第4節 ハイテク犯罪への取組み

1 ハイテク犯罪の現状
(1) 社会の情報化の現状
 政府は、平成13年3月、「5年以内に世界最先端のIT国家となることを目指す」こととした「e-Japan戦略」のもと、「e-Japan重点計画」を策定した。これにより、今後、「超高速アクセスが可能な世界最高水準のネットワーク」等のインフラを形成することとされており、このインフラを活用した取引き等の活動を活性化する諸施策を進めるに当たって、ハイテク犯罪(注)やサイバーテロへの対策がその重要度を増している。
 米国では、軍やFBI等の通常よりも高いセキュリティ対策が求められるサーバに対する侵入事案も発生しており、また、我が国でも、12年1月、中央省庁等のホームページが改ざん、消去される事案などが相次いで発生しており、サイバーテロの脅威が現実のものとなりつつある。
(注) ハイテク犯罪とは、コンピュータ技術及び電気通信技術を悪用した犯罪を指す。
(2) ハイテク犯罪の特徴と主な事例
 ハイテク犯罪の主な特徴としては、匿名性が高いこと、こん跡が残りにくいこと、不特定多数の者に被害が及ぶこと、さらには、国境を越えることが容易であることなどが挙げられる。
 平成12年中のハイテク犯罪の検挙件数は559件であり、このうちネットワーク利用犯罪が484件と、前年に比べ237件(196%)大幅に増加した(図2-10)。また、12年2月に施行された不正アクセス行為の禁止等に関する法律(以下「不正アクセス禁止法」という。)違反による検挙件数は31件あった。
 12年中に検挙したハイテク犯罪をみると、大幅に増加しているネットワーク利用犯罪の中でも、特に、わいせつ物頒布事案、児童買春・児童ポルノ事犯が多発している。
 また、12年中の都道府県警察におけるハイテク犯罪等に関する相談の受理件数は1万1,135件であり、前年に比べ約4倍となった。特にインターネット・オークションに関するトラブルをめぐる相談の増加が顕著である。
[事例1] アルバイトの男(23)は、12年5月、インターネット・オークションに「プレステ2を譲る」と虚偽の情報を掲載し、落札者に対し、代金を指定した銀行口座に振り込ませる方法で、約70人から約680万円を騙し取った。5月、詐欺罪で検挙した(警視庁)。
[事例2] インターネット上の掲示板で知り合った自営業の男(39)ら3人は、12年7月から8月までの間、クラッキング・ツール(注)等を利用して不正に入手した他人の識別符号を使用して、大学、プロバイダ等のサーバに侵入した。11月、不正アクセス禁止法違反で検挙した(愛知、秋田、宮城、警視庁、広島)。
(注) 不正アクセス行為を行うために悪用されるソフト全般のことをいう。
2 ハイテク犯罪対策への取組み
(1) 政府の取組み
ア サミット等における取組み
 情報通信技術の進展は、各国の社会・経済に大きな利便を与える一方、ハッキング、コンピュータ・ウィルス等による形でハイテク犯罪の脅威を世界的に深刻化させている。G8諸国では、この問題に重点をおいて対策の検討を進めており、我が国としてもハイテク犯罪に適切に対処すべくサミットや閣僚会合等における国際的取組みに積極的に貢献している。
 2000年(平成12年)7月の九州・沖縄サミットでも犯罪対策は主要議題の一つとして議論され、ハイテク犯罪対策については、「G8コミュニケ・沖縄2000」で協調行動の必要性が表明されるとともに、「グローバルな情報社会に関する沖縄憲章」(IT憲章)で犯罪のない安全ないわゆるサイバー・スペースの実現の重要性が強調された。
 閣僚レベルでも、1997年(平成9年)12月(ワシントン)及び1999年(平成11年)10月(モスクワ)に開催されたG8司法・内務閣僚級会合でハイテク犯罪対策が協議されたのに引き続き、2001年(平成13年)2月にミラノで開催されたG8司法・内務閣僚級会合では、インターネット上の児童ポルノを含むハイテク犯罪対策が主要議題の一つとして議論された。我が国からは、警察庁次長、法務副大臣が出席し、国際協力の強化、政府と産業界の連携の充実等が合意された。
イ 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部
 ハイテク犯罪対策については、平成12年5月に高度情報通信社会推進本部(注)において、ハイテク犯罪対策・セキュリティ対策が特に優先的に取り組むべき重要施策として位置付けられたことを始め、11月に制定された高度情報通信ネットワーク社会形成基本法において、高度情報通信ネットワークの安全性の確保等が施策の策定における基本方針として位置付けられるなど、その重要度が増している。
(注) 我が国の高度情報通信社会の構築に向けた施策を総合的に推進するため、平成6年8月、内閣に設置されたもの。12年7月、情報通信技術(IT)戦略本部に発展的に改組され、13年1月、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法の施行に伴い、同法に基づく高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部として体制が整備された。
ウ 情報セキュリティ対策推進会議
