第2節 銃器・薬物問題の現状と対策

1 銃器犯罪の現状と対策
(1) 平成12年の銃器情勢
ア 銃器発砲事件の発生状況
 過去10年間の銃器発砲件数と死者数・負傷者数の推移は、図2-4のとおりである。
 12年中の銃器発砲件数は134件(前年比28件減)であり、4年ぶりに減少した。
 これは、暴力団等によるとみられる発砲が前年に比べ41件減少したことによるものである。
イ 銃器発砲による死者・負傷者数
 12年中の銃器発砲による死者数は23人(前年比5人減)、負傷者数は35人(11人増)であった。このうち、暴力団構成員及び準構成員以外の者の死者数は9人(前年比1人減)、負傷者数は18人(11人増)であった。
ウ けん銃を使用した凶悪事件の発生状況
 12年中のけん銃(けん銃様のものを含む。)を使用した凶悪事件は173件であり、11年と比べて3件(1.8%)増加し、過去10年間で最悪となった。内訳では、殺人が36件(前年比4件減)、強盗が115件(7件増)、傷害、恐喝が合わせて22件(前年同数)であった。また、けん銃発砲を伴う強盗事件は13件(前年比6件増)、そのうち、けん銃の発砲により被害者が死傷した事件が7件(6件増)発生するなど、悪質、凶悪化の様相を呈している。
[事例1] 12年4月、神奈川県川崎市内の民家において、元会社員の無職男性とその妻が、以前その男性が勤めていた先の部下だった男(51)にけん銃で頭部を撃たれ、二人とも死亡した。撃った男は、その場でけん銃を用いて自殺した(神奈川)。
[事例2] 12年12月、東京都江戸川区内の路上において、信用金庫の現金輸送車を運転していた同信用金庫の職員が、けん銃を所持した男らにけん銃で撃たれ死亡し、現金4,600万円を積載した同車両を強奪された。13年7月末現在捜査中である(警視庁)。
(2) 銃器摘発の現状
ア 銃器の押収状況
(ア) けん銃の押収状況
 平成12年中のけん銃の押収丁数は903丁であり、前年に比べ98丁(9.8%)減少した。このうち、暴力団からの押収丁数は564丁で、前年に比べ16丁(2.8%)減少した。押収したけん銃のうち真正けん銃は812丁(89.9%)であり、CRSけん銃(フィリピン製密造けん銃)が86丁と最も多く、次いでトカレフ型けん銃が71丁、S&W社製けん銃が67丁押収されている。
 なお、過去10年間のけん銃押収丁数の推移については、図2-5のとおりである。
(イ) けん銃以外の銃器の押収状況
 12年中のけん銃以外の銃器の押収状況は、小銃、機関銃及び砲が合わせて13丁(前年比1丁(7.1%)減)であった。また、ライフル銃が30丁(前年比10丁(50.0%)増)、散弾銃が133丁(5丁(3.6%)減)、その他の装薬銃砲が35丁(6丁(14.6%)減)、空気銃が36丁(15丁(29.4%)減)であった。
(ウ) 違法古式銃砲の押収状況
 登録後の改造、すり替え等により、登録証は交付されているが銃砲刀剣類登録規則に定める鑑定の基準に合わず、しかも現代の実包を発射することができる違法な古式銃砲の押収丁数は、33丁(前年比13丁(65.0%)増)であった。
イ 武器庫の摘発状況
 12年中の暴力団の武器庫(組織管理の下に3丁以上のけん銃が隠匿されている場所)の摘発は12件、45丁であった。最近摘発した暴力団の武器庫の実態をみると、けん銃を小口に分散させる、隠匿者が特定されにくい場所を選定するなど、隠匿方法が巧妙化している。
[事例] 12年2月、暴力団幹部の親しくしている女性宅を捜索した結果、床の間の天井裏からけん銃1丁、実包55個を発見、押収するとともに同幹部らを銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)違反で検挙した。その後の捜査により、同幹部の知人にもけん銃の隠匿を依頼していることが判明したため、この知人宅を捜索した結果、二階物置から発砲スチロール箱に入れられたけん銃5丁、実包140個を発見、押収した(滋賀)。
