第1節 少年警察の取組み

 少年非行を始めとする少年を取り巻く問題に対応し、少年の健全な育成を図るため、少年の特性に配慮した対応の仕組みが用意されている。
 少年法は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うことなどを目的としており、非行のある少年に対する家庭裁判所の審判の手続等を定めている。また、少年の非行を防止し、少年を保護するための体制として、警察を始めとする関係機関・団体が、それぞれの立場から取り組んでいる。特に、警察においては、少年の非行の防止を図り、その健全な育成に資するとともに、少年の福祉を図ることを目的とする警察の活動を「少年警察活動」と呼んで、重点的に取り組んでいる。
1 少年警察の対象
 少年法では、20歳に満たない者が少年とされており、「非行少年」に対する審判手続等の処遇を定めている。「非行少年」とは、「犯罪少年」、「触法少年」及び「ぐ犯少年」をいい、それぞれ異なる手続が用意されている(図1-1参照)。
 警察では、非行少年を適切に処遇しているほか、警察庁において策定した「少年警察活動要綱」に基づき、「不良行為少年」の補導や、「要保護少年」及び「被害少年」の保護を行い、少年の健全育成に努めている。
(1) 非行少年
ア 犯罪少年
 「犯罪少年」とは、14歳以上の犯罪行為をした少年であり(少年法第3条第1項第1号)、その犯罪行為は刑法犯に限られず、特別法犯も含む。警察では、平成12年中に14万83人を検挙した。
イ 触法少年
 「触法少年」とは、14歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年である(少年法第3条第1項第2号)。触法少年の行為は、犯罪とはならない。警察では、12年中に2万762人を補導し、このうち5,108人を児童相談所等へ通告した。
ウ ぐ犯少年
 「ぐ犯少年」とは、刑罰法令に該当しない「ぐ犯事由」(注)があって、その性格又は環境に照らして、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をするおそれのある少年である(少年法第3条第1項第3号)。警察では、12年中に1,887人を家庭裁判所へ送致し、又は児童相談所等へ通告した。
(注) ぐ犯事由とは、次に掲げる事由である。
① 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること
② 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと
③ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入りすること(例えば、暴力団員との交際やストリップ劇場への出入り)
④ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること(例えば、繁華街をはいかいしながら少女等を誘って不純異性交遊を繰り返すこと)
(2) 非行少年の処遇
ア 非行少年の取扱いの流れ
(ア) 犯罪少年
 警察において犯罪少年を検挙した場合、事件が罰金以下の刑に当たる犯罪であるときは事件を直接家庭裁判所に送致し、それ以外であるときは検察官に送致する。
 事件の送致を受けた検察官は、捜査を遂げた上、犯罪の嫌疑があると認めるときはそれを家庭裁判所に送致する。
 家庭裁判所では、送致を受けた事件について、犯罪事実の存否はもとより、少年や保護者の環境等についても心理学等の専門的知識を活用して調査する。調査の結果により、審判開始、審判不開始、検察官送致等の決定がなされ、審判が開始された場合は、保護観察、少年院送致等の保護処分や不処分等が決定される。検察官送致とは、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について、家庭裁判所が刑事処分相当と判断した場合の措置で、送致を受けた検察官により刑事裁判手続に移行される。検察官から家庭裁判所に送致する場合と対比して、これを一般に「逆送」という。
 なお、警察において捜査した少年事件について、事実が極めて軽微で再犯のおそれがなく、刑事処分又は保護処分を必要としないと明らかに認められ、かつ、検察官又は家庭裁判所からあらかじめ指定されたものについては、簡易な送致手続が認められている。家庭裁判所では、このような事件については、書類審査の上、原則として審判不開始決定を行っている。
(イ) 触法少年
