第1節 地域の安全を守る諸活動

1 地域の「生活安全センター」~交番、駐在所
 交番、駐在所(以下「交番等」という。)は、地域警察活動の拠点として全国各地に置かれており、その受持ち区域において、住民の要望にこたえるための活動を行うとともに、すべての警察事象に即応する活動を行うことにより、地域住民のための「生活安全センター」としての役割を果たしている。
 全国の交番の数は約6,600か所、駐在所の数は約8,100か所である。
(1) 地域の「生活安全センター」としての諸活動
ア 地域に密着した活動
(ア) 地域住民と協力した活動
 全国の交番等では、地域の安全と平穏を守るため、住民の要望等を把握する「要望把握活動」や、地域の身近な問題を解決する「問題解決活動」を行っている。
 交番等の地域警察官は、受持ち区域の家庭、事業所等を訪問し、防犯、事故防止等についての指導連絡、住民の困りごとや要望等の聴取に当たる巡回連絡を行っている。
 また、交番等の地域警察官と、各界、各層の住民等が、相互に検討・協議し、協力して犯罪、事故、災害のない明るいまちづくりを進めるため、交番等を単位として「交番・駐在所連絡協議会」が平成12年末現在、全国で1万3,747協議会設置されている。
[事例] 12年2月、交番連絡協議会において、カッターナイフを所持した男が登下校中の女子小中学生につきまとったり、抱きついてきたりする事案が連続発生しており、地域住民の不安が非常に強くなっている実態が報告されたため、警ら、警戒活動の強化とともに、地域住民との合同パトロール等を実施した結果、5月、被疑者を検挙した(愛知)。
(イ) 地域住民に身近な安全情報を提供する活動
 全国の交番等では、「情報発信活動」の一環として、受持ち区域の事件、事故等の発生状況とその防止方策、住民の声等の住民にとって身近な話題を伝えるミニ広報紙等を作成し、住民等に配布している。
 また、犯罪、事故の発生状況や多発箇所等、地域の安全確保のため必要な情報を迅速・的確に地域住民に提供するため、地域住民との間にFAXネットワークを構築するとともに、公共施設等の人目に付く場所に掲出する「交番速報」、CATV等の各種広報媒体の効果的な活用を図っている。
 さらに、地域住民との触れ合いを深めるために、警察官本人の顔写真や似顔絵等を刷り込んだ「CR名刺」の配布を進めている。
イ パトロール等による犯罪、事故等への対応
 交番等の地域警察官は、受持ち区域の犯罪の発生状況を分析し、犯罪が多く発生している場所や時間帯に重点を置いて、バイク、自転車、徒歩によるパトロールを実施することにより、犯罪の抑止及び犯人の検挙に努めている。
 パトロールに当たっては、不審な者に対する職務質問を実施するとともに、危険箇所等の把握、犯罪多発地域の家庭等に対する防犯指導、パトロールカードによる地域安全の確保に必要な情報の提供等を行っている。
 また、全国の警察本部や警察署に配置された合計約3,000台のパトカーは、管内のパトロールを行うとともに、その機動力を生かして犯罪、事故等の発生時における初動措置に当たっている。
 さらに、地域警察官の職務質問技能の向上を図るため、警察庁主催の実践的な教育訓練を全国各地で実施するとともに、卓越した職務質問技能を有する者を「警察庁指定広域技能指導官」等に指定して、地域警察官に対する専門的な実務指導に当たらせている。
 12年中の刑法犯検挙人員30万9,649人のうち23万2,481人(75.1%)が、地域警察官の検挙によるものであった(表2-1)。
ウ 遺失物の取扱い
 交番等の地域警察官は、遺失物を速やかに遺失者等に返還するため、遺失・拾得届の受理業務を行っている。
 12年中に警察が取り扱った遺失届は約317万件(現金約417億円、物品約666万点)であり、拾得届は約470万件(現金約131億円、物品約914万点)であった。拾得届のあった金品のうち、現金については71%、物品については32%が遺失者に返還されている。最近5年間の遺失物・拾得物の取扱状況は、表2-2のとおりである。
(2) 「生活安全センター」としての機能の向上
ア 交番等の運用形態
 交番は、原則として、犯罪、事故等が多い都市部の地域に設置され、1当番当たり3人以上の交替制勤務の地域警察官により運用することとしており、駐在所は、原則として、都市部以外の地域に設置され、勤務場所と同一の施設内に居住する1人の地域警察官により運用することとしている。