ウ 暴力団構成員等以外の者によるけん銃所持事件等の摘発状況
 12年中の暴力団構成員及び準構成員以外の者からのけん銃の押収は339丁であり、前年に比べ82丁(19.5%)減少した。押収けん銃の内訳は、真正けん銃が287丁(84.7%)、改造けん銃が52丁(15.3%)であり、真正けん銃のうち109丁は旧日本軍の軍用けん銃であった。
[事例] 12年5月、ガンマニアである元大工(53)方を捜索した結果、改造けん銃4丁、密造けん銃1丁、実包53個のほか、けん銃の改造及び密造に使用された旋盤、電動ドリル等の工具類を多数発見、押収し、同人を銃刀法違反で検挙した(兵庫)。
エ 密輸入事件の摘発状況
 12年中は、フィリピン人船員によるけん銃及び実包密輸入事件等6件(けん銃密輸入5件、けん銃実包のみの密輸入1件)を検挙し、けん銃114丁、けん銃実包1,633個を押収した。
 押収したけん銃の仕出国は、フィリピンが最も多かった。
 なお、過去10年間のけん銃密輸入事件の推移は、図2-6のとおりである。
[事例] 12年4月、名古屋港に停泊中の自動車運搬船から下船したフイリピン人船員(40)を職務質問した結果、体に巻き付けたけん銃6丁を発見し、銃刀法違反で検挙した。さらに、同船員が使用する船室のベッドのマットが切り取られて空洞ができており、そこからけん銃5丁、実包24個を発見、押収した。その後の取調べにより、同船員は、けん銃等をフィリピンから持ち込んでいたことが判明した(愛知)。
(3) 猟銃等の所持許可状況
 けん銃等(けん銃、小銃、機関銃及び砲)は、本来的に人を殺傷する目的に使用されるものであり、警察官、自衛官等を除き一般の所持は禁止されているが、猟銃(ライフル銃及び散弾銃)、空気銃、産業用銃等については、その社会的有用性から都道府県公安委員会の許可を受けて所持することが認められている。
 警察は、銃刀法等による猟銃等の所持や使用についての規制に基づき、銃器による犯罪や事故の防止を図っている。
 平成12年末における都道府県公安委員会の所持許可を受けた銃砲の数は44万4,210丁であり、このうち猟銃及び空気銃が39万9,690丁と全体の90.0%を占めている。
(4) 総合的な銃器対策の推進
ア 政府における諸対策の推進
 厳しい銃器情勢に対処するため、平成7年9月、内閣官房長官を本部長とする「銃器対策推進本部」(13年6月現在、内閣官房、内閣府、警察庁、総務省、法務省、外務省、財務省、水産庁、経済産業省、国土交通省、海上保安庁及び環境省で構成)が、閣議決定により設置された。同年12月に同本部において決定された「銃器対策推進要綱」に基づき、各省庁においては毎年度「銃器対策推進計画」を策定し、相互に緊密な連携を図りながらその諸対策を推進している。
イ 銃器摘発の推進
(ア) 取締りの徹底強化
 警察は、発砲事件の検挙に全力を挙げることはもとより、組織犯罪としての性格を強めつつある暴力団等によるけん銃密輸・密売事件や武器庫等の摘発を重点とした取締りを行っている。このため、情報収集活動の強化、捜査手法の高度化、銃器捜査専門捜査員の育成、高性能捜査資機材の整備、活用等に努めている。
 また、4年以降、「けん銃取締り特別強化月間」を設けて全国一斉のけん銃特別取締りを実施しており、12年は5月と10月に実施し、期間中にけん銃不法所持事件等143件、143人を検挙するとともに、暴力団の武器庫を摘発するなどして、けん銃239丁を押収した。
