また、災害時の道路交通状況を即座に把握し、緊急通行車両等の通行及び円滑な避難誘導活動を確保するため、主要幹線道路等において、各種車両感知器、交通監視用カメラ、交通情報板等の整備を進めるなど、災害に強い交通管制システムの構築を推進している。警察庁においても、13年5月、広域交通管制室の運用を開始し、オンライン接続された各都道府県警察の交通管制センターから詳細な交通情報を一元的に集約し、それを災害時等に活用できるようになった。
(イ) 交通情報提供システム(AMIS)の推進
 AMIS(Advanced Mobile Information Systems:交通情報提供システム)は、運転者等に対し渋滞、事故、工事、目的地までの旅行時間等の道路交通情報を様々なメディアを通してリアルタイムに提供することにより、交通流の自律的な分散、交通渋滞の緩和、運転者の心理状態の改善等を図るシステムである。
 警察においては、VICS(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報通信システム)という、光ビーコンの双方向通信機能の活用等によって、時々刻々と推移する道路交通情報を車載のカーナビゲーション装置等に直接提供するシステムにより、AMISを推進している。なお、VICSの事業主体は、(財)道路交通情報通信システムセンター(VICSセンター)であり、13年6月末現在、光ビーコン・電波ビーコン・FM多重放送により29都道府県で運用が行われており、13年5月までに、全国の一般道路及び高速道路で光ビーコン・電波ビーコンによる情報提供が開始されている。
 なお、13年6月の道路交通法改正により、民間事業者が正確かつ適切に交通情報を提供できるよう、国家公安委員会が交通情報の提供に関する指針を作成、公表することや、道路の混雑の状態や目的地までの旅行時間を予測する事業を行う民間事業者が届出をすべきことなどの規定が整備された。
(ウ) 公共車両優先システム(PTPS)の推進
 PTPS(Public Transportation Priority Systems:公共車両優先システム)は、バス優先の信号制御、バス専用・優先レーンの設定等の交通規制やバスレーン上を違法走行する一般車両に対する警告等により、バスの優先通行を確保するとともに、乗客への所要時間表示等を行い、バスの定時性及び利便性の向上を図るシステムである。このシステムは、13年6月現在、17都道府県警察において運用されている。
[事例] 兵庫県警察では、県内のバス事業者と連携して積極的にPTPSの導入を推進しており、その規模は、13年6月現在、参加事業者数9、路線数10、路線総延長71.5km、導入バス台数273台となっている。また、12年中に9路線、46.1km の区間を対象に行われた調査によると、PTPS導入後のバスの所用時間は、平均して11.2%(1分55秒)短縮しており、PTPSが通勤、通学等のためバスを利用する地域住民の利便性向上に寄与していることが明らかとなっている。
(エ) 車両運行管理システム(MOCS)の推進
 MOCS(Mobile Operation Control Systems:車両運行管理システム)は、光ビーコンにより収集した事業用車両の走行位置等の情報を事業者に提供することにより、その事業者が行う運行管理を支援し、交通の円滑化等を図るシステムである。このシステムは、13年6月現在、北海道(札幌市)、長野県(松本市、上高地地区)、大阪府(大阪市)、兵庫県(川西市)、福岡県(福岡市)、沖縄県(那覇市)において、それぞれの事業及び地域の実情に応じたシステムが運用されている(図5-1)。
[事例] 大阪府警察では、13年2月、大規模な廃棄物焼却場の建設を契機に、大阪市と連携して、約1,200台の廃棄物収集用車両の走行経路を分散させることなどを目的とするMOCSの運用を開始した。これにより、廃棄物の搬入経路の混雑や、その沿道地域に及ぼす交通公害の減少等が図られることとなった。
(オ) 緊急通報システム(HELP)の推進
 HELP(Help system for Emergency Life saving and Public safety:緊急通報システム)は、衛星を利用した位置測定を行うGPS技術を活用することにより、自動車乗車中の事故発生時等に携帯電話等を通じてその発生場所等の情報を即時かつ正確に緊急通報し、救命率の向上を図るシステムである。12年9月、民間事業者のサービスが開始され、事故発生時には警察、消防等の関係機関に対し必要な情報が的確に通報されている。警察においても、通信指令システムの高度化等の措置を講じて、より実効性の高いシステムを構築するよう努めているところである(図5-2)。
ウ 地域に根ざしたITSの推進
 地域に根ざしたITSを推進するため、各都道府県警察が中心となり、地方公共団体の交通安全対策担当部署、バス業界代表、トラック業界代表等から成る推進連絡協議会を全国に設立している。協議会において、警察は、ITSについての構成員の理解の促進を図るとともに、その都道府県におけるUTMSを始めとするITSの活用方策について、構成員との間で意見交換を行っている。
(3) バリアフリー社会の実現
ア 高齢者等が安心して通行できる道路交通環境の整備
 高齢者等が安心して通行できる空間を作り出すため、高齢者が利用する施設の周辺等を中心として、最高速度規制、大型車通行禁止等の交通規制を組み合わせたシルバーゾーン等を設置するほか、住居系地区等を対象に、都道府県公安委員会によるゾーン規制等の交通規制と道路管理者によるハンプや狭さく等の安全対策を施したコミュニティ道路等の面的整備を適切に組み合わせたコミュニティ・ゾーンの形成を推進している。
 なお、高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律が、平成12年11月15日に施行された。この法律は、高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の利便性及び安全性の向上の促進を図るため、市町村が定める基本構想に則して、交通のバリアフリー化に資する事業を都道府県公安委員会、公共交通事業者、道路管理者等が一体となって推進することをその内容としており、この法律により、都道府県公安委員会では、鉄道駅等の旅客施設を中心とした福祉施設等を含む地区における交通安全施設の整備、違法駐輪・駐車対策を推進している。
 また、13年6月の道路交通法改正により、肢体不自由を理由に免許に条件を付された運転者が運転する普通自動車が一定の様式の標識(障害者マーク)を付けているときは、他の自動車の運転者が幅寄せをしたり、割込みをしたりすることを禁止するとともに、身体の障害のある歩行者が通行しているときは、車両等の運転者はその通行を妨げないようにしなければならないこととされた。
[コラム1] 生活者に優しい交通環境の構築
 警察では、最新のITS技術を活用することによって、自動車だけでなく歩行者の通行を安全で快適なものとするための取組みを進めている(エ参照)。
 平成12年2月には、横浜市のJR磯子駅周辺においてPICSの実証実験を行った。駅、バスターミナル、区役所、デパート等を結ぶ通路等を通行する者が、携帯型受信機を通じて、音声案内により駅の改札やバス乗り場の方向を判別することや、地図画像によりエレベータの使える経路を知ることができるようにするというものである。参加した車いす利用者や視覚障害者からは、「安心して街を行き来することができた」、「早く普及させてもらいたい」との声が多く聞かれた。
イ 信号機の高度化
(ア) 高齢者等感応信号機
 高齢者等感応信号機は、高齢者、身体障害者等が交通量の多い道路でも安全に横断できるよう、信号柱に設置された押ボタンや携帯用の発信機を操作することにより、歩行者用信号機の青の時間を延長することのできる機能を有する信号機である。12年度末現在、全国で3,047基が整備されている。
