第3節 少年の健全育成を妨げる背景と課題

1 少年を取り巻く社会環境
 近年における生活様式の変化、情報化の進展、性の商品化の風潮の高まり等により、少年を取り巻く社会環境は大きく変化している。
(1) 生活様式の変化
 今日、成年、未成年を問わず、深夜型の生活様式が一般化していると言われる。
 塾通い等の増加により、夜間に少年が外出していることが一見して不自然とはいえない状況もみられ、社会的に深夜はいかいへの抵抗感が薄れていると考えられる。また、都市部では、深夜営業している店舗が多数みられ、特に鉄道駅周辺や住宅地近辺に多数存在し、少年にとって利用しやすいコンビニエンスストア、カラオケボックス、ゲームセンター等が目立っている。
(2) 急激な情報化の進展
ア 携帯電話等の普及
 携帯電話及びPHS(以下「携帯電話等」という。)は、少年の間に相当程度普及しているが、総務庁が平成12年にまとめた「青少年と携帯電話等に関する調査研究報告書」(注)に基づけば、図1-23のとおり、携帯電話等を所有している者(携帯電話等所有群)の方が、所有していない者(携帯電話等非所有群)よりも、逸脱行動等の経験が多いことが分かる。
 また、同報告書に基づくと、携帯電話等と金銭に関する行動との関係は図1-24のとおりであり、携帯電話等所有群は非所有群に比べて、アルバイトをしている割合が高く、また、親に小遣いをせびる傾向にあることが分かる。
(注) 総務庁青少年対策本部が11年11月から12月にかけて、6都県の高校生男女3,152人に対して調査票に記入させて調査したもの。
イ コンピュータゲームの普及
 従来からゲームセンターは少年たちのたまり場となっていたが、これに加え、最近では、家庭用のコンピュータゲーム機が普及している。総務庁が11年にまとめた「青少年とテレビ、ゲーム等に係る暴力性に関する調査研究報告書」(注)では、図1-25のとおり、ゲームセンターや家庭でのゲームで遊ぶ頻度が高いほど、暴力経験が多くなる傾向が見られるという結果が出ている。
(注) 総務庁青少年対策本部が10年10月から12月にかけて、5府県の小学生1,542人、中学生1,700人に対して調査票に記入させて調査したもの。
ウ インターネットの普及
 インターネットの普及は、生活に多大な便益を提供する反面、適正に利用されなかった場合の悪影響も懸念される。少年が、インターネットでホームページを見ていて、ポルノ画像、暴力的画像等を偶然見てしまうことも少なくない。また、インターネットには、犯罪の方法の教示、犯罪の体験談の掲示等の少年の健全育成に有害な情報が多数みられるところである。
 最近は、インターネット上で異性間の出会いの場を提供する電子掲示板、チャット等のいわゆる出会い系サイトが多数あり、好奇心からこれらを利用した女子少年が児童買春の被害に遭った事件もみられる。逆に、少年がインターネットを利用して詐欺等の犯罪を行う事件も発生している。
 また、インターネット接続が可能な携帯電話が普及し、少年がより容易にインターネットへ接続したり、電子メールを利用したりすることができるようになっている。
(3) 有害図書等
 従来からわいせつな内容、暴力的な内容等を扱った有害図書は多数あったが、最近では、殺人や自殺の方法を教示するものまで現れ、実際にその内容をまねて自殺したと考えられる事案も発生しており、情報化の進展が著しい現在でも、こうした旧来のメディアの影響は懸念されるところである。
(4) 性の商品化の風潮
ア 性の逸脱行為を助長する大人の存在
 少年による性の逸脱行為の背景には、自己の性欲のために少年を食い物にし、児童買春等を行う大人の存在がある。最近の検挙事例では、児童買春の相手となった少女をビデオ撮影し、インターネットを通じて販売していた事案もみられる(第2節2(3)ア参照)。
イ テレホンクラブ等の性を売り物にする営業の氾濫
 いわゆるテレホンクラブや性風俗特殊営業等の性を売り物にする営業の氾濫は、女子少年の性の逸脱行為や福祉犯被害のきっかけになるおそれが高いものである。
 特に、児童買春の温床になっていると認められるテレホンクラブは増加傾向にあり、平成12年末には全国で3,151の営業所等が把握された(警察庁調べ)。
 また、9年における科学警察研究所の調査「テレクラに接する少女の社会的背景」(注)によれば、福祉犯被害者として保護された女子少年のうち「テレクラに一度も電話したことがない」者は2割強であるのに対して、一般女子中学生・高校生のうち「テレクラに一度も電話したことがない」者は過半数を占めており、テレホンクラブへの接触と性の逸脱行為等との関連性がうかがわれる。
(注) 科学警察研究所防犯少年部が、平成7年7月から12月にかけて、福祉犯被害者として全国24の都道府県で保護された女子少年433人、一般女子中学生・高校生として東京都及び大阪府にある公立中学・公立高校に在学する女子生徒584人に対して質問紙に記入させて調査したもの。なお、9年末には全国で2,928のテレホンクラブの営業所等が把握されている。