 14歳未満の少年については、児童福祉法による措置が少年法による措置に優先して行われることとされており、警察において触法少年を補導した場合において、その少年に保護者がいないときや、保護者に監護させることが不適当であると認められるときは、福祉事務所又は児童相談所に通告しなければならない。また、通告の必要がない場合には、警察において少年及びその保護者に指導や注意、助言を与えるなどの措置をとっている。家庭裁判所は、都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けたときに限り、事件について調査し、審判開始等の決定をする。
(ウ) ぐ犯少年
 警察において14歳未満のぐ犯少年を補導した場合には、触法少年と同様の措置をとることとなる。14歳以上18歳未満のぐ犯少年を補導した場合には、児童福祉法による保護手続にゆだねるのが適当であると認められるときは福祉事務所又は児童相談所に通告し、少年法による保護手続により取り扱うことが適当であると認められるときは家庭裁判所に送致する。18歳以上のぐ犯少年を補導した場合には、家庭裁判所に送致する。
イ 非行少年の終局決定別人員
 平成12年中の非行少年の終局決定別人員は、表1-1のとおりである。
 家庭裁判所の終局決定総人員(簡易送致人員等は含まない。)は7万6,737人で、そのうちの3万7,071人(48.3%)が審判不開始、1万4,559人(19.0%)が不処分となっており、合わせて5万1,630人と終局決定総人員の7割近くを占めている。審判不開始及び不処分の理由には、調査又は審判の過程における指導、訓戒により少年の要保護性が解消した場合の「保護的措置」、既に別件で何らかの保護処分等が講じられており、これにゆだねるのが相当な場合の「別件保護中」、非行事実が極めて軽微で、特別な措置を行う必要のない場合の「事案軽微」、非行事実の存在について合理的疑いを超える心証が得られない場合の「非行なし」などがある(注)。
 保護処分となった少年のうち、在宅による指導措置である保護観察に付された少年は1万8,280人(23.8%)、強制的に収容して矯正教育を行う措置である少年院送致となった少年は5,541人(7.2%)である。その一方で、刑事処分相当とされた逆送に係る人員は322人(0.4%)である。
(注) 「保護的措置」は4万6,721人、「別件保護中」は3,799人、「事案軽微」は657人、「非行なし」は103人となっている。
(3) 不良行為少年
 「不良行為少年」とは、非行少年には該当しないが、飲酒、喫煙、深夜はいかい等、自己又は他人の徳性を害する行為をしている少年である。警察では、関係機関・団体、ボランティア等との連携による積極的な街頭補導等を通じて、不良行為少年やその家庭への指導、助言に努めている。平成12年中には、飲酒、喫煙等の不良行為事由のある少年を88万5,775人補導した。
(4) 要保護少年
 「要保護少年」とは、保護者等から虐待され、酷使され、又は放任されている少年その他児童福祉法による福祉のための措置等が必要と認められる少年である。警察では、要保護少年を発見した場合には、福祉事務所又は児童相談所に通告するなど少年の福祉のために必要な措置をとっている。
(5) 被害少年
 「被害少年」とは、犯罪その他少年の健全な育成を阻害する行為により被害を受けた少年である。警察では、被害少年にカウンセリングを実施するなど、その支援に努めている。
2 少年警察の体制及び関係機関
(1) 少年警察の体制
ア 少年警察の組織
 全国の都道府県警察本部の生活安全部に少年担当課(室)が設置され、警察署には生活安全課等に少年担当係等が置かれている。また、警察本部少年担当課等に、少年サポートセンター(第4節3(1)参照)が設置されている(平成13年4月現在、全国に174か所)。
 警察庁には、生活安全局少年課が設置され、少年非行の防止や被害少年の保護に関する企画及び立案等の事務を所掌している。
イ 少年警察職員の体制
(ア) 少年警察担当警察官
 13年4月現在、全国で約8,600人の警察官(このうち約3,800人が少年警察活動に専従している。)が、少年の非行防止、少年事件捜査、少年の福祉を害する犯罪の取締り、被害少年の保護等の職務に従事している。このうち、都道府県警察本部には約1,300人、警察署には約7,300人の警察官が勤務している。
(イ) 少年補導職員
 13年4月現在、全国で約990人の警察官以外の警察職員が、少年補導職員として、少年警察活動のうち、少年相談、被害少年の保護、街頭補導、有害環境の浄化等の活動に従事している。
(ウ) 少年相談専門職員
 13年4月現在、全国で約100人の、心理学、教育学、社会学その他の少年相談に関する専門的知識を有する警察官以外の警察職員が、少年相談専門職員として、複雑な少年相談事案の処理、少年相談を担当する職員に対する指導等の活動に従事している。
ウ 少年警察ボランティアの体制