(イ) 音響式信号機
 音響式信号機は、音響により視覚障害者に信号が青になったことなどを知らせる機能を有する信号機である。12年度末現在、全国で1万1,395基が整備されている。
 最近では、交差する道路のどちらの方向が青であるかを分かりやすくするため、音響を道路の両側から交互に出力する装置の導入を推進している。また、住宅が近接した、比較的幅の狭い道路では、青信号の開始をチャイムや人の声のような穏やかな音で知らせるなど、周辺への騒音の軽減に配慮した装置の導入を推進している。
ウ 道路標識・道路標示の大型化等
 高齢者、身体障害者等にも道路標識・道路標示を見やすく分かりやすいものとするため、道路標識の大型化を推進しているほか、夜間の視認性を向上させるため、道路標識を内照式、自発光式のものにするとともに、道路標示の高輝度化、大型化を推進している。
エ 歩行者のためのITSの推進
 PICS(Pedestrian Information and Communication Systems:歩行者等支援情報通信システム)は、高齢者、身体障害者等が携帯する端末装置と信号機に併設した通信装置との双方向通信により、歩行者用信号機の表示等を音声で知らせたり、歩行者用青信号の延長を行ったりして、その安全で快適な通行を支援するものである。このシステムは、12年度末現在、全国で20の地区で運用されている。
[事例] 愛知県警察では、PICSの整備に当たり、春日井市が行った聴覚障害者を対象とする公共施設の利用に関するアンケート調査の結果を踏まえ、利用頻度の高い図書館、市役所、総合福祉センター及びJR春日井駅を結ぶ幹線道路上の20の交差点を整備箇所として選定するとともに、総合福祉センター内に視覚障害者案内用の光ビーコンを設置するなど、関係機関・団体の協力の下、利用者の声を反映したシステムを運用している。
(4) 国際化への対応
ア ITSの国際化への対応
 ITSについては、日米欧を中心とした世界的規模の研究開発が進められており、我が国の警察は、その中で世界各国と協力しつつ、重要な役割を演じている。
(ア) ITSに関する国際協調の推進
 ITS世界会議は、ITSに関する世界規模での情報交換と協力体制の構築を目的として平成6年以降毎年、欧州地域、アジア・太平洋地域及びアメリカ地域の3地域持ち回りで開催されており、我が国の警察はこれに積極的に参加している。12年11月には、第7回会議が、世界53か国から産学官の関係者約7,300人の参加を得てイタリアのトリノで開催され、我が国の警察からも多数参加し、研究の発表等を行った。また、ITSアジア太平洋地域セミナー(12年7月:北京)及び国際UTMSセミナー(12年9月:東京)に我が国の警察も参加し、交通管理技術等に関する情報交換等を行い、ITSに関する国際協調の推進を図った。
(イ) ITS関連技術の国際標準化への対応
 我が国の警察は、6年から、ISO(国際標準化機構)における、光ビーコンを始めとするUTMS、音響信号機の視覚障害者用付加装置、車両信号灯器等の国際標準の策定に向けた取組みに協力している。
 また、発展途上国への交通管理技術の移転に取り組んでおり、12年には、タイの交通管制システムの構築に関して協力を行った。
 なお、光ビーコンの国際的な標準化活動の推進については、「雇用創出・産業競争力強化のための規制改革」(11年7月13日産業構造転換・雇用対策本部決定)において政府の方針として決定されている。
イ 国際化に対応した運転免許行政
 国際化の進展に伴い、人的な交流が活発化し、外国において自動車等を運転する日本人や、我が国において自動車等を運転する外国人が多数に上っており、警察ではこれらに対応した施策を推進している。
(ア) 国外運転免許証の交付等
 国外へ出国する者の増加に伴い、国外運転免許証の交付件数も増加傾向にあり、ここ数年は、約40万件前後で推移している。12年の交付件数は39万1,077件で、10年前と比べて約1.2倍となっている。警察では、国外運転免許証の申請・交付窓口の拡大、電子計算機処理による国外運転免許証の発行事務の迅速化等、国際化に対応した事務の合理化を促進している。
(イ) 国内の外国人運転者施策
 我が国に滞在する外国人のうち、我が国の運転免許を有する者は、12年末には52万6,588人となっている。
 外国の行政庁の運転免許を有する者については、一定の条件の下に運転免許試験のうち技能試験及び学科試験を免除することができることとされている。12年中にこの制度により交付した我が国の運転免許証の数は2万7,522件であり、また、144の外国行政庁の運転免許を有する者に及んでいる。
 一方、国際化の進展に伴い、真正でない外国の運転免許証を使用し運転免許試験の一部免除制度を悪用して我が国の運転免許を取得しようとする事案が発生していることから、警察では、慎重な審査を行うことにより不正取得の防止に努めている。また、偽造又は不正取得された国際運転免許証により自動車を運転する事案が発生していることから、その発見検挙に努めている。
(ウ) 運転免許管理技術等の移転
 発展途上国から我が国の運転免許管理技術や運転者教育制度に対して高い関心が寄せられており、警察では、これらの技術や制度を積極的に紹介している。8年から運転免許管理技術等に関するセミナーを毎年開催しており、12年11月には、ブラジルの運転免許行政担当者3人を招いて、我が国の運転免許に関する法制度、運転免許証作成技術、運転者教育関連施設等を紹介した。また、中国に運転免許管理技術の専門家を派遣し、協力の実施に向けた調査を行った。
[コラム2] ISOへの協力
 ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)では、1999年(平成11年)、ワーキンググループが設けられ、運転免許証の国際標準規格の策定作業が進められている。
 ISOにおける運転免許証の国際標準化は、国際社会の要望を踏まえて、他国で行された運転免許証の真正性及び内容を相互に迅速・確実に確認することができるようするために必要となる運転免許証作成上の技術的項目に関して、ICカード技術を含む機械的読取技術の活用も含めて行われているものである。
 ISOは、各国の代表的標準化機関で構成される非政府の国際機関であるが、国際標準規格の検討に当たり、運転免許行政に関する情報の提供が求められていることから、警察庁では、米国等の関係当局とともにオブザーバ参加し、我が国の運転免許証及び運転免許制度に係る資料を提供するなど積極的な協力を行っている。
(5) 環境問題への対応
ア 交通公害等の現状
 近年、道路交通騒音による沿道住民等の生活への影響や自動車から排出される窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM:Particulate Matter)等と人の健康との関連、二酸化炭素による地球の温暖化等が懸念されている。
 自動車騒音については、道路の種別ごとの環境基準の達成状況は、表5-2のとおりであり、全国の測定地点3,380地点のうち、昼間(6時~22時)及び夜間(22時~6時)とも環境基準が達成されなかった地点は1,580地点に及んでおり、依然として厳しい状況にある。
 自動車の走行に伴い発生する排気ガスには、窒素酸化物、粒子状物質等の大気汚染物質が含まれている。これらによる大気汚染の状況は、都市部を中心に依然として深刻な状況にあり、二酸化窒素や浮遊粒子状物質(SPM:Suspended Particulate Matter)に係る環境基準の達成状況は、表5-3のとおりである。
 環境省の推計によると、二酸化炭素については、平成11年度において、自動車の利用等の運輸部門が、我が国の二酸化炭素排出量の21.2%を占めている。
イ 道路交通騒音対策