イ 交番所長制度と交番等のブロック運用
 市民が多く来訪するなど、地域の拠点となる交番には、日勤制の勤務を行いながらその業務全体を把握し、統括する交番所長が置かれている。
 また、昼夜の人口、治安情勢等の地域実態に即した弾力的な警察活動を推進し、地域における警戒活動を一層充実させるため、近接する2以上の交番等を組み合わせてブロック単位で運用し、夜間の合同パトロール等を行っている。
ウ 交番相談員の配置
 都市部の主要な交番には、警察官OB等から成る交番相談員が配置されている。警察では、交番相談員が住民の困りごとや要望等の聴取、地理案内、遺失・拾得届の受理、犯罪・事故の届出の警察官への取次ぎ、自転車盗等の被害届の取扱い等を行うことにより、警察官がパトロール等の所外活動に従事している間においても、交番を訪れた住民に適切な対応がなされるよう努めている。
エ 交番等の施設、設備の充実強化
 警察では、地域住民が警察への相談、防犯についての会合等を行うためのコミュニティ・ルームを交番等に設けるなど、交番等の施設、設備の充実強化に努めている。
 また、警察官が不在の場合でも地域住民が警察に連絡を取ることができるように、受話器を取ると警察署につながるホットラインを整備している。
2 事件、事故等に即応する警察
(1) 市民に定着した110番
ア 110番通報の現状
 平成12年中に全国の警察で受理した110番通報の件数は約809万件で、11年に比べ約87万件増加した。これは、3.9秒に1回、国民16人に1人の割合で通報がなされたことになる。特に、携帯電話等の移動電話からの110番通報の増加が著しく、増加分の87.8%を占めている(表2-3)。110番通報の受理件数を内容別にみると、図2-1のとおりである。
 警察では、毎年1月10日を「110番の日」と定め、市民に対して110番の適切な利用を呼び掛けるとともに、警察による緊急の対応を必要としない電話による相談等については、「#(シャープ)9110番」を利用するよう呼び掛けている。
 また、移動電話からの110番通報については、通報者が通報場所を正確に伝えにくく、受理及び指令に時間を要することもあることなどから、通話中にはできるだけ場所を移動しないこと、通話終了後に電源を切らないことなどを呼び掛けている。
イ 通信指令システムの概要
 110番通報に迅速かつ的確に対応するため、都道府県警察ごとに通信指令室が設けられている。110番通報を受理した通信指令室では、直ちにパトカーや交番等の地域警察官を現場に急行させるとともに、必要に応じて緊急配備の発令、他の都道府県警察への通報等を行い、人命の迅速な救助、被疑者の早期検挙等に努めている(図2-2)。
 また、警察では、リスポンス・タイム(エ参照)の短縮のため、事案発生場所の早急な把握のための地理情報システムの導入やパトカーの活動状況が容易に把握できるカーロケータ・システムの導入等、通信指令システムの機能の高度化に努めている。
ウ 緊急配備
 重要事件等の発生に際し、被疑者を迅速に検挙し、事後の捜査資料を得るため、交番等の地域警察官を中心として、必要な警戒員を臨時かつ集中的に検問、張り込み等のために配置することを緊急配備と呼んでいる。12年中の緊急配備(2以上の都道府県警察が協力して行う広域緊急配備を含む。)の実施件数は8,652件で、検挙率は33.1%であった。
エ リスポンス・タイム
 通信指令室が110番通報を受理し、パトカー等に指令してから警察官が現場に到着するまでの所要時間のことをリスポンス・タイムと呼んでいる。12年中の110番集中収容地域(注)におけるリスポンス・タイムの平均は6分4秒であった(表2-4)。
(注) 110番集中収容地域とは、その地域からの110番通報を警察本部の通信指令室で直接受理するシステムが設けられている地域をいう。これ以外の地域では、警察署で110番通報を受理している。
オ 外国語による110番通報
 警察では、外国語による110番通報に対応するため、通信指令室に外国語に通じた警察官を配置するほか、通訳センター(第8章1(6)ウ参照)の係員や指定通訳員等の外国語が話せる警察職員に通話を転送して三者間通話を行うなどの手法も導入している。
