第2節 少年非行や犯罪被害等の状況

1 少年非行等の状況
(1) 少年非行の推移
ア 刑法犯の推移
 少年法が施行された昭和24年以降の刑法犯少年の検挙人員、人口比は、図1-2のとおり、その時々の社会情勢等を反映して増減を繰り返してきた。
 終戦直後は、経済的窮乏、極度にひっ迫した食料事情と社会的混乱によって少年非行は激増した。この時期の少年による刑法犯は、年長少年(注)、とりわけ、有職少年、無職少年による窃盗、強盗、詐欺等の財産犯が目立ち、刑法犯少年の検挙人員は26年に12万6,519人に達した。
(注) 14歳及び15歳の少年を「年少少年」、16歳及び17歳の少年を「年中少年」、18歳及び19歳の少年を「年長少年」という。
 30年代は、急速な経済成長に伴う都市化の進展、都市への人口集中、享楽的風潮の高まり等、少年非行を誘発しやすい社会構造への変化を背景として非行が急増した。この時期の少年による刑法犯は、年少少年による凶悪犯、粗暴犯が目立ち、刑法犯少年の検挙人員は39年に15万1,346人に達した。
 50年代は、高度経済成長によって欧米と並ぶ経済的豊かさを達成した中で、社会の連帯意識の希薄化、核家族化、価値観の多様化が進み、また、少年の間にせつな的な風潮や、克己心の欠如という現象が広まったほか、少年を取り巻く有害環境が拡大したことを背景として少年非行が激増した。58年には刑法犯少年の検挙人員が19万6,783人とピークを迎えた。この時期における少年非行の特徴は低年齢化と一般化であり、また、初発型非行(万引き、オートバイ盗、自転車盗及び占有離脱物横領)に加えて、校内暴力、暴走族等の粗暴性の強い非行が著しく増加した。
 現在は、平成8年ころから始まる少年非行の多発期にあり、12年の刑法犯少年の検挙人員は13万2,336人に上る。
[コラム2] 戦後の代表的な少年非行対策の推移
 戦後、警察では、非行情勢に対応して様々な対策をとってきた。
○ 終戦直後
 昭和21年9月以降、警視庁やいくつかの府県に少年課又は少年係の設置が進められ、少年警察の体制が実質的に整備されるとともに、荒廃した市街の中で少年防犯活動、街頭補導、少年相談等が積極的に推進された。この時期の少年警察は、少年犯罪捜査及び補導に加え、浮浪児及び戦災孤児の救済活動、少年野球大会、女性の警察官による街頭紙芝居等を積極的に行い、少年を取り巻く荒廃した環境の改善を重点目標として活動した。
 警察における少年事件の処理区分、簡易送致制度、補導活動の基準の策定等、少年警察活動の基本的事項が定められたのもこの時期である。25年には後の「少年警察活動要綱」の前身となる「問題少年補導要領」が制定され、少年補導の対象、取締り時の心構え等が定められた。
 国の法制が変革していく過程で、少年の健全育成に関する法制も見直され、22年には児童福祉法、23年には少年法、風俗営業取締法が制定された。
○ 昭和30年代
 昭和35年に少年警察の活動の基準である「少年警察活動要綱」が制定され、これに基づき各都道府県警察は少年非行対策を進めていった。
 37年、警察庁は少年補導活動等に従事するボランティアの活動の在り方を都道府県警察に示し、その活性化を図った。これらのボランティアは、42年に少年補導員として制度化された。
 38年には警察と学校とが協力して児童、生徒の非行を防止することを目的として、各地で学校警察連絡協議会が結成された。
 また、当時の享楽的風潮の下、非行の温床となっていた深夜飲食店等を規制するため、34年、39年の2回にわたり風俗営業取締法の改正が行われ、18歳未満の者の深夜喫茶等の深夜飲食店への立入り等が規制された。これに加え、国民と警察とが一体となった暴力追放運動、総理府を中心とした青少年健全育成運動等の盛り上がりがみられ、各地方公共団体における青少年保護育成条例の制定等により、更に対策が強化された。
○ 昭和50年代
 昭和51年、警察庁に少年課を新設して少年警察体制の更なる充実強化を図った。
 57年、少年非行が多発している区域を「少年を非行からまもるパイロット地区」に指定し、家庭、学校及び地域社会との協力の下に、非行防止のための教室や座談会の開催等を行った。
 59年には風俗営業等取締法が改正され、当時、少年のたまり場として大きな問題となっていたゲームセンター等に対して一定の規制を加えるとともに、少年指導委員の制度が新設された(第1節2(1)ウ(ア)参照)。
イ 凶悪犯の推移
 凶悪犯で検挙した少年(以下「凶悪犯少年」という。)と成人の人員、人口比の推移は図1-3のとおり、凶悪犯少年の罪種別検挙人員の推移は図1-4のとおりである。