 道路交通騒音を減少させるため、警察では、交通状況に即応した信号機の制御、エンジン音等を低く抑えるための最高速度規制や相対的にエンジン音等の大きい大型車を沿道から遠ざけるための中央寄り車線規制等の交通規制、著しい騒音を生じさせている速度超過車両や消音器等の不法改造車両の取締りの徹底等の対策を推進している。
ウ 大気汚染・地球温暖化対策
 窒素酸化物等及び二酸化炭素の排出量は、自動車の発進・停止回数の増加や渋滞時の低速走行に伴い増加するとされている。このため、警察では、交通管制システムの整備、各種の交通規制、総合的な駐車対策等の道路交通の円滑化対策を推進するとともに、バス専用・優先レーンの設定等の大量公共輸送機関優先対策により、マイカーから大量公共輸送機関への転換を促進するなど交通総量の抑制を図っている。
 また、自動車の駐停車の際にエンジンを停止させるいわゆるアイドリング・ストップについては、客待ちや貨物の積卸し等のため継続的に停止させるときに実施するよう、広報・啓発に努めている。
 12年1月に出された「尼崎公害訴訟」の神戸地裁判決や、同年11月に出された「名古屋南部公害訴訟」の名古屋地裁判決では、浮遊粒子状物質と健康被害との因果関係を認める旨の判決が下された。こうした中、より一層の道路交通環境の改善に向けた対策を講ずる必要があることから、警察庁は、関係省庁との連携を図りつつ、当該地域及び全国における大気汚染の改善のために必要な、交通需要の調整、運転者への適切な情報提供の推進、交通安全施設等の高度化等、当面の取組みについて検討を行った。
エ 交通公害低減システム(EPMS)の推進
 EPMS(Environmental Protection Management Systems:交通公害低減システム)は、交通公害の状況に応じた交通情報提供や信号制御を行うことにより、排気ガス、交通騒音等を低減し、環境保護を図るシステムである。12年度末現在、神奈川県(川崎市、横浜市)、静岡県(静岡市)、兵庫県(神戸市、芦屋市、西宮市)において運用されている(図5-3)。
オ 「環境にやさしい交通管理」モデル事業の実施
 「環境にやさしい交通管理」モデル事業は、交通の円滑化及び交通総量の抑制による環境の改善を図るため、UTMSを活用した交通管理と関係機関等と連携して交通需要そのものを軽減し、又は平準化させるTDM(Transportation Demand Management:交通需要マネジメント)とを組み合わせて行う事業である。警察では、この事業を、11年度から13年度までの3か年にわたり、表5-4のとおり、5都市において実施している。
 13年度は、これまでの事業の分析結果等を踏まえ、「環境にやさしい交通管理」手法に関するマニュアルを作成することとしている。
2 平成12年中の交通情勢
(1) 道路交通の現況
ア 車両保有台数の伸び
 我が国の車両保有台数は年々増加傾向にあり、平成12年末には約8,925万台となっている。車種別車両保有台数の推移は、図5-4のとおりである。
イ 運転免許保有者数の増加
 運転免許保有者数は、交通事故死者数が過去最悪であった昭和45年には約2,600万人であったが、59年には5,000万人を超え、平成12年末には7,468万6,752人となった。運転免許を取得することができる16歳以上の者のうち、男性では1.18人に1人、女性では1.79人に1人、全体では1.43人に1人が運転免許を保有していることになる。運転免許保有者数の推移は、図5-5のとおりである。
 高齢化社会の進展に伴い、運転免許保有者数に占める高齢者(65歳以上の者をいう。)の割合は年々高くなっており、昭和45年末には0.8%(約21万人)であったが、平成12年末には9.6%(約720万人)となっており、この傾向は、今後更に継続するものと考えられる。
(2) 平成12年の交通事故発生状況
ア 概況
 平成12年に発生した交通事故は、件数が93万1,934件(前年比8万1,571件(9.6%)増)、死者数が9,066人(60人(0.7%)増)、負傷者数が115万5,697人(10万5,300人(10.0%)増)であった。発生件数、負傷者数は、共に約10%の大幅な増加で過去最悪を更新した。死者数は、8年に1万人を下回って以来、4年連続で減少していたが、5年ぶりに増加に転じた。
 過去の交通事故件数等の推移は、図5-6のとおりである。
 なお、12年中の交通事故発生から30日以内の交通事故死者数は1万403人(前年比31人(0.3%)増)である。
イ 交通死亡事故の発生状況
(ア) 状態別、年齢層別にみた交通事故死者数
 12年中の状態別死者数は図5-7のとおりで、自動車乗車中の死者数が3,953人で最も多く、全死者数の43.6%を占めている。前年と比べると、自動車乗車中の死者数(81人(2.1%)増)、自動二輪車乗車中の死者数(52人(7.0%)増)の増加が顕著である。
 また、12年中の年齢層別にみた死者数の構成率と人口構成率を比べると図5-8のとおりで、後期高齢者(75歳以上の者をいう。)、前期高齢者(65歳以上74歳以下の者をいう。)、若年者(16歳以上24歳以下の者をいう。)の順に死者数の構成率が人口構成率より高くなっており、それぞれ2.9倍、1.6倍、1.4倍である。
 なお、若年者の死者数が10年連続して減少し1,563人(構成率は17.2%)、前期・後期を合わせた高齢者の死者数は3,166人(34.9%)である。
 12年中の状態別死者数と年齢層別死者数を組み合わせて図解すると図5-9のとおりであり、その主な特徴は、次のとおりである。
○ 自動車乗車中の死者数については、若年者が最も多い(22.7%)。
○ 自動二輪車乗車中の死者数については、若年者が最も多い(43.4%)。
○ 自転車乗用中の死者数については、後期高齢者が最も多い(30.3%)。
○ 歩行中の死者数については、後期高齢者が最も多い(38.2%)。
(イ) シートベルト着用有無別の死者数
 12年中の自動車乗車中の死者数をシートベルト着用有無別にみると、非着用死者数が2,311人で、着用死者数の1,470人を大きく上回っている。
 なお、12年中の自動車乗車中のシートベルト着用有無別の致死率(注)は、シートベルトを着用していない場合が2.17%、シートベルトを着用している場合が0.25%となっている。
(注) 死者数/(死者数+負傷者数)×100
(ウ) 昼夜別にみた死亡事故の発生状況
 12年中の死亡事故件数を昼夜別にみると、昼間(日の出から日没まで)が3,889件(全体の44.7%)、夜間(日没から日の出まで)が4,818件(55.3%)で、夜間の死亡事故件数は昼間の約1.2倍である。前年と比べると、昼間は44件(1.1%)の減少、夜間は70件(1.5%)の増加となっている。
3 交通安全教育及び交通安全活動の推進
(1) 交通安全教育指針に基づく交通安全教育
ア 警察の交通安全教育
 国家公安委員会は、市町村、民間団体等が、効果的かつ適切に交通安全教育を行うことができるようにするとともに、都道府県公安委員会が行う交通安全教育の基準とするため、交通安全教育指針(以下「指針」という。)を作成・公表している。指針には、交通安全教育を行う者の基本的な心構えや年齢、通行の態様や心身の発達段階に応じた交通安全教育の内容及び方法が明示されており、警察では、関係機関・団体と協力しつつ、指針を基準として、幼児から高齢者に至るまでの各年齢層を対象に、交通社会の一員としての責任を自覚させるような交通安全教育を段階的かつ体系的に実施している。
イ 交通安全教育推進パイロット事業
 警察では、指針の理念を実現し、地域ぐるみの交通安全教育推進のモデル体制を構築するため、平成12年度及び13年度の2か年で、交通安全教育推進パイロット事業を実施している。
 同事業では、交通安全教育の実施主体間の役割分担により、地域の実態に応じた効果的な交通安全教育を推進するとともに、地域における交通安全教育指導者を育成することを主眼としており、原則として警察署を単位とするパイロット地区を全国で100か所設定し、事業の推進主体であるとともに各実施主体の連絡調整及び交流の場でもある交通安全教育推進協議会を設置して、推進重点に的を絞った取組みを進めている。