(イ) 水際対策の強化
 警察では、水際での銃器の取締りを強化するため、税関、海上保安庁等との共同捜査や合同訓練の実施、連絡協議会の開催等関係機関との連携を推進している。12年中は税関及び海上保安庁との共同捜査により、けん銃等密輸入事件6件、18人を検挙し、けん銃114丁、実包1,633個を押収した。
ウ 国際的な銃器対策の推進
(ア) 国際会議の開催
 警察庁では、銃器取締りに関する国際協力の円滑化を図るとともに、関係国における適切な銃器規制の推進に寄与するため、ODA事業の一環として、13年1月にG8、アジア・太平洋諸国及び関係国際機関の法執行機関幹部等を東京に招き、「銃器管理セミナー・ワークショップ」を外務省と共催で開催した。
(イ) 国際連合等における取組み
 警察庁は、国際連合において、銃器議定書の起草作業を進めてきた国際組織犯罪条約起草特別委員会の開催の都度、担当者を派遣してその起草作業に積極的に協力してきた。その結果、13年5月、ニューヨークで開催された国連総会において銃器議定書が採択された(第8章1(8)ウ(イ)参照)。
 また、G8サミット諸国が設置しているG8国際組織犯罪対策上級専門家会合(リヨン・グループ)においても、我が国は、銃器の不正取引問題を検討するサブグループの議長を務め、国連における銃器議定書の起草作業を進展させるために主導的な役割を果たしてきた。
エ 違法銃器の根絶に向けた国民等の理解と協力の確保
 凶悪な銃器犯罪を根絶するためには、銃器問題の解決に向けた国民の理解と協力が必要不可欠である。警察では、12年中に、違法銃器に関する積極的な情報提供を促すため、全国の警察本部に設置している「けん銃110番」の周知に努めたほか、銃器犯罪根絶に向けた広報用ビデオの作成、税関、海上保安庁等関係機関との合同キャンペーンの実施等、違法銃器根絶に向けた広報啓発活動を積極的に推進した。警察庁は、7年から銃器犯罪の根絶を呼び掛ける集いを各地で開催しており、12年11月には、大阪府で「銃器犯罪根絶の集い・大阪大会」を開催した。この集いでは、銃器犯罪被害者の悲しみを表現した同府内の高校生による創作ダンス等により、銃器に対する拒絶感が希薄になっているとみられる少年を主たる対象として、銃器犯罪のない社会を築くことの重要性を訴えた。
 各都道府県においても、知事や副知事を本部長とする「銃器対策推進本部」の設置が進められており、12年末までに、全国39都道府県で同本部が設置された。
 また、猟銃等の盗難及び事故を防止するため、猟銃・射撃競技の関係団体と協力し、12年4月の全国銃砲一斉検査や関係団体の会合等の際に、猟銃等の所有者に対する指導を行った。
2 薬物犯罪の現状と対策
(1) 深刻な覚せい剤情勢
ア 依然として「第三次覚せい剤乱用期」の深刻な情勢が継続
 平成12年中の覚せい剤の押収量は1,026.9キログラムで、2年連続してトン単位の押収量を記録した。また、覚せい剤事犯の検挙人員も2年連続で増加して1万8,942人となり、前年に比べ657人(3.6%)増加した。
 また、「第三次覚せい剤乱用期」の特徴である少年及び初犯者(初めて覚せい剤取締法により検挙された者)の検挙人員に占める割合も増加し、なかでも、中学・高校生の検挙人員の増加が目立つなど、「第三次覚せい剤乱用期」の深刻な情勢が依然として継続している(図2-7)。
 こうした覚せい剤事犯の検挙人員の増加をめぐる特徴点として、末端乱用者の増加、少年による覚せい剤乱用の増加等が挙げられるが、その背景には、覚せい剤の末端価格が中学・高校生でも入手可能なほど低価格化していること、インターネットや携帯電話等の普及により、密売人や他の乱用者との接触が容易になったこと、覚せい剤乱用に対する規範意識が低下してきていること、来日外国人らによる街頭販売形態の密売が横行していることなどの状況がある。