 凶悪犯少年の検挙人員は、昭和34年の7,684人をピークにほぼ一貫して減少してきたが、平成3年から増加傾向へ転じ、12年には2,120人と4年連続で2,000人を超える高い水準で推移している。人口比は3年の0.10から上昇に転じ、12年には0.24と、成人の約5倍に達している。
 このうち、少年による殺人の検挙人員は、昭和40年代に減少傾向に入り、50年代以降、おおむね70人台から90人台で推移していたが、平成10年以降は毎年100人を超えており、12年には105人となっている。
 また、少年による強盗の検挙人員は、近年著しい伸びを示しており、昭和63年の546人を底に増加を続け、平成12年は1,638人となっている。人口比も、昭和63年には成人の3.8倍であったものが、平成12年には成人の8.8倍となっている。
 少年のみによる強盗の検挙件数に占める共犯事件や集団事件(注)の割合の推移をみると(図1-5)、共犯事件、集団事件ともに増加傾向にあり、12年は共犯事件が68.1%、集団事件が43.8%を占めている。
(注) 共犯事件とは、2人以上の共犯者による事件をいい、集団事件とは、共犯事件のうち3人以上の共犯者による事件をいう。
ウ 粗暴犯の推移
 粗暴犯で検挙した少年(以下「粗暴犯少年」という。)の人員、人口比の推移は、図1-6のとおりである。
 粗暴犯少年の検挙人員は、戦後増加を続け、昭和39年には4万4,778人とピークを記録した。その後、減少に転じたものの、平成6年の1万4,655人(人口比1.4)を底として再び増加に転じ、12年は1万9,691人(人口比2.2)となっている。成人を含む粗暴犯総検挙人員に占める少年の割合は、昭和50年代半ばまでは20%台であったものが、平成元年には40.3%に達し、12年は39.1%となっている。
エ 窃盗犯の推移
 窃盗犯で検挙した少年(以下「窃盗犯少年」という。)の人員、人口比の推移は、図1-7のとおりである。
 刑法犯少年の大半を占める窃盗犯少年の検挙人員は、おおむね刑法犯少年全体の検挙人員と同様に推移しており、12年は7万7,903人(人口比8.8)となっている。
(2) 最近の少年非行等の状況
 最近の少年犯罪は、社会を震撼させた特異・重大事件に象徴される凶悪・粗暴な非行の深刻化、安易に金銭をねらう犯罪の多発等、厳しい状況にある。
ア 平成12年中の犯罪少年の検挙状況
 平成12年中の刑法犯少年の検挙人員は13万2,336人(前年比9,385人(6.6%)減)となっており、2年連続して減少した。また、成人を含む刑法犯総検挙人員に占める少年の割合は42.7%(前年比2.2ポイント減)、刑法犯少年の人口比は14.9(前年比0.7減)である。
 また、12年中の特別法犯少年の検挙人員は7,747人(前年比1,064人(12.1%)減)となっており、法令別では、毒物及び劇物取締法違反が4,298人、覚せい剤取締法違反が1,136人、軽犯罪法違反が596人等となっている。成人を含む特別法犯総検挙人員に占める少年の割合は11.8%(前年比0.5ポイント減)、特別法犯少年の人口比は0.87(前年比0.1減)である。
 12年中の刑法犯少年の包括罪種別、学職別検挙状況は表1-2のとおりで、包括罪種別では窃盗犯が7万7,903人(全体の58.9%)と最も多い。
 11年、12年中の凶悪犯少年、粗暴犯少年の罪種別検挙人員は表1-3のとおりである。凶悪犯少年の検挙人員は11年に比べて117人減少したものの4年連続して2,000人を超えた。粗暴犯少年の検挙人員は、11年に比べて3,761人増加しており、凶器準備集合以外の各罪種において11年を大きく上回った。
 罪種別にみた少年の人口比と成人の人口比は表1-4のとおりである。
 また、12年中の触法少年の補導人員は2万762人(前年比2,023人(8.9%)減)、家庭裁判所へ送致し又は児童相談所等へ通告したぐ犯少年の人員は1,887人(前年比330人(21.2%)増)となっている。
イ 凶悪・粗暴な非行の深刻化
(ア) 社会を震撼させた少年による特異・重大事件
 12年は、社会を震撼させる少年による特異・重大事件が相次いで発生した。近年、多くの国民が少年非行に不安感を持つ要因として、特段の問題が見当たらないと平素から思われていた少年がいきなり人を殺傷し、しかもその動機が常識からは理解しがたいような事件が発生している点があるとみられる。
[事例1] 無職の少年(17)は、12年5月、高速バスに刃物を所持して乗り込み、福岡県下で同バスの乗員・乗客に刃物を突き付けるなどして人質にしバスを乗っ取った上、乗客1人を殺害したほか、4人を負傷させた。少年を強盗殺人罪及び人質による強要行為等の処罰に関する法律違反等で検挙した(広島)。
[事例2] 男子高校生(17)は、12年6月、後輩の男子高校生4人を高校内において金属バットで殴打し、傷害を負わせた。さらに、自宅において、実母の頭部を同バットで殴打して殺害した。7月、殺人罪等で検挙した(岡山)。