2 少年の規範意識の希薄化
(1) 社会的逸脱行動に関する許容性
 科学警察研究所が平成11年にまとめた「少年の規範意識に関する研究」(注1)によると、社会的逸脱行動に対する許容性に関して、万引き、喫煙等の事項別に「絶対にしてはいけない」と回答した少年の割合は図1-26のとおりである。元年と11年とを比較すると、一般群、非行群ともに、全項目で11年の方が許容的になっている。特に、不良行為については犯罪に比べて許容性の高さが顕著であり、11年の方が大幅に許容的となる傾向にある。
 また、総理府が10年に行った「青少年の非行等問題行動に関する世論調査」(注2)によると、青少年による非行等のうち社会的にみて問題だと思うものは何かという問いに対する回答(複数回答)は図1-27のとおりである。
(注1) 科学警察研究所防犯少年部が、11年3月から5月にかけて、一般群として10都道府県の中学生男子493人、非行群として全国の警察で検挙・補導された中学生男子247人に対して、質問紙を用いて調査したもの。また、同調査の中で比較対象となっている元年の数値は、総務庁青少年対策本部が元年3月に報告した「規範意識と非行の深化との関係についての研究調査」(一般中学生男子433人、中学生男子非行少年182人)による。
(注2) 総理府が、10年4月に、層化2段無作為抽出法に基づき全国から抽出した、20歳未満の者1,938人、20歳以上の者2,102人に対して面接調査したもの。
(2) 飲酒、喫煙に対する規範意識
 総務庁が平成13年にまとめた「青少年とタバコ等に関する調査研究報告書」(注)に基づけば、喫煙がよくない(「法律で禁止されているから、いけない」及び「20歳になるまでは吸えなくても、しかたがない」)と回答した少年は、中学生で64.0%、高校生で37.0%であり、過去1年間にたばこを吸ったことがある少年は、高校生男子の24.4%を最高に、中学生・高校生の男女全体では14.3%であった。また、過去1年間に酒類を飲んだことのある少年は、中学生で45.2%、高校生で70.6%に達している。
(注) 総務庁青少年対策本部が、12年10月に、6府県の中学生・高校生の男女3,905人に対して調査票に記入させて調査したもの。
(3) 薬物に対する規範意識
 最近の少年による薬物乱用の背景には、少年が覚せい剤に対し、ダイエット効果があるなどと誤った認識を持ち、「S(エス)」や「スピード」などと呼び、抵抗感が希薄になっているなど、薬物の危険性、有害性についての認識が欠如していることが挙げられる。
 最近では、インターネット上のホームページを通じ覚せい剤等の薬物を販売している事案、「合法ドラッグ」と称して違法な薬物を販売している事案もみられる。
 平成11年に長崎県警察が実施した「薬物乱用防止教室に関するアンケート調査」(注)によれば、薬物を乱用することについてどう思うかとの問いに対し、62.7%の学生が「禁止されているので絶対に乱用すべきではない」と回答しているものの、14.6%の学生は「個人の自由」と回答している。
(注) 長崎県警察本部生活安全部少年課が、11年4月に、同月に行った薬物乱用防止教室に参加した県下の中学生・高校生9,164人に対してアンケート調査を実施したもの。
3 家庭や学校の在り方
(1) 家庭の在り方
 平成12年に警視庁がまとめた「非行少年の特性に関する調査研究」(注)によれば家庭の状況についての少年の回答は図1-28のとおりである(抜粋)。非行少年と一般少年とを比べると、小学校時代における親との共通の体験、母親の子供への関心、家庭における両親の関係等に対する子供の受け止め方に差が見られた。
(注) 警視庁生活安全部少年育成課が、11年9月から11月にかけて、非行少年については警察署で取り扱った男女946人、一般少年については都内の中学生・高校生955人に対して質問紙に記入させて調査したもの。
(2) 学校の在り方
 総理府の「青少年の非行等問題行動に関する世論調査」(2(1)参照)によれば、学校について問題だと思う点は何かという問いに対する回答は図1-29のとおりである(抜粋)。これによると、20歳以上の者と20歳未満の者の両方が、学校について、教師と生徒との間の信頼が薄れていることが問題だととらえている。
4 地域社会の少年問題への無関心
 総理府の「青少年の非行等問題行動に関する世論調査」(2(1)参照)によれば、社会環境や社会風潮について問題だと思う点は何か、地域社会について問題だと思う点は何かという問いに対する回答は図1-30のとおりである(抜粋)。これによると、20歳以上の者の方が20歳未満の者に比べて地域社会の在り方が問題だととらえている者の割合が高い。


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