第4章 暴力団総合対策の推進

 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴力団対策法」という。)の施行を契機とした暴力団排除気運の高まりと取締りの一層の強化により、暴力団は、社会から孤立しつつある。しかしながら、民事介入暴力、金融・不良債権関連事犯を多数引き起こすなど、その資金獲得活動は、社会経済情勢の変化に対応して一層多様化・巧妙化しつつある。
 また、暴力団は、けん銃を使用した凶悪な犯罪や薬物犯罪を多数引き起こすなど、市民社会にとって大きな脅威となっており、対立抗争事件も、依然として多数発生している。
 さらに、暴力団排除活動等の成果により企業対象暴力の件数は減少傾向にあるものの、大手企業役員らが商法違反事件で検挙されるなど一部企業と総会屋との関係は依然として続いている。
 このような情勢の下、警察は、暴力団を解散、壊滅に追い込むため、総力を挙げて、暴力団犯罪の取締りの徹底、暴力団対策法の効果的な運用及び暴力団排除活動の推進を三本の柱とした暴力団総合対策を推進している。
1 暴力団情勢
(1) 暴力団構成員数等の推移
 暴力団構成員及び準構成員(注)は、平成12年末現在、約8万3,600人で、11年に比べ約500人(0.6%)増加し、うち構成員は約4万3,400人で、11年に比べ、約500人(1.1%)減少した。また、五代目山口組(以下「山口組」という。)、稲川会及び住吉会の3団体の構成員は約3万人で、11年に比べ、約300人(1.0%)減少した。
(注) 暴力団準構成員とは、構成員ではないが、暴力団と関係を持ちながら、その組織の威力を背景として暴力的不法行為等を行う者、又は暴力団に資金や武器を供給するなどして、その組織の維持、運営に協力し若しくは関与する者をいう。
(2) 暴力団組織の解散、壊滅の状況
 平成12年中に解散し又は壊滅した暴力団組織は177組織(構成員数約1,140人)で、このうち、山口組、稲川会及び住吉会の3団体の傘下組織の解散・壊滅数は136組織(構成員数約900人)であり、全体の76.8%(全構成員数の78.9%)を占めている。
2 暴力団犯罪の取締り
(1) 全般的検挙状況
 平成12年中の暴力団構成員及び準構成員の検挙人員は3万1,054人で、11年に比べ1,457人(4.5%)減少し、このうち構成員の検挙人員は1万189人で、11年に比べ395人(3.7%)減少している(図4-1、図4-2)。
 12年中の山口組の構成員及び準構成員の検挙人員は1万5,394人、うち構成員の検挙人員は4,914人(直系組長4人を含む。)で、それぞれ総検挙人員のほぼ半数を占めており、事件の内容をみても、その悪質性は際立っている。
[事例] 山口組傘下組織組長(48)らは、共謀の上、兵庫県伊丹市内のぱちんこ店がみかじめ料の支払いを拒否したことに対する報復として、11年10月、同店ガラスドアにブロック片を投げつけ破損させ、さらに屋上に火炎びん3本を投げつけ放火するなどした。12年2月、建造物損壊罪、非現住建造物等放火罪及び火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反で検挙した(兵庫)。
 12年中の暴力団構成員及び準構成員の検挙人員を刑法犯、特別法犯の別に見ると、刑法犯は1万9,668人、特別法犯は1万1,386人であり、11年に比べ、刑法犯は57人(0.3%)増加し、特別法犯は1,514人(11.7%)減少している。また、罪種別では、覚せい剤取締法違反が7,720人(構成比24.9%)で最も多く、次いで傷害5,021人(16.2%)、恐喝3,290人(10.6%)、窃盗2,623人(8.4%)の順となっている。
(2) 暴力団等に関する組織的犯罪処罰法の適用状況
 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」という。)は平成12年2月に施行され、12年末までの暴力団等に係る同法の適用・検挙状況については、刑の加重規定(第3条第1項等)を6件に適用し、犯罪収益等隠匿(第10条第1項)を1件検挙している。また、起訴前における没収保全命令が警察の請求により1件発出されている。