[事例3] 男子高校生(15)は、被害者方から下着を窃取したことなどが発覚することを恐れ、被害者方に居住する家族全員を殺害することを企て、12年8月、家族6人の胸部等をそれぞれサバイバルナイフで刺すなどして、3人を殺害し、残る3人にも傷害を負わせた。同月、殺人罪等で検挙した(大分)。
 警察庁は、10年1月から12年5月までに発生した事件のうち、少年による特異・凶悪な22事件(犯罪少年25人)について、その前兆等を調査し、12年12月にその結果を公表した。それによると、周囲からは特段の問題が見当たらないと平素から思われていた少年の多くに、背景として、犯罪やいじめの被害、学校における孤立、不登校、怠学、引きこもり等の経験がみられ、また、犯行の1年位前から、暴力行為、粗暴行為、刃物の携帯や収集等の問題行動、周囲の人への犯行のほのめかし、悩みの相談等の前兆とみられる言動があったことが明らかになった。
(イ) 人を死に至らしめる犯罪の推移
 警察庁では、殺人(未遂を含む。)、強盗殺人(未遂及び強盗致死を含む。)及び傷害致死の三つの罪種を「人を死に至らしめる犯罪」としているが、人を死に至らしめる犯罪に係る少年の検挙人員、人口比の推移は図1-8のとおりである。
 少年による人を死に至らしめる犯罪の検挙人員は、統計上確認できる昭和41年(446人)から減少傾向にあったが、55年(72人)を底に、年ごとの増減は大きいもののおおむね増加傾向となり、平成10年には284人(人口比0.031)に達した。12年は201人となっている。人を死に至らしめる犯罪は、元来、成人の方が少年より人口比が高い類型の犯罪であったが、5年以降は一貫して少年の人口比が成人を上回っている。
(ウ) 少年による人を死に至らしめる犯罪の背景、前兆等の実態に関する調査
 警察庁は、12年中に人を死に至らしめる犯罪により検挙された少年201人(殺人105人、傷害致死78人、強盗殺人18人)について、少年の背景、前兆的行動等の実態に関する調査を13年2月から3月にかけて行った。この調査は、調査担当者が当該事件を担当した捜査官から調査項目について聞き取りを行うなどして行ったものである。
a 少年自身について
 男女別では、約9割にあたる185人が男子であり、年齢別では、16歳が49人と最も多く、次いで17歳47人、19歳39人の順で、学職別では、無職少年が68人と最も多く、次いで有職少年60人、高校生44人の順であった。
 警察によって調査の対象となった犯行以前に検挙又は補導されたことがある少年は128人である一方、一度も検挙、補導されたことがない少年は73人であった。
b 少年を取り巻く環境・背景
 暴走族等の不良グループとのかかわりあいについては、不良グループとの関係がないと認められる少年は56人に過ぎず、約7割の少年が、不良グループのメンバーであるか、メンバーではないが不良グループと付き合いのある少年であり、不良グループと何らかの関係を持っていると認められた。
 犯罪やいじめ等の何らかの被害経験の有無については、いじめの被害に遭ったことがあると認められる少年は19人、犯罪の被害に遭ったと認められる少年は10人、家族からの暴力・虐待を受けたことがあると認められる少年は22人であった。
 他人とうまく付き合うことのできない対人不適応の状況については、不登校や怠学の経験があると認められる少年は102人、孤立経験があると認められる少年は25人、引きこもりの経験があると認められる少年は8人であった。また、自殺企図の経験があると認められる少年は4人であった。
c 犯行の動機等
 犯行の動機についての担当捜査官の判断は、「被害者への激高」が87人と最も多く、次いで「強さの誇示」が27人、「金品目的」が21人、「被害者への復讐」が20人の順であった。
d 犯行の前兆的行動
 犯行前に何らかの前兆的行動があったと認められる少年は76人に上る。
 そのうち、犯行類似行動が認められた少年は35人、犯行準備行動が認められた少年は15人、犯行のほのめかしや不審・特異な言動を家族等に漏らしていたと認められる少年は28人、自分の持つ不安や悩み、苦しみを言動等に表していたと認められる少年は24人であり、また、調査の対象となった事件以前に、刃物を携帯・収集・使用していたと認められる少年は26人であった。
ウ 多発する金銭目的の暴力的な犯罪
 最近、少年による強盗、恐喝及びひったくりが増加傾向にある。
(ア) 強盗事件の特徴
 過去10年間の少年による強盗及び路上強盗の検挙人員の推移は図1-9のとおりである。