(2) 水上、鉄道等の安全のための諸活動
ア 水上警察活動
 警察では、主要な港湾、離島、河川、湖沼等を管轄する全国の警察署等に警察用船舶約200隻を配備し、パトカーや警察用航空機との連携を図ることにより、パトロール、各種犯罪の取締り等に当たるとともに、訪船連絡等による安全指導を行っている。
イ 鉄道警察隊
 鉄道警察隊は、鉄道施設における犯罪等の発生状況の分析結果に基づき、列車への警乗、駅構内のパトロール等を行い、すり、置き引き等の犯罪の予防及び検挙、少年補導、迷い子等の保護等に当たるとともに、鉄道事故における人命の救助等を行っている。
 特に、列車内や駅のホームにおける凶悪犯や粗暴犯が急増したことから、朝夕のラッシュ時間帯等における見張り、列車への警乗の強化、機動隊員による駅構内の警ら等により、犯罪の未然防止活動を推進している。また、女性が被害者となりやすい列車内における性犯罪等についての相談や被害の届出に適切に対応するため、「女性被害相談所」を設置し、女性警察官が相談等に対応するとともに、被害者に同行しての通勤電車等への警乗、性犯罪の取締り等を行っている。
 また、鉄道事業者との連絡協議会の設置、列車事故を想定した鉄道事業者との共同訓練の実施等により、鉄道施設内の治安維持に努めている。
ウ 警察用航空機の活動
 警察用航空機(ヘリコプター)は全国で約80機を運航しており、その機動性、高速性、広視界性という利点を活用し、交通情報の収集、災害危険箇所の調査、環境犯罪の監視等を行っている。また、犯罪、事故及び災害の発生に際しては、通信指令室、パトカー及び警察用船舶との連携を図り、情報収集、被疑者の捜索及び追跡、被災者等の救難救助等の活動を行っている。
 平成12年中の警察用航空機の出動回数は2万5,659回である。また、山岳遭難、水難事故等に当たっては、1,728回出動し、549人を救助し、88遺体を収容している。
3 地域住民の保護・支援活動等
(1) 住民の立場に立った相談業務の推進
 警察では、犯罪等による被害の不安を訴える住民からの届出や相談等に真しかつ誠実にこたえるため、警察安全相談員や相談業務担当者の配置等による相談体制の充実強化を図るとともに、相談された事案が刑罰法令に抵触する場合には検挙等の措置をとることはもとより、刑罰法令に抵触しない場合であっても防犯指導、相手方に対する指導・警告等を行うことにより、犯罪等による被害の未然防止活動の徹底を図っている。
 他方、国民から警察に持ち込まれる相談は近年一層多岐にわたり、警察の所掌事務の範囲を超えた事案も多数含まれていることから、平成12年11月、警察が対応すべき相談は犯罪等による被害の未然防止に関する相談その他国民の安全と平穏に係る相談であることを示すため、これまで「困りごと相談」と呼称していた相談業務を「警察安全相談」と改称するとともに、都道府県警察において自治体等関係機関とのネットワークの構築、相互の連携強化、連絡系統の確立等が円滑に行われるよう警察庁から関係省庁に対して協力を要請し、警察安全相談業務に係る関係機関、団体等との連携を一層強力に推進している。
 12年中における相談受理件数は74万4,543件で、前年に比べ40万880件(117%)増加した。
 なお、相談受理件数の推移は、表2-5のとおりである。
(2) 女性・子どもを守る活動
 警察庁では、平成11年12月、女性・子どもが被害者となる犯罪等の未然防止活動の基本方針を取りまとめた「女性・子どもを守る施策実施要綱」を制定し、これに基づき、各都道府県警察では、女性・子どもを対象とした防犯対策等を推進している。
ア ボランティア、自治体等との連携による女性・子どもを守る防犯対策
 警察では、ひったくり、性犯罪、幼児を対象とした誘拐事件、児童等への声掛け事案等の女性・子どもが被害者となる犯罪等を防止するため、地域におけるこの種の事案の発生場所、時間帯、犯罪手口等の地域安全情報の提供、通勤・通学時間帯を中心としたパトロール、地域住民・学校等と連携した通学路等の危険箇所の点検、護身術や防犯ブザーを始めとする防犯機器の活用方法等についての講習会の実施等に努めている。