 11年9月、政府は、ハッカー対策等の基盤整備、サイバーテロ対策、法整備の検討等の情報セキュリティ政策について、総合的な対策の推進を図るため、内閣官房副長官を議長とする「情報セキュリティ関係省庁局長等会議」を設置し、12年1月に「ハッカー対策等の基盤整備に係る行動計画」を策定した。また、12月には、同会議を発展的に改組した「情報セキュリティ対策推進会議」において、官民の連絡・連携体制の構築、緊急対処体制の強化等を内容とする「重要インフラのサイバーテロ対策に係る特別行動計画」を策定し、官民一体となったサイバーテロ対策を推進している。
(2) 警察の取組み
ア 体制及び法制の整備
(ア) 警察庁における体制整備
 警察庁では、11年4月、ハイテク犯罪対策に関し都道府県警察を技術的にリードするナショナルセンターとして、情報通信局に技術対策課を設置し、その技術的中核として、同課に警察庁技術センターを開設するなど体制整備に努めてきた。さらに、13年4月、警察庁にサイバーテロ対策技術室を、各管区警察局に技術対策課を設置し、今後、一層の進展が予想される社会の情報化に際し、新たな脅威となっているサイバーテロに的確に対応するため、機動的技術部隊としてサイバーフォースを創設した。
 サイバーテロについては、ひとたび発生すれば国民生活や社会経済活動に重大な影響を及ぼすおそれがあり、その未然防止はもとより、発生時における被害の拡大防止、犯人の追跡等の迅速な対応が重要となることから、サイバーフォースでは、24時間体制によるサイバーテロの予兆の把握、事案の早期認知に努めるとともに、都道府県警察との一層の連携を図るなど、緊急対処体制を強化することとしている。また、各種情報システムのセキュリティ水準の向上に寄与するため、これらの活動を通じて得た技術、知見等については広く一般に提供することとしている。
(イ) 都道府県警察における体制整備
 都道府県警察では、企業等においてシステム・エンジニアとしての勤務経験を有する者等をハイテク犯罪捜査官として中途採用するほか、ハイテク犯罪等に関する相談への対応やハイテク犯罪の予防のための広報啓発等を行う情報セキュリティ・アドバイザーの設置を進めるなど、捜査・防犯体制の整備に努めている。
(ウ) 不正アクセス行為の禁止等に関する法律
 不正アクセス行為や不正アクセス行為を助長する行為の禁止・処罰等を規定する不正アクセス禁止法は、12年2月(都道府県公安委員会による援助に関する規定は7月)に施行され、国家公安委員会、総務大臣及び経済産業大臣は、13年2月、同法第7条第1項の規定に基づき、「不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況」を公表した。
イ 産業界との連携強化
 匿名性、無こん跡性、地理的・時間的無制約性といったハイテク犯罪やサイバーテロの特性は、これらの犯罪の予防や捜査を困難なものとしており、今後予想されるこれらの犯罪の脅威の増加に対処するためには、電気通信事業者等産業界との緊密な連携を確保していくことが重要である。都道府県警察では、ハイテク犯罪情勢や犯罪手口等の犯罪実態に係る情報交換を行うためのプロバイダ連絡協議会の設置を推進している。
ウ 国際的な連携強化
 国際ハイテク犯罪対策を扱っているG8リヨン・グループのハイテク犯罪サブグループでは、9年12月のG8司法・内務閣僚級会合で策定された「ハイテク犯罪と闘うための原則と行動計画」等に基づき、国際捜査協力や各国国内の体制整備に関する議論がなされている。
 また、警察庁では、12年5月、パリで開催されたG8ハイテク犯罪対策政府・産業界合同会合に積極的に参画したほか、ハイテク犯罪捜査の特殊性に対応すべく、24時間コンタクト・ポイントを活用した迅速な国際捜査共助の実現やサイバー・スペースにおける通信の追跡、捜査官の訓練等ハイテク犯罪捜査に関する幅広い問題について総合的な検討を行っている。また、先進諸国の関係機関との協調関係構築に向けて、専門家の育成を目的とした相互交流等を行っており、特に、アジアにおける近隣諸国及び地域については、情報交換のためのサイバー犯罪技術情報ネットワークシステムを整備するなど国際捜査協力体制の確立を図っている。
エ 違法・有害コンテンツ対策
 違法・有害コンテンツ対策については、都道府県警察が実施するサイバーパトロールによって、認知、検挙に至った事例も見られるが、ネットワーク上を流通する情報は膨大であるため、より網羅的に実態を把握するためには一般のネットワーク利用者の協力が不可欠である。このため、警察では、NPO等の各種民間団体との連携等、官民一体となった違法・有害コンテンツ対策に取り組んでいる。
 また、違法コンテンツに対する取締りの強化はもとより、その実態を国民に広報し、被害の防止を図っており、産業界に対しては、警察への通報等適切な措置がとられるようプロバイダ連絡協議会を通じて協力を要請している。
オ 調査研究の推進
 ハイテク犯罪やサイバーテロへの対策に当たっては、不正アクセス行為が行われにくい環境を構築することや不正アクセス行為が行われたことを早期に認知することが重要であるため、警察庁では、不正アクセス行為とその対策の実態、アクセス制御に関する技術動向、不正アクセス自動検知に関する調査研究を行っている。また、情報セキュリティの確保や隠匿された犯罪情報の解読に資するため、ネットワークセキュリティに関する技術、暗号の解読に関する技術についても調査研究を行っている。


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