[事例] 12年4月、インターネットのホームページの掲示板に覚せい剤を求める書込みをしてきた顧客に対し覚せい剤を密売していた男(35)を覚せい剤取締法違反で検挙するとともに、居室から覚せい剤28.9グラムを押収した。その後の捜査により、同顧客のほか3人に対しても覚せい剤を密売していたことが確認された(新潟)。
イ 覚せい剤大量密輸入事件の続発
 12年中に検挙した覚せい剤の大量押収事件(一度に100キログラム以上押収した事件をいう。)は3事件で、2月に島根県の温泉津港、3月に沖縄県の宮古島、11月に神奈川県の横浜港でそれぞれ200キログラムを超える覚せい剤が押収されており、依然として、密輸入事件の大型化の傾向が続いている。
 また、我が国で乱用されている薬物のほとんどは、国際的な薬物犯罪組織の関与の下に海外から密輸入されているが、最近では、台湾、香港等に本拠を置く国際的な薬物犯罪組織が、海外から我が国に向けて薬物を送り出すだけでなく、組織の構成員等である来日外国人が国内で薬物の「荷受け役」として暗躍する事件が目立っている。密輸の方法は、大口の密輸では、船舶を使用して警戒の薄い地方港で陸揚げをする方法が見られ、比較的小口の密輸では、数人が分担して携帯する方法や、茶袋や菓子袋等へ隠匿する方法が目立っている。
[事例] 12年2月、山口県下関港を出港した漁船により北朝鮮の近海において洋上で取引を行い、島根県温泉津港に覚せい剤を密輸入した日本人男性(62)ら4人を覚せい剤取締法違反で検挙するとともに、覚せい剤249.3キログラムを押収した(山口、宮崎、福岡、警視庁、島根)。
ウ 不正取引に深くかかわる暴力団
 薬物の不正取引には暴力団が深く関与しており、暴力団員の検挙人員の約4分の1は覚せい剤事犯によるものである(第4章2(2)参照)。12年中に覚せい剤事犯で検挙された暴力団員は7,729人(前年比215人(2.7%)減)で、総検挙人員に占める割合は40.8%(2.6ポイント減)であった(表2-6)。
 暴力団は、覚せい剤の密輸・密売の中核的な存在として、台湾、香港等に拠点を置く国際的な薬物犯罪組織と結託して国内に密輸入している。一方、その手口については、国内での密売取締りから逃れるため、通話料前払い方式(プリペイド方式)の携帯電話等を使用して、購入者と直接面接せず間接的に密売する、電話番号を短期間で変更する、密売場所を転々と移動する、宅配便を利用して密売するなど、巧妙化が一層顕著になっている。
 また、12年中に国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(以下「麻薬特例法」という。)第5条違反(注)で検挙した34事件のうち、9事件が暴力団による組織的かつ継続的な密売事件であった。
(注) 麻薬特例法第5条は、組織的かつ継続的に行われる薬物の不正取引を効果的に取り締まるため、薬物の密輸・密売等を「業として」行った者を重く処罰する規定である。
[事例] 全国規模で新幹線レールゴーサービス(新幹線により主要駅間の小荷物輸送をするサービス)や宅配便を利用して覚せい剤の密売を行っていた暴力団幹部(32)らを長期内偵捜査し、11年5月以降、主犯格である暴力団幹部2人を含む55人を検挙した。さらに捜査を進め、12年3月、同幹部2人に麻薬特例法違反(業として行う譲渡)を適用し、同組織の壊滅を図った(宮城)。
エ イラン人密売組織等による薬物事犯の潜在化・巧妙化