 また、児童に対する声掛け事案等が発生した場合に通学路及びその周辺の商店、コンビニエンスストア等が児童の緊急避難場所となる「子ども110番の家」の活動を支援するほか、行方不明児童の捜索・発見活動を行う「子ども発見ネットワーク」の構築に努めるなど、地域住民の協力を得た地域安全活動を推進している。さらに、(財)全国防犯協会連合会を中心として、誘拐防止対策を呼び掛けるため、連れ去り防止のためのポスター、絵本、ビデオテープ等が作成された。
イ ストーカー事案への対応
 近年、ストーカー事案は、殺人等の凶悪事件に発展する事案がみられることなどから大きな社会的問題となっており、警察への相談件数も大幅に増加している(図2-3)。警察では、被害者の意思を踏まえ、12年11月に施行されたストーカー行為等の規制等に関する法律に基づいて警告、禁止命令等、援助等の行政措置を講ずることにより被害拡大の防止を図るほか、同法その他の法令を積極的に適用してストーカー行為者の検挙に努めている。また、各種法令に抵触しない場合であっても、防犯指導、関係機関の教示等を行うとともに、必要に応じて相手方に対する指導・警告を行うなど、被害者の立場に立った対応に努めている。
 警察では、同法の施行後13年2月末までの間に警告241件、禁止命令等6件、援助149件を実施しており、同法違反による検挙件数は37件となっている。
ウ 配偶者からの暴力事案への対応
 配偶者からの暴力事案については、警察では、被害者の意思を踏まえ、刑罰法令に抵触する場合には検挙その他の適切な措置を講ずることはもとより、刑罰法令に抵触しない場合であっても、必要に応じて相手方に対する指導・警告を行うなど、被害者の立場に立った対応に努めている。
 13年4月に成立した配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律において、被害者が「警察に相談し、又は援助若しくは保護を求めた事実」等を保護命令の申立書に記載した場合に、裁判所の求めに応じて、警察がその内容を記載した書面を提出することとされており、警察では、対応状況の記録化の徹底等を図ることとしている。
(3) 家出人、行方不明者等の発見・保護活動
 警察では、でい酔者、迷い子等応急の救護を要する者の保護活動を行っており、平成12年中の保護取扱い数は、19万1,151人であった。
 また、家出人の発見・保護活動も行っており、犯罪に巻き込まれ、又は自殺するおそれがあるなどの家出人については、特にその迅速な発見・保護に努めている。12年中の家出人捜索願の受理件数は9万7,268件であり、家出人の発見数(捜索願の届出がない家出人の発見数を含む。)は8万7,227人であった。
(4) 高齢者を支援する活動
 警察では、犯罪、事故からの高齢者の保護及び地域安全活動への取組みを通じた高齢者の社会参加を二本柱とする「長寿社会総合対策要綱」により、高齢者に対する支援活動を推進している。
ア 高齢者に対する保護活動
 警察では、巡回連絡等を通じて高齢者に対し防犯指導等を行っている。また、はいかい高齢者の増加が問題となっていることから、自治体等と連携して「はいかい老人SOSネットワーク」を構築するなど、これらの者の早期発見・保護のための取組みを推進している。
イ 高齢者の社会参加活動
 警察では、高齢者が安心して生きがいをもって生活できるように、老人クラブ等と連携して地域安全活動への取組みを通じた高齢者の社会参加を支援し、地域の連帯感や相互扶助機能の強化を図っている。
(5) 障害者を支援する活動
 障害者は、犯罪、事故の被害に遭う危険性が高く、これらに対する不安感も強いことから、警察では、障害者の利便と気持ちに配意した各種施策の推進に努めている。
 警察では、聴覚障害者のため、手話ができる地域警察官等を配置した「手話交番」を、平成12年末現在17都府県55交番等で開設しており、これらの手話ができる地域警察官等は、(財)全日本ろうあ連盟の作成した「手話バッジ」を着用している。
 また、電話機による意思の伝達が困難な障害者のため、緊急通報をファックスにより受け付ける「FAX110番」を全国で設置しているほか、視覚障害者のため、点字や録音テープによる地域安全情報の提供を行っている。
 さらに、交番等にスロープ、点字付きインターホン等を設けるなど、交番等のバリアフリー化を促進している。