ウ 事業所等における交通安全教育活動
 一定台数以上の自動車を使用する事業所等においては、安全運転管理者及び副安全運転管理者を選任することとされており、12年度末現在、約35万事業所において安全運転管理者約35万人、副安全運転管理者約5万人が選任されている。
 警察では、これらの安全運転管理者等に対し、安全運転管理に必要な知識等に関する講習を実施しており、12年度中の実施回数は2,423回、受講者数は延べ約39万人であった。
 また、安全運転管理者は、指針に従った交通安全教育の実施がその業務として義務付けられていることから、警察としてもこの交通安全教育が適切に実施されるよう、必要な指導を行っている。
(2) 交通安全意識を高めるための交通安全活動
ア 全国交通安全運動
 毎年春と秋に実施している全国交通安全運動では、国、地方公共団体及び交通安全協会等の民間団体が一致協力して、幅広い国民運動を展開している。期間中は、各地域の実態に即して、地域住民が交差点で危険を感じた経験を基にした「ヒヤリ地図」の作成活動等を始めとした地域住民参加型の諸活動を活発に行うことによって交通安全意識の高揚を図るよう努めている。
イ 地方公共団体による交通安全活動の促進
 交通安全教育、交通安全に関する広報啓発活動等の活動は、警察のみならず、地方公共団体との連携により行うことが重要である。警察では、地方公共団体が実施している無事故・無違反コンクールやチャイルドシートのレンタル・リサイクル事業に必要な協力を行うなどして、より効果的な交通安全対策の推進に努めている。
ウ 地域ボランティア等の自主的な交通安全活動の促進
 地域の実態に即した交通安全活動が効果的に行われるためには、全国で約2万人(平成13年4月1日現在)の地域交通安全活動推進委員や、交通安全指導員等の地域ボランティアによる交通安全教育、広報啓発活動、街頭における交通安全指導等の活動が不可欠であり、警察では、指導者を対象とする研修会の開催、交通事故実態に関する情報の提供等の必要な支援を行っている。
(3) 交通安全を目的とする諸団体の活動
ア 都道府県交通安全協会(連合会)及び(財)全日本交通安全協会
 各都道府県の交通安全協会(連合会)は、道路交通法に基づき、都道府県交通安全活動推進センター(以下「都道府県センター」という。)として指定されており、警察と連携し、交通の安全に関する事項、車両の駐車や道路の使用に関する事項についての広報啓発活動、被害者対策の一環としての交通事故相談等の業務を積極的に推進するほか、民間の交通安全活動の中心的な役割を担う団体として、他の民間団体の活動を支援している。
 また、(財)全日本交通安全協会は、道路交通法に基づき、全国交通安全活動推進センターとして指定されており、都道府県センターの業務に関する研修等を行い、都道府県センターの業務の充実を図るほか、交通安全に関する広報啓発活動等を積極的に推進している。
イ 自動車安全運転センター
 自動車安全運転センターは、道路の交通に起因する障害の防止及び運転免許を受けた者の利便の増進に資するため、自動車安全運転センター法に基づき、累積点数通知業務(免許停止等の直前の点数に達した者にその旨を書面で通知する業務)、運転経歴証明業務、交通事故証明業務、安全運転研修業務、調査研究業務等を行っている。
 特に、平成3年に茨城県勝田市(現ひたちなか市)に開設された安全運転中央研修所では、安全運転の実践的かつ専門的な技能及び知識についての体験的研修を行っており、開所以来12年度末までに、延べ約52万人の研修を実施している。
 また、調査研究業務では、安全運転中央研修所の施設での実車走行によるデータ収集等により、カーナビゲーション装置による交通情報提供の在り方に関する調査研究を行うなど、各種交通安全施策を推進する上でのニーズにもこたえるような高度かつ専門的なテーマに取り組んでいる。
ウ (財)交通事故総合分析センター
 (財)交通事故総合分析センター(以下「分析センター」という。)は、道路交通法に基づき、交通事故調査分析センターとして指定されており、交通事故の防止と交通事故による被害の軽減を図ることにより、安全で快適な交通社会の実現に寄与するため、交通事故に関する総合的な分析・調査研究を行っている。
 分析センターは、交通事故、運転者、車両、道路等に関する各種データを統合した交通事故統合データベースを作成し、多角的なマクロ統計分析を実施するとともに、実際に発生した交通事故を総合的かつ科学的に調査する事故例調査(ミクロ調査)を実施しており、これまでに約2,400件の交通事故例のデータが蓄積されている。また、チャイルドシートやエアバッグの使用の効果等社会的関心の高い課題に関する調査研究や、広報誌、発表会等による広報啓発活動等を通じて、交通安全対策の積極的な推進を図っている。
(4) 交通安全関連事業の指導育成
 自動車運転代行業及び自家用自動車管理業については、いずれも適正に事業が行われれば、交通安全に寄与するものであることから、関係行政機関と連携を図りつつ、(社)全国運転代行協会、(社)日本自家用自動車管理業協会に対する指導等を通じて、事業の健全育成を図っている。
[コラム3] 自動車運転代行業の指導・育成
 自動車運転代行業は、酔客等に代わって自動車を運転する役務を提供する営業であり、昭和50年代ころから移動手段として自家用自動車が不可欠な地方都市を中心に発展してきたものであるが、現状は、事業者が運転者に対し、道路交通法違反を下命・容認するなどの実態があるほか、交通死亡事故の発生率も高い水準で推移している。また、事業者による白タク行為、料金の不正収受、損害賠償保険の未加入、暴力団関係者による被害等の問題も指摘されている。
 自動車運転代行業は、その業務が適正に行われる場合には、飲酒運転の防止等を通じて交通安全に資するものであることから、上記の問題を解消して、その業務の適正な運営を確保するため、都道府県公安委員会による認定制度その他自動車運転代行業者の遵守事項について定めることなどを内容とする「自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律」が平成13年6月に成立した。
4 きめ細かな運転者施策の推進
(1) 運転者の資質の向上
ア 運転免許を取得しようとする者に対する施策の充実
(ア) 自動車教習所における教習
a 指定自動車教習所における教習の充実
 指定自動車教習所は、平成12年末現在、全国で1,508か所ある。また、指定自動車教習所の卒業者で12年中に運転免許試験に合格した者は200万8,515人で、合格者全体の94.8%を占めており、指定自動車教習所は、初心運転者教育の中心的役割を果たしている。都道府県公安委員会では、教習指導員の資質向上を図るなどして、指定自動車教習所における教習の充実に努めている。
b 指定自動車教習所以外の自動車教習所における教習水準の向上
 都道府県公安委員会に届出をした自動車教習所のうち、同公安委員会の指定を受けていないものは、12年末現在、全国で251か所ある。同公安委員会では、これらの自動車教習所に対し、教習の適正な水準を確保するため必要な指導及び助言を行っている。
(イ) 運転免許試験
 運転免許を受けようとする者は、都道府県公安委員会の行う運転免許試験を受けなければならないこととされ、運転免許試験は免許の種類ごとに、自動車等の運転に必要な適性、技能及び知識について行うこととされている。
 運転免許試験のうち、学科試験は、国家公安委員会が作成する教則の範囲内で、自動車等の運転に必要な知識について行うこととされているが、イラストを使用して現実の交通場面での認知力・判断力を問う問題も取り入れている。
(ウ) 取得時講習