 12年中の来日イラン人による薬物事犯の検挙人員は175人であり、前年に比べ15人(7.9%)減少したものの、依然として国籍別にみた薬物事犯の検挙人員では最も多い。これを薬物の種類別にみると、覚せい剤の検挙人員が最も多く、全体の77.1%に当たる135人となっている(表2-7)。また、来日外国人による覚せい剤事犯の営利犯(営利目的所持及び営利目的譲渡)の検挙人員に占めるイラン人の割合も高く、検挙人員64人のうち53人がイラン人で、依然として薬物の密売に深く関与していることがうかがわれる。
 イラン人密売組織では、取締りを逃れるための組織の防衛工作が進んでおり、携帯電話を利用する、密売場所を移動する、使用車両を短期間で変えるなど、巧妙な手口で密売を繰り返しているほか、最近では、組織の構成員が一部の地域に結集して縄張を設定して密売を行っている状況が見られる。
[事例] 12年5月、東京都新宿区におけるイラン人密売組織による覚せい剤等密売事件に対する内偵捜査を行い、イラン人密売人5人を覚せい剤取締法違反(営利目的所持等)等で検挙するとともに、大量の規制薬物を押収した。さらに、12年8月、主犯格であるイラン人密売人2人に麻薬特例法違反(業として行う譲渡)を適用して密売組織を壊滅した(警視庁)。
 なお、最近では、ブラジル人の薬物事犯への関与も目立ち始めており、12年中のブラジル人による薬物事犯の検挙人員は111人で、前年に比べ49人(79.0%)増加した。これを薬物の種類別にみると、覚せい剤による検挙人員が最も多く、全体の84.7%に当たる94人となっている。
オ 錠剤型覚せい剤の流入
 錠剤型の薬物については、近年、その押収量が増加している。「ヤーバー」等の錠剤型覚せい剤については、9年には25錠の押収であったが、10年には3,225錠、11年には4,589錠押収されており、押収量が急増した。12年は、前年に比べ押収量が減少したものの、これらの錠剤型覚せい剤の薬理作用は粉末状の覚せい剤と同様であり、覚せい剤の一般的な使用方法である注射による使用と比べて使用に対する抵抗感が希薄なことなどから、今後の乱用の拡大が懸念される。
(2) 社会を汚染し続ける薬物乱用
ア 大麻事犯
 平成12年中の大麻事犯の検挙件数は1,739件、検挙人員は1,151人で、前年に比べ件数で69件(4.1%)、人員で27人(2.4%)それぞれ増加した(図2-8)。
 押収量は、乾燥大麻が306.4キログラム、大麻樹脂が183.4キログラムで、前年に比べ乾燥大麻は245.7キログラム、大麻樹脂は16.5キログラムそれぞれ減少したものの、過去3番目に多い押収量を記録した。大量押収事件(一度に1キログラム以上押収した事件をいう。)60事件のうち、41事件が来日外国人による密輸入事件であった。
 12年には、ナイジェリア人が若い日本人女性に乾燥大麻を携帯させて韓国から我が国に持ち込ませる事件が連続して発生した。
[事例] 12年3月、ナイジェリア人男性(27)と日本人女性(23)が、二重底になっているスーツケースに乾燥大麻を隠匿して密輸入しようとし、韓国から成田空港に到着したところを税関検査で発見された。同人らを大麻取締法違反で検挙するとともに、乾燥大麻15.3キログラムを押収した(千葉)。
イ 麻薬等事犯
 12年中の麻薬等事犯(麻薬及び向精神薬取締法違反及びあへん法違反をいう。)の検挙件数は589件(前年比43件(6.8%)減)、検挙人員は289人(66人(18.6%)減)であった(図2-8)。
(ア) コカイン事犯
 12年中のコカイン事犯の検挙件数は126件(前年比34件(21.3%)減)、検挙人員は57人(14人(19.7%)減)、押収量は15.6キログラム(5.3キログラム(51.5%)増)であった。全検挙人員のうち来日外国人は25人で、国籍別にみるとコロンビア人が4人(16.0%)、イラン人が3人(12.0%)となっている。
