第6章 災害,事故と警察活動

 平成11年は,台風,大雨等による自然災害が発生したほか,茨城県下のウラン加工施設において,我が国初めての「臨界事故」が発生した。警察では,これら災害の発生に際して,直ちに体制を確立して,被害情報の収集,被災者の避難誘導や救出救助,交通規制に当たるとともに,被災地の警戒パトロールによる被害の未然防止に努めた。
 1 突発重大事案等への対応
 (1) 広域緊急援助隊の活動
 警察では,大規模な自然災害,事故災害等緊急の対応を要する事案に対して,被災者の救出救助活動等の迅速かつ効果的な対応を図るため,全国の都道府県警察に広域緊急援助隊を設置している。
 11年中は,梅雨前線の影響により6月23日から7月3日にかけて西日本や東日本に降り続いた大雨を始め,台風等による風水害現場等に出動し,現地における警察部隊の中核として,情報収集,救出活動,避難誘導,交通規制等の活動を行った。
 同部隊は,平素から救出救助活動等の災害警備活動の練度の向上を図っているほか,広域的な派遣訓練等を実施するなど,災害発生時の緊急出動等に備えている。
 (2) 自然災害の発生状況と警察活動
 11年中の台風,大雨,強風,地震等の自然災害による被害の発生状況は,表6-1のとおりである。
 警察では,平素から災害危険箇所の点検,パトロール等の活動を行うとともに,災害の発生に際して,災害警備本部等を設置して所要の体制を確立し,関係機関との情報交換に努めるとともに,現場に広域緊急援助隊を始めとする警察部隊,ヘリコプター等を派遣して情報の収集,救出救助,行方不明者の捜索,住民の避難誘導及び交通規制等所要の災害警備活動を実施した。
 ア 台風被害
 11年中は,発生した22個の台風のうち,第16号及び第18号の2個が上陸し,これらによる被害は,死者・行方不明者39人,負傷者898人,住家全・半壊2,509棟,流失1棟,床上・床下浸水1万6,327棟,道路損壊112か所,山崖崩れ307か所等に上った。
 特に,台風第18号は,9月19日から25日にかけて日本を襲い,特に九州地方や中国地方に大雨や高潮等の被害をもたらした。その被害は30道府県に及び,死者30人,負傷者882人,住家全・半壊2,480棟等であった。
 イ 大雨被害
 梅雨前線の影響により11年6月23日から7月3日にかけて西日本や東日本の広い範囲で降り続いた大雨のため,広島県,岡山県等各地で山崖崩れや河川の氾濫等が発生した。
 また,8月13日から15日にかけて,熱帯低気圧が東海沖から関東,北陸へ進んだ影響で東日本や東北地方南部で大雨となり,8月14日に神奈川県内を流れる玄倉川の中州においてキャンプ中の18人が,大雨に伴う急流に巻き込まれ,死者13人を出す惨事が発生した。
 11年中の大雨による被害は,死者・行方不明者69人,負傷者61人,住家全・半壊169棟,流失6棟,床上・床下浸水3万9,507棟,道路損壊1,053か所,山崖崩れ3,024か所等であった。
 ウ その他の被害
 降雪雨等による11年中の被害は,死者・行方不明者47人,負傷者383人,住家全・半壊7棟等であった。
 (3) ウラン加工施設事故の発生と警察活動
 平成11年9月30日,茨城県に所在するウラン加工施設において,核燃料の加工作業中に我が国初めての臨界事故が発生した。この事故により作業中の従業員3人(うち2人が死亡)のほか,周辺住民,防災業務関係者,従業員等436人の被ばく線量が確認された(平成12年1月31日現在)。
 村長は30日,事業所からおおむね半径350メートル圏内の住民に対し,防災無線等を通じて自主避難を要請するとともに,茨城県知事も同日,事業所からおおむね半径10キロメートル圏内の住民等に,屋内退避の勧告を行った。
 茨城県警察では,事故発生認知後直ちに警察本部及び所轄警察署にそれぞれ警備本部等を設置し,所轄署員を始め,機動隊,自動車警ら隊等を現場に派遣して,交通規制,周辺住民の避難誘導及び広報,関係情報の収集,自主避難後の地域等の犯罪防止活動,事業所周辺の警戒等所要の警察活動を行った。
 また,警察庁及び関東管区警察局では,事故対策警備本部を設置するとともに,事故関連情報の収集,関係機関等との連絡調整に当たるとともに,警視庁,静岡,新潟県警察に対し機動隊の待機を指示したほか,宮城,福島,新潟,静岡県警察に対し,原子力災害用装備資機材の準備を指示するなど不測の事態に備えた。
 2 各種事故と警察活動
 (1) 水難
 ア 水難の発生状況
 平成11年中の水難の発生件数は1,944件(前年比3件(0.2%)減),死者・行方不明者数は1,179人(9人(0.8%)減)で,年々減少傾向にある(表6-2)。また,水難による死者・行方不明者数を年齢層別にみると,表6-3のとおりである。