 12年中に強盗で検挙した少年は1,638人(前年比27人(1.7%)増)となっており、2年連続して増加した。凶悪犯少年の検挙人員のうち、強盗犯の検挙が最も多く、凶悪犯少年の総検挙人員に占める割合も7割を超えている。
 学職別にみると、無職少年が510人と最も多く、次いで高校生、有職少年の順となっている。年齢別にみると、17歳が386人と最も多く、次いで16歳、18歳の順となっており、年中少年の割合が高くなっている。
 手口別にみると、侵入強盗、非侵入強盗ともに増加しているが、非侵入強盗の中でも、とりわけ路上強盗の検挙人員の増加が著しく、3年には436人であったものが、9年には1,000人を超え、12年には1,122人と約2.6倍となっている。
[事例1] 無職少年(16)は、12年1月、金品を窃取する目的で老女方に侵入し、同女を殺害した上、現金在中の財布を奪った。同月、強盗殺人罪で検挙した(大分)。
[事例2] 無職少年(16)と女子高校生(16)は、12年12月、タクシーに乗車してカッターナイフで運転手の頸部を切りつけて殺害し、売上金等を奪った。同月、強盗殺人罪で検挙した(兵庫)。
(イ) 恐喝事件の特徴
 過去10年間の少年による恐喝の検挙人員の推移は図1-10のとおりである。
 12年中に恐喝で検挙した少年は6,712人(前年比1,002人(17.5%)増)となっている。
 学職別にみると、高校生が2,046人と最も多く、次いで無職少年、中学生の順となっている。年齢別にみると、15歳が1,747人と最も多く、次いで16歳、17歳の順となっている。
 粗暴犯少年の検挙人員のうち、恐喝犯の検挙は傷害に次いで多く、10年、11年と連続して減少したが、12年は増加に転じ、過去10年間で最高の検挙人員となっている。
 さらに、共犯形態別にみると、少年のみによる恐喝事件4,736件中、共犯事件は2,806件(うち集団事件は1,323件)、共犯事件の割合は59.2%(集団事件の割合は27.9%)となっており、成人の共犯事件の割合が37.1%(集団事件の割合は14.4%)となっていることに比べて高くなっている。
[事例1] 男子中学生(15)ら10数人は、11年6月から12年2月にかけて、同級生から約130回にわたり、現金約5,000万円を脅し取っていた。12年6月までに恐喝罪等で検挙した(愛知)。
[事例2] 有職少年(19)は、9年7月ころから、幼なじみの同級生から金を脅し取るため、電話を利用して架空の人物を装い、声色を使って脅すなどして、畏怖した同級生から相談を受けるや、自分が代わって金を渡す解決策を教示し、約2年7か月の間に、約30回にわたり、現金約430万円を脅し取っていた。12年6月、恐喝罪で検挙した(大阪)。
(ウ) ひったくり事件の特徴
 過去10年間のひったくりの認知件数、検挙人員の推移は図1-11のとおりである。
 ひったくりの認知件数は近年急激に増加しており、12年には4万6,064件となっている。
 少年の検挙人員も急激に増加しており、3年には682人であったものが、12年には2,179人と約3.2倍になっており、2年連続で2,000人を超える高い水準にある。また、12年の成人を含めた総検挙人員3,072人のうち少年の占める割合が約7割となっている。
 12年の検挙人員を学職別に見ると、無職少年が735人と最も多く、次いで中学生、高校生の順となっている。年齢別に見ると、16歳が532人と最も多く、次いで15歳、17歳の順となっている。
 また、ひったくりの逃走手段として利用した乗り物等をみると、12年の少年によるひったくりの検挙件数7,204件のうちオートバイを利用したものが6,123件を占めており、このうち2,820件が盗難オートバイを利用したものとなっている。
 ひったくりで検挙した少年の犯行時間帯についてみると、12年の少年によるひったくりの検挙人員2,179人のうち、午後6時から午前0時の犯行が999人と全体の45.8%を占めており、夜間に集中しているが、昼間においても時間が遅くなるにつれて増加する傾向にある。
 ひったくりは、強盗等の凶悪犯に発展するおそれのあるものや組織的に敢行されるものが多く、12年8月、警察庁では、少年等によるひったくりを、組織的に敢行される自動車盗等とともに特定重要窃盗犯に指定し、対策を強化することとした。
[事例] 11年11月、高校3年生ら7人(17歳4人、16歳2人、15歳1人)は、オートバイを盗んだ上、それを使用して集団でひったくりを敢行し、ひったくり3件、オートバイ盗2件、被害総額約60万円相当に及ぶ犯行を重ねていた。12年4月までに、窃盗罪等により検挙した(大阪)。
(エ) 強盗、恐喝及びひったくり事件に関する調査