 普通免許、大型二輪免許又は普通二輪免許を受けようとする者は、それぞれ普通車講習、大型二輪車講習又は普通二輪車講習のほか、応急救護処置講習を受けなければならないこととされている。また、原付免許を受けようとする者は、原付講習を受けなければならないこととされている。普通車講習、大型二輪車講習及び普通二輪車講習は、それぞれの自動車の運転に係る危険の予測等安全な運転に必要な技能及び知識について、原付講習は、原付の操作方法、走行方法、安全運転に必要な知識等について行われている。
 なお、13年6月の道路交通法改正により、大型第二種免許又は普通第二種免許を受けようとする者についても、応急救護処置講習等を受けなければならないこととされた。
イ 運転免許取得後の教育の充実
(ア) 更新時講習
 運転免許証の更新を受けようとする者は、更新時講習を受けなければならないこととされている。この更新時講習は、更新の機会をとらえて定期的に教育を行うことにより、安全な運転に必要な知識を補い、運転者の安全意識を高めることを目的としており、受講対象者の区分に応じ、一般運転者講習と優良運転者等講習とに分かれている。一般運転者講習では、教本やビデオ等の視聴覚教材等を使用して交通事故の実態、運転者の心構え、安全運転の知識等について説明を行うほか、運転適性検査器材等を用いて運転適性についての診断と指導を行っている。また、高齢者学級、若年者学級、二輪車学級等の特別学級を編成することにより、受講者の態様に応じた内容の講習となるよう努めている。12年中には、455万2,163人が一般運転者講習を受講し、このうち31万4,862人がこの特別学級による講習を受講した。優良運転者等講習においても、ビデオ等の視聴覚教材を効果的に活用するなどにより、受講者が安全運転の知識等を修得できるように工夫している。12年中には、1,724万6,301人が受講した。
 また、一定の基準に適合する講習(特定任意講習)を受講した者は、更新時講習を受講する必要がないとされている。特定任意講習では、地域、職種等が共通する運転者を集めて、その態様に応じた講習を行っている。12年中には、3万8,148人が受講した。
(イ) 高齢者講習
 運転免許証の有効期間が満了する日における年齢が75歳以上の者については、更新前に高齢者講習を受講することが義務付けられている(13年6月の道路交通法改正により、高齢者講習の受講を要する者の範囲が75歳以上から70歳以上とされた。)。この高齢者講習は、危険予測や事故事例等に関する視聴覚教材等を用いた講義のほか、コース又は道路における自動車等の運転、動体視力検査器等を用いた検査を通じて、運転に必要な適性に関する調査を行い、受講者に自らの身体機能の変化を自覚してもらうとともに、その結果に基づいて助言・指導を行うことを内容としている。12年中には、45万6,906人が受講した。
(ウ) 自動車教習所における交通安全教育
 自動車教習所は、地域住民のニーズに応じ、地域住民に対する交通安全教育を行っており、地域における交通安全教育機関としての役割を果たしている。具体的には、運転免許を受けている者を対象として、運転の経験や年齢等の区分に応じたいわゆるペーパードライバー教育、高齢運転者教育等の交通安全教育を行っている。こうしたもののうち、一定の基準に適合するものについては、その水準の向上と免許取得者に対する普及を図るため、都道府県公安委員会の認定を受けることができることとされている。また、12年春及び秋の全国交通安全運動の期間中には、多数の指定自動車教習所において、運転実技講習や各種のイベントを行い、参加者に対して交通安全意識の高揚を促すため、教習所を地域住民の利用に供する「1日開放」を実施した。
ウ 身体に障害を有する運転免許取得希望者に対する利便性の向上
 警察では、身体に障害を有する運転免許取得希望者に対する利便性の向上を図るため、運転免許試験場において身体障害者用の技能試験車両の整備に努めているほか、受験者である身体障害者が持ち込んだ車両による技能試験を実施している。また、運転適性相談窓口を設け、身体障害者の運転適性等について知識の豊かな職員を配置し、相談に応じているほか、運転免許試験場施設の整備・改善、字幕入り講習用ビデオの作成・活用等、身体障害者のニーズに応じた施策の推進に努めている。
 このほか、指定自動車教習所に対しても、身体障害者用教習車両の整備や、身体障害者が持ち込んだ車両による教習の実施等に努めるよう指導している。
(2) 危険運転者の排除と改善
ア 運転者の危険性に応じた行政処分の推進
 警察では、道路交通法違反を繰り返し犯す運転者や交通事故を起こす運転者を、道路交通の場から早期に排除するため、行政処分の迅速・確実な実施に努めている。最近5年間の運転免許の行政処分件数の推移は、表5-5のとおりである。
イ 危険運転者の改善のための教育
(ア) 初心運転者講習
 普通免許等取得後1年未満の初心運転者で道路交通法等に違反する行為をし、一定の基準に該当する者に対しては、初心運転者講習の受講の機会を与えることにより、技能及び知識の定着を図ることとしている。この講習は、路上訓練や運転シミュレーターを活用した危険の予測や回避の訓練を取り入れるなどにより行っている。平成12年中には、12万9,909人が受講した。
 なお、初心運転者講習を受講しなかった者等に対して行う再試験では、運転免許試験と同等の基準で合否判定が行われ、12年中は、1万1,089人が受験し、不合格となった8,127人が運転免許を取り消された。
(イ) 取消処分者講習
 取消処分者講習は、運転免許の取消し等の処分を受けた者を対象に、その者に自らの運転適性を自覚させ、それに応じた運転の方法を指導することにより、その運転態度の改善を図ろうとするものである。運転免許の取消し等の処分を受けた者が新たに運転免許試験を受けようとする場合には、この講習を終了していることが受験資格となっている。この講習においては、自動車等の運転や運転シミュレーターの操作等をさせることにより運転適性に関する調査を実施し、これに基づく個別的かつ具体的な指導が行われている。12年中には、3万2,517人がこの講習を受講した。
(ウ) 停止処分者講習
 停止処分者講習は、運転免許の効力の停止、保留等の処分を受けた者を対象に、その者の申出に基づいて行われるもので、受講者は、効力の停止等の期間が短縮される。この講習においては、自動車等の運転や運転シミュレーターの操作等をさせることにより運転適性に関する調査を行い、それに基づく指導を行っている。12年中には、88万2,219人が受講した。
(エ) 違反者講習
 違反者講習は、違反行為に付する点数が3点以下である違反行為をし、一定の基準に該当する者に対し、受講が義務付けられているものであり、この講習を終了した者については、運転免許の効力の停止等の行政処分を行わないこととされている。この講習においては、講習を受けようとする者からの申出により、運転者の資質の向上に資する社会参加活動の体験を含む課程、又は自動車等の運転や運転シミュレーターの操作等を通じた個別的な運転適性についての診断と指導を含む課程を選択することができる。12年中には、21万4,398人が受講した。
(3) 運転免許証のICカード化
 運転免許証の偽変造防止、業務の合理化・効率化等を図る観点から、高度なセキュリティ機能を有する電子技術を応用した運転免許証のICカード化について、平成13年6月の道路交通法改正により、免許証の記載事項の一部を電磁的方法により記録できることとされ、その具体化に向けた検討を進めている。
5 快適な交通の実現
(1) 交通安全施設等の整備
ア 交通安全施設等の整備
(ア) 交通安全施設等整備事業七箇年計画
 平成8年度を初年度とする交通安全施設等整備事業七箇年計画の内容及び12年度の実施状況は、表5-6のとおりであり、新交通管理システム(UTMS)の整備、生活の場における安全確保、交通需要マネジメント及び災害時に対応した交通管理の四点を重点事項として交通安全施設等の整備を推進することとしている。