(イ) ヘロイン事犯
 12年中のヘロイン事犯の検挙件数は69件(前年比14件(16.9%)減)、検挙人員は48人(4人(7.7%)減)、押収量は7.0キログラム(5.0キログラム(250.0%)増)であった。全検挙人員のうち来日外国人は28人と半数に上り、国籍別にみると中国人が17人(60.7%)となっている。
(ウ) MDMA等の錠剤型合成麻薬の流入
 12年中、MDMA等の錠剤型の合成麻薬(LSDを除く。)の押収量は、7万7,076錠であり、前年に比べ5万9,576錠(340.4%)増加した。
 MDMAは、別名「エクスタシー」と呼ばれる幻覚作用を有する合成麻薬であるが、覚せい剤等の一般的な使用方法である注射と比べると、使用に対する抵抗感が一般に希薄なこと、外国人等の密売組織による街頭での一般人に対する無差別的な密売が横行していることなどから、今後の乱用の拡大が懸念される。
[事例] 12年9月、スーツケースを二重底にしてMDMAを隠匿し、オランダからの密輸入を図ったフランス人男性(32)を成田空港において麻薬及び向精神薬取締法違反で検挙するとともに、MDMA2万5,383錠を押収した(千葉)。
(エ) 向精神薬事犯
 12年中の向精神薬事犯の検挙件数は61件(前年比7件(10.3%)減)、検挙人員は31人(18人(36.7%)減)、押収量は1万4,194錠(3万0,860錠(68.5%)減)であった。12年中には、インターネット上のオークションを利用して、向精神薬を不正に販売しようとした事件等があった。
(オ) あへん事犯
 12年中のあへん事犯の検挙件数は120件(前年比39件(24.5%)減)、検挙人員は65人(54人(45.4%)減)、押収量は9.0キログラム(1.6キログラム(21.6%)増)であった。全検挙人員のうち来日外国人は14人で、国籍別にみるとイラン人が10人(71.4%)となっている。
ウ シンナー等有機溶剤及び脱法ドラッグへの対応
 12年中のシンナー等有機溶剤の乱用者(摂取し、若しくは吸入し、又はこれらの目的の所持により毒物及び劇物取締法違反で検挙された者をいう。)の検挙人員は5,075人で、このうち少年が3,417人(67.3%)である。
 また、最近、「薬物取締法令に触れず、多幸感、性的快感等の薬理作用が得られる」等の宣伝をして、「マジック・マッシュルーム」、「ハーバル・エクスタシー」等のいわゆる脱法ドラッグが販売されている事案が散見されるが、警察では、その成分中に規制薬物が含まれるなど、覚せい剤取締法、麻薬及び向精神薬取締法等に違反するような場合や、薬事法の無許可販売等に抵触する場合には、関係行政機関と連携して厳正な取締りを行うこととしている。
(3) 薬物乱用に起因する事件、事故
 覚せい剤、シンナー等の薬物の乱用は、急性中毒により死亡することがあるほか、幻覚、妄想等により、殺人、強盗等の凶悪事件や重大な交通事故等を引き起こすことがあるなど乱用者自身の精神、身体をむしばむばかりでなく、その家族、さらには社会の安全をも脅かすものである。平成12年中には、覚せい剤を乱用して家庭内暴力を振るう息子を父親が思いあまって出刃包丁で刺した事件や、覚せい剤乱用者が交際中の女性の3歳の子供を虐待して心臓破裂で死亡させるという悲惨な事件が発生した。
 12年中の薬物乱用に起因する事件の検挙人員は、表2-8のとおりであり、うち凶悪犯の検挙人員は16人で、前年に比べ、6人減少した。また、薬物乱用に起因する事故は、乱用による中毒死が44人、自殺及び自傷が24人、交通事故が35人であった。
(4) 薬物対策の推進
ア 政府の薬物対策