 警察庁は、13年2月26日から3月27日までの間に全国で強盗、恐喝及びひったくりにより検挙された少年684人(強盗120人、恐喝426人、ひったくり138人)について、少年に対する聞き取り等により、動機・背景等に関する調査を13年2月から3月にかけて行った。このうち、犯行を否認するなど調査に対して真実を話すことを期待できない少年を除いて、371人(強盗70人、恐喝226人、ひったくり75人)から回答を得た。
a 少年自身について
 男女別では、371人中339人が男子であり、年齢別では、15歳が76人と最も多く、次いで16歳74人、17歳69人の順で、学職別では、中学生が136人と最も多く、次いで無職少年81人、高校生75人の順であった。
 警察によって調査の対象となった犯行以前に検挙又は補導されたことがある少年は263人である一方、一度も検挙、補導されたことがない少年は108人であった。
 常習的喫煙の経験があると回答した少年は312人(84.1%)に及んでいる。中学生、高校生一般に対する意識調査「青少年とタバコ等に関する調査研究報告書(平成13年、総務庁)」(第3節2(2)参照)において過去1年間にたばこを吸ったことがあると回答した少年の割合が14.3%であることと比べて、より多くの少年が喫煙等の問題行動をとっている状況がうかがえる。
b 少年を取り巻く環境
 暴走族等の不良グループとのかかわりあいについては、関係がないと回答した少年は87人にとどまり、7割以上の少年が、不良グループのメンバーであるか、メンバーではないが不良グループとの付き合いがあるとの回答であった。
 犯行に影響を与えた環境についての回答(複数回答)は、「暴走族・不良グループ等の影響」が150人と最も多く、次いで「メディアの影響」が40人であった。また、「メディアの影響」と回答した少年の媒体についての回答は、「テレビ」が31人と最も多く、次いで「ゲーム」が7人、「雑誌・書籍」が5人の順であった。
c 犯行の動機等
 被害者との面識については、面識がないと回答した少年は強盗で67人(95.7%)、恐喝で127人(56.2%)、ひったくりで75人(100.0%)であった。
 犯行の動機についての回答(複数回答)は、強盗、恐喝、ひったくりとも「金品目的」が最も多く、強盗で59人、恐喝で197人、ひったくりで72人であった。このほか、「被害者への激高・憎悪・復讐等」が強盗で12人、恐喝で32人、ひったくりで0人、「強さの誇示・快感・ストレス発散・いじめ目的等」が強盗で6人、恐喝で30人、ひったくりで2人であった。
 最近数か月のお金の主な使途についての回答(複数回答)は、「飲食」が235人と最も多く、次いで「ゲームセンター」が161人、「携帯電話」が83人、「カラオケ」が81人の順となっており、遊興目的の使途が多い。また、14人が「先輩・不良グループ・暴走族等に上納・会費」と回答したことが注目された。
 さらに、犯行に対する意識・考えについては、「悪いことをしたという意識があり、反省している」と回答した少年が229人である一方、「悪いことをしたという意識はあったが、反省していない」が98人、「悪いことをしたという意識がほとんどない」が43人となっており、犯罪を犯しながら罪悪感を持たず、あるいは反省していない少年が約4割に及んだ。
(3) 最近の暴走族の特徴及び非行実態
ア 暴走族と少年のかかわり
 暴走族は、爆音暴走等を集団で行う共同危険型暴走族と、主に運転技術や走行速度等を競う違法競走型暴走族に大きく分けられるが、平成12年末現在の状況をみると、暴走族構成員約2万7,800人のうち共同危険型暴走族の構成員は約2万3,400人(84.3%)であり、そのうち約1万7,600人(75.1%)を少年が占めており、17、18歳の少年中心の年齢構成となっている。また、違法競走型暴走族構成員は約4,400人であり、そのうち約1,050人(24.0%)を少年が占めている(第5章6(3)参照)。
 暴走族少年は、比較的短い期間で世代交代を繰り返しており、毎年相当数がグループを離脱している一方で、同じ中学校出身の先輩や同級生の誘いを受けるなどして、ほぼ同数の少年が新たに加入している実態があり、暴走族の構成員が減少傾向にあるとはいえ大きく減らない原因の一つとなっている。
 暴走族の中には、他のグループとのトラブルに対処するための「後ろ盾」として暴力団員等との関係を持つものも多く、また、このような暴力団員等とのつきあいの中で、少年が暴走族の構成員を経て暴力団員になる例もある。
イ 暴走族少年の非行実態
 暴走族は、依然として、深夜の住宅街等での集団暴走や爆音暴走を繰り返し、著しく交通の安全と秩序を乱すとともに、敵対するグループとの対立抗争、グループ内の引き締めのためのリンチ事件といった悪質・凶悪な不法事案を引き起こしている(暴走族全体による道路交通法違反の検挙状況については、第5章6(3)参照)。