(イ) 交通安全施設等の高度化
 速度超過に起因する交通事故が多発している区間において、高速走行中の車両に対し警告を与えることにより事故防止を図る高速走行抑止システム、見通しの悪いカーブ等において、対向車の接近を警告することにより衝突事故の防止を図る対向車接近表示システム等の整備を推進している。
イ 地域の特性に応じた道路交通環境の整備
(ア) 地域の特性に応じた交通規制の点検・見直し
 警察では、地域における交通の実態に応じ、幹線道路等を重点として、最高速度規制等の交通規制の点検・見直しを進めている。
(イ) 交通事故多発地点対策
 身近な生活の場に潜む交通事故の多発地点を抽出し、交通事故の発生を未然に防止する活動を行うため、(財)交通事故総合分析センターの統合データの中から抽出された3,196箇所の交通事故多発地点について、道路管理者と連携して合同現場点検及び事故原因の詳細な分析を実施するとともに、交通安全施設等の重点的整備を行うなど、総合的かつ計画的な対策を行っている。
(ウ) 交通安全総点検
 高齢者、身体障害者を始め、だれもが安心して利用できる道路交通環境を創造するため、道路管理者と連携し、地域住民の参加による交通安全総点検を実施し、これに基づき、地域の実情に応じた交通安全施設等の整備を推進している。
(エ) 交通ボトルネック解消対策
 交差点、踏切、トンネル等は、交通容量が他の区間に比べて小さいなどの理由により、交通渋滞が発生しやすい。このような交通ボトルネックを解消するため、適切な信号機の制御、右折矢印信号制御、踏切信号機の設置等の対策を推進している。
(オ) 道路交通環境安全推進会議
 警察庁では、建設省と共同で、11年9月、「道路交通環境安全推進会議」を設置し、12年3月には、「安全な道路交通環境の整備に関する推進方針」を策定し、幹線道路における事故多発地点の解消、生活道路における安全の確保等の施策を、地域住民の意見を反映させながら、道路管理者と連携して積極的に推進していくこととしている。
(2) 交通流の変化に対応した事前対策の推進
ア 先行的交通対策
 現在の交通社会においては、都市構造や物流システムの変化等が交通流・量に大きな影響を与えることから、警察では、都市計画地方審議会等に参画して、都市計画事業、各種の開発事業、駐車場の整備、大規模施設の建設、中心市街地の整備改善等について、交通管理面からの必要な指導、提言を行うことなどにより、交通管理上望ましい都市交通が形成されるよう働き掛けている。
イ 道路使用の適正化
 道路工事、路上競技、祭礼等の通行目的以外の目的による道路使用は、年々増加傾向にあるが、これらの道路使用が交通渋滞等の要因となっていることも少なくなく、道路使用の適正化を推進していく必要がある。警察では、工事方法等の改善、競技コースの変更等について指導を行うとともに、許可に当たり必要な条件を付すなどして、交通渋滞の防止を始め交通の安全と円滑の確保に努めている。
ウ 行楽期等における交通円滑化対策
 行楽期等には、大規模な交通渋滞が発生することから、その発生を予測し、事前広報を行うとともに、臨時交通規制、交通情報の提供、警察官等による交通整理、道路における工事・作業の抑制等の対策を実施している。
(3) 交通の円滑化対策の推進
ア 快適な運転を実現するための交通情報の収集・提供
 交通の安全と円滑を確保するためには、交通規制等の手法に加え、運転者に対する適切な交通情報の提供により、自律的な交通流の分散を図ることが効果的である。
 警察は、交通管理者として、各種の交通情報収集装置を整備し、交通量、車両速度、旅行時間等の情報を収集している。その情報は、交通管制センターにおいて統合、処理され、信号制御方式の決定に用いられるほか、交通情報板、路側通信設備、光ビーコン等の交通情報提供施設、テレビ・ラジオ放送、インターネット、車載のカーナビゲーション装置等の様々な手段を利用して幅広く提供されている。
イ TDMの推進
 近年、特に都市部においては、交通需要の増加に対応した交通容量の拡大を図ることが困難であることから、交通渋滞、交通公害対策として、交通需要そのものを軽減し、又は平準化するTDM(交通需要マネジメント)の手法が注目されており、警察としても、関係機関と連携しながら積極的に推進することとしている。
 警察では、都市部等における交通需要軽減のため、バス専用・優先レーンの設定、バス感応式信号機の整備、PTPS(公共車両優先システム)の導入等のバス優先対策により、マイカーの利用から路線バス等大量公共輸送機関への転換を促す施策を推進している。あわせて、バス事業者等によるMOCS(車両運行管理システム)の導入、共同企業バスの運行、共同集配システムの構築等の自動車利用の効率化に向けた働き掛けを行っている。
 また、交通需要の平準化のため、交通渋滞情報等の交通情報を迅速かつ的確に提供することにより、交通流・量の誘導及び分散を促すとともに、関係機関・団体等に対して時差出勤やフレックスタイム制の導入等を働き掛けている。
 さらに、バイパス、環状道路の整備や信号制御の高度化等の交通容量拡大策、各交通手段を結びつける駅前広場等の交通結節点の整備等のマルチモーダル施策とTDMを組み合わせた都市圏交通円滑化総合対策を関係機関とともに推進しており、平成12年には、福岡都市圏(福岡県)、広島都市圏(広島県)等5都市圏を交通円滑化総合対策実施都市圏として指定した。
 なお、13年度より、期間及び地域を限定し、地域における自動車交通流・量の調整、事業者による交通事業の改善等を実施するTDM実証実験を新たに都市圏交通円滑化総合対策に加え、充実したものとしていくこととしている。
(4) 総合的な駐車対策の推進
ア 違法駐車の現状
 違法駐車は、幹線道路における交通渋滞を悪化させる要因となるだけでなく、歩行者等の安全な通行の障害となるほか、緊急自動車の活動に支障を及ぼすなど住民の生活環境を害し、国民生活全般に大きな影響を及ぼしている。また、違法駐車は、交通事故の原因ともなっており、平成12年中の駐車車両への衝突事故の発生件数は2,878件で、147人が死亡している。さらに、110番通報された苦情・要望のうち、駐車問題に関するものが25.9%を占めており、駐車問題に関する国民の関心は相当に高いことがうかがわれる。
 なお、特別区(東京都23区)及び大阪市における瞬間路上駐車台数は、表5-7のとおりである。
イ 不断の見直しによるきめ細かな駐車規制の推進
 警察では、道路の構造や地域の交通実態を勘案し、幹線道路等特に必要がある区間においては駐車禁止規制を強化している。一方で、特定の時間帯、曜日に駐車需要が減少する地域では、駐車規制を解除するほか、都市部の商業地域等において、地域の駐車需要と路外駐車場等の需給バランス等に配慮し、必要やむを得ない短時間駐車需要に応じる必要のあるときは、時間制限駐車区間規制を実施するなど、きめ細かな駐車規制を行っている。また、駐車規制については、地域の交通の実態に見合った適切なものとなるよう、不断の見直しを推進している。
ウ 違法駐車の効果的な取締り
(ア) 駐車取締りの現状
 駐車違反の取締りは、幹線道路、交差点、横断歩道、バス停留所等における悪質・危険性、迷惑性の高い違反に重点を置いて行っている。12年中の駐車違反取締り件数は189万9,398件であり、45万7,753台をレッカー移動した。
 また、違法駐車が常態的に行われている道路の区間について、都道府県公安委員会が「車輪止め装置取付け区間」を指定し、当該区間の違法駐車車両に対して車輪止め装置の取付け措置を講じており、12年中には、1万2,563件の措置を行った。
(イ) 背後責任の追及
 自動車の使用者、安全運転管理者等が運転者の放置行為を下命・容認している場合については、その背後責任の追及に努めている。12年中の放置行為の下命・容認の検挙件数は、31件であった。