 死者・行方不明者数を発生場所別にみると,図6-1のとおりで,海における発生が最も多く,全体の51.0%を占めている。行為別にみると,図6-2のとおりで,魚とり・釣り中,水泳中,通行中の順に多かった。
 イ 水難の防止活動
 警察では,水難の発生しやすい危険な場所について遊泳者等に広報し注意喚起するとともに,その場所の管理者等に対し施設の整備等を働き掛けている。特に人出の多い海水浴場では,臨時詰所の設置,海浜パトロール等を行うほか,船舶やヘリコプターによる監視等を通じて,海水浴客に対する広報,遭難者の早期発見,救出,救護に努めるとともに,関係機関・団体と協力して,救急法講習会や各種の救助訓練を実施している。
 また,兵庫,滋賀,沖縄,和歌山等の8県においては,遊泳者の保護等を目的とした,いわゆる水上安全条例が制定されている。
 (2) 山岳遭難
 ア 山岳遭難の発生状況
 平成11年中の山岳遭難の発生件数は1,195件(前年比118件(11.0%)増),遭難者数は1,444人(103人(7.7%)増)であった。最近5年間の山岳遭難の発生状況は,表6-4のとおりである。
 遭難の特徴としては,①遭難者に占める中高年登山者の比率が依然として高いこと,②体力及び技術の不足のほか,気象判断の誤りや装備の不備,登山計画書の未提出等の登山の基本的な知識を欠いたことによる遭難が多いこと,③遭難が発生した際に自救能力のないパーティーが増えていること,④ツアー登山では,ガイドの人員不足,経験不足によりガイドが登山道に同行していながら遭難するケースが増えていることなどが挙げられる。
 イ 遭難者の捜索,救助活動
 警察では,遭難者の迅速な捜索,救助活動を行うため,山岳警備隊等を編成し,平素から各種訓練を行うとともに,救助用装備資機材の整備拡充を行うなど,救助体制の強化に努めている。
 11年中に遭難者の救助活動に出動した警察官は延べ約1万2,000人,ヘリコプター出動回数は延べ539回で,民間救助隊員等の協力によるものを含め,遭難者1,173人を救助したほか,246遺体を収容した。
 ウ 山岳遭難の防止活動
 警察では,山岳遭難を防止するため,遭難の発生場所,原因等を分析し,関係機関等との遭難対策検討会を開催するとともに,各種広報媒体を活用して登山の安全に関する国民の意識の向上に努めている。
 主要山岳(系)を管轄する都道府県警察においては,関係機関等と連携して,ツアー登山関係企業等にツアー登山事故防止の申入れ等を行うとともに,登山道等の実地踏査,道標及び危険箇所の点検等のほか,登山者への山岳情報の提供を行っている。また,登山口等に臨時詰所を開設し,登山計画書の提出の奨励,装備の点検等を行っているほか,山岳パトロール等の活動を通じて登山の安全に関する指導を行っている。
 (3) レジャースポーツに伴う事故
 近年,水上オートバイ,サーフィン等のレジャースポーツに伴う事故が多発している。平成11年中のレジャースポーツに伴う事故の発生件数は397件(前年比6件(1.5%)減)であった(表6-5)。
 こうした事故の原因の主なものは,技術不足,不注意等であり,無謀操縦等を原因とするものも多いことから,警察では,事故防止を呼び掛けるパンフレットの配布等により安全広報に努めるとともに,レジャースポーツ現場におけるパトロール等を通じての指導取締り,関係機関・団体に対する事故防止指導等を推進している。
 3 雑踏警備
 (1) 一般雑踏警備活動
 平成11年中,警察では延べ約51万人の警察官を動員して,雑踏事故の防止に努めた。最近5年間の雑踏警備実施状況は,表6-6のとおりである。11年中は2件の雑踏事故が発生し,負傷者は25人に上った。このうち,山車,神輿等の運行に伴うものが1件,負傷者14人であった。
 警察では,行事の主催者,施設の管理者等に対して,事前連絡の徹底,自主警備体制の強化,危険予防の措置,施設の改善等を要請するとともに,混雑する場所等に警察官を配置し,雑踏事故の未然防止に努めている。
 (2) 公営競技場の警備活動
 平成11年中の競輪場,競馬場等の公営競技場への総入場者数は,延べ約1億9,400万人であった。警察では,公営競技をめぐる紛争事案や雑踏事故防止のため,延べ約9万1,000人の警察官を動員して警備に当たった。最近5年間の公営競技場の警備実施状況は,表6-7のとおりである。
 11年中の公営競技をめぐる紛争事案の発生件数は1件で,その内容はレース結果についての抗議形態のものであった。警察では,関係機関・団体に,自主警備体制の確立,施設・設備の改善,酒類の販売等の自粛を要請しているほか,競技開催の都度,警察官の派遣等により雑踏事故及び紛争事案の未然防止に努めている。


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