 また、過去10年間に刑法犯で検挙した暴走族少年の推移は、図1-12のとおりで、7年以降、凶悪犯、粗暴犯を中心に増加傾向にあり、暴走族少年の凶悪化がうかがえる。
 なお、最近では暴走族のほか、これを見物する周囲の群衆(「ギャラリー」又は「期待族」と呼ばれる。)が道路を占拠し、暴行事件を起こすなどして検挙される事案がみられる。
(4) 少年の薬物乱用
ア 覚せい剤の乱用
 過去10年間の覚せい剤事犯による少年の検挙人員の推移は図1-13のとおりである。
 平成12年中の検挙人員は1,137人と、前年に比べ141人(14.2%)増加した。学職別にみると、前年に比べてすべての学職区分で増加し、特に中学生の増加が著しい(前年比30人(125.0%)増)。
イ シンナー等の乱用
 シンナー等乱用による少年の検挙人員は図1-14のとおり減少傾向にあり、3年に2万125人であったものが、12年には3,417人まで減少した。最近は、中学生及び高校生の占める比率が増加しており、5年に24.3%であったものが、12年には31.8%となっている。
(5) 校内暴力及びいじめに起因する事件
 文部省の調査によると、平成11年度において、全国の公立小・中・高等学校の児童生徒が起こした暴力行為(注1)の発生件数は3万1,055件であり、学校別では、中学校が最も多く2万4,246件、次いで高等学校が5,300件、小学校が1,509件となっている。
 これに対し、12年中に警察が取り扱った小学生、中学生及び高校生による校内暴力事件(注2)の件数は994件であり、それにより検挙・補導した少年は1,589人となっている。このうち中学校に係る事件が932件、1,422人と大部分を占めている。校内暴力事件全体のうち、教師に対する暴力事件の取扱い件数は582件、検挙・補導人員は652人であり、生徒間の暴力事件の取扱い件数は324件、検挙・補導人員は707人となっている。
 次に、文部省の調査によると、11年度において、全国の公立小・中・高・特殊教育諸学校におけるいじめ(注3)の発生件数は3万1,359件であり、学校別では、中学校が1万9,383件と最も多く、次いで小学校が9,462件、高等学校が2,391件となっている。
 これに対し、12年中に警察が取り扱った小学生、中学生及び高校生のいじめに起因する事件(注4)の取扱い件数は170件、それにより検挙・補導した少年は450人となっている。罪種別の内訳をみると、傷害276人、暴行76人、恐喝53人、暴力行為19人、その他26人となっている。
 また、12年中に警察が取り扱ったいじめに起因する事件170件を認知した端緒は表1-5のとおりである。警察では、被害少年、保護者、学校等からの相談、被害申告を受けてこれらの深刻な問題に対応し、悪質なものについては適切な事件化に努めている。
(注1) 暴力行為とは、自校の児童生徒が起こした暴力行為をいい、対教師暴力、生徒間暴力、対人暴力、学校の施設・設備などの器物損壊を合わせたものをいう。
(注2) 校内暴力事件とは、学校内における教師に対する暴力事件、生徒間の暴力事件、学校施設、備品等に対する損壊事件をいう。
(注3) いじめとは、自分より弱いものに対して一方的に、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているものをいい、起こった場所は学校の内外を問わない。
(注4) いじめに起因する事件とは、いじめ自体が事件となるもの及びいじめの仕返しによって引き起こされる事件をいう。
(6) 少年による不良行為
 警察では、少年による様々な問題行動のうち、その問題性から特に積極的に対応すべきと考えられるものを、飲酒、喫煙、深夜はいかい等の類型に分類して、不良行為として定義し、関係機関・団体、ボランティア等との連携による街頭補導等を通じて、不良行為を行っている少年、家庭への指導、助言に努めている。
 過去10年間の不良行為による少年の補導人員の推移は図1-15のとおりである。平成12年中の補導人員は88万5,775人であり、態様別では、喫煙が47.1%を占めて最も多く、次いで深夜はいかいが34.7%となっている。
2 犯罪等による少年の被害の状況
(1) 少年を被害者とする刑法犯
ア 認知件数
 少年が被害者となった刑法犯の認知件数は図1-16のとおりであり、昭和59年に20万1,651件であったのが、7年連続して増加し、平成3年には37万9,939件に達した。その後11年まで減少傾向で推移したが、12年には35万2,753件(前年比12.3%増)と、急激な増加をみせた。
イ 凶悪犯、粗暴犯の被害状況
 少年が被害者となった凶悪犯の認知件数は図1-17のとおり、粗暴犯の認知件数は図1-18のとおりであり、近年増加傾向が顕著である。