 また、都道府県公安委員会は、放置行為を防止するために必要な運行の管理を行っていると認められない使用者に対しては、必要な指示及び自動車の使用制限命令を行い、駐車に係る車両の運行管理の適正化に努めている。12年中の指示件数は1万6,113件、自動車の使用制限命令件数は125件であった。
エ 駐車対策のための各種システムの整備
 警察では、交差点に設置されたテレビカメラ及びスピーカーを用いて、違法駐車車両を監視し、必要に応じ音声で警告を行うシステムの整備を推進している。また、駐車場の位置、空きの有無、駐車場までの経路、交通渋滞の状況等に関する情報を運転者に提供し、空き駐車場へ誘導する駐車誘導システムの整備を計画的に進めており、12年度末現在、64都市で運用されている。
オ 関係機関、団体との連携
 警察では、都道府県交通安全活動推進センター等の協力を得た違法駐車の危険性・迷惑性についての情報提供、トラック協会、安全運転管理者協(議)会等を通じた事業用自動車の自宅持ち帰り自粛のキャンペーン等違法駐車抑止のための広報啓発活動を進めている。
 また、地方公共団体、道路管理者等と共に駐車対策協議会を設立し、各種の駐車対策を推進しているほか、市町村による違法駐車防止条例及び駐車場附置義務条例(一定の建築物を新設しようとする者等に対して駐車施設の設置を義務付ける条例)の制定及び運用に協力している。12年末現在こうした条例を制定しているのは、それぞれ、186市10区142町14村、173市23区4町である。
カ 保管場所の確保対策の推進
 道路が自動車の保管場所として使用されることを防止するため、警察では、自動車の保管場所の確保等に関する法律に基づき、保管場所証明書の交付、軽自動車の保管場所に係る届出の受理等を行うとともに、道路を自動車の保管場所として使用するいわゆる青空駐車や、自動車の使用の本拠の位置、保管場所の位置等を偽り、保管場所証明を受けるいわゆる車庫とばしの取締りを行っており、12年中の青空駐車及び車庫とばしの検挙件数は、それぞれ3万839件、181件となっている。なお、軽自動車の保管場所に係る届出義務等の適用地域については、13年1月から、人口10万人以上の市を追加することとした。
[事例] 中古車販売会社社長(39)は、暴力団員(36)と共謀し、自動車の保管場所の確保等に関する法律の適用を逃れるため、同法の適用地域外に暴力団員を架空転入させ、中古自動車354台について暴力団員の名義で不正に自動車登録を受け、不法在留等の理由により正規の登録ができない外国人に販売していた。5月、電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪で検挙した(茨城)。
6 交通秩序の確立
(1) 効果的な交通指導取締りの推進
ア 悪質・危険性、迷惑性の高い運転行為への対策の強化
 道路における交通の安全と円滑を確保するためには、街頭における機動的な交通取締り活動等を強化し、違反行為の未然防止に努めるとともに、無免許運転、飲酒運転、著しい速度超過、信号無視等交通事故に直結する悪質・危険性の高い違反及び迷惑性が高く住民からの取締り要望の多い違反に重点を置いた取締りを行う必要がある。このため、交通事故発生状況等地域の交通実態を調査・分析し、交通事故の多発する路線及び交差点等における重大事故の防止に重点を置くなどして効果的な指導取締りに努めている。
 最近5年間の主な道路交通法違反の取締り状況は、表5-8のとおりである。なお、悪質・危険な運転者等への対策を強化するため、平成13年6月の道路交通法改正により、救護義務違反(ひき逃げ)、酒酔い運転、共同危険行為、無免許運転等をした者に対する罰則が引き上げられた。
イ 背後責任追及の徹底
 企業の事業活動に関して行われた放置駐車、過積載運転、過労運転、最高速度等の違反やこれらに起因する事故事件については、運転者の取締りにとどまらず、これらの行為を下命・容認した自動車の使用者、荷主等についてもその背後責任の追及に努めている。なかでも、過積載については、使用者に対する指示及び自動車の使用制限命令並びに荷主等に対する再発防止命令を、最高速度違反については、使用者に対する指示及び自動車の使用制限命令を積極的に行い、組織的・構造的に行われている違反行為の背後責任の追及に努めている。使用者等の背後責任追及状況は、表5-9のとおりである。
(2) 迅速・適正な交通事故事件捜査活動の推進
ア 交通事故事件の発生検挙状況
 平成12年中、交通事故に係る業務上(重)過失致死傷事件の検挙件数は81万2,639件(前年比7万4,214件(10.1%)増)、検挙人員は85万493人(8万5,741人(11.2%)増)であった。
 また、物件事故の発生は約308万件であった。
イ 適正な交通事故事件捜査の推進
 交通事故事件捜査に対する事故原因の徹底究明を求める声の高まりを踏まえ、都道府県警察本部の交通捜査担当課に事故捜査指導官を配置するなどして、死亡・重傷事故、重大特異事故等の事故を重点とした適正な捜査の推進に努めた。
 特に、一方の当事者が死亡、重体等のため事情聴取ができない事故や、当事者の言い分が食い違ったりする事故の場合には、各当事者の責任の軽重を公平に見極める必要があるため、初期の段階から、組織的、集中的な捜査を推進し、目撃者や物証の確保等に努めるなどして、事故原因の究明に努めている。
ウ 交通事故事件捜査業務の合理化・効率化
 交通事故の発生件数が依然として増加傾向にある中で、交通事故当事者の負担軽減や迅速な事故処理による円滑な交通流の早期回復等の要請にこたえるため、実況見分を効率的に行うことのできるデジタル画像測量システム等の各種捜査支援資機材の効果的活用、一定の要件を満たす軽微な物件事故について現場見分を省略する現場見分省略制度の積極的な運用等に努めている。
エ ひき逃げ事件に対する捜査の強化
 ひき逃げ事件については、迅速かつ適正な初動捜査を徹底するとともに、現場こん跡画像検索システム等の交通鑑識資機材の効果的活用により、被疑者の検挙に努めている。
 最近5年間の死亡ひき逃げ事件の発生、検挙状況は、表5-10のとおりである。
オ 交通特殊事件に対する捜査の強化
 保険金詐欺事件を始めとした交通特殊事件の最近の傾向として、犯罪の組織化、広域化、手口の巧妙化が挙げられる。
 最近5年間の偽装交通事故による自動車保険金詐欺事件等交通特殊事件の検挙状況は、表5-11のとおりである。
[コラム4] 交通事故自動記録装置
 警察では、科学的かつ効率的な交通事故事件捜査を推進しているが、その一環として、交差点内で発生した交通事故を自動的に記録する交通事故自動記録装置を、28都道府県警察に合計350基設置し、平成13年4月から運用を開始した。
 この装置は、センサー部(ビデオカメラ、マイク)及び本体(音源識別部、画像メモリー、VTR)から構成されており、交差点内で交通事故が発生した場合、衝突音やスリップ音等を感知して、その前後の状況を自動的に記録するものである。
 この装置により、事故当時の車両の走行状況、信号現示等がVTRに記録され、客観的な資料に基づく事故状況の早期把握が可能になるとともに、事故当事者の現場立会い時間の短縮や、事故に伴う交通渋滞の早期解消が図られることとなる。
(3) 総合的な暴走族対策の推進
ア 暴走族の実態と動向
 平成12年末現在、警察が把握している全国の暴走族の総数は、約2万7,800人である。この内訳は、爆音暴走等を集団で行う共同危険型の暴走族約2万3,400人(1,165グループ)、山岳道路等でコーナリング等の運転技術を競う「ローリング族」、400メートルの直線区間の走行速度を競う「ゼロヨン族」等の違法競走型の暴走族が約4,400人(32グループ)となっている。
 なお、共同危険型暴走族の年齢構成は、少年が全体の75.1%(約1万7,600人)を占めている。
 最近の暴走族は、大集団での暴走は減少し、グループが小規模なものとなる傾向にある一方、縄張や組織を維持するために連合組織を形成したり複数グループによる合同暴走をしたりするなどの傾向がみられるほか、活動範囲が複数の都府県にまたがるなどの広域化の傾向が顕著になっている。