 平成10年に内閣総理大臣を本部長とする「薬物乱用対策推進本部」が策定した「薬物乱用防止五か年戦略」(以下「五か年戦略」という。)において「第三次覚せい剤乱用期」の早期終息等が基本目標とされ、それに向けて関係省庁が協力して薬物対策を強力に推進している。
イ 警察の薬物対策
 警察では、政府の薬物対策の中枢を担う機関として、薬物問題を治安の根幹にかかわる重要な問題ととらえ、薬物の供給の遮断及び需要の根絶の両面から総合的な薬物対策を強力に推進している。
 11年中の薬物情勢の急激な悪化及び11年11月に総理府が実施した「薬物犯罪に関する世論調査」において最近の薬物情勢が国民に脅威と不安を与えていることが示されたことを受けて、政府の「五か年戦略」の目標を達成するため、12年より、「薬物乱用に関する緊急対策」として、密輸入事犯の取締りの強化、密売事犯の取締りの強化、薬物組織犯罪対策の推進、末端乱用者の徹底検挙及び効果的な広報啓発活動の推進の5項目を重点推進事項とし、全国警察を挙げて諸対策を推進している。
(ア) 供給の遮断
 我が国で乱用されている薬物のほとんどが海外から流入していることから、これを水際で阻止するため、海上保安庁、地方厚生(支)局麻薬取締部、入国管理局、税関等の関係機関及び外国の取締り当局等との連携を強化し、密輸入事件の端緒情報の収集に努めるとともに、薬物の供給源や供給ルートの解明、壊滅を図っており、特に、中国及び北朝鮮からの二大覚せい剤密輸ルートについては、取締りの重点対象とし、その壊滅に向けた取締りの強化に努めている。
 また、密売対策としては、暴力団、イラン人密売組織といった対象や、密売事犯が多発する地区に重点を置いた戦略的な取締りを強化している。
 薬物犯罪組織は、ばく大な薬物犯罪収益によって組織の存立・拡大を図っており、その犯行手口を一段と巧妙化させている。警察では、薬物犯罪組織の壊滅を図るため、コントロールド・デリバリー等の効果的な捜査手法を積極的に活用した捜査を行っており、12年中には29件のコントロールド・デリバリーを実施した。
 さらに、薬物犯罪収益のはく奪による資金面からの打撃を与えるため、麻薬特例法による犯罪収益の隠匿、収受及び仮装(マネー・ローンダリング)の事件化、薬物犯罪収益の没収、追徴及び保全の徹底等の薬物犯罪収益対策を強力に推進しており(表2-9)、12年には、イラン人密売人が、薬物の密売によって得た犯罪収益約2,500万円を借名口座に預け入れて、その取得の事実を仮装していた事件について、麻薬特例法を適用し、起訴前の没収保全を行い、薬物犯罪収益のはく奪を推進した。
(イ) 需要の根絶
 薬物の需要の根絶を図るためには、社会全体に薬物を拒絶する規範意識が堅持されていることが極めて重要である。このため、警察では、末端乱用者の検挙を徹底するとともに、広報啓発活動を活発に展開して、薬物の危険性・有害性についての正しい知識の周知を図り、薬物乱用を拒絶する意識の醸成、維持に努めている。
 12年には、「五か年戦略」に基づき、関係機関等と連携して、薬物乱用相談、薬物乱用防止教室を積極的に実施したほか、啓発用ポスターを全国に掲示し、啓発用資料「DRUG」を様々な会合、キャンペーン等に活用するなど、広報啓発活動を強力に推進した。
ウ 薬物対策における国際協力の推進
(ア) 薬物対策に関する国際協力の枠組み
 薬物の不正取引は、国際的な薬物犯罪組織により国境を越えて行われ、一国のみでは解決できない問題であることから、サミット、国際連合等の国際的枠組みの中でも、地球規模の重大な問題として、その解決に向けた取組みがなされている。
a 国際連合における枠組み