(6) ホームレス対策の強化
 最近、大都市を中心に、特定の住居を持たずに道路、公園、河川敷、駅舎等での野宿生活を送っている者(以下「ホームレス」という。)が社会問題となっている。このような情勢を踏まえ、警察では、関係自治体及び公共施設管理者との緊密な連携を図りながら、地域住民が不安を訴えている地域のパトロール活動、緊急に保護を要するホームレスの一時的な保護等所要の活動を強化している。
4 ボランティア等と共にある防犯活動
 警察では、防犯ボランティア団体や地域住民、自治体等と連携して、犯罪等による被害の未然防止活動を推進している。
(1) 犯罪等のない地域社会を目指して
ア 安全・安心まちづくりの推進
 近年、道路、公園等の公共施設や共同住宅等の住居における犯罪が増加していることから、警察では、平成12年2月、「安全・安心まちづくり推進要綱」を制定して、自治体、施設の管理者、関係業界団体等と連携して、見通しや明るさの確保等犯罪防止に配慮した構造・設備を有する道路、公園等の施設の普及を図ることにより、犯罪被害に遭いにくいまちづくりを積極的に推進している。なお、13年度には、全国10地区をモデル地区に選定し、街頭緊急通報装置(スーパー防犯灯)(注)を整備することとしている。
 また、共同住宅におけるピッキング用具を使用した侵入盗等の犯罪が急増していることから、13年3月、犯罪防止に配慮した共同住宅の普及の実効性を高める観点から、国土交通省と共同して「共同住宅に係る防犯上の留意事項」を策定し、犯罪防止に配慮した構造、設備等を有する共同住宅の普及を図っている。
(注) 街頭緊急通報装置(スーパー防犯灯)とは、防犯灯に非常用赤色灯・非常ベル、連絡用モニターカメラ、インターホン等を装備し、緊急時に警察に直接通報することができる装置である。
[事例] 特定非営利活動法人(NPO法人)である広島県マンション協会では、10年10月に「マンション防犯設計自主基準」を定め、会員企業が供給するマンションはすべてこの基準に基づいて設計することとするとともに、(社)広島県防犯連合会が11年7月から実施している「防犯モデルマンション登録制度」に積極的に登録することとし、マンションの防犯性能の向上に努めている。13年8月現在、21棟のマンションが防犯モデルマンションとして登録を受けている(広島)。
イ 侵入盗の防止対策
 警察では、ピッキング用具を使用した侵入盗の増加を踏まえ、施錠の励行、「ワンドア・ツーロック」等の積極的な広報啓発活動を行っている。さらに、(財)全国防犯協会連合会では、破錠やピッキングに強い優良住宅用開きとびら錠やシリンダー錠を「CP錠」、「CP-C」として認定する制度を実施するとともに、日本ロックセキュリティ協同組合、日本ロック工業会等の関係団体と協力して、優良な錠前の普及等を図っている。
ウ 自動車盗、オートバイ盗及び自転車盗の防止対策
 警察では、自動車盗及びオートバイ盗の防止対策として、施錠の励行等の広報啓発活動、オートバイの全国的な防犯登録制度の推進を行っているほか、(社)日本防犯設備協会と協力して有効な盗難防止対策の検討を行っている。また、関係業界等に対し、イモビライザー(注)等盗難防止のための機器の開発及び普及拡大の要請を行うとともに、関係機関に対する防犯カメラ等が設置された駐車(輪)場の整備拡大の要請、駐車場の管理者等に対する不審者等の発見時における警察への迅速な通報の呼び掛け等を行っている。
(注) 我が国では、ICチップ付エンジンキーと車両本体の電子制御装置のIDコードを照合し、一致しないと電気的にエンジンが始動しない電子式盗難防止システムが一般的である。
 また、自転車盗の防止対策として、施錠の励行等の広報啓発活動、防犯登録の完全実施に向けた取組みのほか、関係業界等に対する破壊されにくい錠の開発等の要請を行っている。
エ 金融機関等の防犯対策
 警察では、金融機関との連絡会議や防犯訓練を実施しているほか、防犯設備や管理体制を充実させるため、11年10月に「金融機関の防犯基準」について店舗における警戒要領等を具体的に盛り込むなどの見直しを行い、(財)日本防災通信協会等と協力して、同基準に基づいた防犯指導を行っている。また、深夜スーパーマーケット等の職域についても、県単位や警察署単位の職域防犯組織の結成を促進するとともに、11年10月に「深夜スーパーマーケットの防犯基準」を作成して、業界全体の自主防犯体制の整備促進と各店舗における防犯設備等の点検、改善等の防犯指導を実施している。