 暴走族の引き起こす犯罪は、道路交通関係法令違反のほか、強盗、強姦、薬物乱用等様々な罪種にわたっており、暴走族同士のナイフ、鉄パイプ等を使用した対立抗争や脱会者等に対する暴行による殺人事件や傷害致死事件のような凶悪な犯罪も発生している。
 また、一部には暴力団とかかわりが深く、その予備軍的な存在となっているグループも確認されている。
 最近5年間の暴走族の勢力と動向は、表5-12のとおりである。
イ 取締り状況
 警察では、交通、少年、地域等各部門の連携により、暴走族に関する情報を幅広く収集してその実態を把握し、個別的な指導や補導を強化したほか、共同危険行為等禁止違反等の道路交通法違反や番号表示義務違反等の道路運送車両法違反の取締りを強化し、グループの解体や構成員の離脱を図っている。
 また、いわゆる「初日の出暴走」等の特に大規模な集団暴走の取締りに際しては、警察各部門の連携を強化し、機動隊の出動、ヘリコプターを用いた空からの採証活動などを行って対処しているほか、広域的な集団暴走に対しては、関係都道府県警察が一体となって取締りの徹底・強化を図っている。
 さらに、毎年6月に暴走族取締り強化期間を設け、不法改造車両の押収等を通じて、暴走族と車両の分離を図るとともに、車両を運転した者だけでなく、改造等を行った業者に対しても責任の追及を行っている。
 最近5年間の暴走族による道路交通法違反の検挙状況は、表5-13のとおりである。
[事例] 平成に入った頃から、関東地方や中部地方の暴走族が、大晦日から元日にかけ一斉に山梨県富士山麓の河口湖畔を目指していわゆる「初日の出暴走」と呼ばれる暴走行為を行うようになり、平成11年末には1万人以上の暴走族が参加するに至った。
 12年末は、暴走族が、21世紀を目前にして従前にも増して大規模な「初日の出暴走」を敢行することが予想されたことから、機動隊等を含む延べ1万6,000人の警察官を動員して取締りを実施し、多数の暴走族を検挙した(警視庁、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、山梨、長野、静岡、岐阜、愛知、三重)。
ウ 暴走族を許さない環境づくり
 警察では、関係機関・団体等で構成される暴走族対策協議会等と協力し、「暴走を『しない』、『させない』、『見に行かない』」運動を展開したほか、地方公共団体の「暴走族根絶条例」等の制定に協力するなど暴走族を許さない世論の醸成、暴走をさせない環境づくりに努めた。例えば、暴走族のい集場所として利用されやすい公共施設等の管理者に対して夜間における閉鎖や看板設置等のい集を防ぐ措置を、ガソリン販売業者に対して暴走族へのガソリン販売の自粛を、部品販売業者に対して変形ハンドル等暴走行為を助長する部品の販売の自粛を、タクシー運転者等に対して暴走行為目撃時の通報を、それぞれ要請するなど、地域と一体となった各種対策を展開している。
 また、暴走行為が行われやすい道路について、効果的な交通規制や集中的な取締りを実施するとともに、道路管理者等と協力して暴走行為がしにくい道路環境づくりを推進している。
エ 少年が暴走族に加入することを阻止するための対策等
 警察では、関係機関・団体等と連携し、中学校、高校において暴走族加入阻止教室を開催して、暴走族の悪質性、危険性等についての理解を深めさせることにより、少年が暴走族に加入することを阻止するための対策を行っている。
 また、暴走行為等で検挙した少年や暴走族構成員として把握されている少年に対しては、家庭、学校、暴走族相談員(注)、保護司等と連携して、暴走族から離脱させる措置を推進しているほか、交通ルールを遵守し、交通マナーを実践する意識の醸成や自動車等の正しい利用方法に関する個別指導を行うなど再犯の防止に努めている。
(注) 暴走族への加入の防止や、暴走族からの離脱の促進に関する相談業務を行うボランティア。
オ 関係機関等と連携した暴走族対策の強化
 最近の暴走族の実態や、これに対する国民の強い取締り要望にかんがみ、13年2月、警察庁を始めとする暴走族対策関係省庁8省庁により、「暴走族追放気運の高揚」、「家庭、学校等における青少年の指導の充実」、「暴走行為阻止のための環境整備」、「暴走族に対する指導取締りの強化」等を柱とする暴走族対策の強化についての申合せを行い、政府一体となった暴走族対策をより一層強力に推進していくこととしている。
(4) 高速道路における交通警察活動
ア 高速道路ネットワークの現状
 平成12年末現在、高速道路の全供用距離は102路線、8,282.1キロメートル(高速自動車国道6,747.3キロメートル、指定自動車専用道路1,534.8キロメートル)である。
 現在、従来の高速道路に比べてかなりの高規格となる第二東名・名神高速道路等の建設が進められている。他方、列島横断道路として整備される路線は、中央帯により往復の方向別に分離されていない区間が極めて多く、また、山間部を通過することから雪氷対策が必要となるなど、交通管理の難しい路線が増加する傾向にある。
イ 高速道路における交通事故の現状
 高速道路における交通事故は、増加傾向にあり、8年から4年連続減少していた死者数も12年は対前年比増加となった(表5-14)。
 高速道路においては、高速走行のため、わずかな運転上のミスが重大事故に結び付きやすく、しかも死傷者が多数に及ぶ場合が多い。12年の高速道路の死亡事故率(交通事故発生件数に占める死亡事故件数の割合)は、その他の道路の2.5倍となっている。
 また、高速道路においては、大型貨物自動車による重大事故が多く発生している。12年中の高速道路における死亡事故のうち、24.8%が大型貨物自動車によるものであった。
ウ 高速道路における交通の安全と円滑の確保
(ア) 大型貨物自動車等に対する事故防止対策
 大型貨物自動車等について、最も左側の車線を通行すべき車両通行帯として指定する交通規制(第一通行帯通行区分規制)を東名高速道路等8路線の区間において実施しているところであるが、同規制の一層の定着化を図るなどして、事故防止に努めている。
 また、危険物運搬車両の運行の適正化を図るため、指導取締りを強化し、各都道府県警察では、都道府県、消防本部、道路管理者等の関係機関・団体の参加を得て構成される危険物運搬車両事故防止対策協議会を活用した各種の事故防止対策を講じるとともに、危険物運搬車両の事故処理対策の迅速化を図るため、危険物除去等に係るデータベースを整備し、13年4月、全都道府県警察で運用を開始した。
(イ) 先行対策の積極的展開
 高速道路の計画段階から道路管理者と、道路線形の改良、ランプウェイの取付け位置等について必要な協議を行うとともに、最高速度規制等の交通規制の決定に当たっては、道路構造、気象条件等を総合的に勘案し、その適正を期している。また、交通安全施設の整備についても、道路管理者との間において、融雪・凍結防止施設、排水性舗装等の整備や中央分離帯施設の改良に関して事前に協議し、また、交通規制の内容を運転者がより認識しやすいようにオーバーヘッド型の標識を採用するなどの対策を進めている。
(ウ) 事故の実態に応じた事故防止対策の推進
 既に供用されている区間においては、事故の実態に照らし、交通規制の見直し、交通安全施設の改良整備等の事故防止対策を積極的に推進している。
[事例] 警視庁では、高速道路の側溝の蓋が通過車両の衝撃で跳ね上がり、対向車を直撃し、その運転者を死亡させるという事故の発生を受け、道路管理者への再発防止策の働き掛けを行い、容易に外れないように改良した蓋の開発が図られ、全路線で交換が行われた。
(エ) 従来に比べ高規格の高速道路に対応した規制、取締り手法等の調査研究
 従来の高速道路に比べ、設計速度の高い高規格の高速道路における規制の在り方について、人間工学的観点を含めた調査研究を行うとともに、高速走行に対応できる取締り手法や機器の研究を進めている。


目次