 国際連合においては、経済社会理事会に麻薬委員会が置かれており、その下で国連薬物統制計画(UNDCP)が薬物問題全般にわたって幅広い活動を行っている。UNDCPは、薬物の供給源対策の一環として、我が国の薬物対策上重要な地域であるミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナム、中国にわたる「黄金の三角地帯」及びその周辺国に対する各種プロジェクトを推進している。
 2000年(平成12年)3月には、オーストリアのウィーンで、約100か国が参加し、「第43回国連麻薬委員会」が開催され、国際協力の推進など薬物対策について幅広く意見交換が行われた。
 また、2000年(12年)11月には、ミャンマーのヤンゴンにおいて、UNDCPの主催で「第24回アジア・太平洋地域麻薬取締機関長会議」が開催され、18か国2地域4国際機関の長が参加して、薬物の取締状況等について情報交換を行った。
b サミットにおける取組み
 1985年(昭和60年)のボン・サミット以来、各サミットの経済宣言、政治宣言及び議長声明において、薬物対策に関する国際協力の強化が取り上げられている。
 2000年(平成12年)7月に開催された九州・沖縄サミットでは、覚せい剤問題への取組み、専門家会合の開催、原料物質の規制等について、G8間で協力を強化していくことが合意された。2000年(12年)12月には、同サミットにおける首脳コミュニケを受け、宮崎県においてG8各国及びUNDCPの参加を得て、G8薬物専門家会合が開催され、覚せい剤その他の合成薬物対策及び原料物質の規制に関して、各国の薬物専門家による論議が行われ、関係取締機関間の国際協力が不可欠であること、国際組織犯罪対策の視点からの薬物対策が重要であることなどが支持された。
c ASEANにおける取組み
 2000年(12年)10月に、ASEAN各国及び中国等が参加し、「麻薬のないASEANに向けた国際会議」がタイのバンコクで開催され、「麻薬のないASEAN2015を目指すバンコク政治宣言」及び行動計画が採択された。同会議においては覚せい剤の脅威が強く認識され、国際協力を始めとする対策の必要性が強調された。
(イ) 国際協力の推進
 警察では、薬物捜査に関する技術支援、関係国との捜査員の相互派遣、各種国際会議への参加等を通じた情報交換等、国際捜査協力を積極的に推進している。
 1999年(11年)2月に外務省との共催により開催した「1999アジア薬物対策東京会議(ADLEC Tokyo)」において、東アジアにおける国境地帯の取締り協力を発展させるためのUNDCPの新規支援プロジェクトに対する我が国からの財政的・技術的支援が表明された。警察では、この会議の結果を受けて、2000年(12年)1月及び11月に、計8人の薬物専門家をミャンマーに派遣し、同国の国境地帯等に勤務する薬物取締官や薬物鑑定要員を対象にした「薬物取締セミナー」を開催し、我が国の薬物対策に関する技術の移転を行った。また、2000年(12年)9月には、覚せい剤の取締りに関する我が国の専門的技術の移転を図るため、薬物専門家を2年間の予定でカンボジアに派遣した。
 このほか、生産国等における薬物問題への取組みを支援することを目的として「薬物犯罪取締セミナー」等の開催、途上国への技術支援のための調査等を行っている。
 さらに、2001年(13年)1月には、アジア・太平洋国際組織犯罪対策会議の一環として、28か国、2地域、2国際機関の参加(オブザーバーを含む。)を得て、「第6回アジア・太平洋薬物取締会議」を東京において開催し、覚せい剤の不正取引対策、薬物犯罪組織の動向と国際協力等について討議、意見交換を行った。


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