(ア) 非行防止に当たるボランティア
 警察では、少年の非行を防止し、その健全育成を図るため、13年4月現在、約5万700人の少年補導員、約1,100人の少年警察協助員、約5,900人の少年指導委員をボランティアとして委嘱している。
 少年補導員は、街頭補導活動、環境浄化活動を始めとする幅広い非行防止活動に、少年警察協助員は、暴走族集団等の非行集団の解体補導活動に、少年指導委員は、少年を有害な風俗環境の影響から守るための活動に、それぞれ従事している。
(イ) 被害少年を支援するボランティア
 警察では、被害少年の支援を図るため、13年4月現在、約780人の被害少年サポーターと、大学の研究者、精神科医、臨床心理士等の専門的知識を有する職にある者の中から約140人の被害少年カウンセリングアドバイザーをボランティアとして委嘱している。
 被害少年サポーターは、被害少年に対し平素からきめ細かい家庭訪問活動を行うなどの継続的支援を、被害少年カウンセリングアドバイザーは、その知識をいかして少年補導職員等による被害者支援活動に必要な助言を、それぞれ行っている。
(2) 関係機関
ア 児童福祉法に基づく機関
 児童福祉法に基づいて設置される機関のうち、少年警察と大きなかかわりを持つものは、次の3つである。
 児童相談所は、児童(児童福祉法上は、18歳に満たない者をいうものとされている。)に関する各般の問題につき家庭その他からの相談に応じるとともに、児童及びその家庭につき必要な調査、児童の一時保護等の業務を行っており、全国に175か所(13年4月現在)設置されている。
 児童自立支援施設は、不良行為をする児童、家庭環境等の事情により生活指導等を必要とする児童等を、入所させ又は保護者の下から通わせて、個々の児童に応じた指導を行い、自立を支援することを目的とする施設で、全国に57か所(11年10月現在)設置されている。
 児童養護施設は、保護者のいない児童、虐待されている児童等の環境上養護を必要とする児童(1歳未満の乳児を除く。)を入所させて養護し、あわせて自立を支援することを目的とする施設で、全国に553か所(11年10月現在)設置されている。
イ 家庭裁判所
 少年法で定める少年の保護事件の審判を行う家庭裁判所は、全国に50か所設置され、その支部が203か所、出張所が77か所ある(13年4月現在)。
ウ 矯正施設
 少年法の規定により送致された少年を収容するとともにその資質の鑑別等を行う少年鑑別所は、全国に52か所(13年4月現在)設置されている。
 家庭裁判所から送致された少年等を収容し、矯正教育等を行う少年院は、全国に53か所(13年4月現在)設置されている。
 いわゆる逆送による刑事裁判において、懲役又は禁錮の刑の言渡しを受けた少年を収容して刑を執行する施設である少年刑務所は、全国に8か所(13年4月現在)設置されている。
[コラム1] 平成12年少年法改正
 少年による凶悪犯罪の相次ぐ発生等、憂慮すべき少年犯罪情勢の下、非行少年に対する処分の在り方、少年審判における事実認定手続の在り方を問う声とともに、犯罪の被害者に対する配慮を求める声が高まりを見せ、このような問題に対応するため、平成12年11月、「少年法等の一部を改正する法律」が成立し、13年4月1日から施行されている。主な内容は以下のとおりである。
○ 刑事処分可能年齢の引下げと原則逆送制度の導入
 改正により、16歳未満の少年は、犯行時14歳以上であれば刑事責任が問えることとなった。
 また、16歳以上の少年が、殺人、傷害致死、強盗致死等の故意の犯罪行為で被害者を死亡させた罪の事件については、検察官に送致(逆送)されることが原則とされた。
○ 裁定合議制度並びに検察官及び弁護士が関与した審理の導入
 改正前の裁判所法では、複雑、困難な少年事件であっても家庭裁判所において1人の裁判官がこれを取り扱うこととされていたが、改正により事案に応じて3人の裁判官の合議体で審判を担当することができることとされた。
 また、改正前には少年審判手続に検察官が関与することができなかったが、改正により、故意の犯罪行為で被害者を死亡させた罪等の事件において、家庭裁判所の決定により検察官が立ち会うことができ、この場合、少年に弁護士である付添人がいないときは国選の付添人を付けることとされた。
○ 被害者への配慮の充実
 家庭裁判所が、被害者及び被害者が死亡した場合における配偶者等の申出により、被害者等の意見を聴取する制度、被害者等に対し少年審判の結果を通知する制度、被害者等に対し一定の範囲で非行事実に係る記録の閲覧又はその謄写を認めることを可能とする制度が導入された。


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