オ その他
 警察では、通話料前払い方式(プリペイド方式)携帯電話が誘拐事件や覚せい剤の取引等に悪用されている実態にかんがみ、12年4月、郵政省及び関係業界団体等に対し、契約時において身分確認を徹底するなど、犯罪に悪用されることのない通信手段として利用されるための措置を講ずるよう要請した。
(2) 地域住民による地域安全活動
ア 防犯協会を中心とした地域住民等による地域安全活動
 地域安全活動は、生活に危険を及ぼす犯罪、事故及び災害による被害の未然防止、拡大防止、回復等を行い、安全で住みよい地域社会を実現するための総合的な活動である。「地域安全ニュース」の発行等地域安全情報の提供、暗がり、空き屋等犯罪発生の危険度の高い箇所に対するパトロール等の活動を、防犯協会を主体として、地域住民、警察及び自治体がそれぞれの立場で相互に連携しながら推進している。また、地域の安全に対する住民の気運が盛り上がり、特定非営利活動法人(NPO法人)や女性によるボランティア組織が結成され、活発な活動が展開されている。
[事例1] 日本ガーディアン・エンジェルスは、平成11年4月、地域安全活動、犯罪・非行を防止するためのパトロール等を活動内容とする特定非営利活動法人として認証を受け、現在、東京、関西、仙台等6か所の事務所を拠点に、会員約310名で「Dare to Care(見て見ぬふりをしない)」をモットーとして、各地域における防犯パトロールや環境浄化活動を行うほか、防犯協会等とともに捜査情報提供を呼び掛けるチラシの配布等の捜査協力を行うなど、積極的な地域安全活動を展開している。
[事例2] 大阪府泉大津警察署管内防犯協議会婦人部「SAF(Safety Action Fairlady)」(女性ボランティア組織)は、7年6月に自主防犯意識を高揚させるための広報啓発を推進する目的で結成され、各地区で行われる地域安全大会等においてひったくり撲滅の標語が入った特製はっぴを着用して「よさこい鳴子踊り」を披露するなど、効果的な広報啓発活動を推進している(大阪)。
イ 職域防犯団体の活動
 犯罪の被害を受けやすい業種、犯罪に利用されやすい業種等を中心として、組織的な防犯対策を講ずるための職域防犯団体が結成されており、企業による地域安全を目的としたボランティア活動が積極的に行われている。
ウ 全国地域安全運動の展開
 (財)全国防犯協会連合会及び各都道府県防犯協会を中心として、12年10月11日から20日までの10日間、「全国地域安全運動」が展開された。この運動を通じて、ひったくり等の身近な犯罪防止活動等、各地域の実情に応じた様々な地域安全活動が実施された。
(3) 地域住民の活動を支援する警察
 警察では、地域住民に身近な犯罪、事故等に関する情報や、犯罪類型別の防犯ノウハウ等地域の安全確保に必要な情報を提供するとともに、ボランティアによる地域安全活動の推進方法や防犯診断等について専門的知識・経験に基づく助言を行っている。また、地域住民による地域安全活動を活性化させ、警察活動との連携を強化するため、地域安全活動の内容、方法について専門的立場から助言を行う「防犯活動アドバイザー」を平成13年3月末現在、全国24都府県の警察本部、警察署に計99人配置している。
5 セキュリティシステムの確立
(1) 社会環境の変化に対応したセキュリティシステムの確立
 情報通信技術の急速な進歩に伴う社会環境の急激な変化に起因して、ハッキング(不正アクセス行為)や電子商取引において他人になりすまして行う詐欺等情報通信ネットワークの特殊性に起因する新しい形態の犯罪や不正行為が発生するなど、様々な問題が顕在化しつつある。このような状況において市民生活の安全と平穏を確保していくためには、経済社会システムにおける犯罪抑止力の形成を図ること、すなわち、セキュリティシステムを確立していくことが必要となる。
 そのためには、不正アクセス行為を防止するとともに、電子商取引における本人確認を行う電子認証システムをセキュリティに留意したものとしていくことが必要である。このため、不正アクセス行為の禁止等に関する法律に基づき不正アクセス行為の再発を防止するための援助措置を行うとともに、「なりすまし」犯罪の実態に基づき、認証機関のセキュリティを向上させるための情報提供を行うなどして、企業や消費者が被害を受けることを未然に防止することとしている。