[事例1] 稲川会傘下組織組員(30)らは、共謀の上、みかじめ料等により継続的な利益を得ることを目的として、12年3月、静岡県熱海市内のぱちんこ店において、スロットマシンコーナーの遊技機約30台にコイン1~4枚を置いて占拠し、他の遊技客を排除するなどして、威力を用いて同店の営業を妨害した。3月、威力業務妨害罪で検挙し、4月、組織的犯罪処罰法(第3条第1項)を適用した(静岡)。
[事例2] 稲川会傘下組織幹部(27)は、自己が無登録・高金利で貸し付けた金銭の返済等として、12年3月から9月までの間、9人から合計190万円を知人名義の普通預金口座に振込入金させ、もって、犯罪収益等の収得につき事実を仮装した。9月、貸金業法違反等で検挙し、12月、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で検挙した(山形)。
(3) 対立抗争及び銃器犯罪
ア 対立抗争事件の発生状況
 平成12年中の暴力団の対立抗争の発生事件数は5件、発生回数は18回で、そのうち16回(88.9%)にけん銃が使用されている。発生事件数は11年に比べ6件、発生回数は11年に比べ28回減少している(図4-3)。
[事例] 12年4月、縄張り争いに端を発して、山口組傘下組織組長がけん銃で殺害されるなど山口、福岡両県において、山口組と工藤會との対立抗争事件が8回発生し、12年12月末までに銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)違反等で7人を検挙し、けん銃1丁及び改造を施した散弾銃1丁を押収した(山口、福岡)。
イ 銃器発砲事件の発生状況
 12年中の暴力団等によるとみられる銃器発砲事件の発生回数は92回であり、11年に比べ41回(30.8%)減少している。これらの銃器発砲事件に伴い17人が死亡、24人が負傷した(図4-3)。
[事例] 山口組傘下組織幹部(46)らは、共謀の上、12年5月から6月にかけて、熊本市内の化粧品等製造販売会社の建物に対し、けん銃弾9発を発射し、窓ガラス等を損壊した。12月末までに銃刀法違反等で8名を検挙、けん銃2丁を押収した(熊本)。
ウ けん銃の押収状況
 警察による取締りの徹底や7年の銃刀法の一部改正等を受け、暴力団は、けん銃の保管について、小口に分散させたり、情を知らない第三者を利用したりするなど、その隠匿方法をより巧妙化させている。12年中の暴力団構成員及び準構成員からのけん銃押収丁数は564丁と、11年に比べ16丁(2.8%)減少した(図4-4)。
[事例1] 山口組傘下組織組員(26)らは、法定の除外事由がないのに、共謀の上、12年5月、大阪市平野区内に所有するマンションの1室に、けん銃4丁及びけん銃実包67個を隠匿所持した。5月、銃刀法違反で検挙した(大阪)。
[事例2] 工藤會傘下組織幹部(33)らは、法定の除外事由がないのに、共謀の上、12年7月、フィリピンから、けん銃17丁及びけん銃実包497個を大理石板を梱包した木箱の底部に隠匿し、貨物船に積載するなどして、密輸入した。7月、銃刀法違反等で検挙した(千葉、兵庫、福岡)。
(4) 総会屋等による企業対象暴力
 平成12年中における総会屋等及び社会運動等標ぼうゴロの検挙件数、検挙人員は414件、616人で、11年に比べ、検挙件数は117件(22.0%)、検挙人員は215人(25.9%)それぞれ減少している(表4-1)。このうち、総会屋の検挙件数、検挙人員は8件、9人であり、一部企業と総会屋との関係は依然として続いている状況にある。
 なお、警察では、企業からの暴力団、総会屋等に係る各種相談に対応するとともに、特に企業対象暴力を常習とする右翼、政治活動標ぼうゴロ等の取締りを推進している。
[事例1] 政治活動標ぼうゴロ(50)らは、共謀の上、11年9月、町役場等において、町長及び町議に対し、同町発注の公共工事に絡んで不正があったなどとして因縁をつけ、街宣活動を中止することの見返りとして執ように金銭を要求し、10月までに同町議から現金合計400万円を脅し取った。12年3月、恐喝罪で検挙した(千葉)。