 凶悪犯についてみると、3年に1,260件であったものが以後緩やかに減少したが、8年以降増加に転じ、12年には1,916件(前年比19.8%増)となっている。
 このうち、強盗は、12年には720件となっており、3年に比べて約2.3倍となっている。強姦は、8年以降増加を続けており、12年には、1,006件と過去10年間で初めて1,000件を超えた。
 粗暴犯についてみると、3年に1万1,844件であったものが以後一貫して増加しており、12年には2万3,487件(前年比36.0%増)となっている。
 このうち、恐喝は、3年以降一貫して増加を続けており、12年には1万2,448件に達し、3年に比べて約2.1倍となっている。
(2) 少年の福祉を害する犯罪
 福祉犯とは、少年を虐待し、酷使し、その他少年の福祉を害し、又は少年に有害な影響を与える犯罪であり、各都道府県の青少年保護育成条例に違反する行為や、毒物及び劇物取締法、児童福祉法等に違反する行為のうち少年の福祉を害するものをいう。例えば、毒物及び劇物取締法違反のうち、みだりに吸入することを知って、少年にシンナー等を販売する行為が福祉犯に当たる。一方、少年自らが、みだりにシンナー等を吸入する行為は、福祉犯には当たらない。
 福祉犯の被害少年数の推移は、図1-19のとおりであり、昭和54年以降6年連続して増加し、60年には2万1,592人に達したが、その後は減少傾向にあり、平成12年には8,291人となっている。そのうち、主な福祉犯の被害少年数の推移は図1-20のとおりである。
 なお、青少年保護育成条例違反の被害少年の数は、12年には2,084人と前年に比べて約半分となったが、これは、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童買春・児童ポルノ法」という。)の制定により、従来青少年保護育成条例違反として検挙していた児童買春等の福祉犯が、同法違反として検挙されるようになったことに関連している。
 12年中の福祉犯の検挙人員は6,504人(前年比1,678人(20.5%)減)であり、法令別では、青少年保護育成条例(テレホンクラブ等規制条例を含む。)違反が最も多く、次いで毒物及び劇物取締法違反となっている(図1-21)。
(3) 児童買春・児童ポルノ事犯
 児童買春や児童ポルノは、児童の権利を著しく侵害し、児童の心身に有害な影響を及ぼすものであり、警察は、平成11年11月に施行された児童買春・児童ポルノ法に基づく取締りを積極的に推進している。児童買春・児童ポルノ法には、児童買春とその周旋・勧誘、児童ポルノ頒布等及び児童買春等を目的とした人身売買等について罰則が設けられており、また、その国外犯の処罰についても規定されている。
 警察では、児童買春・児童ポルノ事犯の取締りを徹底するため、少年部門と、風俗犯罪、凶悪犯罪、ハイテク犯罪等の取締りに当たる部門とが連携し、取締本部やプロジェクトチームを設置するなどして体制を強化している。
 また、インターネットを利用した児童買春・児童ポルノ事犯が多数発生していることから、都道府県警察間の合同・共同捜査を積極的に推進するなど広域捜査力の強化に努めている。
ア 児童買春事犯
 11年11月の児童買春・児童ポルノ法施行以降、同年中の児童買春事犯の検挙件数は20件、検挙人員は20人であった。
 また、12年中の児童買春事犯による検挙件数、検挙人員は、985件、613人となっている。そのうち、児童買春が899件、553人、児童買春周旋が74件、42人、業としての児童買春周旋が12件、18人となっている。
 また、12年中に検挙した985件、613人中、テレホンクラブ営業に関するものが476件(48.3%)、319人(52.0%)となっており、同営業が児童買春の温床になっていると認められる。
 女子児童が小遣い銭ほしさにグループを作り、テレホンクラブを利用して、いわゆる援助交際を繰り返すような事案もみられ、なかには、援助交際が流行していると聞いて、取り残されないようにグループに加わった児童もいる。
 また、インターネット上におけるいわゆる出会い系サイトの掲示板等を利用して女子児童と接触を持って買春する者もおり、今後、このような児童買春事犯の増加が懸念される。
[事例1] 県立高校教諭(37)は、伝言ダイヤルを通じて知り合った女子中学生ら多数の女子児童に対し、児童買春を行った。さらに、販売する目的でその様子をビデオ撮影し、作成したビデオをインターネットを通じて販売し、顧客に同女らを買春相手として紹介した。12年5月、児童買春・児童ポルノ法違反等で検挙した(神奈川)。