 また、このような技術進歩や社会環境の変化に対応して、情報通信ネットワークに係る防犯技術の開発・提供や、画像伝送システム等多様な防犯技術を活用した警備業等のセキュリティサービスの適切な発展を促していくことも重要である。警察においては、情報セキュリティ施策策定のための調査研究等に取り組むほか(第4節2(2)オ参照)、産業界及び関係機関・団体との連携を図るなどにより、セキュリティシステムの形成に努めている。
(2) セキュリティビジネスの育成
ア 時代の変化に対応した良質なセキュリティサービスの提供
(ア) 活躍する警備業
 警備業の業務は、施設警備を始め、交通誘導警備、雑踏警備、現金輸送警備、ボディーガード等の幅広い分野に及んでいる。また、ホーム・セキュリティ・システム等に係る機械警備の普及拡大等に伴い、警備業は民間におけるセキュリティサービスとして定着してきており、平成12年末現在の警備業者数は9,900業者、警備員数は42万2,851人に達している。さらに、最近では、情報通信技術の高度化を背景として、画像伝送システム等を利用した新たなセキュリティサービスが普及しつつあるほか、GPS(注)等を利用し、交通事故等が発生した際に関係機関への迅速な連絡を行うことを目的とした自動車からの緊急通報サービスが進展を遂げている。
(注) Global Positioning System の略。人工衛星から発した電波を用いた電波航法システムをいう。
 また、大規模災害発生時に、警備業者によって交通誘導、避難所の警戒活動等の警察活動に対する支援が迅速かつ的確に行われるよう、札幌市と47都道府県において、自治体又は都道府県警察の長と都道府県警備業協会との間で支援協定が締結されるとともに、東北、関東、中部、近畿、中国、四国の6地区において、都府県警備業協会間での広域支援協定が締結されている(13年3月末現在)。また、全国各地で都道府県警備業協会が自治体主催の防災訓練に参加するなど、警備業の防災分野での活躍が目立っている。
 警備業務は、人の生命、身体、財産等を守る業務であることから、警察では、その業務が適正に行われるように指導、監督を行っているところであるが、更に優良な警備員の育成を図るため、警備員の検定制度の充実強化に取り組んでいる。
(イ) 優良な防犯機器の普及、推奨
 警察では、自主防犯体制の整備、充実のため、防犯カメラ等の防犯機器の研究・開発を関係業界等に働き掛けるとともに、これらの研究・開発の状況を広く紹介することにより、その性能の向上と普及に努めている。また、(社)日本防犯設備協会では、防犯機器の性能に関する自主基準づくりを促進しているほか、防犯機器の設計、施工及び保守管理を行う者の資質を向上させ、これらの業務の実施の適正化を図るため、防犯設備士制度を実施しており、12年末までに6,324人が資格認定試験に合格している。
イ 流通を通じたセキュリティの確保
 古物営業法及び質屋営業法は、古物商、質屋等に取引の相手方の身分確認や取引の記録等を義務付け、その取引状況を明確にすることによって盗品等の市場への流入を抑止し、窃盗その他の犯罪の防止とともに被害の回復を図ることを目的としている。警察では、犯罪情勢や取引実態に配意しつつ、その適正な施行に努めている。
 また、流通を通じた犯罪を抑止するための流通分野におけるセキュリティシステムの形成には、警察による古物営業法等の施行のみならず、盗品等に関する情報の交換・共有を始めとする業界団体の自主的取組みが重要なものとなるため、警察では、全国古物商組合防犯協力会連合会、全国質屋組合連合会、(財)全国防犯協会連合会等との緊密な連携の下、古物商及び質屋等に対する啓発活動に努めている。
ウ その他
 探偵社、興信所等の調査業については、詐欺事案等、悪質な業者による不適正な営業活動が後を絶たないことから、警察では、悪質な調査業者の取締り等を行うことによって、調査業の健全な発展に取り組んでいる。


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