[事例2] 総会屋(69)らは、大手機械製造会社の株式を保有しており、9年12月から12年1月までの間、同社の役員らから、定時株主総会において、同社の株式を保有する他の総会屋株主に対して、その株主としての権利を行使させず、議事が円滑に進行するように協力させることなどの謝礼として、会社の計算において供与されるものと知りながら、広告塔掲出に係る賃貸料及びその保守点検料の名目で、銀行口座に合計約8,590万円を振込入金させた。6月、商法違反(利益供与・受供与)で検挙した(大阪)。
(5) 金融・不良債権関連事犯
 平成12年中の暴力団等に係る金融・不良債権関連事犯の検挙件数は117件で、11年に比べ15件増加している。このうち、競売入札妨害事件、強制執行妨害事件等の債権回収過程におけるものが、98件(83.8%)を占め、債権回収を妨害することにより利益を得ることを常習としている者たちの存在もうかがわれる。また、公的融資制度を悪用した詐欺事件、出資法違反事件等の事犯の検挙件数も増加する傾向にあり、融資過程においても暴力団等の資金獲得活動が依然として続いていることがうかがえる。
 警察では、従来より、預金保険機構、整理回収機構、裁判所、金融機関等の関係機関との連携により、このような金融・不良債権関連事犯の検挙及び債権回収過程からの暴力団等の排除を推進してきたが、さらに、中小企業金融安定化特別保証制度の悪用を防止するため、信用保証協会等との連携強化にも努めているところである。また、債権管理回収業に関する特別措置法(いわゆるサービサー法)の規定に基づき必要な援助を行うなど、債権回収会社との連携を進めている。
[事例1] いわゆる執行抗告屋(55)らのグループは、共謀の上、弁護士でなく、かつ法定の除外事由もないのに、報酬を得る目的で、業として、11年2月ころから11月ころまでの間、東京地方裁判所が行った競売事件に関し、同事件の債務者や所有者に対して執行抗告の提起等により引渡しを遅延させることを勧誘し、10数名から依頼を受けて、執行抗告申立書等の訴状を作成した上、これを裁判所に提出するなどの法律事務を取り扱い、その報酬として1件当たり20数万円の交付を受けた。12年9月、弁護士法違反で検挙した(警視庁)。
[事例2] 団体幹部(42)らは、共謀の上、建築会社代表取締役が金融機関から、中小企業金融安定化特別保証制度の設備投資資金1,000万円の融資を受けるに際し、融資に係る折衝をするなどして、その媒介を行い、12年4月、その融資を受けた際、手数料として現金212万円の交付を受け、法定の割合を超える手数料を受領した。10月、出資法違反で検挙した(神奈川)。
(6) 資金獲得犯罪の検挙状況
ア 伝統的資金獲得犯罪
 古くからある暴力団の資金獲得犯罪として、覚せい剤取締法違反、恐喝、賭博及び公営競技関係4法違反(ノミ行為等)(以下「伝統的資金獲得犯罪」という。)が挙げられる。平成12年中の伝統的資金獲得犯罪に係る暴力団構成員及び準構成員の検挙人員は1万2,910人で、暴力団構成員及び準構成員の全検挙人員の41.6%を占めており、そのうち構成員の検挙人員は3,884人と、構成員の全検挙人員の38.1%を占めている。
[事例] 住吉会傘下組織幹部(43)らは、共謀の上、12年1月、埼玉県大宮市内のマンションの1室において、衛星放送等を利用して、日本中央競馬会主催の競馬レースに関し、14人の客に100円を1口として計97万7,000円を賭けさせながら、勝馬投票券を購入せず、予想が的中したときは、主催者が的中者に払い戻す金額と同じ金額を的中者に交付し、的中しないときは賭けられた金を自己の所得として利を図るいわゆるノミ行為をした。2月、競馬法違反で検挙した(埼玉)。
イ 企業活動を利用した資金獲得犯罪
 暴力団の資金獲得活動は時代に応じて変化しており、伝統的資金獲得犯罪のほかに、暴力団自らが経営に関与する企業等を通じ、又は暴力団が企業と結託していわゆる表の経済社会へ進出し、一般の経済取引を装うなどして様々な犯罪を引き起こし、資金を獲得している。