[事例2] 同じ中学校に通う女子生徒15人は、12年8月ころから、いわゆる援助交際を行うグループを形成し、2人1組でテレホンクラブを利用して買春相手らと接触していた。女子生徒らは、小遣い銭目的に援助交際を行っており、援助交際で得た金銭は、すべて飲食代金、衣類、化粧品代等に消費していた(静岡)。
イ 児童ポルノ事犯
 11年11月の児童買春・児童ポルノ法施行以降、同年中の児童ポルノ事犯の検挙件数は18件、検挙人員は22人であった。
 また、12年中の児童ポルノ事犯による検挙件数、検挙人員は170件、164人となっている。その内訳は図1-22のとおりである。
 このうち、インターネットを利用したものが114件(67.1%)、85人(51.8%)を占めており、インターネットが児童ポルノ頒布等の有力な手段となっていることがうかがえる。
[事例1] 11年11月、インターネットで情報交換等をしていたロリコンと呼ばれる児童ポルノ愛好者らが、静岡県内の旅館において会合を開き、インターネット等を通じて収集した児童ポルノを収録したCD-Rを無償で頒布した。12年2月までに参加者のうち4人を児童買春・児童ポルノ法違反等で検挙した(静岡)。
[事例2] 11年11月から12年5月までの間、無職男性(41)は、米国内のサーバに開設したホームページに児童ポルノの販売広告を掲載し、メールを通じて購入を希望した者に児童ポルノ画像を収録したCD-Rを販売した。8月、児童買春・児童ポルノ法違反で検挙し、10月、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律を適用して犯罪収益の没収保全請求を行った(埼玉、富山)。
(4) 児童虐待
 近年、児童虐待が深刻な社会問題となっており、平成12年11月には児童虐待の防止等に関する法律(以下「児童虐待防止法」という。)が施行された。また、児童虐待に関する相談の受理件数、事件の検挙件数も増加している。
ア 児童虐待に関する少年相談の受理状況
 12年中の警察の少年相談窓口における児童虐待に関する相談の受理件数は1,342件で、前年に比べて418件増加した。これは、統計を取り始めた6年の約11倍となっている(表1-6)。
イ 児童虐待事件の検挙状況
 12年中の児童虐待事件の検挙件数は186件、検挙人員は208人で、前年に比べて66件、78人それぞれ増加した。これらの事件による被害児童は190人で、前年に比べて66人増加しており、そのうち44人(前年比1人減)が死亡した。統計を取り始めた11年以降の児童虐待事件の罪種別、態様別検挙状況は表1-7のとおりである。
(ア) 罪種別検挙状況
 12年の罪種別検挙状況をみると、傷害が72件と最も多く、前年に比べて45件増加している。次いで殺人が31件、傷害致死が20件の順となっており、生命及び身体に重大な被害を与える犯罪の割合が高く、また、大幅に増加している。
(イ) 態様別検挙状況
 12年の態様別検挙状況をみると、身体的虐待が124件と最も多く、次いで性的虐待が44件、保護の怠慢・拒否が18件の順となっている。
 また、態様別にみた被疑者の性別は、身体的虐待では男性85人、女性54人、保護の怠慢・拒否では男性8人、女性17人であり、性的虐待の被疑者はすべて男性となっている。
(ウ) 犯行の原因・動機
 身体的虐待における犯行の原因・動機についてみると、子どもが意のままにならないことが原因・動機であると見られるもの、子どものしつけと称して行われたものなどの育児の悩みやストレスに関連するものもあるが、夫婦間の離婚問題のように直接子どもとは関係のないものもある。
(エ) 被疑者と被害児童との関係
 被害児童と加害者との関係についてみると、12年中に検挙された208人のうち、被害児童の実母が64人、実父が60人、実母と内縁関係にある者が47人等となっている(表1-8)。
(オ) 被害児童の年齢・性別状況
 12年中の被害児童190人を年齢別にみると、1歳未満が28人と最も多く、次いで3歳が22人、2歳が16人、1歳が15人となっており、6歳以下の被害児童が109人と高い割合を占めている。男女別にみると、男子が91人、女子が99人である。
[事例1] 12年5月、実母(24)は、パチンコ店駐車場内に駐車中の車両内に、被害児童(生後9か月の男児)を寝かせたまま、パチスロに興じていた。約2時間30分後に車両に戻ると児童がぐったりしており、病院に運んだが死亡が確認された。同月、重過失致死罪で検挙した(群馬)。
[事例2] 実父(37)と実母(29)は、12年10月、しつけと称して、男子児童をベランダに縛り付け、飲食物を与えず41時間放置するなどして死亡させた。同月、傷害致死罪で検挙した(愛知)。


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