[事例] 暴力団の関連企業である証券金融会社の代表取締役(55)らは、大蔵大臣の免許等を受けないで、9年9月から10年12月までの間、数名の顧客から合計約143万株の株式売買取引の委託の取次依頼を受け、証券会社に対して同社名義で株式売買取引の委託の取次をし、また、8年1月から10年9月までの間、株式の買付けを委託したり株式の保管を委託していた顧客数十名から、株価の変動を利用して、仮装の損失名下に合計約6,374万円をだまし取った。12年4月、証券取引法違反及び詐欺罪で検挙した(警視庁、静岡)。
(7) 国際犯罪組織等の関与がうかがわれる犯罪
 平成12年中は、暴力団等が関与する高級自動車を対象とした組織窃盗・密輸出事件、外国人女性の不法入国又は長期滞在を目的とする偽装結婚事件、不法入国者等を海外に渡航させるため日本人名義で旅券の発行を受けた旅券法違反事件等が検挙されるなど、国際犯罪組織又は来日外国人の関与がうかがわれる犯罪がみられた。
[事例1] 松葉会傘下組織幹部(33)、稲川会傘下組織組長(31)ら23人は、10年初めころから、関東一円において高級自動車を対象とする窃盗を繰り返し、盗品を譲り受け、さらに、パキスタン人ブローカーを通じて英国、ロシア、シンガポールへ密輸出するなどした。12年1月までに被害車両369台(被害総額15億円相当)の犯行を確認し、窃盗罪等で検挙した(埼玉、静岡)。
[事例2] 山口組傘下組織組長(55)は、ロシア人ブローカーらと共謀の上、11年4月、東京都大田区内の風俗営業店において、その経営者に対し、就労許可を受けていないロシア人女性をいわゆるマッサージ嬢として紹介して雇用させるなどした。12年6月、職業安定法違反、出入国管理及び難民認定法違反で検挙した(警視庁、富山)。
3 暴力団対策法の施行状況
(1) 指定状況
ア 指定状況
 平成12年末現在、25団体が指定暴力団として指定されているが、これらのうち、12年には、2月10日に二代目福博会(福岡県)が初回の指定を受け、2月3日に松葉会(東京都)、5月2日に國粹会(東京都)がそれぞれ3度目の指定を受けた(表4-2)。
イ 指定をめぐる争訟の状況
 指定暴力団の指定をめぐっては、四代目会津小鉄(現在の名称:五代目会津小鉄会)の元代表者から、4年の初回の指定処分について、結社の自由を制限された上、仁侠団体としての名誉と信用を侵害されたなどとして、国、京都府等を被告として損害賠償請求訴訟が提起されたが、一審、二審とも請求棄却の判決が出された。元代表者による上告に対し、最高裁判所は、12年9月、上告事由に該当しないとして上告棄却の決定をした。
 なお、同暴力団は7年の指定処分についても同様の訴訟を提起しており、京都地方裁判所で係属中となっている。
(2) 中止命令及び再発防止命令の発出状況
 平成12年中は、2,185件の中止命令及び95件の再発防止命令を発出しており(表4-3)、暴力団対策法施行(4年3月1日)以降発出した中止命令、再発防止命令の総件数は、12年末現在、それぞれ1万2,782件、378件に上っている。
 12年中の中止命令を形態別にみると、資金獲得活動である暴力的要求行為(9条)に対するものが1,352件(61.9%)、加入強要及び脱退妨害(16条)に対するものが482件(22.1%)となっている。また、暴力的要求行為のうち、伝統的な資金獲得活動であるみかじめ料、用心棒料等の要求行為に対するものは518件(23.7%)となっている。
 団体別に見ると、山口組に対するものが996件(45.6%)、次いで稲川会に対するものが339件(15.5%)、住吉会に対するものが272件(12.4%)の順であり、これら3団体に対する中止命令件数が、全体の73.5%を占めている(表4-3)。
 また、12年中は、3件の再発防止命令違反及び1件の中止命令違反事件を検挙している。
[事例1] 六代目合田一家傘下組織組員(31)は、11年9月、山口県宇部市内の飲食店に対し、みかじめ料を要求し、さらに、12年8月、同市内の別の飲食店に対し類似の要求をしたこと等から、9月、営業を営む者に対し、1年間、みかじめ料等を要求してはならない旨の再発防止命令を発出した(山口)。
[事例2] 稲川会傘下組織幹部(37)は、神奈川県公安委員会から、建設工事を施工する者に対し当該建設工事現場における飲食物の販売の役務の提供の受入れを要求すること等を禁ずる旨の再発防止命令を受けていたが、12年8月、建設工事を施工する者に対し、当該建設工事現場における自動販売機の設置の受入れを要求し、同再発防止命令に違反した。10月、暴力団対策法違反で検挙した(神奈川)。
(3) 暴力団員の離脱促進、社会復帰対策の状況
 警察及び都道府県暴力追放運動推進センター(以下「都道府県センター」という。)が援助の措置等を行うことにより暴力団から離脱させた暴力団員は、平成12年中は約540人であり、暴力団対策法の施行後約5,310人に上っている。また、関係機関・団体と連携を図り全国に設置された社会復帰対策協議会を通じて就業に成功した元暴力団員は、同法施行後12年末までに約640人である。さらに、社会復帰対策を効果的に推進するため、暴力団から離脱し、就業した者について、社会復帰アドバイザーが、本人、その家族、雇用事業者等を訪問するなど、事後の対策の充実にも努めているところである。
[事例] 12年2月、警察署刑事課において、「刑務所を出所した山口組傘下組織の組員が、組抜けについて悩んでいる」旨の情報を入手し、4月、同組員を警察本部に出頭させ説得した結果、同組員は組織から離脱し、親の下で働く決意を固めたことから、社会復帰アドバイザー等との連携の下、組長からの脱退承認書を取り付け、父親の経営する鉄工所に就労させた(宮崎)。
4 民事介入暴力対策及び暴力団排除活動の現状
(1) 都道府県センターを中心とした暴力団排除活動
 都道府県センターは、民事介入暴力対策及び暴力団排除活動の中核として、相談事業を始め少年を暴力団から守る活動、民間の暴力団排除活動に対する援助、暴力団事務所撤去活動の支援、暴力団員による不当な行為の被害者への見舞金の支給、民事訴訟費用の無利子貸付、暴力団員の組織離脱の支援等の事業を行い、警察その他の関係機関・団体との連携の下に民事介入暴力対策及び暴力団排除活動を活発に展開している。
 平成12年中に警察及び都道府県センターに寄せられた相談を相談種別にみると、表4-4のとおりである。
 また、暴力団対策法に基づき、警察及び都道府県センターは、暴力団員による不当要求の被害を受けやすい金融・保険業、建設・不動産業、ぱちんこ営業等を中心に、各事業所の不当要求防止責任者に対する講習(以下「責任者講習」という。)を実施しており、12年4月以降13年3月までに約5万4,300人が受講した。この責任者講習においては、教本、視聴覚教材等が用いられているほか、暴力団員への応対方法について模擬訓練形式の実習も行われている。
(2) 企業等の暴力団、総会屋等との関係の遮断に対する支援等
 警察においては、都道府県警察に設置された「企業対象暴力特別対策本部」等を中心として、企業からの暴力団、総会屋等に係る各種相談に適切に対応するため相談体制の充実を図るとともに、企業、業界団体に対する自主警戒に係る指導や情勢に応じた的確な保護対策を講じているほか、被害防止要領等に関する講演等を積極的に行うなど、企業等の暴力団、総会屋等との関係の遮断に対する各種の支援、指導等を行っており、民事介入暴力対策としての効果も上げている。また、都道府県センターの相談事業においても、暴力追放相談委員が、専門知識を生かし相談に応じているところである。
(3) 各種業からの暴力団排除
ア 証券市場への上場からの暴力団等の排除
 ベンチャー企業向けの証券新市場として東京証券取引所マザーズ及び大阪証券取引所ナスダック・ジャパンが創設されたことに伴い、これらの証券新市場を含む東京、大阪等の各証券取引所の上場審査基準に暴力団排除条項が盛り込まれるなど、証券市場への上場からの暴力団等の排除が積極的に推進されている。
イ 産業廃棄物処理業等からの暴力団等の排除
 廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部改正により、産業廃棄物収集運搬業者の許可等について暴力団排除条項が新たに盛り込まれるとともに、警察本部長等が都道府県知事に対し暴力団の排除等に関し適当な措置をとることについて意見を述べることができることの規定が整備され、12年10月1日に施行された。これにより、許可時等において、産業廃棄物処理業等から暴力団を排除することが可能となった。
ウ 債権管理回収業に関する特別措置法の施行状況
 金融機関等が有する不良債権処理の促進等を図るため、債権管理回収業に関する特別措置法(いわゆるサービサー法)が、10年10月に制定され、11年2月に施行された。12年末現在、42社が債権管理回収業の許可を受けているが、同法においては、暴力団員等がその事業活動を支配することなどを許可の欠格要件としており、警察庁長官は、同法に基づき法務大臣に対し、当該欠格要件の有無について意見を述べている。
エ 公共事業等からの暴力団等の排除
 警察では、国や地方公共団体と連携して、暴力団の資金源を遮断するため、国や地方公共団体等の発注する公共事業の請負業者から暴力団及び暴力団利用業者を排除するなど、公共事業における暴力団排除活動を積極的に推進している。
 また、建設業及び不動産業については、昭和61年から都道府県警察と知事部局との申合せに基づき、許可申請時等における審査や、個別事案に基づく許可の取消し等の場合において、暴力団を排除するための連携を徹底しており、各種業からの暴力団排除の最も先進的な分野といえる。
[事例] 山口組傘下組織幹部(37)による発砲事件の捜査過程において、同組織に利益供与等を行っていた企業が公共工事の指名業者となっていたことが判明したため、その旨を鳥取県及び中国地方建設局に通報したところ、12年3月、県は6か月の指名停止処分とし、中国地方建設局は指名業者から排除した(鳥取)。
(4) 暴力団を相手方とする民事訴訟の支援の動向
 全国各地で、暴力団事務所の明渡しや使用差止め請求訴訟、暴力団員の違法行為による被害に係る損害賠償請求訴訟等、暴力団を相手方とした民事訴訟が提起されており、警察は日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会等とも連携しつつ支援を行っている。なかでも、暴力団犯罪の被害者が、当該犯罪等の実行行為者のみならず、その所属する暴力団の組長等の使用者責任や共同不法行為責任を追及する損害賠償請求訴訟については、被害回復はもとより、暴力団組織に打撃を与えるという面からも注目される。警察においては、危害防止の観点から関係者に対する保護対策を徹底するとともに、都道府県センターにおいて、訴訟費用の貸付等の支援を積極的に行っている。
[事例] 稲川会傘下組織関係者(51)が、恐喝事件において懲役1年6か月(執行猶予3年)の有罪判決を受けたことから、警察では、(財)北海道暴力追放センターとの連携の下、被害者による恐喝の被害金11万円の支払いを求める訴訟の提起を支援した。裁判所から被害金の分割支払い等を内容とする和解条項を示され、平成12年9月、同関係者が被害者に未返済の被害金を全額支払うことで和解が成立した(北海道)。
(5) 暴力団排除等のための暴力団情報の提供
 警察庁では、国民を暴力団員による不当な行為から守るとともに、社会から暴力団を排除するため、警察の保有する暴力団情報の提供についての基準等を定めた。具体的には、情報提供に係る手続について法令上の規定がある場合、他機関との間に情報提供できる場合を定型化・類型化している場合、暴力団を実質的な相手方とする訴訟の支援に必要な場合や暴力団に係る被害者対策、資金源対策及び社会の基本システムへの介入防止のために必要な場合に積極的な情報提供を推進することとしている。また、各都道府県警察においては、定められた基準等に基づいて暴力団情報を適切に提供していくことにより、暴力団排除活動及び民事介入暴力対策を推進している。


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